三話
「なぁ、お前たちは覚えているか?」
病院の敷地内ではあるがノーマたちは外に出て会話をする。
そして全員が頷いた。
内容は当然、意識が失う前にいた場所だ。
警察官たちには覚えていないと言ったが、それは嘘ではない。
全員が集まって顔を見合わせた瞬間に思い出したのだ。
「ねぇ、意識を失う前に頷き合ったわよね」
コーインの言葉に頷き思い出す。
最後に覚えているのは目の前にいる事務員を脅して道具を奪ったり脅そうと頷き危害を加えようとした。
その瞬間に気付いたら公園にいた。
「もしかしたら反撃にあった結果かもしれないな」
「えぇ。私もそう思うわ」
反撃にあった結果だと理解して納得し合う者たち。
そしてため息を吐く。
借りてあったマントすら奪われてしまっている。
「最悪だな。マントも奪われている。脅そうとしなければ良かった」
事務員を脅して自分達の都合の良いようにしようとした結果、かなりの反撃にあってしまった。
マントも奪われてしまって、まだ回収されていないだろうマントを上手く使いまわす必要がある。
「取り敢えず、さっさと退院してマントを回収しましょう」
「それもそうだな」
ディアロを排除するために行動するのは退院してからだと頷き合う。
安静にしてさっさと退院できるように心がけることを決めた。
「ねぇ。何であいつらの記憶を操作して返したのよ。しかも三日たってからなんて」
「確かに記憶は操作しましたけど直ぐに思い出しますよ。この事務所にいたのを口に出してしまって調査を受けるよりはマシでしょう?」
「………本当にそれだけで済ませたんですか?貴方を脅そうとしていたのに?」
エマの疑問に事務員は笑みを浮かべる。
事務員のことだから、それがどちらの意味による笑みなのか分からない。
肯定だとしても、わざとや面白そうだからと有り得る。
否定だとしても、何か仕込んでいる可能性もある。
「で、どっちかしら?笑ってないで教えてくれない?」
「…………何もしていませんよ。ついでに彼らは来たければまた来れますし。マントは両方、一度回収しますけどね」
事務員の行動に白けた目を向けてしまう。
両方とも回収するなんて脅したり危害を加えようとしたことを許さないと受け取ってしまう可能性がある。
「最悪ね」
セイナの言葉にエマは何度も首を縦に振っているが事務員は納得していない。
むしろ優しいだろうと言いたそうだ。
「自分達の都合が良いように脅したり危害を加えようとしていたのに来たら、また迎え入れるんですよ?十分優しいでしょう?」
事務員の言葉にセイナたちは胡散臭いと返した。
「はぁ……。もういいわ。事務員は明日も弁当を作ってくるけど何を食べたいかしら?」
「いつもと同じように何でも良いですよ。何を作ってきても美味しいですし」
「それでも聞きたいんだけど……」
事務所内を掃除しながら質問しているセイナの姿に色々と思うことはあるが、答えには興味があってセイナとは別の場所を掃除しながらエマは耳を傾ける。
何度か同じ質問を聞いてはいたが今のように何でも美味しいとしか聞いたことがない。
正直、好きな男とその恋人の惚気を聞いていて最初はモヤモヤしていたこともあったが、今ではそれが気持ちよくなっている。
もともと事務員の隣にいてご褒美をくれれば良いと思ったのに欲張りだとエマは自分に失望してしまいそうになる。
「好きな料理ですか………」
事務員は真剣に悩んでいる。
セイナもエマも即答できないのかと呆れていた。
普通は少し悩んでいても直ぐに出てくるのに事務員は出てこない。
好きな料理が多いのか、それとも無いのかもわからない。
「弁当は何でも美味しいですからね………。本当に困る………」
事務員は本気で頭を抱えている。
もしかしたら好きな料理は弁当に出来ないものかもしれない。
「もしかしてラーメンとか?」
「すごく好きですね。ラーメンとか蕎麦とかうどんとか好きです。けど弁当には出来ないでしょう?」
事務員の疑問には二人とも頷くしかなかった。
そういうものが好きなのなら確かに弁当には出来ない。
「麺類が好きなのね。なんでも美味しそうに食べるから気付かな………」
エマもセイナの言葉に頷く。
本当に美味しそうに食べていて作り甲斐があって羨ましい。
だけど何かに気付いたのか途中で言葉を止めて何かを考えている。
「明日、弁当を楽しみにしていなさい」
セイナは何か思いついたのか楽しそうな笑みを浮かべている。
エマも事務員も何を思いついたのかわからずに首を傾げる。
「そうですか。楽しみにしていますね」
「私も一緒にいて良い?セイナさんが何を作ってくるのかすごく興味があるんだけど」
「良いわよ。ただし明日は縛ってとか絶対に言わないでよ。それを守れたら一緒にいても許して上げるわ」
「……………わかりました」
セイナの条件にエマは苦渋の顔で頷く。
本当は縛ってくれるまで何度でも毎日頼みたい。
事務員に喧嘩を売って暴力を振るわれた記憶が今も心に焼き付いている。
きっと生涯忘れらないだろう。
だけど、それよりも今はセイナの作ってくる弁当に興味があった。
「ディアロ、約束通り弁当を作ってきたから一緒に食べるわよ」
レイは昼休みになると一緒に弁当を食べようとディアロを誘う。
手には弁当箱が二つ。
どうやらディアロの分も手作りしてきたらしい。
「何であいつが……」
「うらやましい……」
恋人から手作り弁当を作って貰えていることに嫉妬している者もいるが睨むだけだし、ディアロが視線に気づいて逆に視線を向けたら顔を逸らす。
先日の件のせいでディアロに怯えていた。
「良いなぁ……」
「私も恋人が欲しい……」
恋人がいることに純粋に羨ましがる者もいた。
それもレイとディアロの二人が恋人だ。
片方は学校でも特に美少女だと有名で、もう片方は学校で一番強く恐ろしい者だ。
どんな風にいちゃ付いているのか興味がわいてしまう。
「わかった。それじゃあ行こう」
片方の弁当箱を受け取り、片方の空いた手を繋ぐ。
それを見て羨ましそうにする者が数名。
恋人がいる者たちは自分達も移動している間は手を繋ぎ始めた。
「ねぇ、あの二人の後を尾行していかない?」
ディアロたちが手を繋いで教室から離れて直ぐの提案に視線が集まる。
「邪魔をしなければ大丈夫だと思うし。リィスも二人の後をついていったし」
「「「「「「「あ」」」」」」」
あまりにも自然な動きだったせいで疑問にも思わなかった。
もしかしたらディアロたちも気づいていないのかと思う。
いつの間にか隣にいるのが当たり前だと思わせるリィスに尊敬の念を覚えてしまう。
「本当なら二人きりが良いのかもしれないけどリィスもいるから今更だと思うし。どんな風にいちゃ付いているのか実際に見たいじゃない?」
その言葉に否定できる者はいない。
むしろ二人とも学校で特に有名な二人だからこそ興味はある。
「邪魔にならないように遠くから見守まらない?」
遠くから見守るぐらいならディアロの逆鱗に触れないだろうと頷き合う。
ディアロが少しだけ怖いがわざわざ遠くにいる自分達に恋人との時間を割いてまで襲撃してこないだろうと考えたのもある。
少しの恐怖だからこそ皆で行って無くそうと考えていた。
「これが私の作ってきた弁当よ」
よく弁当を作ってきてくれて、しかも美味しいため期待して作ってきてくれた弁当箱を開ける。
中には焼きそばがぎっしりと入っていた。
「レイさん………?」
弁当箱の中身を見てリィスは顔を引き攣らせる。
何かディアロ様はレイさんへと不快なことをしたのだろうかと。
いつもは弁当箱の中にいろいろなおかずなどが入っていたのに、今日は焼きそばだけだ。
生姜やキャベツ等も入っているが麺の方が非常に多い。
「おぉ………!!」
ディアロは弁当箱を開けて嬉しそうに声を漏らす。
その反応にリィスは信じられない顔を、レイは死んだ目をディアロへと向ける。
レイからすれば手の込んだ様々な料理を多く入れるより、一品を盛大にいれた方が喜ばれることに微妙な気持ちになる。
美味しそうだと喜んでくれるのは嬉しいし美味しいとも言ってくれるが、ある意味では作り甲斐がない。
「…………麺類が本当に好きなんですね」
「好き」
リィスの呆れた言葉にディアロは即答する。
もはや苦笑しか浮かばない。
「いただきます」
ディアロはそれだけを言って一心不乱に焼きそばを食べ始める。
リィスやレイの声も耳に入っていなかった。
「…………ふぅ。食べ終わった」
焼きそばを食べ終わってディアロは満足げに息を吐く。
リィスやレイの弁当箱の二倍はある大きさの弁当箱にぎっしり入っていた焼きそばを五分も経たずに食べ終わった。
あまりにも早く食べ終わった姿に、どれだけ麺類が好きなのかとため息を吐く。
「いくら何でも早すぎません?私たちなんて、まだ全然食べ終わっていないんですけど」
「レイの作った焼きそばが美味しすぎるからな。ただでさえ料理がおいしいのに、それが好物だと更に美味しい」
ディアロの褒め言葉にレイは顔を赤くして嬉しそうにする。
最初は作り甲斐がないと思っていたが、自分達の倍の量を五分もかからずに食べきった姿にまた作ってこようかとも思っていた。
「ふぅん。今度は私も作ってくる?」
「えい!」
やけに可愛げのある掛け声でレイはリィスへと攻撃した。
「いったぁ!!何をす………」
レイは可愛げのある掛け声からは全く想像できない表情をしている。
もはや目でそれ以上言ったら殺すと告げていた。
ディアロへとお弁当を作るのは自分だけだと誰にも譲る気はない。
それを奪おうとしたリィスへと殺気を向ける。
「ごめんなさい……。別にレイさんの弁当作りを奪おうとしたつもりはなかったんです……」
リィスはレイへと土下座をして許しを乞う。
正直に言って殺気と表情が怖すぎる。
今にも殺されてしまいそうで冷や汗が止まらない。
「………そう。もし私からディアロを奪ったら貴女を殺すわ」
「ディアロ様は?」
「当然、文句を言ったり叩いたりはするわ」
「アッハイ」
もし浮気をされても別れる気はないのだとリィスは察する。
それよりも奪った女に対しての殺意が強すぎる。
リィスにとって痛みを与えられたいのはディアロだけであって、たとえ相手がレイであっても攻撃されたくない。
どうにか殺意を持たれないような行動を考え始めていた。
「「「「かわいい………」」」」
遠くから見ているせいで何を話しているかはわからない。
それでも大きい弁当箱に入っている焼きそばを一心不乱に食べている姿に男女関係なくに可愛いと思ってしまっている。
特に女子たちは、あれだけしか作っていないのに美味しそうに食べているディアロの姿にレイへと嫉妬の視線の視線を向けてしまっていた。
「ディアロって焼きそばが好きなんだな……」
ディアロたちを見ていた者の一人がこれは良い情報だと呟く。
これを使えば気分に任せるだけでなく自分達からも挑めるかもしれないと思っていた。
今までが好きなものを知らなかったから直接頼んでいただけで、この情報を使えば奢るから試合してくれと頼めるのかもしれない。
「私の彼氏何て弁当を作ってもあんなに美味しそうに食べてくれないのに……」
「まぁまぁ、好物が入ってなくて苦手なものばっかりだったんじゃない?」
「ちゃんと好きな料理を聞いて入れたわよ。それでも文句を言ってくるし……」
「別れたら?」
聞こえてくる話から最低な男子だなとしか思えない。
特に恋人のいない男子からは嫉妬と怒りの炎が舞い上がっている。
「それでも、まだ好きだし……」
遠慮がちにいう女子たちは残念そうにし、男子たちは付き合っているという男子を敵意を持つ。
もし助けを求められたら助けようと決意をしていた。
「あっ……」
その驚いた声にディアロたちがいる方を見る。
今までずっと見ていたのはディアロたちだ。
だから驚くとしたら、そこに何かが起こったと考えた結果だ。
そして見るとレイが立ち上がっていた。
リィスは笑っていた。
そしてディアロは呆れて様なため息を吐きながら指を指していた。
全員が覗いていた自分達の方を見ていた。
「これ気付かれているよね?」
レイが顔を真っ赤にして自分達の方へと走ってくる。
覗いていた者たちはレイからそれぞれが逃げ始めた。
「はぁ……。何で私たちを覗き見してくるのよ」
一緒に昼食を食べている姿を見てくることにレイはため息を吐く。
何となく恥ずかしいからやめて欲しいと思っていた。
「ねぇ?」
「またかぁ………」
レイはディアロへと同意を求めようとするが、その前にため息を吐かれる。
どうしてディアロがため息を吐いたのかと視線の先を向くとディアロの机が汚れていた。
教室から出て昼休みまで、ずっと教室にいなかったからその間にやられたのだろう。
「ディアロか……?雑巾とか持ってきたら洗おうぜ」
「ダイキ?ありがとう、それより誰がやったか知っている?」
「いいや。一応、俺も聞いたけど全員知らないってさ」
ダイキは憤慨しながら答えてくれる。
生徒会の一員として、こんな嫌がらせは許せないらしい。
「ふぅん。じゃあ誰か嘘をついているんでしょうね?勝てないからって嫌がらせをするなんてバカバカしい。ディアロなんて過程はともかく、たった一人で自分に敵意を持っている奴らを一度に相手したのに……」
レイの言葉にダイキは目が死んでしまう。
あれで何人の心が折れて、退学を考えていたのか思い出したくもない。
それでもディアロの逆襲に合った者たちの中には心を折れるどころか目標としている者もいて、彼らからは心の折れた者たちに侮蔑の視線を向けていた。
そのことで喧嘩が多くなり、ここ最近はフォローや仲裁で忙しかった。
「やめてくれ……。最近はそれのせいで忙しいんだ……!」
「あぁ~。そういえば最近、喧嘩の仲裁に生徒会も駆り出されているんだっけ。後悔は無いけど悪い」
至る所で喧嘩を仲裁している生徒会を見かけたから流石に罪悪感がわいてしまう。
仕事を増やしてしまったのは流石に悪いとは思っているが介入してしまうのも大丈夫なのかと戸惑って手を出せないでいた。
これがディアロの近くでやっていたら殴り飛ばして強制的に止めることは出来るが起き始めるのはいつもディアロからは離れている場所だ。
しかもご丁寧にディアロにとっては邪魔にならないように喧嘩をしている。
「いやまぁ、ディアロの理由を知っているから俺は何も文句は言わないけどな」
理不尽にキレたともいえる行動だったためにダイキにとっては文句は言う気は無い。
恋人がいるから、相応しくないからと言われてよく我慢したと思っている。
それでも文句をあえて言うのなら、もう少し手加減してほしかったというぐらいだ。
おかげで生徒会の仕事が増えてしまった。
「うわっ!何だそれ!?」
「俺に敵意を持っている誰かが嫌がらせに机を汚しました」
教師が入ってきてディアロとダイキが掃除していることに疑問を持つが即答される。
「そうか。ディアロ、いくら理不尽なことをされてもやり過ぎないようにな?」
「は?」
「殺したりすることは出来ないだろう?そのせいで恨みを買ってしまったんだから、難しいだろうけど恨みを買わないように気を付けろよ」
最初は不満に思ったが続けられた言葉にディアロは不満を消す。
もっとやり方を上手くすれば、こんな面倒な目に合わなかった。
例えば心を折るだけでなく、それぞれの弱みを握ってそれを見せるなど。
それを決意してディアロは深く深く頷く。
レイはディアロの決意に苦笑しつつ自分も参加したいと思い、教師は自分の意見に深く頷いてくれたことに喜んでいた。
ディアロは机どころか中に入っていた教科書やノートまでも使い物にならなくされ教師から許可を貰って購買に向かった。
教科書だけなら隣に見せてもらえば良かったがノートもとなると許可を出すしかなかった。
「あれ、ディアロ君?」
そして購買へと歩いている途中に以前に実力差を見せつけた男がいた。
どうやらこの男は心が折れることは無く、むしろディアロへと試合を挑んでくる者たちの一人らしい。
「そうですけど誰でしょうか?」
「えっと俺は以前に君に挑んでボコボコにされた一人だけど覚えていない?」
「あの時はあまりにも挑んできた者が多かったので覚えきれません」
「まぁ、そうだよね」
少しだけショックを覚えるが同時にディアロの言葉に納得する。
自分だって一気に人を覚えられない。
しかもほとんどが一撃でやられていた。
自分もそうだから記憶に残らなかったのだろうと納得数する。
「俺の名前はレーニン。今は授業の途中だけど、どうしたんだ?」
人のことは言えないけどな、と言いながらも質問してくるレーニンにディアロは何となく教える。
嫌がらせをついさっき受けたせいで正反対の相手に触れてしまったせいでもあるのだろう。
「ノートがダメになってしまったんで許可を貰って買いに来たんです。そういう先輩はどうしたんですか?」
「俺か?俺は普通に遅刻だ………」
そう言うレーニンの顔は落ち込んでいる。
どうやら意図的でないらしいことに思わず更に詳しいことを聞いてしまう。
「あぁ……。ちょっと昼休みの時間を使って鍛錬をしていたんだが鐘の音を聞きならしてな………。授業に遅刻してしまった。しかも教師が凄く厳しい人でな……。今から怒られると考えると軽く鬱になる」
「うわぁ………」
教師に怒られると聞いてそれは嫌だとディアロも頷く。
目上の人に怒られるのは、自分の方が強くても嫌なのは何故なのだろう。
「…………」
「どうしましたか?」
そんなディアロにレーニンは不思議そうに見る。
自分より教師より強いのに理解をされたのが不思議に思っている。
「いや教師より強いのに怒られるのは嫌なんだなぁ、と思って」
「………多分、どれだけ強くなっても親や教師に逆らうのは難しいと思いますよ。相手は基本的にこちらを思って正しい事しか言わないですし」
「そうか」
あれだけ強ければ逆らえる存在は無いと思っていたがディアロの言葉にレーニンは同族意識を持つ。
どれだけ強くても同じ人間なんだと理解できた。
無意識に抱いていた自分とは違う何かだという考えが消えていく。
「そういえば何時、戦うことが出来るんだ?俺としては早く戦いたいんだが……」
「そうですね。今日は大丈夫ですか?」
「あぁ、俺は大丈夫だがもしかして来てくれるのか!?」
「はい。あと何部が教えてくれませんか?」
「俺は拳闘部だ。その名の通り拳を武器に鍛えている部活だ」
部活の名前を聞いてディアロは覚える。
今まで試合をしてやるとは言ったが一度も行っていない。
取り敢えず一瞬間はそれぞれの部へと行くことを決意していた。
「よしっ!それじゃあ楽しみにしているからな!」
先程までの行くのも嫌そうな顔が消えてレーニンは意気揚々と教室へと向かっていく。
余程、ディアロに挑めるのが嬉しいようだ。
あそこまで喜ばれるとディアロも悪い気はしない。
「そういえば前も土下座をされてまで頼まれていたな……。そこまでしてくれるなら俺も気合を入れるべきかな」
少なくとも未だに心が折れたままで目線を合わせない者、ちまちまとさっきやられたように嫌がらせをする者たちよりは好感が持てる。
他の者たちも武道に関わっているのなら嫌がらせをするのではなく正面から挑んでほしい。
「にしても、やっぱり拳には拳。剣には剣で迎え撃った方が良いか?」
素手に対して素手で挑むのは相手に戸惑いを生むことにならないと思うが、自分が武器を持っているのに相手が武器を持っていないのは遠慮をさせてしまうのではないかとディアロは考えてしまう。
自分なら戸惑ってしまうと思っているせいだ。
「まぁ良いや。戸惑うというのなら武器を使えば良いし」
折角実力差をわかっても挑んでくる者たちだ。
ある程度は配慮してあげようという気分になる。
ノートを購入してディアロは教室へと戻っていった。
「はぁ………。私が誰を好きになっても貴方には関係ないわよね?」
「でも………!」
「貴方たちは私をどうしたいのよ?私は私。貴方たちの妄想のように貴方たちと恋人になる気は無いわ!」
教室から言い合いが聞こえてくる。
生徒同士が言い合いしているのに教師はどうしたのかと疑問だ。
止めないのだろうか?
「戻りました……」
「ディアロ君か………。君も大変だね」
教室の中に入ってもディアロに気付かず言い合いをしており、気付いたのは教師と片手で数えられる生徒たちだけだ。
「恋人に危害や奪われないように気を付けるんだよ………」
心配そうに声を掛けてくれる教師に何を話しているんだと気になってしまうディアロ。
取り敢えずは美味しい料理を奪われないために頷いた。
「何を言い合いしていたんだ、お前らは?」
少しの時間を使って宥め授業が再開するが空気が悪かった。
教室の中でディアロやレイには同情、嫉妬、好意、敵意、期待と様々な感情が含まれた視線を向けられた。
放課後になって拳闘部への元へと向かう途中にディアロはレイへと何があったかと質問する。
リィスも二人の後を邪魔にならないように着いている。
「貴方と別れるように言われただけよ……」
それだけでは無いような雰囲気をレイは出している。
まるで怒っているような雰囲気だからかディアロは気になってしまう。
少なくともレイは容姿が良く誰からも好かれている。
それなのに怒らせるとは何をしたのか不思議だ。
しかも少しの間、購買に行っている間に教師が止められないぐらいに喧嘩をしていた。
「それだけか?」
「ふぅ………」
詳しく聞いてくるディアロにレイはため息を吐く。
何が興味に触れたのか理解できないが恋人だから愚痴を聞いてもらおうと考えた。
「私はモテるわ。貴方と付き合うまでに何回も告白されて断ってきた」
レイは自分がモテると言ったのに反応せずに、そのまま話を促すディアロに少しだけ不満を抱く。
できれば自分以外にも恋人がいたんじゃないかと嫉妬してほしい。
だが今は話を続ける。
「そして全員が身体に視線を向けたり好きになった理由が外見ばかり。他にも、あいつらが私と付き合ってもステータスとしてしか見ないわ。きっと恋人になったら、私と付き合っていることを自慢しまくるでしょうね」
レイの言葉にディアロは引きながら頷く。
同時にそれは女子も似たようなことしているんじゃないかと思っていた。
「だいたい別れて自分と付き合えって全員が同じことを言っているのよ!本当にこっちを心配しているなら代わりに付き合えって言わないわよ!しかも同じ女の子からも視線を感じるし……!」
男運も無ければ女にも狙われているレイにディアロは同情してしまう。
異性にモテるのはともかく同性にまでモテるのは自分だったら嫌だ。
「まぁ、いいわ。それよりも何処に向かっているの?まだ説明されていないんだけど」
愚痴るのはここまでにして何処に向かっているのかレイは疑問を持つ。
レイの疑問にディアロも説明していなかったことを思い出して答える。
「向かっているのは拳闘部。今日から一週間はそれぞれの部活に顔を出そうと思っているからな。暇なら来なくても良いよ」
ディアロの言葉にレイは怒りが湧く。
暇ならという言葉から、こちらを配慮しているのかもしれないがレイとしては一緒にいたいしディアロの格好良いところは見たい。
ディアロは一緒にいたくないのかと思ってしまう。
「ディアロは私がいるのは嫌?」
「むしろいてくれるなら嬉しいけど?」
ディアロの即答にレイは嬉しくなった。
チョロいと言われるかもしれなくても考える様子も見せずに否定してくれるのが嬉しかった。
「……………」
レイが簡単にディアロの言葉に嬉しそうにしている姿にリィスはチョロ過ぎると心配になってしまう。
今まで騙されていなかったか不安になる。
今日からでも一緒にいるべきじゃないかと考える。
「…………一応、言っておくけど初めての恋人だからこうなっているだけよ」
自分でも自覚があるのか簡単に嬉しくなっていることにレイは言い訳をする。
リィスはそれに信じられない顔を向けてしまう。
初めての恋人で浮かれているからって簡単に嬉しくなってしまうのはあり得ないと思っていた。
もしレイじゃなく自分が恋人だったら、それで騙されたりはしない。
「それよりも拳闘部にいる者たちは貴方との実力差に心が折れないと良いわね?前は結構な数が折れて退部したり休部した者が多いみたいだし」
「何を言っているんだ?今日、試合をするのは心を折られずに戦うことを決めた者たちだぞ。折れてしまっているなら、そもそも俺に試合を挑んだりしない」
ディアロの言い分にそれもそうだとリィスもレイも納得した。
今も心が折れた者たちはディアロに怯えている。
逆に言えば試合を挑んできた者たちは心が折れていない。
「貴方にとっては雑魚だと思うけど良いの?」
「既に約束していたし、それが今週になっただけだしな……」
その言葉に思い出す。
確かに先輩であろうと教室に来てまで頭を下げて頼んでいた姿を。
アレを見て心を動かされただろうに無下にするのはどうかと思ってしまう。
「それに弱いからって楽しめないわけじゃないし………」
ディアロはフォローを入れるがレイとリィスは冷や汗を流す。
二人としては良い見世物だったが普通は忌避されるようなことだ。
また何度も床に頭を叩きつけるんじゃないかと不安になる。
それをやれば今度こそ本当に嫌われる。
「言っておくけど前に見たいに何度も頭を叩きつけないでよ……」
「そうですよ。私としては最高ですけど、普通は嫌われますからね……」
何を心配しているんだとディアロは二人を冷めた目で見る。
あの時は挑発とこれ以上喧嘩を売られないためにやったことだ。
余程のことが無い限りやる気は無い。
「わかっているよ。ワザと心を折るようなことはしないって」
ディアロの言葉に二人とも疑うような目で見る。
本性を知っているからこそ信じられなかった。




