六話
「はぁ……」
ネストは家に帰ってからベッドに倒れ込んでため息を吐く。
結局、訓練に代表者たちが来ずに今日は終わった。
そのことを残念に思いながら収納アクセサリから小さくて黒い丸いモノを取り出す。
以前見た時よりも更にヒビが入っていて生まれるのが近くなっているのが分かる。
それだけ憎悪が溜まってきているのだと楽しみになってきた。
「これから何が生まれるんだろうなぁ」
復讐相談事務所という所からこれを貰ったが、やはり不思議に思う。
これから生まれると言っていたが卵だろうが、ここまで真っ黒な卵は初めて見る。
ネットなどで調べたが、黒い色の卵はあっても黒々とした者は無かった。
「今度、復讐相談事務所を探そうかな?何が生まれのか興味があるし」
時間が出来たら復讐相談事務所に行って、何が生まれるのか生まれるのか聞こうと考える。
事務所の者も何かがと言っていたが本当は知っているはずだ。
でなければ憎い相手を皆殺しにしたいという願いにこれを渡されるはずが無いのだから。
何で何かが生まれるのか分からないと嘘をついたのか尋ねたい。
「それにしても……」
ネストは自分の部屋の壁を思いきり殴る。
嫌いな相手にハグをしたり笑顔を向けるのは想像以上にストレスが溜まる。
それでも続けるのはネストの言う通り虐めがなくなったり好意的に見てくれる者が増えたからだ。
お陰で怪しまれることなく隣に入れる。
もし、手に持っている卵らしきものが無くても復讐できるチャンスが増えた。
だから嘘だとしても事務所の者をまだ信じることが出来た。
「ネスト!?どうしたの!?」
「ごめん!転んでしまっただけ!」
母親が心配そうな振りをして声を掛けてきたから転んで大きな音を立ててしまったとネストは嘘を吐く。
八つ当たりで壁を殴ったとは言えない。
もし本当のことを言えば母親にも本当は嫌いなんじゃないかと怪しまれると考えていた。
笑顔の裏で憎しみを燃やしているとバレたら学校の者にもバレてしまう可能性がある。
そしたら復讐のための我慢が無駄になってしまう。
「気を付けるのよー!」
母親が信じてくれたことにネストは安堵のため息を吐いた。
「バッカばかしい」
そして毒を吐く。
今までは転んで大きな音を立てても気にしなかった癖に急に心配そうな声を掛けてきて今更だと毒づく。
そんなに急に笑顔を向けてハグをしようとしているからと言って親としての心配をしてくるなんて何なんだと思ってしまう。
今までは笑顔も向けてこないから外に追い出して笑っていたのかと考えてしまう。
家族に対しての笑顔を失くした原因は外に追い出して笑った家族の癖に、と。
「ねぇ、ちょっと良い?」
ドアのノックをせずに妹のサリカが部屋の中に入ってくる。
ネストは内心で家族でもノックをしろよと思いながらも一瞬で笑顔を作って迎え入れる。
事務員からアドバイスを受けて笑顔を常に作るようにしたから、笑顔の仮面を作るのもお手の物だ。
「何?」
「えっと……」
現に妹のサリカもネストの表情が笑顔で作られた仮面だと気づかずに話しかけようとする。
手には教科書とノートを持っており恥ずかしそうに抱えている。
勉強を教えて欲しいのかと想像して表面上は苦笑する。
本心は何で俺が勉強を教えないといけないんだと不満を持っていた。
「勉強を教えて欲しいの?」
「………うん」
恥ずかしそうにしながらも予想通りにサリカは頷いたのを確認してネストは椅子を座らせる。
ここで嫌だと拒否をするよりは優しく笑顔で教えた方が好かれると思ってネストは頷く。
自分を否定する者よりは肯定してくれる者の方が好かれやすいのだ。
「それでこの問題なんだけど……」
サリカは机に座り教科書とノートを開いてネストへと質問をする。
早速、勉強を教えてもらおうとする姿によっぱど難しいか苦手な教科なのだろうとネストは予想した。
もし簡単だったら苦手な教科だろうし、そうでなかったらと難しいのだろうと覚悟を決める。
もし分からなかったら馬鹿にされる可能性もあるから覚悟を決める。
「………それでどう解けば良いの?」
質問された問題は普通にネストにも普通に解ける問題だった。
サリカが分からなかったのは単純に授業に出たばかりの問題だったのかもしれない。
ネストじゃなくても高校に入学した者なら誰にでも解ける問題だ。
「これは……のやり方で……」
ネストは答えを教えずに問題の解き方だけ教えてる。
答えが間違っていたらその時点で教えて上げ、どこで間違えたのかと一緒に考える。
まずは答えが間違っていたとしても一度問題を解かせてから教えるやり方だ。
「これは合っている?」
何度か問題を解いていくとやり方を覚えたのか質問してくる頻度が減っていく。
最初は間違えも多かったが勉強を教え始めて最後の方は段々合ってきていた。
「おぉ。最後の方は問題なく解けているよ」
「本当!ここまで解けたのは始めて!もしかしたら先生より勉強を教えるのが上手いんじゃない!?」
「サリカが頑張っただけだよ」
妹のサリカの言葉にネストはお世辞だと内心で聞き流しながら謙遜するようなことを口にする。
妹の褒めるような言葉も何か裏があるんじゃないかと疑っていた。
「ありがとう!」
勉強が終わるとサリカは礼を言ってネストの部屋から出ていく。
教わりに来た勉強はもしかしたら課題だったのかもしれないと想像したら嬉しそうに部屋に出て行ったのも気持ちが分かるとネストも思う。
そして部屋からサリカが完全に消えたのを確認し扉を閉めるとネストは近くにあった本を取る。
「………っ!!」
そして手に取った本をネストはベッドの上に投げつける。
ネストは床に叩きつけたら、また心配されると思いついて床ではなくベッドに投げつけた。
本能的に行動しようとしたが、わずかに残っていた理性のせいで中途半端な威力になってしまった。
そのせいで更に苛ついてしまう。
「うっぜぇ……」
怪しまれないために勉強を教えたが思った以上にストレスが溜まってしまった。
妹のために行動したということが凄く苛ついてしょうがない。
学校で代表者たちのためにサポートするのとは全く違う。
「本当に何で俺に教わりに来るんだ……。両親に教えてもらえば良いのに」
学校の皆と違うのは相手がいるかどうか。
その上、その相手が自分にとって嫌いな相手かどうかも関係あるのだろう。
正直に言えば自分を虐めていた奴らよりコンバット学校の者の方が嫌いだからストレスもそこまで感じていない。
「…………クソ」
思い出すだけで腹が立つ。
ゲームしか取り柄が無いと反論できなかったことも、ゲームは娯楽だとして本気を出されなかったことも、そして可愛い恋人がいてイチャついていたことも腹が立ってしまう。
思わず拳をベッドの上に叩きつけてしまう。
「ネスト、ちょっと良いか?」
そうしていると何故か父親が部屋の扉をノックして声を掛けてくる。
何の用だとネストは思い憂鬱な気分になりながら扉を開ける。
どうせまた家の外に追い出されると予想していたせいだ。
むしろ、それ以外のことなんて想像できない。
「何?」
「ちょっと下に降りて来てくれ」
父親の言葉に笑顔で頷きネストは一緒に下へと降りる。
父親が座っていた席には酒とつまみがある。
確実に家の外に出されると分かってしまう。
「少し話をしよう」
どこか不安そうにしている姿にネストは不思議に思う。
父親の前に酒もあるし真剣な話をするとは思えない。
それなのに何を言いづらいのか想像が出来ない。
「…………っ」
話をしようと誘われたから父親が話したいのだと考えてネストは話を振ろうとしない。
ただ笑顔で父親が話しかけてくるまで待とうと決めた。
そう思っていると急に父親が酒を一気に飲む。
酒を目の前にしながらずっと飲まなかった父親がようやく飲んだことにネストは安心する。
それに酒は口を軽くすると聞く為、ようやく話してくれると思うと嬉しくなる。
いつまでも父親が話すのをずっと待つのはネストも嫌だった。
「お前は本当は俺たちが嫌いなのか?」
「…………」
父親から突然、そんなことを言われてネストは驚いた。
本来なら即答で拒否するのが正解だと分かっていても出来なかった。
嫌われていたとしても興味ないと言うと思っていたから予想外だ。
むしろ家の外に追い出していたことといい嫌っているのは両親の方なんじゃないかと考えている。
「そんなことはないよ」
ネストは本心を考えてしまい、今の状況を思い出して嫌っていないと口に出す。
本音は口に本心を出してしまうとどうなるか分からないからだ。
もし追い出されて風邪を引いたら折角のコンバット学校への復讐のチャンスを失ってしまう。
だから絶対に隠さないといけない。
「………本当にか?」
心配なのか更に質問してくる父親にネストは抱きしめる。
普通なら嫌いな相手に抱き付こうなんて考えない。
これが嫌っていない証拠だと言わんばかりに抱きしめる。
「嫌っていないって」
ネストは苦笑を作って嫌っていないと口にする。
少しでも自分の言葉を信じて欲しいと抱きしめる力を強くする。
「すまない……。もう二度と酒を飲んでお前を家の外に出したりしない……」
「うん」
父親の言葉にネストは嘘だと思った。
本当に酒を飲んで家の外に追い出すのを悔いているのなら、もっと早くやっているはずなのだ。
何せ父親は酒を飲んだ後の記憶も残っている。
笑って家の外は寒かったかなんて聞いたこともあった。
だから今更謝れても、もう遅い。
「大丈夫。俺は怒ってもいないし嫌ってもいない。それでも気にしているなら、やり直そう?」
ネストの言葉に父親は涙を流す。
そして離れて見ていた母親も泣いていた。
涙を流しながらも嬉しそうにしている姿を見てネストは自画自賛をする。
抱き着いているから顔は見えないだろうと油断せずに表情を作っていた甲斐があった。
もし嫌悪に満ちた表情を見せていれば嘘だとバレてしまっていた。
「あぁ、これからやり直そう……!」
本当にやり直そうと思っているなら、そもそも酒に頼らないだろうとネストは思う。
酒に頼っている時点で信じることが出来ない。
それに今更やり直そうとしてもネストにとってはもう遅かった。
「ねぇ、お兄ちゃん、どうだった?」
ネストが父親を抱きしめた後、部屋に戻ったのを確認してサリカは先程までネストがいた空間へと入ってくる。
そして口に出された質問に両親たちは涙を浮かべてサリカを見る。
その様子にやっぱり本音は嫌われているんだとサリカは予想した。
「サリカ……!」
涙を浮かべて抱きしめてくる両親にサリカはやはり嫌われているんだと確信をしてしまった。
だから次の言葉は信じられなかった。
「ネストが私たちを許してくれるって……!!」
「これから俺たちもやり直していこう!!」
サリカは信じられなかった。
まさか許してやり直していこうなんて言うなんて有り得ないと思っていた。
現に自分だったら一生許さないと考えている。
自分自身は許されているのも納得できる。
そういう環境で育ったから、それが間違いだと教えられなかったから。
だから許される余地があると思っている。
そもそもの元凶は両親だと考えているから自分は悪くないとさえ思っていた。
「そうか……」
同時に両親が許されるのなら自分も本当に許してもらっているんだと安心する。
そういう環境で育ってきたからと許してもらったが口では何とも言えるから少しだけ不安だった。
「でも、やり直すってどうするの?お父さんは酒を飲むとほとんど確実に家の外から追い出すし止めた方が良いと思うけど止めれるの?」
「あぁ、今日は酒の力を借りないと質問することも出来なかったから飲んだが、もう二度と飲まないつもりだ」
どうせなら酒の力を借りないで聞けよ、とサリカは思うが口にはしない。
酒を飲んでいるから暴れられたら手を付けられない。
本当に外に追い出さないか不安だ。
「本当に大丈夫?お酒をもう口にしているんだよ?」
「分かっている。これ以上は飲まないし、もう寝るつもりだ」
それなら追い出さないかもしれないとサリカも少しだけ安心する。
寝てしまったら酔いも明日には醒めるだろうし追い出そうと行動もしない。
それに酒を飲んでいても追い出してはダメだと理性がまだ残っている。
「そうなんだ。それにしても良かったね」
娘の言葉に父親も頷く。
自分のしてきた行動だが許してもらえるとは思っていなかった。
だから嬉しいが娘に対して警告もしておく。
「……そうだけど自分は無関係だと思うなよ」
自分は関係ないという態度の娘だが、それは間違いだと告げる。
一緒に笑っていたから本当なら一緒に憎まれていてもおかしくない。
「前に謝ったら許してくれたよ」
そう思っていたら既に許されていたことに両親は驚いた。
いつの間に謝っていたのか疑問に思い、そして娘が先に謝っていたことに父親は自分に情けなさを覚えてしまう。
そしてそれを忘れようと酒を飲もうと手を伸ばしてしまう。
「酒は飲まないんじゃなかったの?」
そして冷たい眼と諫めるような言葉に伸ばした手を引っ込める。
酒を飲まないと言ったのに手を伸ばしてしまったことに父親は羞恥で顔を赤くする。
「俺はもう寝る」
これ以上は恥ずかしいところを見せたくないと父親は自分のベッドへと移動する。
いつもよりだいぶ早いがこれ以上、ここにはいたくなかった。
「分かったわ。それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみー」
父親が寝ると言った言葉に母親と娘は安堵する。
眠ってしまえば確実にネストを家の外から追い出さない。
今、ここで追い出したら折角ネストから改善しようとしてくれているのに意味がなくなってしまう。
後は寝ぼけて父親がネストの部屋に行かないか祈るだけだ。
もしネストを追い出そうとしていたら笑っていないで父親を殴ろうと二人は決意した。
「そういえばネストは何時の間に謝っていたの?」
「急に笑顔を向けたり、抱きしめられるようになった日にだけど……」
娘の答えを聞いてやはり自分が情けないと母親は思ってしまう。
家族の中で一番何も悪くない娘が最初に謝り、自分達がその後だと知ったせいだ。
娘がネストが家の外に出されて笑うようになったのは自分達の影響だと理解している。
だから娘は自分達の中で最も憎まれていないと母親は思っていた。
「ねぇ、サリカ。料理とか家事は人通り出来るわよね?」
「えっ、うん」
「なら来年からアパートでも借りて一人暮らしかお兄ちゃんと二人で一緒に暮らさない?私としては女の子だし心配だからネストと一緒に暮らしてほしいんだけど?」
母親からの提案にサリカは急にどうしたのかと首を傾げる。
何で急にアパートで暮らすように提案してくるのか意味が分からない。
もしかして父と離婚して別々に暮らすから一緒に来ないのかと考える。
「もしかして離婚するの?」
「……離婚?………あぁ、違うわよ。単純にこれ以上、貴方達に悪影響を与えないためと、将来家事などを一人で出来るようにするための練習よ」
離れて暮らす理由に悪影響を与えないためと聞いてサリカは納得した。
一人暮らしではなく兄と暮らすようにするのは信頼されていないみたいで不満に思うが、女の子の一人暮らしは親として心配なのだと何とか理解しようとする。
サリカは親のいない生活に興味を持ち、その為なら兄と一緒に暮らすのも悪くないと思っていた。
「ねぇ、そのことをお兄ちゃんに相談しても良い?」
サリカがネストへと両親と離れて暮らすことに相談してよいかと母親に確認すると頷く。
母親である自分が提案するよりは娘に任せた方が良いかもしれないと考える。
何かの間違いで誤解をさせてしまったら嫌だが可愛がっている娘の言葉ならちゃんと自分達の考えを理解してくれるはずだと期待していた。
「良いけど、ちゃんと話すのよ?」
「分かっているわよ。それじゃあ、お兄ちゃんの部屋にいくわね!」
そう言ってネストは母親の目の前からいなくなる。
ドタバタと足音が聞こえてきて苦笑してしていた。
「お兄ちゃん!!」
サリカはネストの部屋をノックせずに思いきり開けて中に入る。
またノックをせずに入ってきたことにため息を吐きそうになるがテンションが目に見えて上がっている妹に何も言えなくなってしまった。
「近いうちに一人暮らしをするつもりはある!?」
そして次に放たれた言葉にどういうことかと考えてしまう。
サリカの眼は輝いており嫌いだから追い出そうとしているようには思えない。
だとしたら自分が一人暮らしをすることで何かサリカにとって好都合なことがあるのかとネストは考える。
取り敢えずは否定して何でそんなことを聞いたのか確認することに決めた。
「今のところは無いが、どうしたんだ急に?」
「お母さんが将来のために一人暮らしをさせようと思っているみたい!」
将来のために今の内から一人暮らしをさせようと考えていることに何か裏があるんじゃないかと考えてしまう。
サリカの期待している目から、それを純粋に信じているのだろうがネストは信じられない。
「本当は私も一人暮らしをしたいんだけど、女の子だから親から離れて暮らすにしてもお兄ちゃんと一緒じゃないとダメだって!」
そこまで聞いてネストは何でサリカが期待した目を向けているのか理解が出来ない。
一人暮らしにあこがれて、兄である自分が一人暮らしをしているのなら自分もさせてもらえると思っているかと考えたがそれも否定されている。
女の子だからダメなのなら、どちらにしても一人暮らしはできなのに何を期待しているのか分からない。
「お前は何を期待しているんだ?」
「わかる?」
期待しているのが分かるのかと聞かれてネストは頷く。
それだけ目が輝いたらわかってしまう。
「親から離れて生活するって興味ない!?」
滅茶苦茶わかってしまった。
「本当は一人暮らしが理想なんだけど我が儘を言って親から離れて暮らすのを断念するよりはマシでしょ!」
これにも納得できてしまう。
一人暮らしに憧れる気持ちが酷くわかってしまう。
それに親から離れて暮らすことに期待していることにも共感が持ててしまっていた。
ネストは妹であるサリカも殺したいとも思っているが同時に被害者でもあると思っている。
だから両親よりは憎くない。
自分を利用しようとしていることには思うところもあるが、両親と離れたいと言うのは同じ気持ちだ。
「なるほどねぇ……」
同時に今はまだ両親から離れたくなかった。
まだ皆殺しに出来る何かは生まれていない。
憎い相手から離れて憎悪が薄れて生まれるのが長引くよりは一緒に暮らすことで憎悪が増えて早く生まれて欲しいと思っている。
「良いよ」
「本当!?」
嬉しそうにしているサリカにネストは笑顔だ。
どうせ近いうちに殺しているだろうから口だけだ。
殺してしまえば一緒に暮らすことも無くなる。
共感を抱いていても殺したいのは変わらない。
それに女の子だから、一緒に暮らすとしても色々と絶望を与えられる。
生まれるのが遅かった場合の暇つぶしにもなるはずだと考える。
「ところで何時から親から離れて生活することになるんだ?」
ネストは出来るだけ憎悪を溜めて生まれるのを早くしたいために少しでも期限を増やしたいと確認する。
だがサリカは首を傾げるだけ。
もしかして聞いていないのかと思った。
「提案されただけで詳しいことは決まっていないよ。多分、お兄ちゃんと相談して決めるんじゃないの?」
「そうか……」
今、提案されたばかりだと聞いてネストは口だけになりそうだと考える。
もう夜も遅くなってきたし深夜テンションで話していたのをサリカが真に受けてしまっただけになりそうだ。
その方がネストは好都合だと忌々しく思いながらも安堵してしまう。
「ねぇ、もし私たち二人だけで暮らすことになったら家事を分担しようね!あと風呂だけは私が先に使うから!」
「わかったわかった」
楽しそうに未来を口にするサリカに、お前の望むような未来は来ないとネストは口に出さずに笑って落ち着かせる。
むしろ壊すのは俺だとネスト自身も二人で一緒に暮らすのが楽しみになっていた。
「なら今のうちに最低限のルールでも作るか?何曜日には誰がご飯を作るとか、ごみを捨てるとか、どうしてもルールを守れなかったら先に伝えるとか」
ネストの提案にサリカは嬉しそうに頷く。
未来のことを予想して考えるのは楽しそうだった。
「………ん……」
サリカはネストと未来で二人で一緒に暮らすためのルールを考えている最中に船をこぎ始める。
その度に何とか起きているがネストからすれば、もう寝てしまった方が良いと思う。
まともに思考も出来ないだろうし正直ネストも寝てしまいたい。
「もう起きているのも辛いだろうし寝ないか?」
ネストの言葉が聞こえているのかサリカは首を横に振らしている。
その様子に無理だろうと思いネストはサリカに毛布を掛ける。
暖かくしたら寝るだろうと思ってのことだ。
「う……ん…」
そうするとサリカは無意識なのか掛けられた毛布を掴んで包まる。
やはり眠たいんじゃないかとネストは呆れたため息を吐いた。
「部屋で眠られるのもアレだしサリカの部屋へと運ぶか……」
かけられた毛布を掴んで離そうとしないサリカをネストは抱っこする。
そのままサリカの部屋に運ぶつもりだ。
毛布は翌日に返してもらえば良いと考えていた。
「すぅ……」
妹が寝息を立てていることにネストはため息を吐く。
そこまで親から離れて暮らすのが楽しみなのかと。
「あら、ネスト?サリカは……。寝落ちしちゃったの?」
何故か妹の部屋へと運ぶ途中に母親と出会ってしまう。
ネストやサリカの部屋は二階にあるが両親たちの部屋は一階にある。
何で二階に上がっているか疑問だ。
「そうだけど何で二階にいるの?お母さんたちの部屋は一階だよね」
「ちょっと心配になったのよ」
何が心配に思ったのかネストは分からない。
まさかサリカを傷つけようと怪しまれているんじゃないかと思ってしまう。
行動するとしても未来の話だしまだ何もしていない。
「何が心配になったのか分からないけど、とりあえずサリカを部屋に運びたいから手伝ってもらって良いかな?一人だとサリカの部屋を開けるのも辛いし」
「良いわよ。それじゃあサリカの部屋に行きましょうか」
サリカの部屋のベッドに妹を寝かせてネストは母親と向かい合っている。
部屋に運ばせた後、話をしようと誘われたからだ。
何を話すのかとネストは緊張しながらも笑顔で待っている。
「ねぇ、サリカと二人暮らしのことで話していたのよね?」
母親の言葉にネストは首を縦に振る。
それを確認すると言うことは、やっぱり口だけだったのかと考えてしまう。
「なら何で急に二人暮らしを認めようとしているか聞いた?」
「どういうこと?」
聞いていないとネストが反応すれば母親はため息を吐く。
母親からすれば親のいない生活にテンションが上がって、やっぱり忘れていたのかとため息を吐きそうになる。
二階に上がったのもちゃんと理由を話していたのか確認のためだった。
「私はね。これ以上、私たちの悪影響を二人に与えたくないから離れて暮らそうと思ったの。もし孫が生まれて私たちみたいなことをしていたら悔やんでも悔やみきれないわ」
ネストは何で本当に今更何だと思ってしまう。
そうやって早く後悔して直してくれれば憎いとも殺したいとも思わなかった。
もう憎くて殺したいのは変わらない。
「本当に貴方が生きていたのは運が良かった」
今までは外に追い出していても直ぐに家の中に入れれるような近くにいた。
だけど前のように家の近くにいなくなっていた可能性はあった。
そのせいで誰かに誘拐されて二度と帰って来なくなっていた可能性も十分にあったのだ。
そう考えると、どれだけ幸運だったのか母親は分かってしまう。
「まぁ、普通は誘拐されたりしてもおかしくないもんね。俺でも何で、どっかに行かずに近くにいたのか分からないし」
本当に昔からだから誘拐されていた可能性も警察に保護されてあった。
ネストにとっても運がある意味良いが、それ以上に両親たちにも運が良かった。
特に警察に保護されていたら虐待していたとして捕まっていた。
「本当に運が良かったわ……」
「確かに……」
同じことを考えていたから二人は互いに息を吐く。
母親はともかくネストにとっても保護されていなくて良かったと思えている。
捕まっていたら離れ離れになって復讐も出来なくなっていた。
「ところでネスト、貴方って家事は出来るの?」
母親の疑問にネストは頷く。
母親からすれば家事が出来ないのに自分達と離れて暮らすのも心配だ。
だから出来ない場合は叩き込む必要があるとの質問だった。
だがネストにとっては、こんな家にいたくないから少しずつ家事を覚えていたから問題が無い。
もともと復讐のためにいつの日が家を出るつもりだった。
それでも、まだ家にいたのは未成年だから保護者の許可が必要だからだ。
正直、ネストからすれば都合の良いストレス発散を逃すはずがないと思っている。
今も母親はこう言っているが信じれない。
「そうなんだ。じゃあ今度、一緒にご飯をつくらない?」
ネストは母親の誘いに本当かどうか確認するために一緒に料理を作ろうと誘ってきているのだと考える。
それなら自分の実力を見せつけてやろうとネストは頷く。
一人暮らしをまだするつもりは無いが家事が出来ないと思われるのも嫌だった。




