二話
「今日もよろしくお願いします」
「あぁ。……ん!?」
クルドの先輩であるカイドはクルドと一緒に来た後輩を見て二度見をしてしまう。
それはクルドが虐めていた後輩だったのが理由だ。
「ちょっと来い!!」
カイドはクルドを自分の近くに手招きして肩を抱く。
クルドに注意しなきゃいけないことがあった。
「あいつ、お前が虐めていた子だよな?もしかして上手くいかないストレス発散のために連れてきたのか?先生も普通にくるんだぞ。何を考えているんだ」
ネストを連れてきた理由を想像してカイドはクルドに注意をする。
虐めていることにはストレス発散になるから何も言う気は無いが教師がよく来る場所でやるのはダメだ。
虐めに関わりたくないと無視するような教師だが堂々とやるのも問題だ。
もしかしたら説教をされるかもしれない。
「あれ?君は誰かな?今まで選ばれた生徒にいなかったけど、もしかして手伝いに来たりとか?」
「そうですよ」
「そうなんだ。それじゃあよろしく~」
後から来た別の先輩もネストを見て不思議に思う。
そして大会へ向けての訓練に手伝いに来たのかという質問に頷かれると抱き着きに行った。
ネストもそれを受け止めて逆に女の先輩を抱きしめ返す。
「あら……。あらら……?」
今までは抱きしめた女の先輩は自分から抱きしめても避けられてばかりで抱きしめ返されたことはあまり無かった。
特に男子は恥ずかしいのか顔を赤くしたりして絶対に避けていた。
だけどネストは笑顔で抱き締め返している。
初めての経験に女の先輩は顔を赤くする。
「え………。ルー先輩が顔を赤くしている!?」
「はぁ?何を……ほんとだ」
次々と来る大会における学校の代表者たちが集まってくる。
そして全員が抱き着き癖のある先輩のルーを見て驚いていた。
自分から異性に抱き着いている癖に顔を赤くしているなんて初めて見たせいだ。
そして抱きしめられている姿も初めて見た。
顔を赤くしているし、もしかしたら抱き着くのは良くても抱きしめられるのは恥ずかしいのかと想像する。
「………ん?」
そして抱きしめている男子を見て何人か違和感を持つ。
何度か虐められている姿を見たことがあるような顔のせいだ。
少なくとも昨日まで見た本人の雰囲気からは笑顔で抱きしめている姿は思いつかない。
よく似た別人かと考えてしまう。
「一応、言っておきますけど。俺たちが虐めていたネスト本人です」
「「「え?」」」
昨日までとは全く別人のような雰囲気を漂わせているのに学校の代表に選ばれた先輩たちは本当かと疑ってしまう。
少なくとも異性を抱きしめるような男には思えない。
いったい何があったのか疑問に思う。
「え?何があったんだ?」
「分かりません。今日、朝から雰囲気が別人のようになっていて………」
「それで連れてきたのか?」
「いえ。学校の代表として選ばれた皆はどんな訓練をしているのか興味があったみたいです。正直、怖くて断り切れませんでした……」
連れてきた理由を聞いて納得する。
確かに昨日までと全く別人のようなものになったのは怖い。
興味があると言われて拒否しずらかったのだろう。
「それにしても悪意の無さそな笑顔だな……」
ネストの笑顔を見ての言葉に何人もが頷く。
本当に悪意が無く手伝ってくれようとしているんじゃないかと思ってしまう。
「だからこそ怖いんですよ。あれだけのことをしたから絶対に笑顔の下に何か隠している。隠していなくても、それだけ壊してしまったんだって見せつけられる」
虐めているのは知っていたが何をしていたのかまでは知らないし聞く気もない。
壊れてしまったというほどだから、それだけのことをしたのだと理解は出来る。
ただ後悔するぐらいなら何で、そこまで虐めたのか理解が出来ない。
「後悔するぐらいなら何で壊れるまで虐めたんだよ……」
呆れたように問いかけるが言いたくないのかクルドは顔を横に背ける。
その姿にため息を吐いてしまう。
言いたくないのも分かるが、その反応から下らない理由だと想像できてしまう。
「壊してしまったって言うなら責任を取れよ。多分、親御さんたちもあの子の変化に気付いているだろうし原因を知ったら復讐されるんじゃないか?」
冗談半分でクルドに忠告するが、本人は顔を青くしている。
だけど親なら子供を壊されて何も反応をしないなんてありえない。
「悪いけど、もし憎悪をあの笑顔の下に隠していたら俺は助けないからな?というか巻き込むなよ?」
まだ本人があの笑顔の下に何を隠しているのか隠していないのかもわからない。
もし憎悪を隠していたとしても巻き込まれないように距離を取ろうかとカイドは考える。
「そんな……!助けてください……!!」
「お前の責任だろうが!関係ない俺らまで巻き込むんじゃねぇ!」
巻きまれないように距離を取ろうとしている考えているが、どうやら知らないらしい。
見て見ぬふりをした者たちも憎悪を向ける相手になるのだということを。
虐められているのを知っていて助けなかった相手もまた虐められていた当人にとっては憎い相手なのだ。
「はい。どうぞ」
学校の代表に選ばれた者たちは訓練を始めていき、一息ついて休憩しようとしたところでネストにタオルや飲み物を丁度よく渡される。
その上に凄いです、とか頑張ってくれとか言われて気分が良くならないはずがない。
上機嫌で訓練に力が入ってくる。
「ほらネスト見ていろよ!」
先輩の一人がネストを呼んで縦横無尽に動いている的を当てているのを見せて自慢する。
「凄いです!よく動いている的に当てれますね!」
そしてネストは自慢しようと見せた先輩の予想通りに褒めてくれる。
そのことに更に気を良くして訓練の内容を見せる。
それを見ていた他の代表たちも褒められたいから見せたのだと理解して苦笑する。
何せ承認欲求が高い奴なのだ。
そのぐらいは簡単に想像できる。
「ネスト君!こっちにも来てくれない!?」
そして自分も褒められたい、応援して欲しいと他の者たちもネストを自分の近くに呼ぼうとする。
何も無いよりは応援や褒められた方がやる気が出るのだ。
一人だけに独占させたくはない。
「はい!何でしょうか?」
「見ていなさい!」
今度は強力な魔法をネストに見せる。
強大な火の弾が訓練所内を暴れ回って行く。
「うわっ!!」
ネストに直撃するかと思えば、その直前に上へと上昇する。
そして右に左と動いていき、最後には空中で回転していた。
どうやら思いのままに動かすことが出来るらしい。
「おぉぉ!!」
感心したかのようなネストの声に魔法を見せた者も嬉しそうだ。
他の者たちだったら当たり前のような顔をしてスルーをするから、ここまで驚いてくれるのが嬉しい。
更に驚かせてやろうと魔法の規模を上げていく。
「ネスト君か………。彼がいると訓練の集中度が違うな……」
そんな感じで訓練をしていたのを教師は見かける。
昨日よりも集中して訓練をしている姿に昨日までとは違う原因を探しネストを見つける。
あちこちに動き回ってタオルや飲み物を渡し、何かを言っているのが見える。
その度に言われた相手の集中力が増して訓練をしている。
アドバイスか何かをしているのかと教師は考える。
「これからの訓練では彼もアドバイザーとして混ぜた方が良いかな」
これなら初戦の相手にも勝てるかもしれないと教師は考える。
まだ彼らに伝えていないが初戦の相手は名門校だ。
言っては何だが勝てる可能性は低い。
それでも、これだけ集中して訓練を重ねていくのなら勝てる可能性が出てくるはずだと教師は思う。
「全員、集合!」
教師が声を出すと驚いたように視線が集まる。
そのことに、それだけ集中していたのだと教師は気分を良くして早く集まるように再度声を掛けた。
「全員、集まったみたいだな。それじゃあ今から初戦の相手を決まったら伝えようと思う」
教師の言葉に全員が緊張する。
初戦の相手が誰であろうと勝つつもりでいるが、それでも改めて相手を知ることに緊張してしまう。
「相手はコンバット学校だ」
「は………?」
「コンバット学校だ」
聞き間違いだと思ったのかもしれないと、聞き返した生徒たちに教師はもう一度、初戦の相手の学校を口にする。
そして聞き間違いでは無かったと生徒たちは絶叫した。
「はぁぁぁぁぁ!!?コンバット学園って世界大会にも出場したこともある名門ですよね!?マジで!?」
「マジだ。確かに向こうは世界大会まで進出できる実力者だが、お前らと同じ学生なんだ。頑張れ!」
気軽に言ってくれると生徒たちは教師を睨む。
どれだけ努力をしても勝てるはずが無いと思っていた。
「あの?これってくじ引きで決めるんですよね?」
生徒の一人が何処とぶつかるかはくじ引きで決まるということを確認すると教師は頷く。
そのことに他の生徒たちも思い出すと誰がくじを引いたのかと教師に確認する。
ほぼ一回戦で負けることを決めてしまったのだ。
一発だけでも良いから殴りたい。
「………誰が引いたんですか?」
「……校長だ」
誰が引いたのかという疑問に教師が答えると訓練をしていたほとんどの生徒がこの場から去ろうとしていく。
教師も何をしようとしているのか察して慌てて止めようとするが学校の代表に選ばれるだけあって簡単に避けられてしまう。
それでも止めようと校長を殴ろうとする生徒たちの後を追っていく。
残ったのは二人だけだ。
「ねぇ、ネスト君」
「何でしょうか?」
「君は行かないの?」
「そちらこそ。くじ引きだから諦めるしかないわけですし」
「そっか。それじゃあ負けるのは決まっているし一日だけだったけど、もう来ないよね?」
「いいえ?あのコンバット学校の代表者たちに何処まで食いつけるか興味があるので手伝いには来ますよ」
ネストの言葉に確かに相手は格上だが諦めるのは、まだ早いと考えてしまう。
相手は格上だ。
だからこそ自分達の全てを後のことを考えずにぶつかることが出来ると考えればメリットも大きい。
格上に挑むということはこれからの人生でも良い経験になるはずだとコンバット学校と戦うことに意欲的になる。
「それじゃあ少しでも戦えるようになるためにネスト君も力を貸して」
その言葉にネストは笑顔で頷き、共にコンバット学校と戦うための訓練を始めた。
「ふぅ。これで全員一発は殴ったな?」
学校の代表者たちが校長を殴ったことに代表の大将であるジルが確認すると、この場にいた全員が頷く。
そして全員を確認する立場だからかルーがいないことに気付く。
「あれ、ルーは?」
ジルの言葉に代表者たちもそれぞれ確認するが確かにいない。
何処にいるのかと疑問に持ち、みんなが探すことを決める。
同じ学校で選ばれた代表者だから心配になっていた。
「取り敢えず一度、元の場所に戻ろうか?俺たちのように校長を殴ることに興味が無かったかもしれないし」
ジルの言葉に有り得るとみんなが頷く。
そして元の訓練に使っていた場所へと戻り始めた。
「それにしてもコンバット学校か……。勝てるわけが無いし、もうサボろうかな」
「わかる。皆の期待を背負っているのも分かるけど勝てるはずのない戦いなんてテンションが上がらないよな」
「全くだ。サボっていることに文句を言われても相手を言えば納得してくれるかもしれないな」
「だと良いけど」
訓練をサボっても文句を言わないだろうと選ばれた男子たちは考えるが、ルーと共に女子で選ばれた者はその考えに疑問を持つ。
疑問を持った少女エストにどういうことかと男子たちは視線を向ける。
「どういうことだよ?」
「え?だって勝てないかもしれないけど、実際に戦うまで分からないだろうって言われるだろうし。やる前から諦めるなって説教されそう」
エストの意見に否定することは誰も出来なかった。
確かにあり得ると全員が納得してしまったせいだ。
そして実際に言われることを想像して嫌な顔を浮かべてしまう。
「どうせ訓練しないで敗けたらサボったから負けたんだって言われて、訓練しても努力が足りなかったとか相手が悪かったって言われるんでしょうね……」
「どちらにしても何か言われるなら代表に何て選ばれたくなかったな……」
負けた後の想像を口にされて代表に選ばれたことが不幸だと思ってしまう。
学校が強い者を選ぶんじゃなくて立候補制にすれば望んで得た立場だから文句を言われても耐えられるのにと思ってしまう。
「取り敢えずは訓練を再開しようか?そうすれば文句をいう者もサボっているよりは少なくなるだろうし」
その提案に全員が頷く。
どちらにしても負けたら文句を言われるのだ。
それなら文句は少ない方が良いに決まっている。
そう考えて元の訓練に使っていた場所に戻るとやはりと言うべきかルーがいた。
それにルーだけでなくネストもいて一緒に訓練をしていた。
どうやら二人とも校長を殴らずにずっとここで訓練をしていたらしい。
二人ともが汗だくになっている。
「もう一度やるよ~!」
ルーの言葉に従ってネストはルーと足場を揃えて走る準備をする。
そしてまた訓練の端から端まで走り始める。
当然ながらネストよりルーの方が速く圧倒的な差があるが、それでも何度でも挑み勝負を続けている。
圧倒的な差で結果が分かり切っているのに何で何度も何度も繰り返しているのか学校の代表に選ばれた者たちは理解が出来ない。
「もう一度~」
「待て!」
そしてまた直ぐに走ろうとするルーを止める。
どうして結果が分かり切っているのに、そこまで訓練をしているのか知りたかった。
「どうしたの?」
「何でそこまで訓練をするんだ?結果が分かり切っているだろう?」
訓練を続けるつもりだったことに急に止められたことにルーは不満げに睨む。
ネストはずっと走り続けていて、ようやく止まったのだと地面に尻を付けて休憩している。
「え~?相手は格上だからこそ持てる限りの力を全て出し切って挑戦できるチャンスだよ~?この機会を失くしたら多分もう無いよ~?」
どうやらルーは負けることは気にしていないらしい。
それよりも挑むことに価値があるのだと必死に訓練をしているようだ。
「負けることを考えるよりも挑戦することを考えた方が良いか……」
「そうそう。人生の良い経験になるだろうし、勝つために本来なら何かを隠す必要があるのにそれをしなくて良いんだから自分たちの全てをぶつけれるんだよ~」
格上に自分達の全てをぶつけて挑むということにやる気が上がっていく。
それはとても魅力的だった。
「おーい。ネスト大丈夫か?」
「な゛ん…ど……か………」
「「…………」」
ネストの掠れた声が聞こえてきて二人は沈黙してしまう。
片方は目をそらし、片方は睨む。
何であそこまで付き合わせたのだとジルはルーを睨む。
「手伝ってくれるって言ってくれたから、つい~。一人よりも相手がいた方が訓練になるし~」
ルーは学校の代表として選ばれた中でも体力は一番多い。
それに良くついていけたと思ってしまう。
「はぁ……。取り敢えずネスト君は休ませるぞ」
「そうだね~」
それにしても協力してもらうのは有難いがルーに付いて行けるだけの体力があるとジルは思ってもいなかった。
その上、初戦の相手校を知るまでに見せてくれた気が回る姿にこれからも協力して欲しいと思ってしまう。
今日の訓練が終わったら是非とも明日からも頼もうとジルは考えていた。
大会へと向けての訓練の協力が終わりネストは帰路へとつく。
訓練が終わると代表の大将であるジルが誘ってくれたことを思い出して常に浮かべるようになった笑顔が更に深くなっていた。
「あれ?お兄ちゃん?」
そしてネストは妹であるサリカと帰路の途中で遭遇する。
「ねぇ、お兄ちゃんは昨日どこで夜を過ごしたの?」
昨日、サリカと母親は父親が酔いから醒めたらネストを家の中に入れるつもりだった。
制服を汚されたのは腹が立ったから反省のつもりで外に出していた。
そして父親が酔いから醒めて家に入れようとしたらどこを探してもいなく心配してしまった。
「別に何処で過ごそうが関係ないだろう?」
何を聞いているんだと不思議そうに首を傾げられてサリカはカッとなる。
どれだけ心配させたのかも知らない癖に、そんなことを言うなんてサリカは信じられないのだ。
家の外に追い出されたのを笑っていて見ていたのを忘れている。
「あの!」
「どうしたんだい?」
そんなネストにサリカと一緒にいた友達が声を上げる。
ずっと笑顔で話しているネストがサリカの何を心配しているのか分かっていないと教えようとする。
「サリカはお兄さんが昨日の夜、ずっと外で過ごしていて風邪をひいていないか心配しているんだと思います!」
「…………。サリカは酔った父親に殴られて外に出されるのを笑っているのにかい?ほとんど、いつも通りになのに今更だと思うんだけど」
サリカは友達の言葉が当たっていると頷くがネストは微妙な表情を浮かべてしまう。
だって昨日のはいつものことでもあるのだ。
殴られ追い出されているのを見て笑っていたのも本当。
心配何て今更だ。
その言葉が信じられないとネストの言葉が本当かとサリカに顔を向けるが顔を背けられてしまう。
そのせいで真実だと理解してしまいサリカへと信じられない者を見る目を向けてしまう。
その視線にサリカはやっぱり自分達はおかしいのかもしれないと考えてしまう。
前に笑い話として友達に話したら今と同じような視線で見られていたことをサリカは思い出す。
おかしいと感じるようになっても昔からこうだったせいで変えるのは難しいのだろう。
「まぁ、昔からそうだったからサリカには疑問にも思わなかったのかもしれないけどね。子は親の背中を育って過ごすというし。僕をないがしろにして当然だという環境で育ったしね」
むしろ何で僕をないがしろにして当然の環境なのに心配するのが不思議だとネストは口にする。
その手はサリカの頭に上に乗せており頭を撫でている。
友達の目の前で頭を撫でられていることにサリカは顔を赤くするがネストの手を払いのけていない。
そのことに思ったよりも関係は悪くないかもとサリカの友達は安心する。
「それで昨日は本当に何処で夜を過ごしていたのよ?いつもだったら家の外にいるのに」
「教えるつもりは無いよ」
頭を撫でながら言うネストにサリカは不満な表情を浮かべる。
だがネストも何処にいたのか分からないからしょうがないのだ。
記憶は残っていても、どうやって辿り着いたのか場所もわからないし名前も名前だから教えるわけにもいかない。
「思ったよりも仲がよさそうで良かったです。復讐相談事務所ってところに関わったら、皆破滅するって聞きましたし」
サリカは復讐相談事務所という名前になにそれー、と笑う。
だがネストは一瞬だけ身体を固くする。
その名前は昨日、制服を洗ってもらい夜風をしのがせてもらった場所だからだ。
まさか、その名前を復讐とか考えたことも無さそうな少女から出てくるとは思わなった。
「復讐って……。よくそんな名前の事務所があるって知っているんだね?」
「あはは。まぁ、噂で知っているだけですし。その噂も偶々聞いたものだし。入るのも本当に心に憎悪を持っている者しか入れないらしいです。それに最近ではコンバット学校の事件に関わっているって噂も流れていますよ」
呆れたように苦笑しながら言うネストに本当に関わっていないとサリカの友人は判断する。
一瞬固まって見えたのもいきなり復讐と聞いて驚いてしまったせいだろうと考える。
仲の良い友人が家族に復讐で殺されるなんて考えたくなかった。
そしてネストは笑顔の下でそれ以上の満面の笑みを内心で浮かべていた。
関わったら皆が破滅するなんて願っても無い事だった。
家族も学校の皆も全て破滅してしまえば良いと考えてしまっている。
あの事務所は信用に値すると確信してしまっていた。
「そういえば、お兄ちゃんの学校って大会があるよね?去年は良いところまで進んだから期待されているけど何所とあたるか、もう知っているの?」
先程から復讐という怖い言葉を使っているから話を変えようと学校のことについて聞く。
友達も興味あるのか話の流れに乗っかってくれる。
「…………さっきも出ていたコンバット学校と一回戦に当たるんだ」
「「あ」」
ネストの学校と当たる相手校を聞いてサリカたちは結果を察してしまう。
相手は世界大会にも出場できる実力のある学校だ。
結果が分かり切っていて哀れに思ってしまった。
代表者たちも負けが決まっていてやる気がでないだろうなと想像していた。
「ただいま~」
「ただいま」
ネストとサリカは二人で一緒に家へと帰る。
そして家の中に声が響くと二人分の足音が聞こえてくる。
ネストとサリカの二人はそのことに違和感を持ち首を傾げてしまう。
いつもなら、この時間は母親の一人しかいないはずのなのに二人分も聞こえてくるのはおかしいからだ。
もしかしてお客さんが来ているかもしれないと予想する。
だが、それにしたって二人分の足音が玄関に向かってくるのはおかしい。
「ネスト!?もしかしてネストもいるの!?」
「昨日の夜は探してもいなかったから心配していたんだぞ!」
家にいたのは母親だけでなく父親もだった。
いつものならまだ仕事のはずなのにいることにネストたちは不思議に思う。
「いつもだったら外に追い出しても家の近くにいたのに昨日はいなくて心配したんだぞ!」
「そうよ!どこで夜を凌いだのか知らないけど心配したんだから!」
両親のその言葉にサリカはやっぱり自分達はおかしいかもしれないというのを忘れそうになる。
追い出して笑っていたのは自分達なのに心配何てどの口で言えるのかと考え直す。
そして、こんなことを言われて兄はどう思っているのかとサリカは顔を盗み見る。
「………っ」
ネストの顔は帰り道で会った時と変わらない笑顔を浮かべていた。
そのことにサリカは無意識に恐怖を覚えてしまう。
不満があるはずなのに何も文句を言わずに笑顔を浮かべているだけ。
それが酷く恐ろしく思えてしまう。
「ごめんね」
それだけを言ってネストは両親を抱きしめる。
まるで愛しているのだと言わんばかりの行動にサリカは疑問を思うよりもまず羨ましいと思ってしまう。
あんな風に抱きしめられるなんて記憶に数えるほどしかない。
「いや、わかってくれれば良いんだ」
「そうよ。今度から急にいなくならないでね?」
ネストはそれに対して優しそうな笑みを浮かべるだけ。
何も答えようとしない。
「ネスト?」
「大丈夫。急にいなくならないよ」
何も答えないネストに不安に思ったのか母親が問いかける。
それに対してネストは当たり前だと頷く。
それで母親はようやく安心した表情を浮かべた。
「そういえば父さんは何で家にいるの?いつもだったら仕事でこの時間はいないから不思議だったんだけど?」
「あぁ。昨日は家に入れようとしたのにいなかったからな。心配で仕事が手につかないから今日は休んだ」
お前のせいで今日は仕事を休んだんだと言わんばかりの態度に、そもそもの原因は父親なのに誰も何も言わない。
ネストより他の家族全員が優先的に正しいという雰囲気になりサリカも自分達がおかしいということをついに忘れて流されてしまう。
「そうよ。今度から心配かけさせないで」
「お兄ちゃん、気を付けなよ~」
何もかもがネストが悪いという空気を作って責め立てる家族。
それでも文句は何も言わずにネストは笑って謝る。
「ごめんね」
穏やかな表情でそれだけを言ってネストは自分の部屋に戻る。
その姿に悪いのはネスト自身だと認めたのだと家族たちは思ってしまう。
それでも、それ以上に責めないのはいつもと違うネストに戸惑っている部分があるせいだろう。
「いやぁ、それにしてもネストが無事で良かった!」
「そう?顔には出さないように注意したけど性格が変わっているように見えたから不安だわ」
「昨日、何があったんだろうね?」
ネストが自分の部屋に入ったころだと予想してサリカたちは急に変わったネストについて話し合う。
昨日まではとは急に変わり過ぎだ。
自分達家族にもあんなに優しそうな笑顔を向けられるのは初めてだから驚いてしまう。
本当に何があったのか疑問に思ってしまう。
「でも昨日までよりは余程、良いと思うけど」
娘の意見に両親は頷いてしまう。
あんな風に優しそうな笑顔を向けれる者は少ない。
きっと彼女も直ぐに出来るだろうなと笑っていた。
皆にはネストを蔑ろにしている自覚は無い。
もし自覚をしていたら治していただろう。
サリカがおかしいと自覚しようとしていたように一般的な良識はある。
それでも治さないのは自分にとって都合の良いストレス発散を逃したくないため。
自分より下の者がいると安心する。
それが何をしても文句を言わないのなら猶更だ。
そして一般的な良識があるからこそ自分達のしていることを直視をしないために、これからも変わらないだろう。
もし自覚をしたら自分達の良心が痛んでしまう。
それが嫌だから自分達の行動に目をこれからも逸らしていくだろう。
サリカも自分達はおかしいと自覚しようとしていても自分の良心に咎められたくないと両親と一緒に目を逸らしてしまう。
友達に注意をされても、きっと目を逸らしていくだろう。
更にネストが笑顔を常に浮かべようと行動し始めたのも間が悪かった。
これから何をされても文句を言わずに笑顔を浮かべる。
なら自分達のしていることは大したことは無いんじゃと思い始めるかもしれない。
そして、まさか蔑ろにして見下している息子に復讐されるかもしれないとは夢にも思わないだろう。




