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十話

「申し訳ありません!!マントを壊してしまいました!!!」


 エマは事務員の前で土下座をする。

 姿を消せるマントを貸してもらえたのに壊してしまった。

 どんな報復が来るのか怖くてたまらない。


「ねぇ……」


 あまりにも震えながらの怯えようにセイナも同情してしまう。

 これを機に記憶を消すのはまだマシ。

 一生奴隷のように扱われたり裏仕事をさせたりするんじゃないかと想像する。


「もしかして崇拝派と排斥派がぶつかり合っていたところにいましたか?」


 事務員の言葉にエマは頷く。

 あの二つの派閥の争いに巻き込まれてマントが壊れてしまった。

 ついでに二つの派閥の者たちほどではないけど怪我もしてしまった。


「今回だけは良いですよ。次からは絶対に許しませんが」


 事務員の言葉に歓喜と恐怖が湧く。

 次、壊したら何をされるのか想像できない。


「ちなみに何をさせるつもり?」


「そうですね………」


 まだ詳しいことを何も考えていないから恐怖が湧く。

 その場のノリで釣り合わない対価を要求させそうだ。

 どうやって作っているかもわからないから適正な対価も分からず文句も言えなくなる。


「売春でもさせる?」


 事務員の言葉にセイナは殴りかかった。


「危ないですよ?」


 事務員は簡単にセイナの拳を簡単に受け止め、エマは顔を蒼くする。

 好きでもない男に身体を捧げろとか絶対に嫌だし、セイナも同じ女としてそれは認められない。

 自分の男がそんなことを薦めるのも嫌だ。


「なら訂正しなさい!売春をさせないで!」


「じゃあ何か良い案はある?」


「………それは」


 なら代案を欲しいという事務員にセイナは何も答えられない。

 そもそもマントに対する対価が分からないから、どのくらいが相応しいかわからない。


「そのどうしても性的な意味で払わせたいなら事務員相手はどうなんですか?」


「は?」


「う~ん……。たしかにエマは可愛いけど手を出すならセイナだけで良いですし。他は危険な仕事を代わりに働いてもらうとか……」


「それにしましょう」


 セイナは事務員が自分だけで良いという言葉に嬉しくなりながらも、目の前の女が事務員を狙っていることに苛立ち、危険な仕事をさせることに事務員に薦める。

 事務員が危険だというのなら本当に危険なのだろう。

 命の危険があってもおかしくない。


「そんな!?」


「何を驚いているのよ?目の前で人の恋人を奪おうとするのかふざけているの?」


「そんなことはしません!」


 だったら何で誘うようなことを言ったのか説明してほしいとセイナは睨む。


「私はどんな手を使っても事務員の隣にいたいだけよ!恋人にしなくても良いし都合の良い愛人でも良いから隣に置いて!!」


「「……………」」


 事務員はそれを聞いて微妙な顔を浮かべる。

 世の中、都合が悪くなると結婚して子供がいても捨てる者もいる。

 都合の良い愛人なんて直ぐに捨てられる。

 それなのに隣にいるなんて無理だろうと思っていた。


 そしてセイナは迷ってしまっていた。

 浮気は男の甲斐性と聞いたことがあるが実際にやられていると考えると許せない。

 事務員も自分だけで満足していると言っているが、いずれは欲が出てきて浮気をするかもしれない。

 そう考えると自分の知らない誰かよりも身近な相手に手を出した方がまだ安心できる・


「そこまで言ってくれるのは有難いですが、私はセイナと付き合っていますので」


「…………」


 ディアロはそう言うがセイナは黙って考え込んでいた。


「話を変えますが崇拝派も排斥派もまたここに来ると思いますか?」


 いい加減に話を変えようと事務員は質問する。

 最初から特別に入れて上げたのに脅そうとしてきた時から訪れることは無くなった。

 少し残念だ。


「………そうね。もしかしたら、もう来れないと思い込んでいて来ないと私は思うわ」


「私もそう思います。それに排斥派はともかく崇拝派に復讐心は無いと思いますよ。排斥派に対して情けないって呆れていましたから敵対はするけど関心はほとんど無いと思います」


 二人の意見を聞いて事務員は納得する。

 自分以外にセイナ一人だけより、自分以外に二人いて意見を聞いた方が納得できる。

 だから事務員にとってはエマは忠誠心もあるみたいだからと今のところは切り捨てる気は毛頭ない。


「そうですか。残念ですが来なかったら好きな相手への気持ちはその程度なんでしょう。本当に手に入れたいなら悪魔にも魂を売る者もいますし」


 事務員の言葉に悪魔に魂を売るというのは流石に冗談だよね、と顔を見合わせる二人。

 現実に魔法はあるが悪魔なんて物語の中だけの存在のはずだ。

 そのはずだが事務員が悪魔という存在について話しただけで実在するのではないかと思わせられる。

 事務員が渡す姿を消すマントなどありえないはずの道具がそれを拍車にかける。


「悪魔って実在するの?」


「……………くすっ」


 セイナの疑問に事務員は笑う。

 もし事務員が悪魔の生まれ変わりか、それとも悪魔そのものだとしても二人は信じられる。

 二人だけではない。

 復讐相談事務所に訪れ関わった者たちも同じ気持ちだろう。



「ねぇ?一つ聞きたいことがあるんだけど」


 セイナは悪魔のことについて笑うだけで、答えない事務員に応える気は無いのだと諦めて別の質問をしようとする。

 エマもセイナの質問の内容に興味を持ったのか意識を傾けている。


「何でしょうか?」


「排斥派の人たちって最初は本当に復讐相談事務所に入れたの?」


「憎んでいたから大丈夫だったんでしょう?」


 排斥派の者たちが復讐相談事務所に入れたことに対する事務員の答えに納得できないとセイナは更に問い質す。


「今まで見てきた者たちは本当に憎いんだって理解できた。だけど彼らはただの逆恨みじゃない。そもそも本気で殺そうとする気があったの?私にはそう思えない」


 だから復讐相談事務所に入れるはずがないというセイナに事務員は苦笑する。


「別に殺す気が無くても入れますよ」


 復讐とは何も殺すだけではない。

 他にも様々な方法がある。


「誤魔化さないで」


 セイナは強い眼で事務員を見る。

 欲しい応えは否か応。

 どちらの答えが出るまで何度でも聞こうと思っている。


「そうですよ。面白そうだからワザと入れて上げました」


 セイナもエマも事務員の答えにようやく納得した。

 確かにディアロへと対して排斥派は怒りや憎悪を持っている。

 だけどそれはディアロが暴れてから。

 排斥派たちはその前から復讐相談事務所に来ている。


「今回の件はわざと………」


「いいえ?崇拝派なんていることは知らなかったし、排斥派と殺し合うなんて想像していませんでしたよ」


 事務員の言葉に本当かと二人は疑ってしまう。

 

「どういう風に道具を使うのか面白そうだから貸しただけで、誘導何てしていませんよ」


 疑う二人に事務員は説得する。

 自分は何も誘導はしていないと。

 二つの派閥は事務員とは何も関係ないところで殺し合ったのだと。


「………信じられないわよ」


 呆れたように信じられないと言われるが、それが事実。

 納得してほしいと事務員は思う。


「それよりも排斥派に渡したマントを回収したいので手伝ってもらえませんか?誰が持っているのか一人一人調べるのも面倒ですし」


 そんなことよりも話を変える事務員。

 一人よりは三人で回収した方が良いと事務員は二人へと協力を頼む。

 姿を消せるマントなのだ。

 あれを警察に回収されるのは避けたい。


「あぁ、そういえば」


 そんなものがあったなとセイナとエマは思い出す。

 エマが使っていたのとは別に排斥派に貸していたのもあった。

 まだ回収していなかったのかと事務員へと視線を送る。


「まだマントを使って何かをすると思っていましたけど流石にもう排斥派のほとんどが倒れてしまいましたし。回収しようかと思いまして……」


 事務員の言葉に呆れてしまう。

 本当にマントを使って何をするのか興味があったから渡しただけみたいだ。

 もし渡した相手の家族にバレて使われてたり、既に警察に渡されてしまう可能性は考えていないのだろうか。


「……………その時はその時ですね!」


 警察に渡されている可能性を口にすると満面の笑みを浮かべる事務員。

 何も考えていないのことに頭を抱えたくなる。

 解析されて量産されたら正体がバレてしまうのに危険性を理解していないのかと思ってしまう。


「まぁ、量産されたのを確認したら警察がこんなものを作っているとバラせばいいと思いますし」


「「………?」」


 事務員の言葉に二人は首を傾げる。

 どうしてそうなるのか理解が出来ない。


「姿を消せるマントなんてちょっと考えただけでも色んな犯罪に使われるし知らない間に見られているなんて気が休まらなくて普通に嫌ですからね。量産していることがバレたら世間からバッシングを受けると思いますよ」


 その考えに納得する。

 たしかに有り得そうだと思った。


「それじゃあ今夜から早速向かうんですか?」


「………協力してほしいとは言ったけど今夜から大丈夫なんですか?別に明日からでも良いですよ?」


 たしかにマントを量産されても大丈夫かもしれないが、そもそも見つからない方が良いと二人は思う。

 事務員なら姿を消されても何処にいるのか見つけることが出来るのは知っているが二人は出来ない。

 自分の身の安全のために量産されたりする前に回収したいと考える。


「わかりました。取り敢えず排斥派の者たちの名簿と住所を二人に渡しますので無理はしないで下さいね。見つかったら大変ですし」


 事務員の言葉に頷く。

 特にセイナは復讐の結果としてエマより悲惨な目にあった者たちを見ているから深く頷いている。


「三人もいますし直ぐに終わるだろうから助かります」


 排斥派と言っても学校の中の者で構成されており、中立派や崇拝派もいると考えれば一人でも一ヶ月もあれば終わる。

 それが三人もいるのだから一週間もあれば終わってもおかしくない。


「それじゃあ見つけたら教えてくださいね。好きな時間に辞めて帰っても良いので。あと探した家は教えてください。それとくれぐれも見つからないことを最優先にお願いします」


 見つからないようにと何度も注意をして事務員は事務所から出ていく。

 二人も頷いて一緒に目的の家へと向かっていった。

 別れて探さなかったのはもしもの時に一人よりも二人の方が確実に逃げれると考えたからだった。


 事務員は一直線に自分が探す家へと向かう。

 途中で排斥派に所属している者の家があっても通り過ぎて行った。

 まるでマントの場所が分かっているようだ。


「………ここか」


 そして辿り着いたのは一軒家。

 外は暗くても、家の中には光が見える。

 寝るにはまだ早く起きている者も多い時間だ。


 セイナとエマの二人に渡した探してほしい家は排斥派が入院している家。

 おそらくは家の中には誰もいないはずだ。


「さてと寝る時間になるまで待つか………」


 事務員は最低でもこの家の両親が寝るまで待つと決める。

 探している最中に親が来たら面倒だ。

 無理矢理にでも寝かせることは出来るが、自然に眠らせた方が何かあっても怪しまれない。

 この家の家族が寝るまで、どうやって時間を潰そうかと事務員は頭を抱えてしまった。



「…………ようやくか」


 事務員は家の中の光が消えたことにようやく調べられるとため息を吐く。

 夜は暗いせいで時間を潰せる本も読めず、ひたすらに暇だった。

 普通に寝る時間まで別の場所で時間を潰す方法はあったがマントを使って家の中から出ていく可能性もあったから監視もする必要があった。


「さて……と」


 事務員は寝静まったのだと考えて鍵がかかっているはずの家の中に入る。

 これも魔法であり普通に使ったら犯罪とされる。

 事務員にとっては今更だしバレなければ良いという考えで使っていた。


「二階か………」


 マントがあるのは二階だとディアロは突き進む。

 実はセイナとエマには隠していたが事務員は盗まれたりしないように何処にあるのか分かるようにしていた。

 だから他の入院している排斥派の者がいる家には行かなかった。


「ここか……」


 扉にはユナと書かれた可愛らしいシールが貼ってある。

 名前からして女の子だ。

 それでも事務員はマントを返してもらうために躊躇なく入る。


「まずは黙らせませんと。後は暴れないようにしないといけませんね」


 事務員は部屋の中に入るとまずはユナの眠っているベッドへと向かう。

 そしてまずは口元に手をかざして魔法をかけ、その次に両手両足に動けないように魔法で重しを付ける。

 これで違和感を持って起きても事務員はバレないと安堵する。


「さてどこにあるかな?」


 この部屋の中にあるのは分かるが何処に隠してあるか予想がつかない。

 もしかしたら下着の下に隠れているかもしれないと考えると嫌な気持ちになる。

 その場合、浮気ではないが怒りと嫉妬、そして白い眼で見られることが想像できてしまう。

 願わくば普通にジャンバーなどと一緒に置いてほしいと願う。


「っ……」


 ガサゴソと探すのに音を立てていたためかユナが僅かに反応する。

 だが事務員は口封じをしているため問題ないと部屋を探していく。

 そして途中で部屋の中でガタっという音が響きユナは目を覚ました。


「…………?」


 ユナは目が覚めてしまい起きようとしたが手足が動かないことに混乱する。

 そして声を上げることも出来ないことに気付く。


「………!?………!!?」


 それでも首だけは動かすことはでき自分の部屋にあるタンスや机が勝手に開いたり閉じたりしていることに目を見開く。

 まさに心霊現象であり幽霊は実在するのかと恐怖を覚える。

 体が動かず、声も出ない。

 まさに金縛りであり動けないことに焦っている。


「起きましたか?」


 姿が見えないのに聞こえてくる声にユナは怯えて歯をがたがたと鳴らす。

 幽霊のような、こちら側から触れることの出来ない存在が恐ろしくてたまらないらしい。


「あぁ、姿が見えないんだったか」


 その言葉と共に見たことがあるマントを被った存在が目の前に現れる。

 そして手を自分の頬に当て実在していることを証明していた。


「……………っ!!」


 幽霊でないことに安心し、そして身の危険を感じてユナは悲鳴を上げようとする。

 だが声を上げることが出来ず、身体を動かして逃げることも出来ずない。

 ユナは恐怖で涙を浮かべながら事務員を見る。

 事務員も何に対して恐怖を覚えているのか理解できているから苦笑する。


「姿を消すマントを返してくれれば性的な意味で手を出しませんよ。教えてくれませんか?」


 ユナは性的な意味で手を出さないと言われて恐怖を覚えてしまう。

 性的以外、つまりは口封じのために暴力を振るわれるんじゃないかと身体を強張らせる。


「その前に……」


 事務員はマントを脱いでユナの前に正体を現す。


「!!!!!!!!!!」


 事務員の顔を見た途端に狂ったように暴れようとするユナ。

 叫ぼうともしているために口が開いている。

 それに対して事務員は指を口の中に突っ込む。


「…………これで良し」


 口の中に指を入れて魔法を使って手を光らせる。

 何をされたのか分からなくて性的なことはしないと言ったのに口の中に指をいれたことに事務員に対してユナは睨む。


「マントは何処に隠しましたか?」


「学生鞄の中よ。………っ!?」


 答える気が無いのに勝手に口が開いた。

 そして声を出せるなら叫べるんじゃないかと好機だと思い叫んでみるが声が出ない。


「ありましたね。それじゃあ」


 その間に事務員はマントを見つける。


「明日の朝には自由に動けるので安心してください。それでは……」


 そしてユナの目に手を置く。

 その手はまた光っていて魔法を使うようだ。

 睨んでいたユナの眼は閉じていき寝息を立て始める。

 完全に寝たのを確認して事務員はユナの家から出て行った。



 事務員がユナの家からマントを取り戻した後日。

 二人へと事務員はマントを取り返したことを伝える。


「思ったより早く見つけれましたね!」


「そうですね。ですからもう探さなくても大丈夫ですよ」


「………」


 エマの見つかったことに対する喜びの声に事務員は笑顔で返しセイナは冷たい目で事務員を睨む。

 セイナとエマの探した家はどれもが家の中に誰もいなかった。

 排斥派にいた者達が入院しているとはいえ、これはおかしいとセイナは思ってしまう。

 もしかして、あらかじめ誰もいない家を探すように振り分けていたのではないかと考えてしまう。


「もしかして本当はどこの家にあるのか知っていたんじゃないわよね?私たちにも、そのことを気付かれないようにワザとマントが無い家に向かわせたりして」


 何で自分達にも隠すのか分からないが目の前にいる男なら有り得るとセイナは睨む。

 エマはともかく恋人である自分には話しても良かったんじゃないかと不満だ。


「いいえ?たまたま一番最初に探した家に有っただけですよ?」


 事務員の言葉を信じられず更に強く睨むが相手は全く堪えずに笑みを浮かべている。

 その姿にこれ以上、問い質しても答えないだろうとため息を吐いてセイナは諦めた。


「そういえば、もうすぐに大会が始まりますけど事務所は開くんですか?」


 エマの疑問にたしかにとセイナは事務員へと視線を向ける。

 学校別の大会で自分達を鍛えるために空いている時間は無いはずだ。

 それでも事務所を開くつもりはあるのか確認したい。


「時間がある時は開きますけど来なくても大丈夫ですよ?学校の方を優先して欲しいですし」


 事務員はそう言うが、二人からすれば事務員も同じだ。

 むしろ事務員の方が忙しい。


「何を言っているの?貴方の方が忙しいわよね?」


「そんなことはありませんよ?確かに力を貸すことになるんでしょうが、どうせ参加することは無いんですし」


「あっ……」


 セイナは事務員が何か勘違いしていることを察する。

 大会では強ければ一年でもメンバーに選ばれる。

 既に学校中に強さを見せつけてしまったのだからメンバーに選ばれる可能性が高い。


「どうしましたか?」


「………何でもないわよ」


 だが敢えてセイナはその予想を言わなかった。

 メンバーはまだ公表されていないし確定したわけでもない。

 改めてメンバーが決まって事務員も入っていたら、もう一度質問しようと考えている。


「………もしそれでも事務所を開こうとしたら殴ってでも止めべきよね?」


 事務員がメンバーの中に決まっていても事務所を開こうとするのが予想できて、そうなった場合に覚悟を決めようとする。

 だけど殴ってでも止めようとしても簡単に避けられるのが想像ができた。


「ねぇ?」


「何でしょうか?」


 エマはセイナが覚悟を決めた顔したのを見て、自分もまた事務員がメンバーに選ばれたら事務所より大会の方を優先するように説得することに決める。

 何よりもメンバーに選ばれたのに訓練をするより別のことに力を入れていることがバレたら学校中から嫌われてしまう可能性がある。

 事務員が嫌われるのは見てて嫌だ。


「もしメンバーに選ばれたら事務所を開くより学校を優先してくださいませんか?メンバーに選ばれた癖に蔑ろにしていると理由で嫌われるのは嫌なんです」


「そうね。メンバーに選ばれるということは学校の誇りとして選ばれるということよ。いくら貴方が強くて他が弱いからって蔑ろにしないで」


 セイナはエマの説得に事務員が反応したのを、これ幸いと畳みかける。

 もしかしたら誇りとして選ばれたのに自分勝手に行動しようとしたことに良心が痛んだのかもしれない。


「…………わかりました。それでも一週間に一度は開かせてもらいます。そのぐらいなら問題ないでしょう?」


 一週間に一度と聞いてセイナは考え込む。

 基本的に誰も来なかったら本を読んで一日が終わる。

 他にも誰も来なかったら、事務員に手作りの料理を食べて貰って感想を聞いたりするぐらいだ。

 それに他でも大会の準備と忙しくなるのが想像できる。


「わかったわよ。その代わり一週間に一度だけよ」


「えっ……!」


 セイナの妥協にエマは驚き、事務員は喜ぶ。

 それで良いのかとエマはセイナを視線で問うが逆にセイナに近寄るようにと手招きされる。


「どうせ毎日学校で訓練するわけが無いし休日も必要でしょう?その間なら問題ないし、基本的にここは相談者が来ても道具を渡して終了。来なくても本を読んで過ごすのが基本よ」


 たしかにそうだとエマも納得する。

 しかも事務員は恋人の手作り料理を食べれる。

 客が来ても一日中いるわけでも無いし充分に休めれる。


「………そうですね。ところで事務員に手料理を作る際に私も協力して良いでしょうか?」


「嫌に決まっているでしょう?これは私の特権よ」


 エマの提案を拒絶するセイナ。

 事務員へと料理を作るのは自分だけで良いと独占欲を発揮していた。

 それと同時にエマが事務所がいることに手が増えて便利だと思うが、同時に二人きりになるのに邪魔だという感情が沸き上がっていた。



「よっ、ディアロ」


 朝、ディアロはレイと一緒に登校しているとダイキに手を上げて挨拶をされる。

 それに対してディアロとレイも返事をし学校まで一緒に歩くことになる。


「先生から聞いたけどディアロ、お前は学校の代表として大会に参加することになったぞ。それも大将としてだ」


 そしてダイキから学生武闘会の代表として選ばれたことを教えられた。

 学生武闘会とはその名の通り学生だけの何でもありの大会。

 それに選ばれたということは学校に在籍している生徒の中で特に強いと教師に認められたということになる。

 更に大将に選ばれたということは、その中でも一番強いと思われていることだ。


「良かったじゃない!」


 レイはディアロが選ばれたことに笑顔を浮かべる。

 自分の恋人はこんなに凄いんだと自慢したい気持ちでいっぱいだ。


「大将か……」


 それを聞いてもディアロは複雑そうな顔を浮かべる。

 そんなことよりバイトをしたいし、一年が大将なんて本気かと思ってしまう。

 正直に言ってメンバーに選ばれただけなら何とも思わなかったが大将に選ばれるなんてプレッシャーがキツイ。

 バイトだ何だと言って逃げ出したくなる。


「何だ?大将だぞ?それも一年が。それだけ認めらるって胸を張れよ。何が嫌なんだ」


「そうね。三年生を差し置いて選ばれたんだから堂々としなさい」


 複雑な顔を浮かべ、うなだれているディアロに不快になったのかムスッとした顔で注意する二人。

 ディアロにとっては他人事だからそんなことを言えるのだと考えてしまう。


「ならお前たちが同じ状況で胸を張れるのかよ。一年が三年を差し置いて大将に選ばれたんだぞ。かなりプレッシャーを感じてしまうんだが?ただのメンバーならともかく逃げ出したくなる」


 最初は不満に思っていたがディアロの言い訳に少し考えてから納得する。

 たしかに、よくよく考えてみれば一年で大将に選ばれるのはプレッシャーだ。

 普通なら三年が選ばれるはずなのだからと遠慮したくなる気持ちも理解できてしまう。


「言い換えれば他に経験する者が少ないんだからラッキーだと思えば良いんじゃないかしら?」


 他にはいないとは言い切れないが、それでも一年で選ばれるのは少ないだろうとフォローする。

 辛かったら手を貸すからとダイキも約束する。

 それで納得して欲しいと二人は思っていた。


「………ん?そういえば何でダイキが俺が大将に選ばれたことを知っているんだ?」


 そして二人の説得に頷こうとしたところでディアロは何でダイキが知っているのかと疑問を持つ。

 まだ公表されていないはずなのに生徒であるダイキが知っているのはおかしい。

 もしかして大将に選ばれたのは冗談ではないかと期待をしてダイキを見る。


 そしてレイは嘘をついていたのかとダイキを睨む。

 折角、説得に協力したのは嘘だったとか冗談ではなかった。

 大将に選ばれたのが冗談だと言うのならメンバーに選ばれたのも冗談なのだろう。

 本当にディアロが選ばれたと知って嬉しかったからこそ腹が立つ。


「いやいやいや!」


 二人に嘘なのかと視線で問いかけられてダイキは焦る。

 決してディアロが大将に選ばれたのは嘘では無いのだ。

 たしかに公表はされていないが知っているのには理由がある。


「俺は生徒会のメンバーだから知っているんだ!嘘は言っていないからな!?」


 生徒会のメンバーなら先に知ることが出来るのかとディアロたちは首を傾げる。

 それにそういうのは普通は実際に公表されるまでは黙っておくように言われるんじゃないかと考える。


「それって先に教えられたってことだけど公表される前に言って大丈夫なの?」


「…………今日、公表されるから大丈夫だろ」


「ダメじゃん」


 今日公表されるとはダイキは言うが、同時にまだ公表されていない。

 それはダメだろとディアロは言うし、レイも頷く。

 そしてダイキは顔を逸らす。


「にしても生徒会は先に教えられるのか……」


 何で生徒会のメンバーは先に学校の代表を教えられるのかディアロは疑問を持つ。

 別に他の生徒と同じでも良いんじゃないかと思うが何か理由があるのかと疑ってしまう。


「うん。生徒会のメンバーは基本的に学校の代表として選ばれた者たちに全面的に協力しないといけないんだって」


 それを聞いてディアロは生徒会はまるで雑用みたいに感じてしまう。

 やっぱり生徒会に参加しなくて良かったと思う。


「まぁ、学校の評価にも繋がるから他の者にも協力してもらうことになるみたいだけど」


 他の協力者と聞いて、それが排斥派じゃなければ良いとディアロとレイは思う。

 ディアロは自分が嫌いだからと邪魔をされたら嫌だし、邪魔をしといて結果を出せなければ嬉々として文句を言ってくるのが想像できて嫌だ。

 レイは単純に自分の恋人が馬鹿にされるのを見ていて不快になるから嫌いだ。

 それに男も女も関係なく自分の身体を狙ってくる。

 そんなのがディアロと隣にいることが凄く不快だ。


「…………何を考えているのか想像がつくけど安心しろ。俺もディアロの隣に排斥派が立たないように気を張るから」


 そしてダイキもまたディアロの隣に排斥派が立つことに不満を持っている。

 ディアロもやり過ぎた部分もあるが、もともと排斥派はディアロへと対して理不尽な嫉妬から生まれたものだからだ。

 例え相手が誰であろうと全力で協力者となるのを拒否しようと決意した。

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