十話
「………おはよう」
「………おはよう」
朝、学校に向かう小学生たちは多くの者が顔を暗くして歩いている。
目の前で死者が出たということに酷くショックを受けていた。
例え、それが人殺しの子供でも死体を見てしまったことに心を暗くし、特に人殺しの子供と知られるまでは仲良く遊んでいた者はルカと一緒に味方しなかったことを後悔している。
「…………こんな気持ちになるならお父さんたちの言うことを聞かなければ良かった」
小学校の子供たちは全員がリィスに関わらないように両親に言い含められていた。
そのせいで暗い気持ちになっていることもあり、両親の言葉に従ったことに後悔している。
この中に将来は家族の言うことを聞かない不良も生まれるだろう。
家族と一生不仲になる子供たちも生まれるはずだ。
「あれ?あの人たちは……」
教室からグランドを眺めると大人がグラウンドへと入ってくる。
小学生や先生の中に見覚えのある者たちは、それを見て顔を青くしていた。
「あなたは……」
校門で見回りをしていた者はグラウンドへと入ってきた二人を見て視線を逸らす。
人殺しといえど子供が死んでしまう辛さは想像するだけで辛い。
実際に味わった二人を見て何て言えば良いのか分からないでいた。
「この度は………」
それでも何かを言おうとして二人を見ると鈍く光るものが目に映った。
「それは………!え……」
嫌な予感がして鈍く光った物を確認しようとする。
だが次の瞬間、体が焼けるように熱くなった。
原因を調べようと自分の身体を見ると斜めに引き裂かれ血が出ている。
目の前の二人を見ると手にはナイフを持っていた。
(あぁ、そっか……。子供を殺した復讐に来たのか……)
見回りとして立っている男の子供もこの学校に住んでいる。
どうか生き延びてくれと祈り、男の意識は闇に消えていった。
「キャァァァ!!」
教室から赤い何かを流して倒れた男を見てしまった子供たちは悲鳴を上げる。
その近くには赤い何かを浸らせたナイフを持っている二人の大人がいる。
つい最近、死んだばかりの死者を見たばかりだから分かってしまうのだ。
赤い何かは血であり、そして倒れた大人から流れている量から既に死んだのだと理解してしまう。
「何があった………!?」
そして遅れて見た者も何に悲鳴を上げたのかと確認して顔を青褪める。
中には吐いている者もいた。
「リィスのお父さんとお母さんだ………」
手に刃物を持っている二人の大人を知っている者たちは誰かを口にする。
その答えに聞こえていた全員が絶望する。
あの二人は復讐のために学校に来たのだと直ぐに理解できてしまったのだ。
他の理由はあるとは考えもつかない。
あったとしても既に校門で人を殺すはずがない。
「逃げるぞ!!」
最初に正気に戻った一人が逃げようと教室から出ていく。
その姿を見て他の子どもたちも後を追って教室から出ていった。
学校内から外に出るには一階まで降りなくてはいけないのに。
「急げ急げ!」
逃げるために一階まで降りてきた子どもは内履きから外履きに変えることはことはせずに中庭から出ようとしていた。
まだ学校の中には入っていないと思い込んでしまっている。
「よし………」
そして中庭に出た途端に首を引き裂かれて倒れた。
「え?」
先程、首を引き裂かれた少年は死んだことも気づかずに死んでしまった。
リィスの両親は校舎に入って最初に中庭に移動したのだ。
だから中庭に入った途端に殺せた。
それを間近で見ていた者は何が起きたのか分からず呆然としてしまう。
それが原因で二人に殺される。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
一人一人確実に死んでいく状況に悲鳴が上がる。
教師もこれ以上は犠牲者を出さないと悲鳴した元へと急ぐ。
「そんな………」
悲鳴の聞こえた現場へとたどり着くと小学生の死者が既に何十人と出来ていた。
その上に玄関への通路に何人も積み重ね、逃げるには死んだ彼らをどかさなければならない。
子供たちは逃げるために死んだ友人を粗雑に扱わなければいけないこと、そして死者へと触れるということに戸惑い動きが止まってしまう。
そうなれば殺されることが想像でき悪辣に過ぎると二人へと恐怖を抱く。
「全員、警察が来るまで時間を稼げ!これ以上、子供たちを殺させるな!」
教頭が前へと出てリィスの両親へと掴みかかっていく。
子供たちが多く殺されたのは子供と大人の差だと思っている。
同じ大人が大勢で囲んでしまえば抑え込めるはずだと想像していた。
「邪魔」
「いがぁぁぁぁぁ!!」
だけど掴みかかった教頭はナイフを刺されただけで痛みで話してしまう。
教頭以外にも掴みかかった者たちは全員、同じ反応をしている。
まだ掴みかかっていない者たちも痛そうに刺された箇所を抑えている者たちを見て掴みかかるのを戸惑ってしまっている。
「貴方たち先生も子供たちも皆殺してやるから覚悟しなさい」
そう言いながら痛みに刺されてた箇所を抑えている者たちの首を切り裂いて絶命させていく姿に命惜しさに子供たちのことも忘れて大人たちも逃げ始める。
学校全体を使った命がけの鬼ごっこが始まった。
「突入するぞ!」
警察官たちが小学校に入ると死者だらけだった。
ほとんどが子供の死体で何人か大人が混ざっている。
凶悪な犯罪に怒りを抱く者もいれば、多くの子供の死体に吐く者もいた。
「大丈夫か?」
「…………はい。吐いてしまいましたが大丈夫です。足手纏いにはなりませません」
本当かと顔を覗き込むがその視線はハッキリとしていた。
だから、その言葉を信頼できると頷く。
「手分けして探すぞ。見つけたら直ぐに連絡しろ」
最初の指示に全員が何人かで別れて行動することに了承する。
全員が無線を手にして動作を確認し犯人を捜すために動いて行った。
「…………見つけた」
最初に見つけたのは男の方だった。
侵入してきたのは二人と聞いていたが一人で行動しており、向こうも分かれて行動していることが予想できてしまった。
ただでさえ向こうは凶器を持っているのに救援が求められない可能性があるのは厳しい。
他のところでも同時に暴れられている可能性があるからだ。
やみくもに暴れられると訓練をしていても抑えるのは難しい。
「もしもし、こちら職員室前。侵入してきた二人組のうち、一人を発見。救援を求めます」
『分かった。近くにいる者は職員室へと向かってくれ。まずは一人だ』
『すいません!二階の女子トイレに女の方を発見しました!こちらも救援をお願いします!』
運悪く同時に二人を発見してしまう。
そのことに一瞬だけ頭が停止し、指示が止まってしまう。
『それぞれが近い場所へと向かってくれ!制圧次第、残った方へと移動!』
『ハイ!!』
それでも直ぐに思考を取り戻して指示を出していく。
それぞれが仲間の救援へと急ぎ、捕まえるために全力を尽くしていく。
「あぁぁぁぁぁ!!」
男性はナイフの他に魔法を使って警官たちも殺しに来る。
もはや誰だろうと敵として殺す姿に警戒をする。
やみくもに暴れるのも厄介だが確実に殺すために行動されるのもキツイ。
殺傷能力が高い火の魔法を撃ちながら向かってくる。
「甘い!」
だが警官たちもプロだ。
たしかに火の魔法は殺傷能力が高い。
だがしっかりと目に映り、避けやすい魔法だ。
そんなものよりも風の魔法を使われた方が厄介だ。
速いし目に映らない。
それと比べれば直撃することになっても覚悟が出来る。
「はぁぁぁぁ!!」
現に覚悟を決めた自分から火の魔法へと突っ込んでいく。
「なっ!」
そのことに男は驚き動きが固まってしまう。
慌てて絶好のチャンスだとナイフを突き刺すがもう遅い。
突き刺したナイフは急所に刺さることは無く防御を固めた腕に突き刺さる。
「そこ!」
火の魔法に怯えたこと、そして突き刺したナイフを抜く間に近くにいた仲間が移動して男へとタックルを仕掛けた。
驚き突き刺したナイフを抜くことに意識を割いてしまった男は気付かずに直撃を受けてしまう。
後は暴れないように腕を縛って拘束するだけだ。
「くそっ!!」
タックルの直撃を受けても意識は残っているが動きが鈍い。
余裕で腕を縛ることが出来る。
「こちら男を拘束できました。今から数名と一緒にそちらへ縛り、他は女の方へと向かいます!」
『そうか!それと女の方には行かなくて良い!そちらも拘束できたようだ!』
「わかりました!全員でそちらに向かいます!」
代表して連絡をしていた者の言葉に警官たちは首を傾げる。
女の方は向かわなくて良いのだろうか?
「女性の方も拘束が出来たようです。男性を連れて行きましょう」
女の方も拘束されたと聞いて安心する。
男は一緒に来た女が拘束されたと聞いても何も反応はしない。
「………署に連れて行って今回の事件を犯した理由を話してもらうぞ」
警官たちは二人揃って拘束したことで油断をしていた。
ここまですれば、いかな凶悪犯でも何も出来ないだろうと思っていたのだ。
「よし来たな。二人とも乗れ」
警官たちは、それぞれ別のパトカーに二人を乗せようとする。
そして乗せようと出した手を文字通りに噛みついた。
「「いだぁぁぁ!!」」
手を噛まれた二人は突き出した手を噛まれたことで二人から離れてしまう。
「馬鹿っ!!」
警官たちの手に噛みついた二人は全力で警官たちを振り払う。
互いが向かう先はお互いだった。
「確保ぉ!」
警官たちも二人が何をするのか分からないため全力で二人を追う。
そして――。
「おぇ……」
「そんな………」
「そんなに捕まりたくなかったのか……?」
二人は互いの喉元に噛みつき食いちぎることで死んだ。
まるで最初から決めていたように鮮やかな殺害方法。
これも計画通りだったのかもしれないと警官たちは悔しく感じる。
「…………っ。全員、ここで待機!小学校に誰も入れないようにしろ!」
その中で一人だけ冷静に指示を出す。
この状況でも冷静に指示を出している警官に尊敬の視線と恐れの視線が集まる。
目の前で互いに噛みつき合って殺すという場を直視したのにいつも通りに行動できたせいだ。
普通は呑まれて何もできなくなる。
現に指示を出した警官以外は座り込んでいる。
「………うぅ」
「吐くのなら今のうちに吐いて封鎖するぞ!完全に休むのは救援が来てからだ!」
何でそんなに元気なのか指示を出す警官を見る。
その警官は顔をひどく青くして立っている。
「………っ」
「………っは」
それを見て自分達も負けられないと立ち上がる警官たちもいれば――。
「…………ぁ」
「そんな………」
自分達にはマネすることは出来ないと諦めている警官たちもいる。
おそらくは警官を辞めるかもしれなかった。
「…………はぁ」
「ダイキ?何かあったのか?」
高校へと向かう途中、ディアロはダイキを見つける。
その姿が普段とは違い辛気臭そうにため息を吐いていることにディアロは声を掛ける。
「ディアロ、聞いてくれ………」
まるで声を掛けてくれるのを待っていたという様にディアロへと抱き着く。
その姿に歓喜の声を上げる者もいれば、同情の視線を送る者もいる。
「ねぇ?」
そしてディアロへと抱き着いたダイキへと肩を叩く者がいた。
その声の平坦さからくる恐ろしさにダイキは肩を震わせてしまう。
声を掛けてくれたからと抱き着くことに後悔していた。
「いつまで抱き着いているのかしら?」
レイは自分の恋人に抱き着いているダイキに腹立たしさを覚えている。
恋人が盗られているとからかわれるのは嫌いなのだ。
それも女どころか男までとなると腹が立つ。
そんなに盗られやすい女と思われているのか、ディアロが油断だらけなのか悩んでしまう。
「悪い。愚痴を聞いてくれるのが嬉しくて、つい」
ディアロはダイキが抱き着いてくるほどに愚痴を聞いてほしいという事情に興味がわく。
「何があったんだ?」
楽しそうに聞いてくるディアロにダイキとレイはため息を吐く。
ダイキは楽しそうにされることに複雑な感情を抱き、レイは楽しそうとまで思わないが興味がって視線を向ける。
どちらも共通して趣味が悪いと思っていた。
「実は父さんが多くの警官が一気に辞めたから将来は警官になってくれと毎日うるさいんだよ」
ダイキの言葉にあぁ~、と納得する。
たしかに子供の将来を自分の指示通りにさせようとする父親はウザい。
愚痴をこぼしたくなるのもよくわかってしまう。
近くにいたディアロたちでなく近くで話が聞こえていた者たちもダイキへと同情の視線を送ってしまう。
「それにしても何で多くの警官たちが辞めたんだ?それを何とかしなくちゃ意味が無いだろ?」
「だよなぁ。俺もそう言ったんだけど、最近小学校で事件が起きただろ?」
事件と聞いて深刻な表情で頷くディアロ。
内容を聞くだけでも痛ましい事件だった。
虐められていた小学生が自殺し、そしてその親が復讐として小学校に通っていた子供と先生のほとんどを殺しつくした事件。
その小学校に通っていた子供たちの兄姉もショックを受けていて高校を休んでいる。
「その事件の対処に当たって死体を直に見てトラウマになったんだってさ。かなり辞めたみたいで人手不足らしい」
辞めた理由を聞いてしょうがないのかな?と多くの者は理解を示す。
事件のことを聞いてそんなことでとは言い切れない。
聞くだけで吐いた者もいるのだ。
実際に見たとなれば、トラウマになってもおかしくない。
「来たわね!」
会話をしながら歩いていると、いつ間にか校門に着いていた。
そして校門の前には何故かリィスがいた。
ディアロたちが来た途端に声を出してきたため待っていたのはディアロたちだと想像できるが何の用なのか想像がつかない。
他の生徒たちもずっと校門で待っていたリィスがついに行動を起こしたことに興味津々だ。
「ディアロ!これを使って私を縛りなさい!」
「………は?」
渡されたのは縄。
そして縛るという言葉。
ディアロは思わずリィスから一歩引いてしまう。
そもそも頼んできている意味が分からない。
「女の子がこんな恥ずかしいことを口にして頼んでいるのよ。さっさと行動に移しなさいよ」
たしかにリィスは顔を赤くして頼んでいる。
だがディアロはそんなことを公衆の面前でやる気は無い。
助けを求めるように視線をさまよわせる。
「うわぁ……」
「ディアロって……」
「どこまで調教したんだよ……」
「屑じゃん……」
だがディアロへと向ける視線が軽蔑を帯びたものになっていた。
身に覚えのないことに流石にディアロも焦る。
自分から誰かをマゾに調教した記憶は無いのに風評被害だ。
「いいから縛って」
「……………あっ」
頭がおかしいことを言うリィスにディアロは思わず蹴り飛ばしてしまう。
少ししてから自分のしたことに冷や汗を流す。
「あ…りが……う…ご…ざいま……す」
蹴られたのに満足そうに笑っているリィスにディアロはドン引く。
ドン引いていたのはディアロだけではない。
蹴られたのを見て心配そうに駆け寄った者たちもだ。
「えぇ……?」
ディアロの方を見てもドン引いた表情で、ここまでマゾを開花させたことに関わっていても意図していないことだと察する。
もしかしたらマゾとして開花したことも今まで気づいていなかったのかもしれない。
「ねぇ?貴方はリィスに何をしたの?」
リィスの友達でありディアロの恋人であるレイが何をしたのか問いただしている。
あの様子だと本当に何かしていたなら聞き出せるはずだと安心してリィスを担いだ。
幸せそうに気絶しているが、このまま放っておくのも後味が悪い。
「えへへ………。もっとぉ……」
肩に担いだリィスを思いきり投げ捨てたくなったが我慢する。
絶対に後でレイからディアロが何をしたか確認しようと決意していた。
「…………はぁ」
「ダイキ?何かあったのか?」
高校へと向かう途中、ディアロはダイキを見つける。
その姿が普段とは違い辛気臭そうにため息を吐いていることにディアロは声を掛ける。
「ディアロ、聞いてくれ………」
まるで声を掛けてくれるのを待っていたという様にディアロへと抱き着く。
その姿に歓喜の声を上げる者もいれば、同情の視線を送る者もいる。
「ねぇ?」
そしてディアロへと抱き着いたダイキへと肩を叩く者がいた。
その声の平坦さからくる恐ろしさにダイキは肩を震わせてしまう。
声を掛けてくれたからと抱き着くことに後悔していた。
「いつまで抱き着いているのかしら?」
レイは自分の恋人に抱き着いているダイキに腹立たしさを覚えている。
恋人が盗られているとからかわれるのは嫌いなのだ。
それも女どころか男までとなると腹が立つ。
そんなに盗られやすい女と思われているのか、ディアロが油断だらけなのか悩んでしまう。
「悪い。愚痴を聞いてくれるのが嬉しくて、つい」
ディアロはダイキが抱き着いてくるほどに愚痴を聞いてほしいという事情に興味がわく。
「何があったんだ?」
楽しそうに聞いてくるディアロにダイキとレイはため息を吐く。
ダイキは楽しそうにされることに複雑な感情を抱き、レイは楽しそうとまで思わないが興味がって視線を向ける。
どちらも共通して趣味が悪いと思っていた。
「実は父さんが多くの警官が一気に辞めたから将来は警官になってくれと毎日うるさいんだよ」
ダイキの言葉にあぁ~、と納得する。
たしかに子供の将来を自分の指示通りにさせようとする父親はウザい。
愚痴をこぼしたくなるのもよくわかってしまう。
近くにいたディアロたちでなく近くで話が聞こえていた者たちもダイキへと同情の視線を送ってしまう。
「それにしても何で多くの警官たちが辞めたんだ?それを何とかしなくちゃ意味が無いだろ?」
「だよなぁ。俺もそう言ったんだけど、最近小学校で事件が起きただろ?」
事件と聞いて深刻な表情で頷くディアロ。
内容を聞くだけでも痛ましい事件だった。
虐められていた小学生が自殺し、そしてその親が復讐として小学校に通っていた子供と先生のほとんどを殺しつくした事件。
その小学校に通っていた子供たちの兄姉もショックを受けていて高校を休んでいる。
「その事件の対処に当たって死体を直に見てトラウマになったんだってさ。かなり辞めたみたいで人手不足らしい」
辞めた理由を聞いてしょうがないのかな?と多くの者は理解を示す。
事件のことを聞いてそんなことでとは言い切れない。
聞くだけで吐いた者もいるのだ。
実際に見たとなれば、トラウマになってもおかしくない。
「来たわね!」
会話をしながら歩いていると、いつ間にか校門に着いていた。
そして校門の前には何故かリィスがいた。
ディアロたちが来た途端に声を出してきたため待っていたのはディアロたちだと想像できるが何の用なのか想像がつかない。
他の生徒たちもずっと校門で待っていたリィスがついに行動を起こしたことに興味津々だ。
「ディアロ!これを使って私を縛りなさい!」
「………は?」
渡されたのは縄。
そして縛るという言葉。
ディアロは思わずリィスから一歩引いてしまう。
そもそも頼んできている意味が分からない。
「女の子がこんな恥ずかしいことを口にして頼んでいるのよ。さっさと行動に移しなさいよ」
たしかにリィスは顔を赤くして頼んでいる。
だがディアロはそんなことを公衆の面前でやる気は無い。
助けを求めるように視線をさまよわせる。
「うわぁ……」
「ディアロって……」
「どこまで調教したんだよ……」
「屑じゃん……」
だがディアロへと向ける視線が軽蔑を帯びたものになっていた。
身に覚えのないことに流石にディアロも焦る。
自分から誰かをマゾに調教した記憶は無いのに風評被害だ。
「いいから縛って」
「……………あっ」
頭がおかしいことを言うリィスにディアロは思わず蹴り飛ばしてしまう。
少ししてから自分のしたことに冷や汗を流す。
「あ…りが……う…ご…ざいま……す」
蹴られたのに満足そうに笑っているリィスにディアロはドン引く。
ドン引いていたのはディアロだけではない。
蹴られたのを見て心配そうに駆け寄った者たちもだ。
「えぇ……?」
ディアロの方を見てもドン引いた表情で、ここまでマゾを開花させたことに関わっていても意図していないことだと察する。
もしかしたらマゾとして開花したことも今まで気づいていなかったのかもしれない。
「ねぇ?貴方はリィスに何をしたの?」
リィスの友達でありディアロの恋人であるレイが何をしたのか問いただしている。
あの様子だと本当に何かしていたなら聞き出せるはずだと安心してリィスを担いだ。
幸せそうに気絶しているが、このまま放っておくのも後味が悪い。
「えへへ………。もっとぉ……」
肩に担いだリィスを思いきり投げ捨てたくなったが我慢する。
絶対に後でレイからディアロが何をしたか確認しようと決意していた。
「はい、焼きそばパン買ってきて」
「わかったわ!」
後日、ディアロは教室でリィスをパシリにしていた。
それを見ていたクラスメイト達も慣れたものでスルーをしている。
もし買わせるときもリィスのお金だったら注意をしていたかもしれないが、毎度お金を払っているのを確認している。
パシらせているが不当な扱いをしているのは見たことが無い。
「ごめん。私も良い」
「嫌よ」
そしてリィスはディアロのパシリは喜んでするが、他のクラスメイトの頼みは否定する。
例外はレイだけだ。
「悪いけど、飲み物も買ってきてくれない?」
「喜んで!」
笑みを浮かべてパシられようとするリィス。
自分でやっておきながらディアロはため息を吐いていた。
「いやぁ便利な女の子を手に入れられてラッキーだな!」
「毎日、蹴って縛られてと頼まれるがそれでもか?そのたびに恋人から睨まれるんだが」
「ざっまぁ!」
恋人がいるという時点で男からすれば羨ましい。
それもレイという美人。
それだけの苦労をしてなければ嫉妬でいつか嫌がらせをしていた。
「で、手を出したのか?」
ニヤニヤとする目の前のクラスメイトにディアロは白けた目を向ける。
男子だけではなく女子も興味津々だと聞き耳を立てていた。
「毎日の様に蹴ってくれ、縛ってくれという女の子に手を出すとしたらサドくらいだ。って、さっきもいたけどレイに睨まれるって言ったよな?」
そんなディアロに女性連中はヘタレだとディアロを睨む。
あんなに尽くしているのに手を出さないなんて同じ女として不憫だと言いたいようだ。
「………もし恋人が自分以外の女に手を出してお前らは許せるのか?真剣に考えて答えろ」
そんな女子連中にディアロは苛立って質問する。
直接関係ないから、そんなことを言えるのであって実際は許せないだろうと確信している。
現に女子連中も想像して苛立ったり不快な顔を見せている。
「そうだね、ごめん」
最初の一人が謝ると次々とディアロへと謝ってくるが当人は不快そうだ。
「レイにも謝っておけよ。恋人に浮気するように唆していたんだから」
その言葉に他人の関係を壊そうとしていたことに気付く女子たち。
男子も何人かは一緒にレイへと謝っている。
「くっそ羨ましい……!!」
美少女と付き合えて、女の子に慕われているディアロに嫉妬で嫌う男子もいる。
「あんな男のどこが良いのよ……!!」
レイに憧れており、男を毛嫌いしている女子もディアロに対して強い敵意を持つ。
「「……………」」
両者は互いの言葉が聞こえると顔を見せ合ってガッシリと握手をしあう。
男の方はともかく女は気嫌いしている男でも、まずは排除すべきだと男と協力することに決めて握手をした。
「……………」
「どうしたのよ?」
ディアロは自分が狙われていることに気付いて笑う。
彼女たちも復讐をするのか興味深い。
「…………あれ?」
そこまで考えてディアロは首を傾げる。
これを復讐と考えるのは流石におかしくないかと思っていた。
「だから、どうしたのよ?」
いつもとは違う様子のディアロに何度も声を掛けるが応えない。
そのまま、何かに悩んでしまっている。
取り敢えずは腕を引いて約束していた場所へと移動しようと考えて行動した。
「あれは復讐じゃなくて逆恨みか!」
「何を言っているのよ?」
ディアロが思い至ると気づいたら外に出ていた。
手はレイと繋いでいた。
どうやら意識が別の方へと飛んで行ったディアロを連れてきたのは彼女だと理解する。
「それで何を悩んでいたのよ?」
レイはようやく意識を取り戻したディアロに気になって質問する。
うわの空でいたぐらいなのだ。
力になれるのならそうしたい。
「あぁ、うん。睨まれているなと思って」
ディアロは面白そうに笑いながら、そんなことを言うとレイも納得する。
レイもディアロが偶に睨まれているのを察していた。
恋人がいるという男子の嫉妬と女性の敵視。
女性の敵視についてはディアロが恋人の他にリィスに慕われているせいで二股を疑われているせいだと思っているが違和感も持っている。
男性だけでなく女性からもレイは不快な視線を浴びていたせいだ。
「それは二股しているせいじゃない?」
レイは女性からも男性から同じような視線を浴びている理由を考えることを無意識にでも拒絶していた。
異性どころか同性にまで性的な警戒をしなくてはいけないなんて考えたくなかった。
単純に考えて二倍の警戒。
同性に囲まれていても警戒しなくてはならなくなる。
「…………がんばれ」
ディアロが自分が睨まれている理由を察していてレイへと声援を送る。
自分が同じことになってら嫌だが、どうしようもない。
学園でもトップクラスの容姿を持っていることに諦めて欲しい。
有名税のようなものだ。
「二人とも!買ってきました!!」
こちらへと駆け寄ってくるリィスの声が聞こえてくる。
彼女の買ってきたパンと飲み物を口にしながら一時的にも何も警戒せずにくつろいで欲しいとディアロは思う。
今ばかりは何があっても護ろうと決意していた。




