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二話

 放課後、学校にあるコロシアムで二人の男が中央に立つ。

 この学校では異種格闘技戦もよく行われ、その試合もよく見ている者も多い。

 中には異種格闘技を見たいがために入学した者もいるぐらいだ。


「さぁ、その実力を見せてもらうぞ!」


 本気で楽しそうに勝負を挑んでくる目の前の男にディアロは面倒くさそうにする。

 正直、卑怯な行動をする相手だったら面白そうにしていた。

 だけどその様子が無いことに全力で残念そうにする。


「………?何を残念そうにしているか分からないが本気で来い」


 ディアロの目の前にいる男は本気で来いと挑発をしてくる。

 それに対してディアロはため息を吐きながら頷いた。



(ため息を吐くか……)


 ディアロと相対している男、ケーンは頷いたがため息を吐かれていることに不満を持つことは無いが残念がっている。

 向こうからすれば恋人がいるから喧嘩を売られる。

 あまりにも理不尽だと理解もしていた。

 だがそれでも実力だけはあったせいで厄介な不良、トールを足蹴にした実力に興味があった。


「行くぞ………」


 まずは握りしめた拳をディアロに突き出すために一気に接近する。

 今までで一番の動き。

 周りの何かもゆっくりに見えていた。


(ゾーンか)


 最高の集中状態であるゾーン。

 それに何度か経験したことがあるから驚くことは無く、むしろ会心の実力だと笑みを浮かべる。


(俺の勝ちだ………)


 あと数ミリといったところまで拳がディアロに接近する。

 そして勝ったと確信してしまった。


「おせぇ」


 気付いたらケーンは頭を掴まれて地面に叩きつけられていた。


「え………」


 遅れて意識が戻りうめき声を上げる。


「がぁぁぁぁ」


 直ぐにディアロは手を離したために痛みに見悶えながら混乱する。

 拳を突き出したと思ったら地面に叩きつけられていた。


「まだやる?」


 当然だとばかりに起き上がりディアロへと立ち向かう。


「いや、おそい」


 そしてまた地面に叩きつけられる。

 今度は立ち上がった瞬間にやられた。


「あぁぁぁ!!」


 三度目は手を離して立ち上がり蹴りを放とうとしたが、それを行動にする前に叩きつけられる。

 四度目は立ち上がり攻撃するまで何もされず、そのことに激高して突撃したが叩きつけられた。

 そして四度目からは立ち上がり攻撃するまでディアロはずっと待っていた。


 五度目、顔面を狙ったが避けられて地面に叩きつけらた。

 六度目、後ろに回り込もうとしたがその前に地面に叩きつけらる。

 七度目、蹴りで玉を狙ったが地面に叩きつけられる。

 八度目、決死の覚悟で噛みつこうとしたが地面に叩きつけられる。

 九度目、叩きつけられるのはもう嫌だと組み付こうとしたが地面に叩きつけられる。

 十度目、逃げようと背中を向いたら地面に叩きつけられる。


「「「「「「うっわぁ………」」」」」」」


 見ていた者たちはあまりの実力差と同じことの繰り返しに引いた。

 もはや拷問じゃんとも思っている。


「はぁ………」


「羨ましい!!!」


 恋人のレイを見るとため息を吐いているが形だけだと理解させられてしまう。

 口は三日月に歪んでおり、ディアロを見て顔を赤くしている。

 その上に羨ましいという言葉に微妙に頷いていたのを確認した者もいる。


 そして羨ましい!!!と叫んだのはリィスだった。

 そしてそれに対して深く頷いているのが数人いる。

 中には男子も女子も関係なく顔を赤らめて見入っている者もおり、それを見た者は引いている。

 そして距離を取ることを誓った。


 逆に吐いている者もいた。

 特に多いのは同じく武道関係の部活に入っている者たちだ。

 ディアロがやっていることは丁寧に心を折ることだ。

 何をしても同じように叩きのめされる。

 しかも意識を失わないように手加減をされて立ち上がるまで待っている。

 プライドから立ち上がらないのは無理だ。


「どうしました?立ち上がっても攻撃をしてきませんが?」


 もう止めてやれ、という声が聞こえてくる。

 ケーンは既に心が折れてしまっている。

 立ち上がっているのは意地でしかない。


「まぁ良いや」


 そしてディアロからようやく攻撃に出る。

 腹を蹴り上げ、崩れ落ちるところを頭を蹴飛ばす。

 ケーンには反撃することも反応すらも出来ずにされるがままだ。


「………その程度」


 ディアロは特に苦戦もしなかった相手に冷めた目を向け良いことを思いついたという風に顔を歪める。


「雑魚だなぁ。きっとお前の部活は全員弱いんだろうなぁ」


 そう言ってケーンを何度も何度も蹴る。

 弱者をいたぶる光景に吐いていた者も顔を赤くしていた者も敵意を通り越し殺意を抱く。


「ははっ」


 それを察してディアロは嗤う。


「否定をしたきゃ来いよ。今なら憎くて羨ましくて妬ましい俺を殺せるかもしれないぞ?」


 ディアロは今回のもともとの原因は自分がレイと付き合っていることだろうなと気付いている。

 それならさっさと全員を殺せば良いとテンションが上がっている。

 最後に目の前にいた男を思いきり蹴飛ばす。


「お前ぇぇぇぇ!!!」


 そして多くの者たちが挑発に乗り武器を手にこちらに向かってくる。

 そのことが酷く愉快気にディアロは嗤った。


 そして多くの者たちがディアロへと襲い掛かっていった。

 あるものは魔法を使い、あるものは武器を手にして。

 それら全てをディアロは攻撃してきた者は一人残らず反撃した。

 相手が女でも関係なくに殴り決して逃がさんとばかりに攻撃する。

 性別だとか考えずに攻撃してくるディアロは好意と反感を抱かれた。


「この程度か………」


 そしてディアロは挑発に乗った全員を叩きのめす。

 かなりの時間がかかったが、ディアロにはまだまだ戦える余裕がある。


「終わったわね。それじゃあ帰るわよ」


 ディアロの戦いが終わったと見るとレイはディアロへと近づいて帰るように促す。

 その顔は嬉し気になっており、自分の恋人はこんなに強いんだと今にも自慢をしそうだ。


「私も付いて行っていいでしょうか!?」


 折角の二人きりなのに邪魔をするリィス。

 だがレイはため息を一つだけ吐いて頷く。

 もう今更だ。

 たまには遠慮をしてほしいが慣れてしまっていた。


「今日は三人で何処かで飯を食いに行くか?今日は結構、多く食べたい気分だ」


「………いいわよ。それじゃあ女の子が二人いるし、私たちおススメの店にするわね」


「それじゃあ最近有名なケーキ屋さんに行かない?」


「いいわね。分け合いっこもしましょう」


 目の前の女子が楽しそうに話し合っている。

 ケーキで腹が膨れる気がしないがディアロは不満を持つが、直ぐに諦めた。

 目の前の少女たちが楽しそうにしているのを見て誤魔化そうと思っている。

 別れた後に何処かで買い食いすれば良いと考えていた。




「くそっ………」


 コロシアムではディアロの挑発に乗った者たちが死屍累々で倒れていた。

 圧倒的な数の差で挑んだのに全く相手にならなかった。

 そのことが悔しくて悔しくてしょうがない。


「う……あ……」


 中には涙を流している者もおり、夢を持ってこの学校に来たのに心が折れてしまっている者もいる。


「うそでしょ………。有り得ない………」


 そして挑発に乗った者たちの中には当然、ディアロはレイと破局させるために排除しようとしていた者たちもいた。

 これだけの数がいて実力者もいたのにディアロには勝てなかった。

 あまりの実力差に排除するという決意が折れてしまっている。


「もしバレたら……」


 そして敵として認識されたらと思うと体の震えが止まらない。

 どうなるか分からないが圧倒的な暴力で反撃されると考えるだけで恐ろしくなる。

 不良や先輩相手に挑発するためだけに相手を足蹴にするのだ。

 今度は殺されるのではないかと想像してしまう。


「「ねぇ」」


 ディアロを排除しようと考えていた者たちは自然と集まり同時に声を掛ける。

 言おうとしていることは同じだ。


「もうディアロに喧嘩を売ろうとするのは止めない?」


「うん。私も殺されたくない」


 全員が見ていた。

 ディアロが挑発をして、それに乗った者たちを見て浮かべた貌を。

 だから理解できたのだ。

 ただ挑発をするために他者を足蹴にしたことを。


「ふざけないで!」


「そうだ!そうだ!だからこそ彼の手からレイさんを救わないといけないんじゃないか!」


 それに反発する者もいる。

 大義名分ができたからこそ今まで以上にディアロに攻撃をするべきだと考えをする者もいる。

 それ以外にも正々堂々と試合をしようとしていた相手を足蹴にしたこと、そしてそれをした相手に勝てなかった悔しさをぶつけるように敵意を持つ。


「……………どうしよう」


「今回のことを考えるとどっちも悪いけど、そもそも喧嘩を売られてキレた結果とも言えるのがね……」


 中立を決め込む者もいた。

 ディアロの立場を考えると恋人がいることが気に食わないからと敵意を持たれ攻撃されているようなものだ。

 きっとレイという恋人がいなかったら攻撃なんてされていなかった。

 そう考えると理不尽だと思い悪意をぶつけてくるのも納得してしまった。


「取り敢えず敵対したら何をするか分からないから敵に回ることは無いとわかってもらわないと」


「そうだな」


 そう言ってコロシアムで多くの者の心を折り泣かせたディアロを思い浮かべる。

 あれは酷すぎる。

 もう二度と武道なんて出来ない者もいるだろう。

 もしかしたら退学を決め込むものもいるかもしれない。

 見ていただけの者たちですら吐いていた者もいるぐらいなのだから。


「うーん。今、勝負を挑んでも喧嘩を売られているだけだよね」


「そりゃそうでしょ。あんなにした一番の原因は理不尽な理由で敵意をぶつけられて喧嘩を売られていたのが理由なんだから」


 ディアロのしたことに何も悪くないと思っている者もいる。

 中には襲撃した者もおり、心を折れることなく、むしろもう一度挑みたいと思っている者もいる。

 レイと付き合っていることに敵意を抱いた者もコロシアムで足蹴にしていたことに怒っていた者もそれよりも戦って糧にしたいと思っていた。

 もはや帰ってしまったし頭を下げて詫びればもう一度戦ってくれるかもしれないと夢想する。

 取り敢えずは今からでもコロシアムから出てお詫びの品を選ぼうとしていた。

 そして明日には謝罪と受け取ってほしいと祈った。



「ディアロ!!」


 翌日、ディアロに対して少なくない数が集まった。

 手にはお八つや小物など直ぐに消化できる者や気軽に使えるものをディアロに差し出している。


「………何?」


 ディアロは急に貢いでくる者たちに引いている。

 そしてリィスとレイは思い立ったのか苦笑して見ていた。


「頼む。俺たちともう一度、試合をしてくれ!」


 その言葉にディアロの目の前にいる者たちは全員が頷いている。

 その姿は昨日のディアロの行動で心が折れたり怯えている者からすれば理解不能だ。


「良いよ」


 ディアロは愉しそうに嗤う。

 昨日のことで関わらなくなっても別に良いと思っていた。

 ハッキリ言って勝負を急に挑んでくる奴らはウザかったから、それがいなくなるなら万歳と考えていた。


「え」


 目の前の頼んでくる者たちが驚いている。

 急に喧嘩を売ってキレさせたのに受け入れてくれるなんて信じられないでいた。


「こっちの都合を最優先してくれるなら偶には相手をしてあげる」


「もちろん!!」


 あれだけキレていたのだからハッキリと頼みを受けれてくれたことに驚く。

 気持ちが変わる前に言質を取ったと相手の出した条件に頷く。

 流石に毎日というのは悪い気もするから偶にでも良かった。

 相手をしてくれるだけで有難い。


「…………」


「楽しそうね?」


 ディアロはレイの言葉に頷く。

 向上心がある者を目の前で見るのは悪くない。

 あれだけの実力差があるのに挑んでくるのは相手をする者としても楽しい。

 逆に昨日の件で心が折れたりした者は侮蔑の視線を内心向けていた。


「喧嘩売ってきて格上だからと諦めるよりは、それでも挑んできて強くなろうとしている者の方が見ていて楽しいじゃん」


「「「「「……………」」」」」


 ディアロの言葉に納得と苦笑、そして泣きそうな者、悔しそうに拳を握りしめている者がいた。

 前者の言葉に当てはまっている者たちは、否定できずに何も言えない。

 実際にどれだけ悔やみ妬んでいても何も行動を起こす勇気が無かった。

 仕返しを考えても、実際にやるとなると怖くて行動できなく、バレたらと思うと動くことすら考えられない。


「……………はぁ」


 ディアロは自分に敵意を持ってみる者が目に見えて少なくなったことにため息を吐く。

 そして昨日のことは実行して正解だったと自己評価する。

 そうでなければ今日も敵意を持たれていたと思うと面倒くさかった。

 不満があるのはしょうがないかもしれないが敵意を持って、いつまでも睨まれるのも嫌だった。


「ばっかばかしい……」


 そして同時に残念がった。

 たった一度だ。

 それだけで怖がり敵意を持つ者は少なくなった。

 ほとんどが恐怖の視線で目の前にいる者たちのように挑戦しようと考えている者は少ない。

 彼ら以外は目を合わした瞬間に顔ごと目をそらしている者もいる。


「それで今日は試合をするの?」


 そんな中レイがディアロに今日の予定を聞く。

 全員がディアロの答えに恐怖と期待で耳を傾けた。


「えっ、やらないけど?」


「そう」


 ディアロの答えに拳を上げて喜ぶもの、残念だと床に手をつく者それぞれがいる。

 それを見て苦笑が浮かんでいる。

 ここまで残念がっているのなら最初に思いついたよりも試合の回数を増やそうと思ったぐらいだ。

 そして彼ら彼女ら相手なら昨日のように追い打ちをするには止めようと考えた。


「それじゃあ今日は私に鞭を下さい!」


「死ね」


「死になさい」


 今日は試合をしないと聞いてリィスが割り込んでくる。

 昨日の件でやはりディアロは他人をいたぶるのが好きなんだと考え鞭を献上していた。

 二人とも興味はあるが、それはそれとして受け取ったら社会的な死だと思って否定する。

 それでもリィスは鞭を献上する形を変えない。

 それどころか、これじゃあ不満なのかと縄まで取り出してくる。


「それをするなら是非、私たちにもお願いします!!」


 そして、どうやって聞きつけたのか昨日の事件で顔を赤くした生徒たちが集まってくる。

 リィスの同類なのかとディアロは表情が抜け落ち、レイは死んだ目になる。


「私たちは昨日の貴方の行動に心奪われたんです!ですからどうかわたしたちを支配してください!!なんでもします!!身体を求めたら差し出しますしストレス発散と暴力を振るわれても文句は言いません!!むしろここまで心を奪った責任を取ってください!!」


 既視感にディアロは引いてしまう。

 以前にも似たように迫られたことがある。


「さぁ!!」


 そして、その迫力に負けてディアロは思いきり目の前に迫ってきた者を殴った。


「ぐふっ!」


「ぶっ!」


「ぎゃっ!」


 そのせいで何人か巻き込み倒れていく。

 中にはヤバイぶつかり方や倒れ方をした者たちもいた。


「やベッ」


 ディアロは焦って確認するが巻き込まれていたのは全員、リィスの同類だと確認して安堵のため息を吐く。

 変に誰かを巻き込まなくて良かったとも思う。

 そして、よくよく考えればほとんどが先日どんな理由でも敵意を持っていた者たちだから気にしなくても良いはずだと自分を慰める。

 例え怪我をしてしまったとしても責任を取りたくなかった。




 ディアロを排除しようとしていた者たちが一か所に集まっている。

 誰もがその表情は暗く怯えている者さえいた。


「なぁ」


 その中で一人が声を上げる。

 誰もが集まって一言も話していないせいで、その声が嫌に響いた。


「悪いけど俺はディアロを排除するのから手を引くわ。………それじゃあな!」


 視線を集めるが言いたいことだけを言って駆け足でこの場から離れる。


「ごめん。俺も」


「わりぃ」


「じゃあな」


 その言葉をきっかけに一人一人が去っていく。

 残ったのは数人だけだ。


「そんな………」


 多くの者が去っていったことに残った者たちはショックを受ける。


「みんな………」


 そしてリーダー格の一人であるノーマも声を上げた。

 もしかしてお前も去るのかと信じられない目で見る。


「先日、このマントを貸して貰ったところに行ったが見つからなかった。今日も探すつもりだ。皆も手伝ってくれ」


「………わかった。俺たちもなけなしの金を払って他にも道具を買おうと思う。足りなかったら皆も貸してくれないか?」


 それに全員が頷いた。

 中には武道を諦めた友人がいる者もいる。

 友人の夢を奪って恋人といちゃつくのは腹が立つからだ。


「待って」


 そして立ち上がり探そうとすると止められた。

 全員が賛成をしたと思ったのに否定されたと思って声が聞こえた方を向く。

 そこにはユナを落とされて看病していたコーインがいた。


「なんで止めるんだ?」


 コーインと落とされたユナが仲が良いことを知っているからこそ疑問を持つ。

 何で止めるのか?

 むしろ復讐したくないのかと考えてしまう。

 それともユナが入院したことから止めに来たのかと想像してしまう。


「私も連れて行って」


 そう言った顔は鬼気迫っていた。

 自分の友人を落として入院させたディアロを許せない。

 いくら先にユナが透明になってまで危害を加えようとしていても入院をさせるまで怪我をさせたのはディアロだ。

 復讐として最低限でも入院させるほどの怪我をさせたくてたまらない。


「そ……そうか。わかった一緒に行こう」


 コーインの鬼気迫る表情に彼らも頷いた。

 彼らもそれなりに気持ちはわかる。

 そして探すのなら人手が少しでも多い方が良いという打算もあった。



「あれ?」


 そして放課後、路地裏を探すと直ぐに見つかった。

 二回目は見つからなかったのに今回はすぐに見つかったことにノーマは首を傾げる。


「本当に以前は見つからなかったのか?」


「あぁ」


「だとしたら幻術魔法でも使ったんじゃない?犯罪に使える道具を貸すとかどう考えてもヤバイし。犯罪上等で警察に見つからないように隠れているんでしょ」


 コーインの意見にそれもそうだと頷く。

 それでも以前は来たのに隠れていたことに納得がいかない。


「………すいません」


「どうしましたか?もしかして返しに来たんでしょうか?」


 中に入ると以前にマントを渡してくれた事務員がいる。

 他にもマントで顔を隠している誰かも二人いた。

 マントで姿を隠しているが性別も姿格好も分からない。

 予想できるとしたら会話をする際の声や喋り方ぐらいだろう。

 妙に気になってしまう。


「質問しますが俺たち以外に誰かに道具を貸している者はいますか?………例えば姿を消す相手を識別できる道具とか」


「?いませんよ。現在、渡している道具は貴方と一緒に来た者だけですので。どうかしましたか?」


「透明なマントを使って危害を加えようとしたら避けられて反撃にあったんですが?」


「はぁ……?」


 肝心の聞きたいことに関して事務員は首を傾げてしまう。

 それがどうしたのかと理解できないでいた。

 何度も言うが透明になると言っても姿を消すだけ。

 それなり以上の実力者からすれば何となくでも知覚は出来るのだ。

 事務員からすれば危険性についても話したから何も悪くないとさえ思っている。

 そのことを説明すると苛立ったようにこめかみに青筋が浮かぶ。


「ねぇ。本当に渡していないの?」


 マントを被った事務員の胸ぐらをコーインは掴む。

 コーインからすればユナが怪我をしたのは目の前の事務員のせいだ。

 復讐するための道具何て渡さなければユナは入院何てしなかったと思っている。


「私の友達は貴方が渡した道具を使ったせいで入院したわ。どうしてくれるの?」


「えっと、どういう意味で?」


「お前が透明になる道具何て渡したからユナは攻撃されないと思って怪我をしたって言ってんの!どうしてくれるのよ!」


「なるほど。返り討ちにあったんですか。それもマントを使って。…………単純に貴方たちが弱かっただけでは?」


 事務員の言葉に胸ぐらをつかんでいるコーインだけでなくノーマたちも怒りを抱く。

 今すぐにでも事務員に攻撃してこの事務所にある道具を奪ってくれようかと考えてしまう。

 犯罪幇助するような事務所だし姿を消せるという有用な道具すらもある。

 奪っても訴えることは出来ないだろうとノーマたちは頷き合う。


「無理ですね………」


 その言葉を最後に気付くと外の何処かで倒れていた。


「大丈夫か!?」


「え……。あれ……?」


 起こしてくれたのは警察官だった。

 身体を揺さぶっており見つけたのは彼ららしい。


「良かった。何があったか思い出せるかい?三日ほど君は行方不明になっていたんだ」


「は?」


 突然に三日も行方不明になっていたことを教えられて意味がわかなくなる。

 そして先程まで、どこにいたのかも思い出せない現状に混乱した。




「あぁ、良かった!三日も行方不明になっていたのよ!」


 ノーマへと母親が嬉しそうに抱き着いた。

 周りの者たちはその姿を微笑ましそうに見ている。


「か…母さん?三日って警察の人も言っていたけど本当に?」


「そうだけど三日間の記憶が本当に無いの?」


 母親の疑問にノーマは頷いた。

 気付いたら倒れていて発見をされていた。

 最後の記憶は三日前の日付で学校にいたことだ。


「「「「…………」」」」


 ノーマの答えに警察や念のために呼んだ病院関係者は頷き合う。

 事件に合った以上、何かされたのだと考えられる。

 何日間か病院に入院させて異常が無いか確認するべきだ。


「そういえばコーインや他の皆は?学校にいたときには、そいつらとも一緒にいたんだけど」


「全員一緒に見つかったから会いに行くかい?」


 警察官の言葉にノーマは頷く。

 今は全員の無事を確かめたかった。



「それで全員怪我とか無かったんですよね?」


「その通りだよ。君も含めて怪我は無かった。それで君は本当に何も覚えていないんだよね」


「はい……」


 本人も首を傾げて何があったんだと疑問を抱いている。

 その様子には嘘をついているように見えない。

 本当に覚えていないようだ。


「悪いけど、さっきも言ったけど検査のために何日か入院してもらうからね。もし記憶をいじられているとしたら脳への異常があるかもしれないし」


 脳への異常と聞いてノーマは身体を震わせる。

 確かに記憶の操作をされているのなら検査をするべきなのだろう。


「大丈夫ですよね……」


「申し訳ないけど調べない限りハッキリと言えません。だけど大丈夫のはずです。何せハッキリとこちらの言葉の意味を理解して話すことが出来るんですから」


「異常があると、それすらも無理なんでしょうか?」


「えぇ。ですから私は大丈夫だと思います。もしあったとしても軽度で少しの間リハビリをすれば回復すると思いますよ」


 その言葉を聞いて安心する。

 記憶を操作されたせいで脳に異常が出来るなんて考えたくもない。


「良かった。他の皆も?」


「はい」


 医者の言葉に安心してノーマは最初の部屋へと入っていった。






「全員、覚えていませんでしたね」


「えぇ。これで全員が被害者だと確認も取れました」


 警察官がノーマと一緒に行ったのは、それぞれの反応を見るためだ。

 人は嘘を吐くと何かしら反応をするがそれが無かった。

 誰か一人は嘘をついている者はいると思ったが全員が何で記憶がないのか混乱していた。


「彼らが復讐相談事務所に関わっていると思うか?」


「………そういえば復讐相談事務所に相談した者たちも場所を覚えていませんでしたね。一部の記憶を消すことが出来るなら三日間の記憶を消すことも出来ますね」


 その言葉に頷く。

 そして最近の彼らの通っている学校についても調べた。


「でも、その割にはディアロ君は何も被害を受けていませんよね?復讐をされるような行動も最近までは無かったみたいですし」


「むしろ最近のことについてディアロ君が被害を受けるかもしれないな。友達や恋人の夢を折ったんだ。それに対しての復讐されるかもしれない。学校の状況について調査する必要があるな」


 復讐相談事務所に行っているなら一番学校で恨まれていそうなディアロが被害を受けていないことに不思議がるが、まだされていないだけだと言われ納得する。

 だけど同時に疑問を抱く。

 復讐をしていないのに記憶を消すことがあるのかと。


「でも復讐をまだしてないのに記憶を消すことなんてあるんですかね?今までは記憶を消したとしても復讐を終わってからですし、それも事務所の場所だけなのに」


「それもそうだな。もしかしたら偶然たどり着いて追い返すために記憶を消したかもしれないな。俺からすればディアロ君が恨みを買ってしまう行動を起こしたのも理不尽な理由だし」


「そうなんですか?」


「あぁ。恋人がいるのが妬ましいとか。その恋人が綺麗だから相応しくない、自分の方が相応しいって理由だ」


「最初は心を折って夢を諦めさせたと聞いて酷いと思いましたけど、それならキレてもしょうがないですね」


 ディアロの心を折った理由を聞いて最初は嫌いだと思っていたのが薄れていく。

 恋人として付き合っているのに外野が文句をつけてきたら確かに嫌だ。

 しかも武道で有名な学校の生徒が文句を自分の方が相応しいと文句を言ってきたのだったら心を折ったのも理解できた。

 本当に相応しいか確かめた結果、心を折ってしまったのだろう。


「それにしてもディアロ君は強いですね。結果はどうあれ結局は認めさせたんですから」


「全くだ。だけど彼も復讐相談事務所の容疑者だ。前々から嫌がらせを受けていて復讐のために力を手に入れた可能性があるからな。一年生が三年生相手にも勝てるなんて、余程の何かがあるはずだ」


「うへぇ……」


 見直したと思ったらドーピングの可能性もあると言われて頭を抱えてしまう。

 もう何もかもが信じられなくなる。

 誰も彼も疑わなくてはならなくなり、出来ればどちらかだけでも復讐相談事務所に関わっていなければほしいと願った。

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