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八話

「私も見ていたけど弁当が焼きそばだけなのはアレだと私も思うわよ?」


 ディアロのクラスメイト達はレイと一緒に崇拝派と排斥派の勝負を見ていた。

 そして聞こえてきた話の内容に冷たい視線を送る。

 当の本人は好物だからと嬉しそうに食べていたが、それでも焼きそばだけということにレイに対して正気か疑う。


「麺類が好きだって聞いたから………」


 レイの理由にため息を吐いてしまうクラスメイト達。

 麺類が好きだからといって、それだけでなく他にも作ればよかったのにと思ってしまう。

 そのせいでディアロの崇拝派から睨まれてしまっている。


「まぁ、当人が気にしていないのに、これ以上部外者が言うのもアレだから言わないけど」


「うぅ……。ありがとう」


「それよりも排斥派の者たちに着いてどう思っている?」


「死ねば良いのに」


 排斥派について質問されてレイは即答する。

 その速さと答えに周りの者たちはそれだけ彼らが嫌いなのだなと納得する。

 特に女子たちは深く頷いていた。

 排斥派の者たちはあくまでもレイの身体のことしか話していない。

 中身を全く見ていないことに酷く不快な気分になっていた。


「まぁ、そうだよね」


「正直、あんな奴らじゃなくてディアロと恋人になれたのが凄くラッキーね。彼も私の手料理が好きだと言ってくれるし。毎日、美味しいそうに食べてくれるから作り甲斐があるわ」


 レイの惚気に色々とイラっとくる観客たち。

 羨ましくてしょうがない。


『あぁ~、っと!!一つの戦いに集中していましたが、他の戦いも見てみましょう!ディアロ君は何処が気になりますか!?』


『女性同士のところでしょうか?ああいうのをキャットファイトって言うんですよね?』


『やめろ』


『女性同士の戦いなのに?』


『こういうことは女として言いたくありませんが性的な意味で使われているのでやめろ』


『ごめんなさい』


 ディアロとシェートの会話に多くの者がその戦いに注目してしまう。

 キャットファイトという言葉に男子は本能的に意識を向け、女子はそんな男子を冷たい目を向けながらもしもの時には止めたり目を塞いだりするために意識を向ける。

 流石にディアロもこういう場で口にするのはダメだと怒られて謝罪する。


『………それで、どこが気になったんですか?』


『あの二人の会話を聞いたら?』


 微妙な表情を浮かべながらシェートの疑問に答えるディアロに二人の女性たちの会話を聞き取れるように観客たちも意識を傾ける。


「良い加減にしてよ!何で恋人がいるのに奪おうとしているの!?しかも同じ女性なんだよ!?」


「うるさい!男なんて下劣な奴らより同じ女の私の方が幸せに出来るに決まっているじゃない!だから邪魔しないでよ!」


「「「「「………………え?」」」」」


 聞こえてきた内容に観客たちは困惑する。


『一言でいえば同性愛者と恋人を奪わせないように止めている友人ですね』


 ディアロの平然とした言葉に意識が戻ってくる。

 いくらレイの容姿が優れているとはいえ同性愛者に狙われていることを想像していなかったのが大半だ。

 中には初めて同性愛者を見た者たちもいて未だに正気に戻っていない者たちもいた。


『冷静ですね……?』


『まぁ、今更ですので。それにレイはノーマルだとも知っていますし』


 レイを信じていると言外に告げるディアロに平然としていることに納得する。

 微妙な表情をしていたのは純粋に女が自分の恋人を奪おうとしていることで、同性にも恋愛的な意味でレイが人気だと知ったからかもしれない。


「貴女が男嫌いなのも、その理由も知っているけど彼女の顔を見ていないの!?ディアロ君と一緒にいて幸せそうでしょう!?」


「だから何!?あのディアロよ!?あんな危険人物を信頼するとか馬鹿なことを言っているの!?何人もの心を折った奴を!?」


「「「「「……………」」」」」


 どちらも否定できない。

 他人の恋人を奪おうとしている友人を止めるのも分かる。

 そして何度も床に頭を叩きつけたりして心を折る相手が恋人だと心配して別れさせようとするのも分かる。

 その上で奪おうとしているのは理解できないが。


『それにしても単純に友人が道を踏み外そうとしているから崇拝派にいる者もいれば、レイが心配だから別れさせようと排斥派に入っている者もいるみたいですね。その上で恋人になろうとしているのはどうかと思いますけど』


『全くですね。意外とそういう者もどちらの派閥にもいそうです。恋人を奪おうとしているのはダメですが』


 他人の恋人を奪おうとしていることを除いて誰もが理解を示す。

 恋人を奪われたりするというのは物語だからこそ需要があるのであって、現実ではクソだろう。

 それで興奮する者もいるかもしれないが、おそらくは少数だ。

 そしてディアロはその少数に含まれてなく排斥派の自分の恋人を奪おうとしている者を覚える。

 何せ相手は自分の恋人と同性だ。

 同じ性別と言うことで自分よりも気心が知れている。

 ある意味では男子よりも危険だ。


『まぁ、どちらにしても俺に正面から勝てないから嫌がらせをする奴らの一員には変わりありませんが』


 ディアロの言葉に全員がそうだったと思い出した。


『ところで嫌がらせを受けて、どう思いましたか?』


 普通は聞くようなことじゃないことを質問するシェート。

 聞こえていた者たちは何を質問しているんだ、と信じられない顔を向ける。


『別に何とも。正面から否定してこないのは情けないとは思うけど……』


 ディアロも気にせずにシェートの疑問に答えているが、内容は手厳しい。

 同時に確かにとも思ってしまう。

 直接、口に出して否定すれば良いのにそれを聞こえないところでやり、正体がバレないように嫌がらせをするのは情けないと考えてしまう。


『そうなんだ。排斥派の者たちはやっぱり嫌いだよね』


『そうですね。結局、直接俺に来ることは無かったですし』


『なるほど』






「言われているわね」


「だから何だよ?」


 司会者たちの会話を聞いて崇拝派の女は排斥派の男を煽り、排斥派の男は青筋を浮かべている。

 排斥派からすればディアロの言葉は完全に挑発だった。

 普通に正面から挑んでも勝てないと分かっているのに正面から挑む馬鹿はいない。

 排斥派も全員がそれを理解している。

 だから嫌がらせをするのだ。


「勝てないと分かっているのに挑む馬鹿がいるかよ。嫌がらせは少しでもディアロにダメージを与えるためだ。それで少しでも心にダメージを入れば勝てる隙が出てくるし、そうでなくても退学になれば万々歳だ」


 実際には気にしていなかったがな、と吐き捨てられて崇拝派の女はざまぁとも流石とも思う。

 イジメが苦で自殺したり学校を辞めたりする話はよく聞くからディアロは全く堪えていなかったらしい。

 ディアロにとっては本当に軽い嫌がらせにしか感じなかったから当たり前だと思っているかもしれないが。

 

 これがもしディアロが弱かったら、もっと暴力的なイジメもされていて結果は違ったかもしれない。

 現に暴力的なイジメは全く無いし、ディアロに怯えているせいでバレないように慎重に慎重を重ねていたせいで本当に軽かった。

 何ならクラスメイト達にも嫌がらせで汚れた机を洗ってもらっていたから心にダメージを受けたとしても直ぐに回復していた。


「ふぅん。あくまでも計算づくだったんだ?」


 その点には苛立ちを覚えながらも感心する。

 ディアロが対象にされたことに怒りが湧きあがりながらも勝つためにはと行動したことは称賛をしたくなる。

 対象がディアロでは無かったら本気で称賛していたかもしれない。

 普通は勝てない相手にどうしても勝ちたいのなら盤外戦術は正しい。

 認められない者も多いし、それがディアロ相手にやっていることで崇拝派の女は腹立たしく思っているが。


「当り前だ。何の策も無しにディアロに勝てるか。こちらからも質問させてもらうが何でお前はディアロを崇拝しているんだ?相手は倒した相手に何度も追撃をする男だぞ」


 その言葉に思い出すのは何度も地面に頭を叩きつけたり倒れた不良を何度も蹴る姿。


「それが良いんじゃない!!」


「え」


「最初に喧嘩を売ったのは相手よ!だからと言ってない何をしても良いわけでは無いけど、あそこで何もしなかったら何をしても文句を言わないんだと調子に乗られたに決まっている!喧嘩を売ってきた相手に上下関係を刻むのは悪くないわよ!私だって体に覚えさせられたい!」


 崇拝派の女の言い分に観客たちも含めて多くが引き、ところどころにいる者たちは納得する。

 ハッキリ言ってリィスが羨ましい。

 あんなにディアロの近くにいて暴力を振るってもらえるように頼んでいるのだ。

 自分達が同じようにするには羞恥心が邪魔をしてしまう。


「意味が分からねぇ……」


 理解が出来ないと排斥派の男は呟く。

 確かにディアロは基本的に喧嘩を売られてから攻撃をしている。

 それでも心を折ったり何度も倒れた相手を追撃するのはやり過ぎだ。

 そもそも暴力で自分が誰かの下だと心から理解させられるのは不良と変わらない。


「そう?痛みは相手に立場を分からせるために必要だと思うわよ。優しくしたらつけあがるし、貴方達もディアロが誰に対しても何も反撃しなかったら調子に乗っていて色々やっていたんじゃない?」


 そこじゃないと多くの者たちは思う。

 あくまでも意味が分からないのは身体に自分達が下だと理解させてほしいと言った崇拝派の女の言葉だ。

 特に上昇志向のある者が崇拝派の女の言葉を理解できないでいた。


「そうじゃない。何でお前はディアロの下につこうとする?」


「強いからじゃない?きっと他の者たちも皆そう。皆がマゾなのかと疑っているかもしれないけど、そんなのは後付けよ。ただただ強いからどこまでディアロ様がいけるか興味があるのが一番。そして完全屈服している証拠を見せれば近くにいても文句を言われないでしょう?」


「それは……」


 正直に言えばたしかにディアロが何処まで強くなるのか興味がある。

 だからといってマゾになってまで近くで見たいという気持ちまでにはならない。

 普通なら行動するとしても協力するぐらいのはずだ。


「さて、そろそろ決着を付けましょうか?このお互いを盛大にぶつけて小競り合いを減らして自分達の仕事を減らす企みから出来た試合を」


「え?」


 崇拝者の女の言葉に排斥派の男は知らなかったのか疑問の声を上げる。

 大声で職員室で教師たちを巻き込むように話してはいたが開いた理由までは口にしていない。

 そして理由を聞いていた各部の部長や生徒会のメンバーたちは崇拝者の女が気付いていたことに驚いていた。





『マゾになった理由を話しているけど、ディアロ君はどう思う!?』


『納得ですね。自分から貴方より下ですと尻尾を振られて敵意を持つのも萎えますし』


『あっハイ』


 ディアロから見ると崇拝派はそんな感じなんだと理解する。

 まぁ、結構な数が最初は敵意を持っていたのに崇拝していますと変わればそうなるのかもしれない。


『それよりも、この試合の本当の理由を聞いて皆が終わらせようとしていますね。全員、魔力を集めています』


『本当の理由ですか?一体、どんな理由があるんでしょうか?』


『ただ単純に自分達の監視下で爆発させようとしただけですよ。最近、小競り合いだけですけど何時ヒートアップして爆発するかわかりませんでしたし。そうなったら、どんな怪我をするのか分かりませんしね』


『つまり二つの団体の息抜き……』


『そうですね。また、こうやって暴れそうになったら試合をさせるんでしょうけど』


 なるほどとシェートは理解して首を傾げる。

 勝手に爆発するのなら何で今のように試合を指せるのか理解できない。

 別に喧嘩ぐらい好きにさせたら良いのにと思う。


『監視下に置いているのは責任を取りたくないからだろうなぁ…。もし派手にぶつかり合って治らない怪我をしたら生徒会の癖にと理不尽に責められるかもしれないし。各部の部長たちも実力者の癖に止められなかったのかと言われるかもしれませんしね。それなら自分達の目の前で暴れさせたら何時でも止めらし』


 ディアロの想像に嫌な顔をしてしまう観客たちにシェート。

 だから試合として戦わせているのかと更に理解する。


『それよりも最後がどうなるか気になるので集中してみましょうか?』


 ディアロの言葉に全員が魔力を集めていることを思い出す。

 どんな理由だろうと最後は魔法を集めているのだ。

 凄く派手な終わりになるだろうなと期待している。


『今、この場所で凄い魔力が溢れています!』


 莫大な魔力。

 下手に干渉したら、それだけで爆発してしまいそうに感じる。


『やっぱり見世物としてはビームみたいな魔法が一番好きですね。シェート先輩はどう思います?』


『それも好きですけど、私はどんな形でも直接ぶつけるのが好き』


 シェートの答えにディアロはたしかにそれも良いと頷く。

 結局、どんな風に決着が決まるのかは実際に見るまでは分からない。

 それも直ぐにわかる。


「「死ねぇぇぇぇぇ!!」」


「「喰らえぇぇぇぇl!」」


「「あぁぁぁぁぁぁ!!」」


 全員がそれぞれの相手に集めた魔力をぶつけていく。

 一つは魔力を集めて砲撃し、一つは己の拳に集めて直接ぶつけようと拳を突き合わせる。

 そして、もう一つは拳と砲撃がぶつかり合った。


「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」」」」」」」」」


 それを見た観客たち全員は派手な光景に歓声を上げる。

 ハッキリ言ってどんな理由で戦っているか、どうでも良かった。

 この光景を見れただけで観戦に来た価値があると思っている。

 それは生徒会のメンバーや各部の部長たちも同じで良い光景だなと眺めていた。


『……………』


 ディアロは綺麗な光景だし派手で興奮するが冷静に眺めてしまう。

 思った以上に威力が強くて、このまま互角の状況が続くと爆発してしまいそうだと考えてしまう。


「………もしもの時は横槍を入れるか」


『え?』


 ディアロの呟きが聞こえていたのはシェートだけ。

 冷めた目で見ている姿から聞き間違いか空耳かと思ってしまう。

 まさか横槍を入れるとは考えていない。


「「「「「「あああああああああ!!!!!」」」」」」


 お互いに負けられないと崇拝派の者たちも排斥派の者たちも更に魔力を込めて相手を倒そうと威力を上げる。

 更に光が強くなった。


「…………これだけの威力の魔法が相殺されず爆発したら大変なことになりそうだな」


 そうでなくとも魔法の威力で敗けた方は死んでしまう可能性が高い。

 どっちが勝つのか最後まで見たいが諦めることにする。


『はぁ………。最後まで見たいけど下手したら死人が出そうだから止めます』


 観客全員に聞こえるようにディアロは宣言する。

 その言葉を観客たちが理解する前にディアロは拳をぶつけあっている者たちの頭を強引に互いにぶつけて気絶させる。

 互いに意識が相手にしか向けていなかったから出来た。


「次は………」


 次にディアロは拳と魔法をぶつけあっている者たちを止める。

 まずは魔法を撃っている者を後ろから頭を殴って気絶させる。

 そして勢いのまま飛び込んでくる相手の拳を躱してカウンターを叩き込み意識を奪った。

 上手いぐあいに内蔵に突き刺さりピクピクと意識を奪ったはずなのに震えていた。


「あとは……」


 最後は魔法を撃っている者同士。

 離れて撃っているために距離があるし、下手に気絶させたら狙いが外れてあらぬ方向に魔法が飛んでいきそうだ。

 そのせいで観客の誰かが怪我をするのは嫌だった。

 だからまずは二人の魔法を横から消し飛ばす。

 そして二人を同時に魔法で頭を狙って気絶させた。


「え」


 誰もがディアロの行動を見ていることしかできなかった。

 そして全員が思う。


「「「「「「「「「わざわざ全員を気絶させる必要があったの………?」」」」」」」」」」


 特に最後の魔法を撃ちあっていた二人は魔法を消し飛ばしただけで良かったんじゃないかと思っていた。


「ディアロ……」


 排斥派と崇拝派の勝負が終わりディアロは買えりしたくをしているとレイが話しかけてくる。

 何か言いたそうな様子にディアロも聞き返す。


「どうした?何か言いたそうだけど……」


「最後、全員を気絶させる必要があったのかしら?別に魔力だけを吹き飛ばしたりすればよかったんじゃないの?」


 レイの疑問にディアロは首を横に振る。


「邪魔をされたら今度は俺が攻撃されるかもしれないだろ?俺だったらそうする。そうしたら、どちらにしても気絶させたし変わらないよ」


 自分だったら試合の邪魔をさせられたら攻撃するというディアロの言葉にレイは理解した。

 どうやら自分に当てはめて行動したらしい。

 たしかに決着をつくところで邪魔をされたらムカついてしまう。


「そういうことね」


 納得しながらレイは自分も帰り支度をしてディアロと一緒に学校から出ていく。


「今日は何処に行こうか?」


「ゲーセンに行かない?」


「そうね。今日は私が勝たせてもらうわよ」





「はぁぁぁ~」


 二人が帰った後、クラスメイト達は深くため息を吐いていた。

 それはクラスメイト達だけではなく観客席で見ていた生徒たちのほとんどだった。

 ディアロが最後の最後で横槍を入れたことに少しだけ不満を持つ。

 死んでしまうかもしれないからと聞いていたから止めてくれたことに感謝はしているが、それでも残念に思っていた。


「あれ?リィス、珍しいわね。今日はディアロ君たちと一緒に行かないの?いつもなら、例え邪魔だとしても隣にいるように見えるのに」


「言うわね……」


 それはリィスも同じなのかディアロたちの隣に行かずに何か悩んでいる素振りを見せている。

 もしかしたら、ようやくいつも二人のところに行って邪魔をしていたのだと理解したのかと考える。


「何も言わないなんて、もしかしてようやく自覚したのか……」


「お「本当に……!」「ようやくか!」「もう邪魔しちゃダメだよ」………」


 クラスメイト達に二人の邪魔をしているのだと思われていてリィスは何も言えなくなる。

 確かに恋人同士の二人の間に突撃をしているが邪魔をしているつもりはなかった。

 むしろ色々と協力して役に立っているとリィスは思っている。


「…………別にそんなつもりは無いわよ」


 考えていたのは崇拝派と排斥派のこと。

 あれはもともと小競り合いを減らし爆発させないためにやっていたらしいのに最後の最後で横槍を入れるなんて逆に不満が溜まるんじゃないかと考えてしまう。


「うん、決めた」


 リィスはそれだけを言って帰る準備をする。

 やろうとしていることは単純、見えないように排斥派や崇拝派の様子を探ることだ。

 この場で姿を消したら面倒になりそうだから、離れてから姿を消そうと考える。


「待て待て待て!」


 そんなリィスにダイキが抱き着いて止めようとする。

 リィスの腰に抱き着き顔が腹に当たってしまっている。

 そのことにリィスは顔を赤くし、ダイキは全く気付いていない。

 ただ単純にディアロたちの邪魔をさせないように必死になっているだけだ。

 そして他のクラスメイト達もそのことに気付かず、リィスを止めようとしている。

 そして取り敢えずは、と。


「ディアロ様たちのところに今日は行く気は無いから放せ変態」


 そう言って腹に顔を当てている変態を殴り飛ばす。

 そのせいで机や椅子、そして何人か巻き込んでしまったが後悔はリィスに一切ない。

 むしろ一発で許してやったことに感謝しろとさえ思っていた。


「ディアロ様でもないのに私のお腹に顔を埋めるな変態」


 急に殴ったことに対して非難的な視線を送っていた者もリィスの言葉を聞きダイキがリィスを止めようとしていた姿を思い出してしょうがないと納得した。

 そしてディアロを様付けで呼んだことに対して引く。


「………………っ!!」


 ダイキはリィスに言われたことでようやく自覚したのか顔を赤くする。

 直ぐに謝らなくてはいけないが顔を当てていたことを思い出して何も言えなくなってしまう。

 そして引き留める間もないままにリィスは皆の前から今度こそ出て行った。




「ダイキ……?」


 リィスがみんなの前から出て行って少しのあいだ時間が経ったがその間、一切ダイキは動かなかった。

 そのことに男子は少しだけ羨ましく思いながらも心配になり、女子も少し軽蔑しながらも心配していた。

 女の子の身体の感触や匂いを思い出しているのが分かってるから心配も少しだけだが。


「………………」


「ハッ!!」


 女の子の身体を思い出して呆然としているダイキの背中を思いきり叩くことで意識を戻させる。

 いまでも女の子の身体を思い出している姿は見たいものではない。


「一応言っておくけど、あの子ディアロの崇拝者の筆頭だからね?確実にフラれるから惚れない方が良いわよ?」


 何せ知っている限り一番最初に忠誠を誓った女の子だ。

 縄などを持ってきたり首を絞めたりしてくれと一番インパクトが大きい。


「…………わかっている」


 顔を赤くしながら逸らしてそんなことを言うダイキに本当にわかっているのかと疑ってしまう。

 あの女はどこまでもディアロのために生きると想像できてしまう。

 きっと恋人ができてもディアロが最優先で生きていくだろう。

 だから男子がリィスだけは選ばないように同じクラスメイトのよしみとして女子たちは祈っていた。



「さて………と」


 リィスはクラスメイト達から離れると周りに誰もいないことを何度も確認して姿を消すマントを被る。

 姿を消す目的は崇拝派と排斥派が今、何を思っているか探るためだ。

 そして何か怪しいことを企んでいたらディアロに教えてご褒美をもらおうと企んでいる。


「保健室にいるわよね?」


 試合が終わってほとんどが怪我をしたり気絶したりしている。

 休ませるために保健室を利用しているはずだと想像する。

 そして誰にもぶつからないように気を付けて目的の場所へとリィスは歩いていく。


(まずいわね……。どうやって入ろう………)


 保健室へと誰にもぶつからずに辿り着いたが中に入る方法が無いことを思い出す。

 中に入ろうとするには保健室の扉を開けるしかない。

 だが、それをするとリィスは透明になっているから不自然に開いてしまうことになる。

 怪奇現象か何かかと騒がれるのは居心地が悪い。


「失礼します」


(あっ……)


 そう思っていると生徒会のメンバーの一人が扉を開けて入っていく。

 それを見て絶好の機会だとぶつからないように接近して中に入る。

 途中、締めようとしたドアにぶつかったりしたが何とかバレなかった。

 ドアが閉まらなかったのは何かにぶつかったりズレてしまったのかと考えたらしい。

 もう一度閉めようつぃたら閉まったために何も疑問を持っていない。


「彼らは大丈夫でしたか?」


「えぇ。気絶した子も怪我をした子も比較的軽傷だから何も問題ないわよ。安心しなさい」


 保険医の言葉に生徒会の者は安心したように息を吐く。

 どうやら確認のために来たらしい。


「彼らは私に任せて貴方たちは自分の仕事をしなさい。時間になっても起きなかったら私が起こして帰らせるから」


 保険医の言葉に頷いて生徒会の者は保健室から出ていく。

 生徒会の一員として放っておくことが出来なかったみたいだ。

 教師が最後まで面倒を見ると聞いて安心したような表情を浮かべていた。


(まだ起きていないのね………)


 これじゃあディアロに対して何を思っているのか分からない。

 だから起きるまで待とうかとも考える。

 例え何時間も暇だったとしても、そのぐらいは余裕だ。


「さて彼らは何時に起きるのかしら?できれば早く起きて欲しいわね」


 そんなことを言いながら自分の机で何やら作業をしている保険医。

 リィスも彼らが起きるまでどうしようかと悩みながら近くのベッドに腰かけた。

 そのベッドにいるのは排斥派のメンバーの一人。

 少しぐらい邪魔な位置にいて、うなされたとしても彼らなら罪悪感もわかなかった。






「…………っ。ここは?」


 早速、起きたのは排斥派の一人だった。

 目を覚ますと跳ねように跳び起き周りをキョロキョロと見まわして確認する。


「あら、起きたの?コロシアムで戦っていたことは覚えている?」


 運び込まれた一人が起きたことを察し保険医が記憶を確認する。

 それに対して少しだけ顔を上に向けてから頷く。


「………はい。それで結果はどうなりましたか?」


 そして確認したことは試合の結果。

 どうやら、最後の方だけは覚えてないみたいだ。


「たしか引き分けらしいわよ。最後の最後で死者が出そうだからとディアロ君が強引に止めたとか?」


「……っ!そうですか」


 ギリッと歯を食いしばりながら結果を知る排斥派。

 邪魔をしなかったら勝てたという根拠のない自信から自分を味方してくれる奴が負けてしまうのが嫌だから邪魔をしたのだと思ってしまう。


「そうなんですか!?」


 そしていつの間にか目覚めていたのか崇拝派の者は歓喜に声を上げた。

 崇拝派からすれば死ぬかもしれないから横槍を入れた。

 つまりは心配だから手を出されたのだ。

 気にかけて貰っていることが分かって気分が最高に良い。


「あら?そっちの子は悔しそうなのに君は嬉しそうね?」


「当り前でしょう!?死にそうだから手を出されたってことは心配してくれたってことなんですから!!」


 ハイテンションで他の崇拝派の者たちも起こしてディアロが手を出した理由を教えていく。

 そうすると他の崇拝派も最初は理解できなかったが歓喜の声を上げる。


「うっぜぇ……!!」


 そしてその歓喜の声で排斥派は目を覚まし、なんで崇拝派が喜んでいるのかが分かって苛立ちを覚える。

 ディアロが邪魔をしなかったら勝てたのにと思っているから酷く不快な気分になっていた。


「よっし!明日皆でディアロ様にお礼を言いに行こう!お陰で死ななかったって!心配してくれてありがとうって!」


 その言葉に崇拝派の全員が頷く。

 隠れて見ていたリィスも全くだと深く深く頷いている。

 自分のようにディアロを崇拝している仲間を見ると自分だけじゃないのだと嬉しくなる。

 それだけディアロの味方がいるということだし、最初はリィスだけだったから猶更だ。


(もしかしたら私のように絶対の忠誠を誓ったらディアロ様の駒にしてくれるかな?)


 そうしたらディアロにとって便利な駒が増えるはずだと考える。

 今日はもう遅いし、恋人と一緒にいたら邪魔になるだろうから明日、提案しようとリィスは考えていた。

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