五話
「皆、コンバット学校へ対して話し合いをしたいから集まってくれ」
ディアロたちに見下された翌日、エストたちは代表者たちとサポート全員を集める。
あのあと運動場で訓練をし日にちをまたいだが、それでも怒りは消えていない。
コンバット学校へと一矢報いるためには何でもする必要がある。
「何を話し合うんですか?」
「まずは集団戦か個人戦をどちらかにするかだ。俺としては集団戦で戦いたいと思っている。個人個人では相手の方が能力が高いだろうけど、集団戦になると一年生もいるから足を引っ張る可能性があると思っている」
この一年生は当然ながらディアロのことだ。
こちらにも一年生はいるが連日叩き込めば良いと考えている。
「有り得ますね。でも実力で選ばれたって向こうも聞いたけど、それを信じるの?」
「さぁ。俺としてはどっちでも良い。ただ個人戦よりディアロが足を引っ張ったせいで敗けるのも良いと思っただけだ」
個人で敗けても、まだ他に戦える者がいる。
それで一回戦負けしてもダメージは低いだろう。
それよりも集団戦で足を引っ張らせて負けた方が心に傷として残る。
「そうね。たしかにより心に傷を残す方が良いわね」
エストの集団戦で戦いたという意見に全員が納得する。
都合よくこちらがルールを選べるとは思えないが格下相手に余裕を見せるべきかもしれないとフレアも言っていた。
交渉次第では、こちらが望んだ条件を試合に出来るかもしれないと想像する。
「そして、どうしても勝てないと分かった場合の話をしたい」
続けられた話の内容に今度は全員がエストを睨む。
勝つために訓練をしているのに急に勝てないとかもしれないという話をされて心中穏やかではいられない。
「どういう意味よ」
「そのままの意味だよ。俺たちはあくまでもディアロやフレアに目にものを見せてやりたい。ディアロ一人でも勝てるという認識を改めさせたい。違うか?」
「………違わないわ」
エストの質問に一人が肯定するとつられて他の者たちも頷く。
急に更に本気を出そうと思ったのも格下だと舐められたからだ。
「少なくとも一人で俺たちを倒せると思われたくない。だから絶対にディアロとフレアだけは倒す。その間に誰が倒されようと試合の負けが決まろうとだ」
たしかに見下してきたのはその二人だ。
他は関係ないし、考えを改めさせるにはその二人を倒す必要がある。
「フレアは前の大会だと集団戦では前線に出ている。そしてディアロも一人で勝てると言うのなら前線に出る必要がある。俺たちを舐めているなら本来なら後衛でも前線に出てくるはずだ」
二人がいる位置を考えると、一人で勝てると言うのなら十分にあり得ると頷く。
それにフレアも前に出ると言うのなら試合が始まって奇襲を仕掛けられると考えることが出来る。
「………前線にいるかどうかの確認は必要ないと思うんだが?試合が始まると同時に奇襲を仕掛けるなら位置なんて関係ないだろ?最初の奇襲で失敗するぐらいなら、それ以上は何度やっても失敗する」
その言葉に誰も言い返せない。
例え相手が格上でも倒せる可能性が最も高いのが奇襲だ。
そして奇襲が失敗したら格上相手だからこそ瞬殺されてしまう可能性が高い。
「やっぱり突破力が重要か……」
そして試合である以上互いに最初は離れている必要がある。
更に離れた距離から奇襲を仕掛けるには機動力と突破力が必要だ。
この学校で突破力が一番優れているのは誰かと聞かれたら満場一致でルーだと答えられる。
「ん~。私だけだと多分無理だよ~。他にも何人か協力してくれないと全く倒せる気がしないよ~」
ルーに視線を向けるが当然のことを言われて拒否をされる。
少なくともルーには集団戦における半分以上の人数でフレアに奇襲を仕掛けてもらおうと考えていた。
「ルーさんには集団戦の半分以上の人数でフレアを倒してもらおうと思っている。それなら倒せる可能性はあるはずだ」
「それなら良いけど、ディアロは良いの~?」
「実力で本当に選ばれたとしても一年生だ。フレアの方が強い。ディアロには違う者に相手してもらうつもりだ」
ディアロよりフレアの方が強いという考えにルーも納得する。
さっきも言っていたがディアロは一年生。
三年であるフレアより強いはずが無いと考えてしまっている。
半分は自分に、もう半分はもう一人に任せるつもりだろう。
「わかった~。それじゃあ私は特技を徹底的に鍛えていくね~」
それで良いとエストはルーに頷く。
「それで~。誰が私の他に突撃をするの~?」
「そうだな。…………ネスト、お前が頼めるか?」
「は?」
突然の流れにネストは困惑する。
学校の代表として選ばれていないのにダメだろうとネストは考える。
それは他の者たちも同じで冗談だと判断してしまう。
「俺は本気だ。ルーとの差は少しずつだか詰めてきているし、実際ルーの次に速い。まだメンバー表は出していないし補欠メンバーを増やして入れれば問題は無いはずだ」
ルーの次に速いという意見には他の者たちも頷いてしまう。
一瞬の突撃が重要なら確かにネストが適任だとも思っている。
「無理だと思いますよ」
「それは急な補欠メンバーの増員についてか?」
無理だと言うネストの否定に理由を確認すれば頷かれる。
それなら問題ないなとエストは部屋から出て行った。
教師に補欠の増員を増やして良いか確認しに行ったのだろう。
「まさか本気で言っていると思いますか?」
ネストは大将が目の前から消えて自分をメンバーに入れるように教師に本気で頼もうとしているのか皆に意見を求める。
「やりそうではあるよね」
だがネストの予想とは違い、皆は有り得そうだと頷く。
特に三年生の者たちは少なくとも二年以上は共に学校生活を送っていたために本気だと理解していた。
それに人のぶつかり合う試合のために怪我をしてしまい次の試合に出れなくなる者はどうしても出てしまう。
そうなったら試合に出れる者の数が足りなくなってしまい、どうしても不利になってしまうところもあるために補欠としてメンバーを組むことが許可されている。
ただし補欠として組める数は正メンバーと同じく決まっており、それ以上増やすことも減らすことも出来ない。
運が良くロールド学校は補欠のメンバーは全員決まっていないからネストを組み込むことも出来る。
「マジですか」
大将であるエストならやりかねないと言う三年の言葉たちにネストは緊張で胃を抑える。
最初は皆をサポートするだけだったのに急に試合に参加するのことにもなって話に付いて行けない。
「何、不満なの?」
ネスト自身が代表に選ばれたことに不満だと思っているのか他の代表者や補欠たちもネストを睨む。
代表と選ばれたからこそ誇りを持たないといけないのに不満を持っているのは許されない。
まだ決まっていないがエストが教師に直審判しに行ったら、ほぼ確実にネストも選ばれるだろうと確信していた。
「不満というかもともと選ばれていなかったのに急に立場が急に変わって追いつけません」
ネストの戸惑っている理由を聞いて他の代表者たちも少しだけ納得できた。
たしかに急に立場が変わったら戸惑い自分の立場に付いていけなくなる。
特にネストはメンバーに選ばれていないサポートから急に補欠とはいえメンバーに選ばれたのだ。
それに話の流れからして代表の一人として試合に出る可能性も非常に高い。
戸惑うのも、しょうがないと考えてしまう。
「そう。それでも事実、貴方は試合に出る可能性が高い。だからこれからはサポートよりも突破力を鍛えるわよ」
「そうだね~。だから今日は私と一日中、相手をしてもらうよ~。一年だから色々と能力は低いけど突破力はある。だからそれのみを鍛えて特化するからね~。他の部分は仲間に任せれば良いんだから~」
ルーの言葉に皆が頷く。
一年だから能力が低くて当たり前なのだ。
先輩である自分達より優れている部分があっても、それはほとんどが一芸で優れているため。
ロールド学校だけでは無いが普通は平均的に優れている者が選ばれてしまう。
むしろ、そのはずなのに普通に先輩を押しのけて選ばれたクルドが珍しいのだ。
「わかりました。期待に応えられるように頑張ります」
ネストの言葉に満足そうな顔をしてルーはネストの腕を掴んで立ち上がる。
そして、そのまま部屋の外に出ようとする。
「ルー、どこに行こうとしているのよ?」
「くんれんじょ~。私たちの予想通りに選ばれても選ばなくても、一番私の相手になるもの~。結果はどうなったか後で教えて~」
コンバット学校に勝つには、この二人が必要だと考えてほぼ全員が頷く。
好きに動いているように見えるが勝つための行動だから文句を言う気も無い。
むしろ勝つために使える時間が足りないと行動しているようにも思える。
「わかったわ。それじゃあ、頑張っていて。私たちはエストが戻るまで待っているわ」
ルーはその言葉に頷いて部屋から出ていく。
あくまでも奇襲を成功させるには自分とネストの実力次第だと判断していた。
だから作戦を他の者たちに任せ自分達は突破力をひたすら鍛えようと考えていた。
「あれ?ルーとネスト君は?」
「二人なら先に訓練所に行って鍛えているわ。それで結果はどうなったの?」
「補欠メンバーに入れて試合に参加させる許可は貰った」
部屋に戻ってきてエストはルーとネストがいないことを質問するが答えが返ってきたことで納得する。
どうやら奇襲で重要だと自覚しているようで、ここにいないことよりも訓練していることに満足げだ。
「それなら良い。俺たちはこのまま作戦会議をするぞ。具体的にどうやって奇襲を仕掛けるか話し合いたい」
エストの意見に全員が頷く。
突撃は二人に任せて、こちらはそれまでにどうやって気を散らすか考える。
「一番、良いのは視界を奪うことですよね」
「そうだな。それに俺たちは見えるようにしなきゃいけない」
こちらに有利な空間をどうやって作るか話し合う。
理想は自分達だけが相手を見える空間。
そうすれば勝てるはずだと思っている。
「サングラスとか持ち込みはオッケーでしたっけ?」
たしかにサングラスがあれば突然に強烈な光を発生させれば目潰しになり、つけている者はいつもと変わらない光景になる。
怪しまれる可能性はあるが奇襲としては良い考えだろう。
まずはサングラスなどの持ち込みは許可されているのか調べる必要はある。
「そうだな。取り敢えずは、目潰しなどの相手の視界を潰す案が良いかもしれないな。先生たちにも話を聞いて見る。お前たちも大会のルールを確認してくれ」
またエストが部屋から出てしまうが、代表者たちもそれぞれ大会のルールを確認し始めた。
「サングラスを掛けちゃいけないなんてルールは無いね」
「そうだな。これならサングラスを掛けても大丈夫のはずだ」
そもそも試合に様々な武器を持ち込んでいるから当たり前かもしれないと考え直す。
だけどルールとして問題ないのなら奇襲の手段を念入りに考えることが出来る。
「あとはエストが来るだけだけど来るまでに、どうやって奇襲をするか作戦を立てないか?」
代表の一人の言葉に全員が頷く。
エストとも話し合う必要はあるが、先に考えても問題は無いはずだと代表者たちは思っている。
むしろ最初から大雑把な部分は考えて、後でエストと細かい部分を詰めて行こうと考えていた。
「目潰しをするのは決まっているんですよね?」
「そうだな?」
決まっていることを口に出す何を言いたいのかと首を傾げる代表者たち。
前提としての確認もあるため不快に思わずに話を聞く。
「それって光で潰すんですか?それとも砂嵐みたいなのを作って潰すんですか?」
そういえば決めていなかったと代表者たちは思う。
目を潰すことばかり考えていて、どうやって潰すのかは考えていなかった。
「そうだね。君だったら、どうやって潰す?」
良いところを指摘したとして代表者たちはクルドへと意見を求める。
考えていなかった部分を気付いたことといい、良い案を出してくれるかもと期待の視線を向けてしまう。
「相手は世界戦にも出た格上ですから、いっそのこと全部盛りにするとか?」
「全部盛り?」
全部盛りと急に口に出されて意味が分からないと代表者たちは首を傾げる。
そしてクルドへと対して視線を向けて説明を求める。
「相手の眼を潰すのに光だけとか、砂嵐を疑似的に起こすだけじゃなくて両方やった方が良いと思ったんです」
どれか片方だけでなく両方やれと言うクルドにたしかにそれは確実に相手の眼を潰すことが出来るかもしれないと思う。
本気で勝ちたいのなら、たしかに両方やるべきかもしれないと納得する。
「あとは相手に被せる砂を胡椒にしたりすれば更に効果があるかもしれませんね」
砂ではなく使うのは胡椒にした方が良いと言うクルドに流石いじめっ子だと話を聞いていた代表者たちは思う。
胡椒なんて上手く被せれば咳をして集中できなくなる。
それを思い至ったクルドに感心し、そして被害にあっていたネストにかわいそうだと同情してしまう。
「おぉ……」
期待通りに良い案を出してきたクルドに代表者たちは感心の声を上げ、クルドは少しだけ顔を赤くする。
そして続けられた言葉に顔を青くした。
「それってネストを虐めていたからこそ考えれた案なのか?」
それは嫌味ではなく純粋な疑問だった。
だけどクルドはそう思っておらず顔を青くしてしまう。
「?何を顔を青くしているんだ?俺たちがお前がネストを虐めていたのに気づいていたのは知っているだろう?」
実際、虐めていた奴じゃないかと確認もしたのに忘れたのかとため息を吐く。
クルドはそのことを忘れてしまっていており、そして知っていたのに責められなかったことに問題にする気は無いのだと理解して安堵する。
「それよりも実際はどうなんだ?ネストを虐めていたからこそ考え着いたのか?」
その質問にクルドは多分違うと首を横に振って答えた。
誰かを虐めていたからといって思いつくものではないと思っている。
それに虐めていたのは娯楽であって頭を使っていたわけでも無い。
完全に誤解だとクルドは思っている。
「そうか……。違うのか」
娯楽で虐めていたのは口に出さないで訂正すると、直ぐに虐めていたのが理由で思いついたのは違うと納得してくれた。
だけど質問してきた者以外はクルドへと冷めた目を向けてしまう。
虐められているのを知っていたのに助けなかった癖にクルドを非難するような視線を送ってしまっている。
自分は手を出していないから虐めていないのだと言いたそうだ。
見てみぬふりをするのも虐めだと聞いたことがないのかもしれない。
そしてクルドは自分に向けられた視線を察してしまう。
その冷めた目線に虐められていたのを知っていた癖に助けなかったお前らも同然だと思っている。
「皆!サングラスぐらい付けて行っても大丈夫だそうだ!」
そんな中エストが戻ってくる。
そのお陰で険悪になりかけた空気は散っていく。
今は虐めよりもコンバット学校に勝つ方が大事だ。
「そもそも故意に殺人を起こさない限り罪になることも無いからな。よくよく考えればサングラス程度で問題になるはずが無かったな」
エストの話を聞いて少しだけ引いてしまう。
殺人に関して知ってはいるが、やはり死者が出ても罪にならないのはヤバいと思う。
戦いの事故だからしょうがないし死者が出ないように配慮はしていても、やはりそれを聞いて戦えなくなる者もいる。
特に一年のネストとクルドは実際に試合の空気に触れさせないと戦えるかどうかが分からない。
そしてそれはコンバット学校のディアロも同じだ。
もしディアロが試合の空気に触れて戦えなかったら笑ってやろうと思っていた。
「ふぅ」
訓練所ではネストとルーが互いに速さを競い合っている。
相変わらず圧倒的な差があるが、それでも初めて競い合っていた頃よりは着実に差は縮まっていた。
「はぁ……。はぁ……」
それでも何度も何度も繰り返して競い合っていると体力は尽きネストは手を地面につけて倒れてしまう。
ルーも汗だくになっており限界を無視し続けて身体を壊すのも嫌だからと休憩を挟むことに決める。
「お疲れさま~。取り敢えず、これでも飲んで~」
ルーは倒れていたネストに飲み物を取りに行って手渡す。
そして隣に座って冷たいタオルで汗を拭く。
「ねぇ。聞きたいことがあるんだけど良いかな~?」
ルーの疑問にネストは何を聞きたいのかと視線だけでも向ける。
それが分かるとルーは疑問を口に出す。
「ネスト君はもしかして私たちのことが嫌い~?」
突然の疑問にネストは息を詰まらせてしまう。
そんなことは思っていないと証拠を示すように協力していたのに、どこで気づかれたのかとネストは冷や汗をかく。
「う~ん。でも、やっぱり本気で私たちに協力してくれる気もするんだよね~。嫌いな相手に本気で協力してくれる意味が分からないし~」
嫌いな相手に協力してくれることの意味が分からないと言うルーにネストは内心で良い案を思いついたとばかりに建前を口に出す。
「今はクルドたちより嫌いな相手がいるので!」
「それってコンバット学校~?でもコンバット学校の皆と出会う前から協力してくれたよね~?」
そして即否定された。
「う……。その……」
咄嗟の言い訳も矛盾を指摘されてネストは何も言えなくなる。
どうすれば誤魔化せるか必死に考える。
そんなネストにルーは小さくため息を吐いて自分の考えを伝える。
「………。別に嫌いでも良いからね~。後ろから味方を撃つような真似をしなければ私は気にしないし~」
流石にそれはリスクが高すぎて考えてなかったが、嫌いでも構わないというルーに驚いてしまう。
それに気づいたのかルーは苦笑して続ける。
「代表に選ばれてた、選ばれているからって無理に仲良くする必要は無いんだよ~?目的のために協力しているだけで普段は仲が悪い者たちもいるし~。私や大将のエストも生理的に合わない者も同じ代表として選ばれているよ~」
ルーの言葉にネストは信じられない顔を向ける。
ルーは基本的に誰にでも抱きしめようとしているから嫌っている相手がいるなんて信じられないし、エストは大将として出来るだけ公平にしようとしている。
大将権限だと我が儘を言うこともあるがそれは本当に偶にしかない。
紙を上から落とすという誰でも出来ることをやらせたのも本当は何を確かめたかったのかもしれないと思っている。
「顔を見合わせたら罵り合ってしまうからね~。出来るだけ顔を見合わせない様にしてるんだよ~」
そんな二人が顔を見合わせたら罵り合ってしまうという相手にネストは興味を持ってしまうが聞くなと眼で断られてしまう。
「取り敢えず私は君が今まで本気で協力していることは分かっているから安心してね~」
話の内容を元に戻されてネストは困惑しながらも頷く。
嫌っているからと言ってサポートから外されないことを安心していた。
これで今まで通りに憎悪を抱きながらクルドたちの傍にいられる。
「それにしても皆、遅いなぁ~。そろそろ来ても良い時間だと思うんだけど」
その言葉にネストも確かにと思ってしまう。
おそらくは作戦のことについて話し合っているのだと予想できるが、それでも遅すぎる。
重要なのは自分たち二人かもしれないが、他の者たちの協力が必要であることをわかっていないのかとため息を吐いてしまう。
そして同時に先輩たちだから、そのぐらいは分かっているはずだと確信している。
「もしかしたら作戦とか考えているかもしれませんね」
「多分、そうだろうねぇ~。もしかしたら君が参加するかどうかの結果は明日になるかも~。早く知りたいかもしれないけど諦めよ~」
ルーの言葉にネストも頷く。
今日は分からなくても明日には結果が分かる。
選ばれても選ばれなくても訓練自体は何も変わらない。
きっと競い合いっていくのだろうと想像できる。
「それじゃあ十分、休んだし訓練を再開するよ~」
ルーの再開だという言葉に従ってネストも起き上がる。
孤独に訓練をするよりも相手がいた方が身になりやすい。
まだまだネストがやる気十分なことにルーは満面の笑みを浮かべて走る準備をする。
「…………」
走る準備をしながらルーは時間を見る。
上級生が自分一人しかいないのなら訓練を終わらせて帰らせるのは自分しかいないと考えれる。
上級生としての責任を持たないといけない。
(あと一時間したら帰らせないと……)
「先輩?」
ネストはルーが突然、時計を見て考え込む姿に心配になって声を掛ける。
「え?あ~、ごめんね~。ちょっと待ってて~」
ルーは声を掛けられたのに気づいて携帯のアラーム機能をセットする。
これで時間になったら音が鳴るはずだと安心する。
「それじゃあ再開するよ~」
そしてネストと一緒にルーは訓練を再開した。
「……」
「…………」
「………………」
「まぁ、当然だよな!」
「カイドォォ!!!?」
部屋でネストとルー以外の者たちが全員が集まり、落ち込んでいるクルドにどうフォローするか悩んでいるとカイドが追い打ちをかける。
実は作戦もほとんど決まり、訓練所へと戻ると丁度よくルーがネストに嫌いかと質問しているところだった。
訓練にも自分から参加してくれるから、少しは好意を持っていると思ったのに実は嫌われていると知ってクルドはショックを受ける。
更に虐めていたんだから当然だろうという追い打ちまで受けてしまった。
「カイド、おまっ……」
「いや、虐められて好意を持つはずが無いのに何を言っているんだろうと、つい」
気持ちは分かるが、もう少し言い方を考えろと思ってしまう。
おかけでショックで動かなくなってしまった。
回復するのに時間が掛かりそうだし、そう言うのはもっと早い時間に言って欲しいと思う。
一年生だし動けるようになるまで待たないといけない。
「しかし虐めか…。知ってはいたけど、まさか加害者と被害者が代表とそのサポートで一緒になるなんてな」
「そう?私はもともと本当は闇討ちをするためにネスト君が来ると警戒していたわよ。まぁ、今ではそんな心配もしていないけど」
虐めの復讐のためにサポートに来たのだと警戒していたが、今はそんな心配をしていないと言う代表の一人の言葉にどういうことかと疑問を持つ。
「そうなのか?俺たちはサポートにかなり助かったから忘れていたけど警戒する必要がなくなったことってあったか?」
「そりゃ何度も復讐の絶好のチャンスを捨てているのを見たもの。後ろから突き落とすも刺すのも絶好のチャンスがあったのに捨てたのよ。それに今ではコンバット学校に屈辱の復讐をしたい気持ちの方が強いみたいだし」
何度も絶好のチャンスを見ていたのかと思うが、それよりも怒りや憎悪の対象がコンバット学校のほうが強く優先するようになったと考えて納得する。
それなら確かに仲間ではあるクルドを後回しにするだろう。
「それよりも何でネストがお前に好意を持っていると考えたのか不思議なんだが?教えてくれないか?」
周りの者たちが色々と考えているが、カイドはクルドへと何で好意を持たれているのかと考えたのが本当に不思議だと疑問に思って質問する。
普通は虐めていた相手が好意を持つなんてマゾぐらいしか有り得ないからこそ知りたいと思っている。
「………毎日、会うと挨拶としてハグをしてきたりするから嫌われていないんじゃないかと思って……」
「………君だけに?」
「いえ。虐めていた者たちや虐めていない者たちも関係なく全員にです……」
それは勘違いしても、しょうがないんじゃないかと思ってしまう。
普通は嫌っている相手にハグをするなんて考えることも行動にすることも出来ない。
そう考えれば嫌っている相手なのにハグをしようとするネストがおかしい。
「前にも言ったけど、あいつがハグをするのは急になんです。暴行も加えた翌日にハグをしてきた壊れてしまったのかと思って抵抗も出来なかったんですけど……」
そういえばと思い出す。
前に壊れたのかもしれないと聞いたが誰にでもハグをしてくる姿にそのことを忘れてしまっていた。
やはり形で好意を示されるのは嬉しくて自分の良いように考えてしまうのかもしれない。
そう考えると本当は嫌いだというのはショックを受けてしまう。
クルドだけでなく他の者たちもハグをしてくるネストが嫌っているという事実に内心ショックを受けていた。
「なぁ。あいつ、嫌っているって肯定していないよな?」
そんな中に飛び出てきた言葉にほとんどがそういえばと思い出し嫌われていないと考えるが、それ以外の者たちは楽観していない。
「何を言っているんだ?確かに肯定はしていないが否定もしていないだろ。しかも、それも図星を突かれて何を言えなくなっていたから否定もしなかっただけだろうし」
その言葉に何人か目を逸らしてしまう。
直視したくなかったことを言われて楽観も出来なくなった。
本当は嫌われているかもしれないと思って一緒にいるのは苦痛だ。
「はぁ……」
エストは自分達を嫌っている仲間がいるということで不安そうにしている皆にため息を吐いてしまう。
自分やルーにも生理的に合わない者が同じ代表に選ばれているという話も聞いただろうにと思ってしまう。
「俺やルーも生理的に合わない者がいるのは聞いただろう?別に嫌っているからと言ってサポートに手を抜いているわけじゃないんだ。そこまで気にしなくて良いだろ?」
エストの言葉に理性では理解できるが感情が納得できないと睨みつける。
そもそもエストやルーのように最初から嫌い合っていると知っているのと、好意を持たれていると思ったら本当は嫌われていると知るのは違う。
裏切られたような気分だ。
「とりあえず本気でサポートはしてくれているんだし、ハグをしているのも少しでも相手を好きになろうと考えての行動じゃないのか?ネストに好かれたいなら自分達からもハグをしたりすれば良いだろ?」
エストの意見に男子たちは男同士で抱き着くなんてホモみたいで嫌だと表情に浮かべ、女子たちは男子に抱き着くなんて恥ずかしいと思っていた。
そして女子たちの何人かはネストと男子がハグをしあう姿を想像して涎をたらしていた。




