一話
「ここでは復讐の手伝いが出来るって本当?」
突然、男女の二人組が復讐相談事務所に入ってくる。
見たことがある二人にマントで隠れているがセイナとエマの二人は驚いていた。
「そうですよ。手を貸す代わりにお金は貰いますが」
「ここに皆で稼いで出し合った百万があるわ。これで良い?」
金を箱に入れて直接、渡してくる。
それを確認すると事務員は笑顔で頷く。
「それで、どんな手伝いを求めているのでしょうか?」
「まずはどんなのがあるんだ?」
「姿を消すマントや第三者から敵意を持たれたりと色々ありますよ。望むことがあったら是非、尋ねてください」
姿を消すマントや第三者から敵意を持たせることが出来ると聞いて二人とも顔を歪める。
どちらか片方だけでもかなりの嫌がらせや苦しませることが出来ると思い至っていた。
「そうね。まずはその二つをくれない?まずは孤立させないと」
「マントはともかく第三者へ敵意を持たせるには私自身がやらないと無理なのですが………。それとマントは壊したり失くしたりしたら弁償させてもらいますので大事にしてくださいね」
「………弁償はどのくらいなんだ?」
「一千万」
「いっせ………!!」
弁償の額を聞いて二人は固まる。
そんな額何て用意できないし、便利ではあるがそこまでの価値があるとも思っていない。
盛り過ぎだと考えている。
「粗雑に扱わなければ大丈夫ですよ」
そう言って手渡してくる事務員に男は躊躇し、女は軽く受け取る。
破かなければ良いのだと思っているし、それを無視する手段も思いついている。
「なら復讐が終わったら返すわ」
「えぇ、成功を祈っています。力を貸してほしかったら、また来てください」
事務員の言葉に頷いて女は出ていく。
男もその後を追って急いで事務所から出て行った。
「ねぇ?」
「予想通りだと思いますよ。彼らが復讐したい相手というのは」
二人が出て行った後、セイナは事務員へと声を掛けるが質問する前に肯定される。
自分の質問したいことが理解されていることに呆れたようにため息を吐く。
今回の件はバカバカしくてしょうがない。
「あの二人、闇討ちしますか?」
「大丈夫ですよ。それとエマ、その呼び名は慣れましたか?」
「はい、大丈夫です。心配してくださりありがとうございます」
エマという新しい人員の正体はリィスだ。
前の件で払いきれなかった金額を事務所で働くことで帳消しになることになった。
といっても陸上を優先しても良く仕事もほとんどはセイナの手が回らないところの手伝いくらいだ。
「そう良かった。彼らに協力するのは基本的に貴女に任せますので頑張ってくださいね」
「え?」
「ほっ」
事務員の指示にエマは絶望し、セイナは安堵する。
誰に復讐するのか話してはいなかったが予想は出来る。
恋人に攻撃しなくて良いことに安堵し、慕っている男に攻撃しなくてはいけないことに絶望する。
特にエマは攻撃をされたいのにしなくてはいけないことを残念に思っていた。
「そういえば、第三者に嫌われる奴って私たちも嫌わなくてはいけないのかしら?」
それもあったとエマは事務員を見る。
裏だけでなく表でも嫌わなくてはいけないなんて最悪だ。
しかも自分の意志ではなく操られてなんて。
「あぁ、気にしなくて大丈夫ですよ。あくまでも第三者だけ。親しい者には効果がありませんから。その第三者も関わって仲良くなったら効果がなくなりますし。あくまでも最悪の印象を最初に与えるだけです。まぁ、以前のようにこいつに暴力を振るっても良いんだと思ったら暴走するでしょうけど」
事務員の言葉にそれなら大丈夫だと息を吐く。
少なくとも自分達は第三者では無いしクラスの中にも普通に仲が良い者もいる。
全員が敵になることは無い。
「それに使うとはまだ限らないですからね」
マントの弁償で一千万。
もしかしたら金額もかなりするのではないかと尻込みしている可能性もある。
「それにしても………」
セイナは忌々しそうにため息を吐く。
憎まれるのは理不尽だが理解できる。
だけど、ここに来てまで排除しようと考えているのが腹立たしい。
これでも何度か告白されてきた。
だから自分がモテているのは理解している。
それでも恋人を排除してまで自分を手に入れようとしていることがおぞましい。
結局はセイナの幸せを考えているのではなく自分の満足のために彼ら彼女らは行動している。
そんな相手を好きになるはずがないし、なりたくもない。
「ねぇ、私は最初から最後まで貴方の味方で良い?あんな奴らの仲間だと思われたくないんだけど」
心底嫌そうな顔で事務員にセイナは敵に回りたくないと口にする。
その顔に事務員も納得して頷く。
本当に嫌そうで無理にやらせるのも悪い気がする。
「良いけど暴力を振るわれたら逃げろよ」
「そうね。隠れて録画を撮っておくわ」
それは良いと事務員も頷く。
エマは愉しそうに哂っている二人を見て笑顔を浮かべている。
そして自分もあんな風に混ざって事務員と笑顔で語り合いたいと思っていた。
「それにしても、まさか本当にあったなんて」
「全くだ。しかも、あの事務員の言葉を信じるなら、このマントは姿を消せるなんてな実際に試してみないか?」
二人は事務所から出て半信半疑で噂を頼ってきたら本当に復讐相談事務所があったことに驚いていた。
噂では最近の事件の黒幕だとは聞いたが事務員の佇まいから信じれない。
「とりあえず使って見て性能が本当か調べてみるか」
そしてマントを被ると互いの姿が見えなくなる。
同時に使ったせいで二人とも姿が消えてしまっていた。
「あれ!?」
二人が驚いてマントを外すと今度は互いの姿が見える。
今度は二人は頷き合って片方ずつが順番にマントを被っていく。
「………本当に姿が消えているわね」
「こんなものどうやって手に入れたんだ?」
明らかに現代ではありえない道具に二人は信じられない目で見る。
こんなものが開発されているなんて聞いたことが無い。
これさえあれば、どんな犯罪でもやりたい放題だ。
「…………これって互いの姿が見えなかったわよね?」
「そうだな」
「上手く使えば事務所から盗んで逃げることが出来るんじゃない?」
「………いや、無理だろ。俺たちの顔は既に見せているんだ。盗んでも取り返しに来るぞ」
「何を言っているの?復讐相談なんて犯罪幇助を向こうはしているのよ。騒ぎになってバレたくないはずよ」
「………それはそうかもしれないが」
女はそう言うが男は不安そうにしている。
こんなものを簡単に貸し与えることが出来るぐらいだ。
もっとヤバいものを持っていてもおかしくないと考えている。
逆に女は一番、ヤバいものだから他にもこれ以上に危険なものがあると思わせるために貸し与えたのだと考えていた。
そう思わせることによって確実に返させようとしているのだと。
「取り敢えず私たちは明日からまずはディアロに嫌がらせをしていくわ。貴方たちは?」
「俺たちもだ。協力してレイさんからディアロを引き離そう」
「ええ」
二人はディアロを排除するために手を取り合う。
他にも引き離そうとする者もいるが、それぞれ男子の代表、女子の代表として復讐相談事務所に来ていた。
そして二人だけでなくディアロを排除しようとする全員がレイと付き合うのは一人だけだと認識していた。
全員がディアロを排除したら今度は協力してくれた全員を排除して自分がレイの恋人になろうと考えている。
「うわぁ……」
ディアロは学校の靴置き場につくと酷く自分の靴が汚れていることに引いてしまう。
しかも自分のだけでなく泥といった水を含むものを使ったのか他の者の靴置き場も汚れていた。
「はぁ……」
取り敢えずディアロは簡単な水の魔法を使って全ての汚れを落とす。
まずは簡単にでも水洗いをしなきゃという判断だ。
「お前!何をしてんだ!もしかしてお前が汚したのか!?」
そう言って殴りかかってくる男子。
女子は悲鳴を上げて騒ぎ立てる。
「…………まぁ、いっか」
「何をしているん………、本当に何をしているんだ!!?」
ディアロは殴りかかってきた男子を何度も何度も蹴って身体を丸くさせていた。
「ごめんなさい!俺が悪かったです!ですから…!!」
「許して!私たちも悪かったから!!もう止めて!!」
そして悲鳴を上げて騒ぎ立てた女子と殴りかかってきていた男子はディアロに涙ながら謝罪している。
あまりにも暴力的な行為に教師は固まってしまう。
もし、これが不良と呼ばれているような生徒だったら直ぐに止めれていただろう。
だが行っている者が普段は優しい生徒だから行動が出来ないでいた。
その上に蹴られている生徒は不良。
こんなことをするのも何か理由があるんだなと考えてしまう。
「それで何でこんなことをしたの?」
蹴りながら質問しているディアロ。
教師は止めもせずに黙ってみている。
「こた…!答えるから蹴るのをやめてくれ!」
「そうよ!何なら私たちが答えるからぁ!」
「俺が聞いているのは、こっち」
不良に聞いているのに女子が代わりに答えようとしている。
これだけで女子と不良が繋がっているのが理解できた。
何が起きたのか何でこうなったのかは教師が聞けば良いと、ようやく駆けつけだ教師が止めようと動き出す。
「そろそろ止めろ!」
「すいませんが嫌です。俺って攻撃してくる奴には二度と逆らわないように徹底的にヤることに決めているんです」
「意外と暴力的だな!?」
「いだっ!!ホントにダッ……許して!!」
「そうでもしないと調子に乗ってまた喧嘩売ってきますし……」
そこで教師も騒ぎを聞きつけてやってきた生徒たちもディアロの恋人のことを思い出す。
あれだけ容姿が整っているのだ。
デートをしている時に釣り合わないと喧嘩を売られたことが何度かあったのかもしれない。
というより目の前で起きていることに、それしか理由が思い浮かばない。
「やばっ………!!」
「喧嘩を絶っっ対に売らないようにしよう………!!」
ディアロの不良への行動に排除しようとしていた者たちも何人かは止めることにする。
中には弱そうだと侮ったり心配していた者もいたが、これなら安心して任せられると思っていた。
それでも一度、勝負を挑んでみたいと思っていたが。
何せ今、ディアロが蹴っている不良は学校の中でも喧嘩が特に強く厄介な者だった。
それを足蹴にしているディアロに興味を持ってしまっていた。
「はぁ………」
教室に入るとディアロは席に座りひどく長い溜息を吐いていた。
教師数人で不良学生を締めていたのを止められ、やり過ぎだとずっと説教をされていたせいだ。
「よぉ」
そんなディアロに数人の男子生徒、女子生徒が話しかける。
全員が武道関係の部活をしている者たち。
その瞳にはディアロに並々ならぬ戦意を抱いている。
「何?」
そのことを気付いて警戒するように応えるディアロ。
路地裏や誰も来ないところでの喧嘩ならともかく、部活での試合となると調教するのは難しい。
学校では確実に止められるとさっきの件でわかったから面倒くさい。
「俺と放課後手合わせしてくれないか?」
「はぁ?」
予想通りの言葉にディアロは嫌そうに文句を口にする。
喧嘩なら身に覚えはあるが武術自体の技は身に着いていない。
試合となると同じ武術の技を使わないといけない。
あまりにもこちらが不利だ。
「何だ?逃げるのか?」
「悪いかよ、卑怯者。俺は喧嘩なら出来るけど武術の試合なんて出来ないからな?それともなんだ?例えば柔道の試合で殴ったり蹴ったりして良いのか?剣道の試合で薙刀とか持ち出して良いのか?」
最初は嫌そうな反応に戦いたいと思っていた者たちも少しだけ不満に思っていたが納得する。
そして苦笑した。
戦いたいと言ったが、そこまでルールを縛る気は無かった。
そもそも素人に勝負を挑んでおいてルールを縛るのはズルいだろう。
「別に良いぞ。お互いに防具を付けて勝負をするつもりだし。ただ勝負が決まったら追い打ちは無しという最低限のルールは設けたいが」
なぁ、と男が周りの意見を確かめると全員が当然と頷く。
異種格闘技かな?とディアロはため息を吐いた。
「分かった。放課後に試合をすれば良いんだな?」
ディアロが肯定したことにそれぞれが喜ぶ。
様々な思惑があるが、それだけは共通していた。
「あ。それと何処から行くのか誰からやるのかはお前らが決めろよ」
ディアロの言葉に全員が互いを睨み始めた。
どちらから勝負を挑むのか睨み始めている。
「俺は口に出す気は無いから」
ディアロの言葉に何人かが教室の外に出る。
その姿を尻目に残っていた全員を記憶に残るように確認していた。
「…………授業始まるんだけど」
「あ」
教室から何人か出て行った後、ディアロの呟いた言葉にそういえばと全員が思い出す。
その中でも何人かは別のクラスや学年の者もいたが、この教室の者もいた。
確実に怒られるだろうなと想像する。
「よっしゃあぁぁぁ!!勝った奴が最初にディアロと勝負だ!!!」
「負けるかぁぁ!!今度こそ、あのいけ好かない剣士に勝つぞ!!」
「俺を無視してんじゃねぇぇ!!」
「何をやっているんだぁぁ!!!!!」
教師と生徒の声が響き渡る。
教室からでも火が水が風がと魔法が吹き荒れているのがわかってしまう。
この学校はこんな奴らが多かったか?と何人かは首を傾げている。
「思った以上に戦闘狂な人達が多いわね」
レイはため息を吐きながら、そんなことを口にしている。
今までは戦闘狂と言われるよな様子を見せなかったのに何か知っているのかと視線を向けている。
「ディアロ、何を驚いているの?この学校は武道関係の部活がかなり有名よ。世界の異種別格闘技の大会の優勝者もこの学校に在籍していたし」
そのことを知らなかったディアロは顔を赤くしている。
武道関係で有名なことは知っていたが詳しくは知らなかった。
それでも、こんなに暴れているのは知らなかったが。
「それは……うん。私も驚いた。もう少し落ち着いて行動していると思ったんだけど……」
レイも呆れたように口にする。
まさか授業を忘れてまで戦うなんて思ってもみなかった。
これまでの学校生活でそんな様子は一度も見なかった。
「どうせ一部の者だけでしょう?何人かは残っているし」
話に入ってきたリィスの言葉にそういえばと思い出す二人。
それもそうだと頷くのを確認して更にリィスは言葉は続ける。
「それよりもディアロ!あの不良ばかりズルい!!私も蹴ってよ!!」
一瞬で死んだ目になった。
教室に残っている生徒たちは遠目からディアロが不良にしていた行為を見ていたから恐怖と侮蔑の視線で見ている。
リィスがこんな風になったのは徹底的にディアロに調教されたせいだと確信していた。
こんな恋人にレイはどう思うのか見ていると嫉妬の視線を送っている。
(((((えぇ……)))))
もしかしてレイも調教されているのかと思ってしまう。
「いやなんだけど。他の奴らに頼んでよ」
「私がこんなことを頼むのは貴方だけよ」
言葉だけを聞けば羨ましくなるが、実態を見ると全く羨ましくない。
ディアロも変わらず死んだ目で相手をしている。
「ディアロ、どんな理由でもそいつだけを視ていないで、私にも意識を向けて」
「ふふん。その気になれば私だけを視てくれるわよ」
なるほど。レイの嫉妬の視線はディアロがどんな理由でもリィスに意識を向いていたからか。
そう納得してディアロへと同情の視線を送ってしまう。
マゾと嫉妬深い女性。
だが、どちらも容姿は平均より優れているから役得だと思って我慢してほしいとも思っているし、嫉妬している者もいた。
「…………」
ディアロは歩いている途中、突然に身体を横に斜めにと動かす。
何もないところで躱すような動きをしていることに変な者を見るような目で見る。
「何をしてんの?」
当然、隣で歩いていたレイも変な者を見るような目で見る。
「うーん、そうだね」
ディアロは躱しながら思いきり腕を横に振り回す。
「キャァァ!!」
「うわっ!!?」
その直後に窓ガラスが割れる。
レイはそれでどういうことか思い至る。
「はぁっ!?衝撃波!?お前衝撃波飛ばせるの!!」
「何で急に窓を割るのよ!?」
「俺は衝撃波を飛ばしてませんよ?なんか思いきり腕を横に振ったらぶつかった気がしますし」
「すげぇな!どうやるか教えてくれ!」
「俺もだ!」
「俺も飛ばしたい!!」
ディアロが衝撃波を飛ばしたと勘違いして女子は非難の視線を、男子は目をキラキラと輝かせてディアロへと押し寄せてくる。
ディアロの否定を全く聞いちゃいない。
「だから飛ばしていないって!」
「じゃあ何であのタイミングで窓ガラスが割れたんだ!?お前しか原因はお前しかいないだろ!」
「殴り飛ばした何かが原因じゃないか?」
ディアロにも何を殴り飛ばしたかわかっていない。
割れた窓ガラスの外を見ても何もない。
正体だけでもわかれば良かったが、それも望めそうになかった。
「何だよ。透明人間にでも襲われたのか?」
「確かに殴った感触は人を殴った時と同じですけど、そんなの開発されていませんよね?」
ディアロの言葉に集まってきた者たちは当たり前だろ、と口にする。
そんなものが開発されていたら悪いこともし放題だ。
悪用できることが多すぎるため作れたとしても犯罪だ。
「そもそも姿が見えないのにどうやって躱すんだ?」
「姿が見えなくても勘とかで避けれますよね?」
「ごめん。そうだった」
透明人間の攻撃なんて躱せるわけが無いだろうと馬鹿にしたように言うとディアロの反撃にそれもそうだと納得する。
少なくとも勘というモノはバカにできない。
それに何度も助けられた経験があるからこそディアロの言葉にも否定できなくなった。
「じゃあ誰か魔法でも使って狙撃でもしてきたのか?」
ガラスが割れた理由に魔法を使われたのではないかと想像する。
だけど、そこまでするかとディアロを見た。
「はぁ。ディアロ、狙われているって大丈夫なの?」
「まぁ、何とかなるんじゃない」
「何とかって……」
「大丈夫大丈夫。何度もお前がナンパされているのを助けたことがあるじゃん」
「そうだけど………。本当に怪我をしないでね」
そこではイチャ付いている二人がいる。
狙われてる理由に思い至って納得してしまう。
美少女に心配されているのが酷く妬ましい。
「さてと放課後は暇だな?試合をしようじゃないか」
「えぇ」
嫌そうに顔を歪めてレイへと助けを求めて視線を向けるが笑顔で手を振られる。
どうやら見捨てられたらしい。
ディアロは更に顔を歪める。
「………別に良いですけど何処からやるか決まったんですか?」
「当然だろう?先生方に説教をされて決めたわ!」
嫌そうに納得してディアロは最初に向かう部活について確認する。
どこに向かえば良いのか確認のためだ。
「はぁ………。」
「何でそこまでため息を吐く?そんなに試合なんてしたくないか?」
ディアロのため息にそんなに試合は嫌かと不満そうに尋ねる。
数を揃えて暴力を振るわれるよりはマシだろうと思っている。
本当ならレイと付き合っていることに不満をぶちまけたいのに我慢しているのに、何が不満だと思っていた。
「何度も言うけど何をしても卑怯だと言うなよ。柔道で蹴りとか卑怯とか素人にルールを強要する方が卑怯だ」
「…………わかっている」
既に目の前の男が素人にルールを強要させるのは卑怯だと言われてしまい、そして自分自身でも頷いてしまっていた。
それさせしなければ痛みつけることが出来たとも思うし、本来の実力で戦えるから良かったとも思う。
「逃げるなよ」
あの実力だけはある厄介な不良を一方的にいたぶっていたのだ。
勝負をするために出来るだけの挑発をしておく。
逃げたら卑怯者だと。
挑まれた勝負から逃げる玉無しだと。
「…………」
「逃げないわよね?」
そしてレイまでもディアロに逃げないように追い詰めていた。
様子からして、これだけ挑発してもディアロは逃げていたような雰囲気を感じる。
恋人からの挑発もあれば逃げないだろうと思う。
「………わかっている。ちゃんと全員をどれだけ掛かっても相手をすれば良いんだろ」
本当に面倒くさそうにしている。
まぁ、たしかにレイと付き合っていることに不満を持っている者も多いし、単純にリア充だから不満をぶつけようとしている者もいる。
そいつらの不満を受け止めるとなったら、たしかに面倒だ。
「…………喧嘩を売ってきた方が悪いよな」
そう言って嗤った顔に背筋が凍る。
何を考えているのか全く分からないがレイはその顔を見て嬉しそうな笑顔をしている。
それを見て何か悪いことはしないだろうと根拠なく思ってしまった。
「大丈夫!?」
そこでは体中が血だらけで片足片腕が折れ、内臓もいくつか潰れている女と彼女に集まって治療をしている女性たちがいた。
「ユナ!!起きて!!」
涙混じりに怪我をしている女子に女の子は呼びかけ続ける。
「う……あ……。コーイン?」
「そうだよ!!」
意識が戻ったことに喜ぶコーイン。
彼女だけでなく心配してきていた女の子たちも意識が戻ったことに喜ぶ。
「………意識が戻ったのか?」
それは女子だけではない。
今は協力している男子も窓から投げ出されたと聞いて心配していたのだ。
「ノー……マ。見て…いたと思う……けど」
「分かっている。お前は黙って回復しておけ」
見舞いに来た男子ノーマにユナは回復に専念するように気を遣われる。
そのことに情けなく思うが黙ってユナは頷く。
「ディアロが思った以上に強い!」
思い出させないようにノーマはユナから離れて愚痴をこぼす。
強いということは不良を足蹴にしていた様子から想像していたが、まさか透明になった人間を殴り飛ばせるとは思わなかった。
しかも、それだけではなく攻撃すらも避けていた。
こちらからはユナの攻撃は透明で見えなかったのにディアロは避けていた。
この学校でもトップクラスの実力者なら出来る気がするがディアロまで出来るとは思ってもいなかった。
「………全くです。少なくとも学校でもトップクラスの実力があるなんて想像もしていなかったわ」
姿を消しての不意打ちは逆効果だと意見を交わしてため息を吐く。
本当なら姿を消しての暴力をしたかったのだが諦めるしかない。
そこまで考えて一つだけ思いつく。
「何であいつは避けれたんだ?」
「そんなの強いからでしょ」
「あいつは一年だぞ。あんなに強いなんてありえない。もしかしたら事務所にいたか関わっているんじゃないか」
「あ」
その言葉に全員が有り得そうだと頷く。
そもそも姿が見えないのに攻撃を当てれることがおかしいのだ。
復讐相談事務所から姿が見えるようになる何かを貰ってもおかしくない。
「取り敢えず俺は事務所に行こうと思う。他にも誰か道具を貸してないか確かめようと思う」
ノーマの言葉に頼むと頷く。
もしそうなら非常に厄介だ。
何をやっても俺たちのせいだと責め立ててくるはずだ。
そうなれば確認のために調べられる可能性もある。
「それじゃあ俺たちは嫌がらせをするだけにするよ。それだけでも効果はあるはずだし……」
「頼む。それと絶対にバレル湯女ことはするなよ。あの不良でさえ足蹴にするんだ。誰が相手でも同じかもしれない。後はディアロは今日から試合をするみたいだし、実力を教えてくれ」
その言葉に頷く。
そして事務所へと向かった。
「は?」
ノーマは事務所のあった路地裏へとたどり着くが何もないことに混乱する。
たしかに以前はここに事務所があった。
道の通り方も同じだ。
それなのに以前まであった事務所が見つからない。
「なんで………」
事務所のあった壁を叩いて確かめる。
それでも手に伝わる感触は固い壁だけ。
「何をしているんだい?」
そして後ろから肩を叩かれて話しかけられる。
そこには警察官がおり背筋を伸ばして驚いてしまう。
こんな路地裏で後ろから肩を叩かれたら、そりゃ驚くよなと警察官は納得する。
それでも、ここにいる理由を確かめるために問いかける。
「えっと、以前ここで雨宿りさせてもらったのでお礼をしようと思ったんですけど………」
こんな路地裏で雨宿りをさせてもらったと聞いて疑わし気になる。
路地裏は事件の元凶と言っても良い復讐相談事務所があるらしいのだ。
本当は関わっているんじゃないかと疑ってしまう。
「それは嘘じゃないよね……」
制服を着て手にはお土産らしきもの。
それでも路地裏を通っているというので怪しい。
「はぁ。わかった。路地裏を出るまでついてあげるから、さっさとここから離れなさい。多分、道を間違えたんだろう。それに私たちも仕事をしないといけないんだ」
警察官の言葉にノーマも渋々ながら頷く。
仕事をしないといけない以上、見逃すわけにはいかないのだろう。
また警察官がいない時に探せば良いと自分を納得させる。
「それじゃあ着いてきて」
まず警察官からは逃げられないと諦めて路地裏から出て行った。
「先輩、怪しいのに確かめなくて良いんですか?」
警察官の片方がノーマについて確認するが頷く。
「あぁ、制服を見て何処の学校か分かるからな。そこで何か事件があれば、見えないだけでここに相談事務所があると確定することが出来る」
「なるほど。今は泳がせている段階なんですね」
その言葉に頷かれ納得する。
たしかに事件があれば色々と発覚することがある。
彼も事件に関わっていたら確定するだろう。
「そういうことだ」
「じゃあ確か、あの制服は……。武道で有名な学校じゃありませんでしたっけ?」
「………まぁ、武道をやっているからって妬みや虐めが無いわけでは無いんだろう」
その言葉に世知辛いと涙する。
武道をやってもそうなのなら、どうすれば世の中から虐めをなくせば良いのか全く見当もつかなく頭を抱えてしまっていた。。




