四話
「ほら来たろ?」
拳闘部の中に入るとレーニンがディアロを指差して来たことを他の者たちに伝える。
他の者たちもディアロが来たことに驚いていた。
「マジで来た……」
「え……、ていうことは俺ら拷問されんの?」
ディアロが来たことに顔を青くして逃げだす者も入れば歓喜の表情で迎え入れる者もいる。
それを確認してレイもリィスも苦笑いしていた。
「さてと最低限のルールは何か教えてくれませんか?出来る限りは守ろうと思いますんで……」
「そうだな。取り敢えず素手で戦ってくれれば良い。後は武器の使用禁止ぐらいか……」
それだけなのかとディアロは首を傾げる。
あまりにも緩いルールだ。
「急所は狙って良いの?」
「………「ダメに決まっているじゃない」悪いがレイの言うとおりだ。ワザと出なければ良いが、当たった場合は直ぐにストップだ」
レイの呆れた言葉に続けてレーニンは答える。
言わなければ急所を狙っていたと冷や汗を流す。
そしてレイが直ぐに否定してくれたことに感謝していた。
「なるほど。それでも怪我をさせてしまう可能性はあるけど許してください。試合をするなら有り得る可能性ですし」
「ワザとじゃないなら当然だろ?怪我をする可能性はぶつかり合う以上は絶対にあるんだし」
ディアロの言葉にレーニンは当然だと返し、他の者たちも頷く。
それを見てディアロも部屋の真ん中に立つ。
「ここで試合をするんですよね?」
真ん中に立ってからの質問にレーニンは頷く。
何で急に真ん中に立ったのか理解していなかった。
「取り敢えず何処からでも挑んできてください。一人でも複数人でも構いませんので」
普通は一対一の試合ぐらいしかないのに一人に複数で挑んで来いというディアロに何人かキレかけていた。
残ったのは、しょうがないかと納得している者たち。
以前に大勢で囲んだのにボコボコにされたから、この程度では相手にならないと思っているのも分かるし、勝てないとも思い知らされているから納得していた。
それ以外は完全に忘れているのだろう。
「調子に乗んな!」
キレてダッシュで接近した男にディアロは裏拳で顔面を殴った。
「おごっ!?」
殴られた男は意識を失わず、その場で踏みとどまる。
「「「「「おぉ!!!!」」」」」
そのことに歓声が上がった。
以前、大勢で囲んだときはほとんどが一撃で立ち上がれなくなった。
それを考えればかなりのタフだと考えれる。
「まだまだぁ!!」
続けざまに左のストレート。
ディアロはそれを躱してカウンターを顎に叩きこむ。
「がっ!?」
それでも男は倒れない。
足を揺らしながらも、まだ立っていた。
「それで?他の方たちは来ないんですか?このままだと一人だけで終わると思うんですが……」
「それなら俺も参加させてもらうぞ!」
後ろからディアロの襲い掛かってくる二人目。
ディアロは軽く身体を横に移動して足を引っかけさせる。
そのまま目の前にいた最初に殴りかかってきた男へとぶつかってしまう。
「声を上げて奇襲をするのか………」
「うるせぇ!俺が相手をしているから、その間に少しでも回復しろよ!」
「がんばれ、がんばれ。俺は六時になったら帰るつもりだから挑みたい奴はどんどん来い」
ディアロの言葉に全員が時間を見る。
まだ十分も経っていないが、だいたい後は二時間残っている。
それまでに絶対にあの顔に拳を叩きこんでやると全員が誓った。
「……………わざと気絶しないように手加減をしているわね」
「あぁ、やっぱりそうですか?」
「どういうことだい?」
ディアロの戦っている姿を見てリィスとレイの言葉にまだ挑んでいないレーニンは二人に問いかける。
薄々そんな気はしていたが、やはりディアロに近しい者からの言葉から確信を得たかった。
「本気なら一撃で気絶させれるわよ。それなのに何度も攻撃して誰もまだ気絶していないじゃない。貴方達を鍛えるつもりで戦っているんじゃない?」
その言葉からディアロを見るが、たしかに気絶や倒すような意識を込めた一撃は一度も見ていない。
どれもが軽くしか見えない。
「一回、一対一で時間制限で戦わせてみたらどう?もしかしたら最後まで気絶させないようにするかもしれないし」
レイの提案にレーニンも試してみる価値はあると頷く。
とはいえ人数も人数だ。
戦いたい者たちも限られてしまうだろう。
部活における上位に並べて戦うものを決めることにする。
「すまない!戦うのを止めて全員来てくれ!ディアロはそこで待っていてくれないか!?」
「わかった」
ディアロはそう言って自分に殴りかかってくるものを全員、レーニンの前へと投げ飛ばす。
レーニンの声に手を止めて移動した者たちには手を出していない。
「…………うん!取り敢えず上位のものから五分ずつ、ディアロに挑んでいこう!ディアロに挑んでいない間はちゃんとディアロの動きを見ていること!」
ディアロの行動をスルーして言いたいことを行っていくレーニン。
終わったら次の者を呼ぶから気を引き締めるように注意する。
「あと戦いたくなかったら、それを口にしろよ。別の者にするから」
レーニンの言葉にディアロが来てからずっと震えていた者たちは、その言葉に深く感謝した。
「じゃあ帰りますので」
ディアロは今、挑んでいる者を足払いをして転ばせて告げる。
その言葉に時間を見ると確かに六時になっていた。
それを確認して全員が深く息を吐く。
「あぁ、ありがとう。また余裕がある日は頼む」
「………考えておきます」
その言葉を最後にディアロはレイとリィスを連れて、この場から離れた。
それを確認して拳闘部の者たちは床にへばりついてしまった。
ディアロが戦っている間、ずっと気を張って見ていたせいだ。
「勉強になったな………」
「うん………」
ディアロと戦ってボロボロになったが拳闘部の者たちは達成感を味わっていた。
少しだけでもディアロと戦って強くなった実感があったからだ。
戦えず見ていた者たちも強くなっている姿を見て羨ましいと思っている。
「………あの?もしかしてディアロと今日戦ったのは部内での実力が高い順でしょうか?」
「そうだよ。時間は限られているし、怯えていなくて強い順に戦ってもらった。次の機会で戦いたかったら部での成績を上げろよ」
戦えなかった者たちの質問にレーニンは肯定し戦いたかったら強くなれと煽る。
その煽りに強くなることに貪欲な者たちは同じ部活仲間に鋭くさせた目を向けた。
「ディアロ、とても楽しかったみたいね」
「そりゃ何度も何度も心を折れずに挑んできたからな」
格下だったが諦めずに何度も挑んでくる姿は相手をしていて楽しかった。
あの手この手で一撃を入れようとして予想も出来ない行動もしてきて勉強になった。
おかげで経験を積めれてまた少し強くなれた。
「今日は気絶をさせていませんでしたけど次もしないつもりですか?」
「そうだけど、とりあえず気絶させるつもりは無いよ。気絶させたらそこで終わりだし」
ディアロの言葉に少しだけリィスは残念に思う。
正直に言って気絶させるディアロが見たかった。
あの気絶させる際にした目も好きだから見たかったのに、する気が無いのならしょうがない。
レイの方はディアロの格好いいところを見れたからか満足している。
「それにしてもディアロへと敵意を向けていたのも減りましたよね。これで過ごしやすくなりましたね」
リィスの良かったという言葉にディアロは冷たい目を向ける。
敵意の視線が強くなったのはリィスが縛ってくれと言った日からだ。
その日から二股や浮気をしていると思われ敵視をされるようになった。
あれさえなければ襲撃される可能性も低かった。
「………そうだな。それよりもレイ。お前も何か変わったことは無いか?正直、お前が襲われる不安もあるんだが」
「たまに視線を感じるけど、いつものことよ。それでも不安だから明日から一緒に学校に行かない?むしろ家まで迎えに来てくれないかしら?」
「分かった。何時ごろに行けば良い?」
「そうね。余裕をもって七時ごろに来てくれないかしら?」
一緒に学校に来ているのを見たことがあるが、それは偶々だということにリィスは呆れてしまう。
恋人なら毎日でも一緒に来ると思っていたが、どうやら違うみたいだ。
むしろ今まで、そんな約束すらしていなかったことに本当に恋人なのか疑ってしまう。
「それじゃあ私はこちらなので。お先に失礼します」
分かれ道にたってリィスはディアロたちと別れる。
どうやらレイとディアロは同じ道らしい。
「また明日」
「またね」
二人に頭を下げてリィスは去っていく。
「なんで、あの子は貴方の専属マゾというか奴隷になってしまったのよ」
「俺が知りたい」
パシリとしてはかなり役に立つが、それでも毎日の様に痛みつけて欲しいと言われるのは精神がおかしくなりそうで嫌だった。
それでも役に立つから手放すことは考えられない。
「首を絞めたり苦しませたぐらいしかしてないのにな………」
普通は嫌われるか怯えるかのどちらかだと思っていた。
そしてディアロの狙っていたのは怯える方。
それなのにマゾの方になった理屈が未だに分からないでいた。
「ねぇ。貴方に敵意を向けていた者たちはこれで終わりなの?」
「さぁ?」
レイの疑問にディアロは笑って答える。
ディアロからすれば終わっても終わっていなくてもどちらでも良いのかもしれない。
ただ終わっていない方が楽しそうだと思い予想して笑う。
「何で笑っているのよ……」
レイはディアロが笑ったことに、まだ終わっていないと予想した。
もしかして、そのために怪我をしないように気を遣っていたんじゃないかと想像する。
強くするのも今度は最初の時より楽しむつもりなのかもしれない。
「………もし敵意を持っていた者たちが全員で協力して貴方に襲ってきたら勝てる?」
「この学校の生徒や教師なら問題ないんじゃないか?」
ディアロの答えにレイは安心する。
恋人がリンチにされるなんて見たくない。
前もリンチに合いそうなのを返り討ちにしていたけど確認をしたかった。
「なら良いけど……。それって私もディアロに協力できる?」
自分もディアロと一緒に返り討ちしたいと相談する。
恋人が複数人に襲われているのに見ているだけは嫌だと思ったからだ。
「え?……お前、弱いからダメだろ」
ディアロの否定にレイはショックを受けた。
「たしかにディアロよりは弱いけど酷くない?」
「酷くないだろ。事実を言っただけだし」
「そうかもしれないけど………」
軽く言い合いをしながらレイとディアロはレイの帰路を歩いていた。
レイの家も見えて来ていた。
そこでディアロは別れるつもりだ。
「ディアロ、それじゃあね。また明日。約束通りに七時には来なさいよ」
レイの約束にディアロも頷く。
結構早くから行かなくてはならないが文句は無かった。
そしてディアロもまた、と言って自分の帰路へ向かおうと瞬間に誰かが襲ってきたのを察して腕を振り上げた。
「あれ?」
こんな時にも襲ってきたことにため息を吐いて正体を見ると見たことのない中年だった。
レイの家の前で襲ってきたということは、一緒に家の前まで歩いてきたディアロに嫉妬したのだと予想する。
中年にまで好かれて隣にいる相手を襲われるレイにディアロは同情してしまう。
おそらくはディアロでなかった怪我をさせられていたかもしれない。
「お父さん!?」
レイはディアロの足元にいる中年を見てお父さんと叫んだ。
そのおかげで誰か分かったディアロは冷や汗を流し、殴ったことを自分の中で正当化していた。
急に襲い掛かってきたから反撃をした、襲わなければ何もしなかったと。
「ごめん。急に襲い掛かってきたから、つい」
「あ、うん。私も見ていたから大丈夫。それよりも担いでもらっているけど良いの?」
ディアロは口に出して言い訳をするがレイも見ていたから気にしていないと答える。
それよりも父親に冷めた目を向けている。
自分の恋人に危害を加えようと襲っていたのを見たから当然かもしれない。
そして、それなのに担いでもらっているディアロに申し訳なくなる。
「良いよ。悪いけど入れてもらって良いか?流石に外に置いたままってのも悪いし」
「私としては別に良いけどね。とにかく入ってきて」
レイは自分の恋人に危害を加えようとして父親を外に置いたままでも良いと思っていたが、母親も自分も運ぶのは大変だとディアロに頼むことにする。
「それじゃあお邪魔します」
「うん。いらっしゃい」
ディアロを家に入れることに少しだけ緊張して中に入った。
「レイちゃん、お帰りなさ………。え………」
「お母さん、ただいま。こっちは私の恋人のディアロ。お父さんは家の前でディアロに襲い掛かって反撃されて気絶しちゃった」
「あらあらあら!」
娘が恋人を連れて帰ってきたことに母親は嬉しそうにする。
夫が痛みに悶えていたとしても返り討ちにあった結果だと聞いているから何とも思わない。
むしろ冷たい目を向けている。
娘の恋人に危害を加えようとするなんて、それを理由に別れたらどうするつもりか問い質したくて仕方がない。
「それで、この人をどこに置けば良いんでしょうか?」
娘の恋人の疑問に夫を適当なところにそこに置けば良いと適当に指を指す。
おざなりな反応に娘の恋人が呆れているように見えるが悪いのは夫だと考えて欲しい。
今、一番大事なのは娘の恋人がどんな者なのかという興味だ。
「取り敢えず、そこに座ってちょうだい。それと夕食とか家の方は大丈夫?」
レイの母親の言葉に従い座り、そして家の方は大丈夫だとディアロは答える。
何の話をされるのかと身構えてしまう。
「それで何時、出会ったのかしら?」
「お母さん!!?」
これは根掘り葉掘り聞かれると想像してディアロは覚悟して恋人の母親の質問に答えていく。
「うちの娘のどこが一番好き?」
「料理が上手いことですね。何を作ってきても美味しくて飽きませんし、前に焼きそばを作ってくれたんですが今までで一番美味しかったです」
「告白したのはどっちからかしら?」
「レイからですね」
「浮気をする気は無い?」
「ありません」
「将来の夢は?」
「喫茶店でも開こうかなと思っています」
「もし襲われたりしたら対処できるの?夫は返り討ちにしたみたいだけど?」
「学校では一番、強いわよ。多分、先生より強いんじゃない?」
「あら、そう」
「学力はどのくらいかしら?」
「さぁ。まだテストもしていませんし。結果も出ていませんからね」
「そう、今度見せて頂戴ね」
「料理はどのくらいできるかしら?」
「人通り出来ていたわよ。たまに作ってくれるし」
ところどころディアロではなくレイが答えていたがレイの母親は満足そうにしていた。
本人が言うよりも第三者の評価の方が正しい実力が分かるから文句は無い。
レイが第三者というのは疑問があるが、実際に見れば良いという考えもある。
「それにしてもレイ、焼きそばを作ったって聞いたけど………」
今日、娘が焼きそばを弁当箱にパンパンにして持って行ったのを思い出す。
「うん。ディアロ、美味しそうに一心不乱に焼きそばを食べてくれたわよ」
凄く嬉しそうにしている娘を見る。
ここまで娘が嬉しそうにしているから嘘では無いのだろう。
作ってきた料理を美味しいと言い、飽きないという言葉から娘は既に恋人の意を掴んでいることも理解できた。
暴力的な強さも娘の通っている学校で一番強いのなら安心できる。
なにせ娘の通っている学校は武道の名門だ。
そこで一番強いならあらゆる危険から娘を守ることも出来るはずだ。
なにせ娘はかなりモテる。
娘が恋人だということに嫉妬して何度も襲われるかもしれない。
もしくは娘を我が物にしようと襲ってくる者がいるかもしれない。
それでも無事に娘を守り傍にいてくれることを母親は祈った。
「ふふっ」
話を聞いた後、ディアロが帰り翌日。
レイは朝から機嫌がよかった。
「どうしたの、レイ?何か良い事でもあるの?」
「えぇ。今日からディアロと一緒に学校に行けるし、家まで迎えに来てくれるみたい」
「あらあら!」
娘の言葉にディアロへと好感度が上がる母親。
思っていたよりも娘のことが好きらしい。
「へぇ……」
逆に父親は鋭い目になる。
昨日は返り討ちにあったことを忘れていない。
次はあんな無様を晒さないと敵意を強くする。
「お父さん。昨日はどう考えてもお父さんが悪いからね?襲わなければ逆襲にあうことも無かったのに」
「まぁ、そうね。昨日の件でディアロ君の方が圧倒的に強いんだし大人しくしておきなさい」
「ぐっ………!!」
大人として子供に負けていることが悔しく感じる。
勝てなくても一撃は入れたいと考える。
「そろそろかな?」
「レイ?」
娘の言葉にどういうことかと質問しようと思ったら玄関の鐘が鳴る。
もしかして、もう来たのかと驚く。
レイが時間を見たことと驚いていないことに、もしかしなくても時間の約束もしていたのかもしれない。
こんな早くに家にまで来てくれた事に娘との約束とはいえ悪い気がしてきた。
「お疲れ様。まだまだ学校に行くまで時間があるし家の中で待ってて」
「わかった。まだ学校に行かなくて良いのか?」
「大丈夫。まだまだ学校に着くまでに余裕があるし」
「そうなんだ」
どうやら、早いとは思ってはいるが文句は無いみたいだ。
それでも娘の約束のために来てくれたことに父親は好意を持ち家の中に入って朝食を一緒に食べることを誘う。
「ディアロ君、ご飯は食べてきたかい?そうでないなら一緒に食べないか?」
この年ごろなら、もし食べてきたとしてもまだまだ足りないはずだと考えて誘ったが正解だったらしい。
ついでに朝早く来たことについて聞こうと思っていた。
「有難く頂きます」
ディアロは父親の予想通り朝食を食べてきたが足りずに厚意に甘える。
椅子に座って朝食をよそってもらって礼を言う。
「それで何で、こんな早くから家に来たんだ?」
「レイが最近、視線を感じるみたいですからね。一緒に来てくれって頼まれました」
「そうか。それに関しては礼を言う。君は大丈夫なのか?」
娘を守ってくれるのは有難いがディアロ自身は大丈夫なのかと父親は心配するが、娘と本人に否定される。
「これでも学校の生徒のほとんどを相手に完勝したので大丈夫です」
「本当に凄かったわよ。今では何人か鍛えてもらうと頼み込んでくる者もいるし」
それは凄いと両親は思うが誇張もあるのだろうと考えていた。
娘と同い年だし学校で一番強いというのも、何人も相手にして完勝というのは信じられなかった。
昨日も言っていたが、やっぱり有り得ないと思ってしまう。
「それは凄いわね。それと貴方はまだ仕事に行かなくて良いのかしら?」
「うん?あぁ、確かに。それじゃあ行ってくるよ」
「えぇ。行ってらっしゃい」
話していると父親が仕事に向かう時間になる。
そして家を出る前にディアロの肩を掴む。
「娘を守るために迎えに来てくれたんなら頼むよ」
「ええ」
自分の威圧をものとせず、当然だというディアロの態度に気を良くして今度こそ父親は仕事へと向かった。
そして残ったのは母親とレイ、そしてレイの恋人のディアロだけだ。
「それにしても良い食いっぷりね。娘の料理もそうやって食べているのかしら?」
「そうだと思いますけど……。レイはどう思う?」
「私の料理の方がディアロの食いつきが良いわよ」
「あら?そうなの?」
楽しそうに母親はレイの言葉を受け取る。
娘が母親の自分にまで嫉妬しているのが面白く思っていた。
初めての娘の恋人でようやくからかえることに嬉しくなる。
「君は娘と私の料理はどっちが好きかしら?」
「レイのですね」
「あら?」
自分の料理の方が美味しいと思っていたが娘の恋人の即答にそうでもないのかと考える。
今度、娘と自分の料理を比べてみようと考えていた。
当然、夫も巻き込むつもりだ。
「ふふふっ」
レイはディアロが即答してくれたことに嬉しく思っている。
レイ自身はまだまだ母親の方が上手いと理解していたから、ディアロが自分の料理が好きだと言ってくれたことが嬉しかった。
「ディアロ、そろそろ私の部屋に行くわよ」
ディアロがある程度食べ終わってキリが良いところでレイはディアロの手を引いて自分の部屋に連れて行こうとする。
娘が恋人を自分の部屋に連れ込む姿に母親は楽しそうに笑って見ていた。
「もうあの子もそういう年頃かぁ」
娘が恋人を部屋に連れ込むのを見て母親は感慨深くなる。
脳裏に思い出すのは娘の幼い姿。
大きくなった、と時間の流れを実感する。
「恋愛にも積極的みたいだし、もしかしたら孫も早く見れるかもしれないわね」
男を自分の部屋に連れ込んでいるのだ。
そういう期待もしてしまう。
娘を本当に任せるに足る男だと確認出来たら学生で子供を授かるのも協力しようとも思っていた。
「彼のことをよく知るためにも、これからも家に連れてくるように頼まないとね」
まずは娘の恋人が信頼に足るか詳しく知る必要がある。
今の時点だと娘に骨抜きにされていて、娘の我が儘にも付き合ってくれることしかわからない。
「娘を任せれる男でありますように……」
娘の初めての恋人なのだ。
強引に別れさせたくはない。
例え過干渉だと嫌われても娘の為なら何でもやる気だった。
「えぇ?」
「またなの?」
レイの家から学校に向かい教室に入るとディアロの机が汚されていた。
昨日も机を汚されていたのに今日もやっていることに呆れを覚えてしまう。
「ディアロ、大変だな」
「そうでもない。いくらか既に手伝ってもらっているみたいだし。ありがとう」
ダイキが話しかけてくるが、その手には雑巾がある。
どうやらディアロが来る前にダイキもディアロの使う机を掃除してくれていたらしい。
「気にしなくて良い。それよりもお前の方が大変だしな。そもそも今回の件は逆恨みが原因だし」
ダイキの言葉に教室にいる何人かは首を縦に振って頷いている。
ディアロもやり過ぎな面もあったが、そもそも文句を言って実力行使や嫌がらせをしなければ、あそこまでしなかったと考えている者もいる。
「すまん、ちょっと良いか?」
ダイキと話していると各部活の部長が教室に入ってくる。
「うわっ、マジか……。もしかしてディアロって、こういう目に合っているのか?」
「いえ。私たちの覚えている限りではレイさんと付き合ってからですね」
クラスメイトの言葉に部長たちは頭を抱える。
自分の使っている机が恋人と付き合っているという理由で汚される。
しかも机だけでなく下駄箱も汚されていたこともある。
これはストレスが溜まると同情してしまう。
「誰がやったのか分かるのか?」
「それが全然………」
予想できるのはディアロに敵意を持っていることだけ。
それ以外は誰がやったのか想像も出来ない。
正直レイと付き合っている以外にやってしまっていることもあるため全く想像できなかった。
やらかしてさえいなければまだ絞り込めた。
「どうせレイと付き合っていることに不満がある奴だろう?他の奴らは俺を害す勇気があるの?」
「………いや、むしろだからこそ陰でこそこそすると思うんだが」
ディアロの意見に頷きかけるが直ぐに考え直す。
徹底的に心を折られて真正面から反抗する気が失せてしまったとはいえ、陰でやる陰気な者もいないわけでないのだ。
レイだけで考えるのは危険だ。
「それで部長さんたちは、この教室に何の用ですか?」
ディアロの質問に目の前のことは良いのかと聞きたいがディアロの机を見て忘れてしまっていた本来の目的を思い出す。
「昨日は拳闘部と戦ったらしいな。今日は私たちと戦ってくれないか?」
「良いよ」
「どの部から……え?」
簡単に頷いてくれるとは思っていなかったのに、あっさりと頷いてくれたことに各部の部長は驚く。
それは近くで見ていたクラスメイトたちと同じだ。
「ただし組手だけ。素手だろうが武器を持っていようが文句は言わないこと」
「あぁ!!」
ディアロの条件に文句は無いと頷く部長たち。
実はディアロも乗り気なんじゃないかと考えてしまう。
「それと忘れていたけど今すぐに部長さんたちの部活を紙に書いて。貴方達が部長だと想像できても何処の部なのか分からないし」
「わかった。ちょっと待ってくれ」
そして一人一人が自分の所属している部を紙に書いて渡していく。
その数は全部で十以上ある。
こんなに格闘技系の部活があるのかとディアロは呆れてしまう。
「これで良いか?」
「はい、ありがとうございます。後はこの紙に書かれている部に一日ずつ向かうつもりですので」
「わかった。それと困ったときは頼ってくれて良いからな?」
部長たち先輩の言葉にディアロは頷く。
それを確認して部長たちは教室の外へと出て行った。
「なぁ。ディアロ君、助けを求めると思うか?」
教室から離れて口に出した疑問に全員が首を横に振る。
全員がディアロは助けを求めないという考えを一致していた。
「俺はディアロを助けようと思っている。あいつもやり過ぎたと思うけど、そもそも最初はレイの恋人だからと嫉妬で嫌がらせをしたのが原因だし」
その意見には渋々ながらも全員が同意する。
言うならば巡り合わせが悪かったのかもしれいない。
嫌がらせをされているのに次々と勝負を頼まれる。
ふざけるな、と思ったかもしれない。
「そうね。それでどうやって助けようとするの?」
「俺たちでディアロに嫌がらせをする奴らを見つけないか?そうすれば彼もお礼に試合をしてくれるかもしれないし」
打算目当てだが悪くないと頷く。
それに武術をやっているのに正々堂々と挑まず陰でコソコソやっているのが気に食わない。
完全に負け犬根性じゃないかと思っていた。
「そう。私は陰でコソコソしているのが気に食わないから賛成よ。もし私の部の中にいたら部内から追い出してやる」
「「「「確かに」」」」
気に食わない理由に全員が頷く。
そして全員が自分のいる部にいないことを願う。
もしいたら恥ずかしくて死にたくなりそうだ。
「よし、それじゃあ昼休みの間は全員で集まって話し合いをしないか?どうやって見つけるのとか相談したいし」
「そうだな。少なくともあのトールや協力していた女子生徒は関りが無かったはずだ。もしかしたら思った以上に組織として行動しているかもしれない」
厄介な不良のトールと普段は接点もないはずの女子生徒が協力していた話を思い出して、思ったよりも本腰を入れて調べる必要があるかもしれない。
もしかしたら生徒会の者たちの協力も得る必要があるかもしれないと考えていた。




