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九話

「ごめん」


「謝る必要は無いよ。悪いのはどう考えても学校の皆だし」


 昼休み、リィスとルカは教室から離れて身を寄せ合って息をひそめる。

 誰かに見つけられたら確実にちょっかいを掛けられる。


「でも………」


 リィスからすればルカが苛められるようになったのも自分を庇っていたせいだとしか思えない。

 でなければ、いつも仲が良かった友人たちからも虐められるはずがないと確信している。


「貴女は悪くないわよ。たまたま両親が犯罪者だっただけじゃない」


「………それはそうだけど」


 そのせいでルカまでも虐められるのを見ているのが辛い。

 自分を唯一、味方してくれた友達が気付付けられるのは自分が虐められるよりも何倍も辛かった。


「大丈夫だから」


 ルカは最初のリィスへの虐めと比べて暴力的なものが多い。

 リィスへは最初、精神的にくるものが多かった。

 今は肉体的なものが多い。

 服の上から殴られたり蹴られたり、階段の途中で押されたりもする。

 それがルカも最初からやられていた。


「…………本当に辛くなったら言ってね。一緒に学校をサボろう?」


「………。そうね」


 リィスからそんな誘いが来たことにルカは少しだけ笑ってしまう。

 今までは決して自分からサボろうとしていなかった癖にルカが関わる自分から提案してくる。

 それが自分のためだと思うとルカは嬉しくなっていた。


「あっ」


「もう昼休みは終わりか……」


 二人で話をしている間に昼休みの終わりの鐘が鳴る。

 正直に言って昼休みの時間がかなり短く感じていた。

 またクラスメイトや先生から虐められると考えると嫌な気分になる。

 何度も質問され、間違えたら馬鹿にされながら笑われ、正解しても舌打ちをされる。

 真面目に勉強する気が失せてしまう。


「はぁ……。何でこんな学校で生活しなくちゃいけないんだろ?」


 ルカはこの学校で生活していることに不満を漏らす。

 人殺しの子供としか見ず教え子の一人として見ない。

 虐めを止めるどころか加担する教師。

 あまりにも教育者として相応しくない者が多い。


「あはは。とりあえず頑張ろう」


「そうね」


 リィスの言葉にルカは頷いて一緒に教室へと向かう。

 どれだけ辛くても友達がいるなら耐えられる。

 覚悟を決めて歩いていく。


「あっ!人殺しの子供とその友達、見っけ!!」


 ルカはその言葉が聞こえると同時に浮遊感を覚える。

 そして背中を押された感覚もだ。


「ルカ!!」


 リィスの焦ったような声も他人事のように聞こえる。

 そして体に鈍い衝撃が奔りルカは意識を失った。




「ざっまぁ!!」


 ルカを階段から叩き落した男子はやってやったぜという風に声を上げる。

 それを見れた他の子供たちもすげぇ、よくやったと歓声を上げる。

 その光景にリィスは怖気が走る。

 普通は階段から落とし怪我をさせたら心配をするはずだ。

 それなのに先生も生徒も歓声を上げて突き落とした男子を褒め上げている。

 自分の知っている普段の皆とは違うとリィスは顔を青褪める。


「あとはリィスだけだな」


「ひっ」


 リィスは向けられた視線に恐怖を覚える。

 顔だけは自分の知っている皆なのに中身が決定的に違う。

 このまま学校にいたら気が狂いそうだとルカを背負って学校からリィスは逃げる。

 本来なら背負えても走ることは無理だが火事場の馬鹿力なのか、その状態でいつもより早く走れる。


「あぁぁぁぁぁ!!」


 リィスを止めようとする教師や学校の友人を次々と抜いて学校の外へと出ていく。

 靴も変えていないし鞄も学校に置いたまま移動している。

 それでも構わないと取りにいくことも考えずに行動する。

 まずは病院に行こうとリィスは行動を決めていた。




「はぁっ……はぁっ……。っ!」


「おっと」


 リィスは息を絶え絶えながら必死に走っていると途中で人にぶつかる。

 謝罪をしようと顔を上げると昨日も遊んでもらったディアロと自分と同じ名前のリィスがいた。

 ディアロがいるのにレイはいない。


「どうしたの?」


 怪我をしているルカを見て心配そうに高校生のリィスが話しかける。

 昨日も遊んでもらったから安全だろうと小学生のリィスは安心して何があったのか話す。

 学校の皆がまるで昨日までは別人になっていてルカを怪我させたことを。


「「…………」」


 小学生のリィスの言葉に二人は顔を見合わせる。

 意味が分からないせいだ。

 それでも取り敢えずディアロは小学生のリィスが背負っているルカを代わりに背負って病院に行くことを決める。

 代わりに小学生のリィスにルカの両親を呼ぶように頼む。

 ディアロたちは連絡先を知らないし病院へ連れて行ったことは伝えた方が良いと思ったからだ。


「わかりました!ちょっと待ってください!」


 小学生のリィスはルカの家へと連絡を取って、それを事務員へと渡す。


「え?」


「私だと電話に出ても直ぐに切られると思うので……」


 小学生のリィスの言葉にそういえば親に嫌われていたな、と思い出す。

 もしかしたら声が聞こえてきたら直ぐに切ってしまうかもしれないと考え直し代わりに電話に出る。

 ディアロは両手がふさがっているため代わりに出るのは高校生のリィスだ。


「もしもし………」



 リィスたちは病院へとたどり着くと直ぐにルカへの治療を頼む。

 病院のスタッフ達も突然の頼みに混乱するがディアロが背負っている少女の容態を見て頷く。

 急患だと慌ただしく動いてくれた。


「すいません!ルカは大丈夫ですか!?」


 そしてルカの両親も来る。

 まだ昼頃なのに仕事を放ってきてくれたらしい。

 必死な表情で医師へと確認している。


「えぇ、大丈夫です。ただ頭から血を流していたので数日は学校を休んだ方が良いでしょう」


「それだけですか?」


「はい」


 医師の言葉を聞いて息を吐く両親たち。

 頭から血を流したと聞いて、もっと危険な容態になっているかもしれないと考えていたのだ。

 それだけ済んだことに運が良かったと安心する。


「ありがとうございま………す」


 運んできてくれた物の中に小学生のリィスがいることに両親は顔を歪めてしまう。

 どうして娘が怪我をしたのか聞いていないが予想は出来てしまった。


「何で貴女がここにいるのよ!?どうせルカが怪我をしたのも貴女を庇ったせいでしょ!もうルカに近寄らないで!!」


 娘の為を思って小学生のリィスを拒絶する母親。

 父親も母親の言葉に頷いていて睨んでいる。

 何も知らない医者は突然のことに理解できないでいた。


「それは言い過ぎなんじゃ………」


 ディアロがあまりの言い分に諫めようとすると途中で睨まれる。


「この子は人殺しの子供なのよ!一緒にいること自体が危ないじゃない!」


 否定をしたいが実際にリィスの両親が人殺しだと知れ渡ったせいで、こんなことが起こった。

 人殺しでなければ起きなかったのだから当然のことかもしれない。


「頼む。本当にもう娘に近づかないでくれ。娘から近づいても距離を取ってくれないか?」


 ルカの両親から頭を直接下げられてまで頼まれたことにリィスは頷いた。




「よかったの?」


 リィスを連れて高校生の二人は病室から離れる。

 そして尋ねられた質問に頷く。


「………うん。皆が一気に変にならなくても私の隣にいたら、いつかはきっと起きていたことだから」


「そう。………みんなが変になった?」


 小学生のリィスの言葉に気になることを言われる。

 一気に変になったとはどういうことだろうと。


「急にね。いつもからは考えられないようなことをしたの。形だけでも止めるはずの先生までもが虐めを推奨して嫌がらせをしてくるの」


 それはもう学校自体が終わっているんじゃないかとディアロたちは冷や汗を流す。

 小学校に通っている子たちはカウンセリングなどした方が良いと考える。


「ねぇ、いつもとは違うって言ったけど。そんなことは普段はしない子たちなの?」


 その言葉に頷くリィス。

 そうなんだと不思議に首を傾げる。


「ねぇ、ちょっと一緒に外に出ない?」


 その言葉に頷いて一緒に外に出る。

 いつまでも病院にいるのも悪いと思うから丁度良いとも思っていた。


「ここまでくれば良いかしら?」


 連れてこられたのは誰も来ないような空き地。

 何でこんなところに連れてこられたのか、もしかして仲良くしてくれたお姉さんたちも私を虐めるのかと辛くなる。


「ねぇ。復讐したくない?」


 その言葉に小学生のリィスは驚いて顔を見上げディアロは面白そうに眺めた。



「どういうこと?」


 意味が分からないと言いたそうな小学生のリィスに優しそうな笑顔で述べる。


「だって貴女は何も悪くないでしょう?悪いのは貴女の両親に学校のお友達たち。彼女たちが何もしなければ貴女の大事な友達たちも怪我をする目にもあわなかったのよ」


「それは………」


 高校生のリィスの言い分に全く否定は出来ない。

 たしかに心の片隅では思っていたことだ。

 両親が人を殺さなければ、こんな目にあわなかった。

 学校の皆が小学生のリィスだけを狙っていたら、ルカも怪我をすることは無かった。

 何よりも自分と両親を一緒に考えている皆が許せない。


「………興味がありそうね」


「…………」


「簡単よ。学校の皆や両親について恨み、辛みを遺書に書いて自殺すれば良いのよ」


 コクリと頷いた小学生に高校生は方法を述べる。

 その方法に小学生は息を呑む。

 自殺と聞いて、死への恐怖を覚えていた。


「こう言っては何だけど貴女は今、死んだ方がマシかもしれないわ」


「え?」


「だって、貴女が人殺しの娘だとはネットでも広まっているわ。どこに行っても人殺しの娘としか見てくれないわよ。私よりも貴女の方が知っているでしょ。人殺しの娘と聞いて皆の態度が変わったのを」


 どこに行ってもあんな目で見られるのだと聞いて小学生は身を震えさせる。

 あんな目でずっと見られるよりは確かに死んだ方がマシだと考えてしまっていた。

 震えてしまう自分を高校生が優しく抱きしめてくれているのもあって、その意見が正しいと思ってしまっているのもある。


「遺書には皆に対して恨み辛みを書けば良いんだよね?」


「そうよ。ついでに自殺をする時はみんなの目の前でやった方が良いわね。飛び降りとかすごく目立って記憶に残ると思うわ」


「………うん、ありがとう」


「自分達のせいで自殺させたという記憶は一緒に心の傷に残るわ。だから頑張りなさい」


 一生の心の傷に残ると教えられてリィスはやる気になる。


「ついでだから紙を上げる?」


「ありがとうございます!」


 紙だけではなくペンも貰って小学生は礼を言って走り去る。

 向かう先は学校だった。



「あれ、もしかしてリィスじゃない?」


 学校では生徒や教師たちが正気に戻り自分達がやっていたことに顔を青褪めている者、後悔している者、ざまぁと思っている者、様々な考えをしている者たちがいた。

 ざまぁ、と思っている者たちはルカがリィスを虐めているのを邪魔だと思っている者たちだ。

 人殺しの娘なのに必死に庇っているのも腹が立っていた。

 どう考えて正義はこちらなのに悪いのはお前たちだと言ってくるルカは目障りだった。


「何で学校に来ているんだ?」


 そしてリィスに対して何で学校に来るんだと文句を言いたくなる。

 彼女が学校に来るせいで子供は無事なのかとクレームはくるし、自分たちリィスどころかルカまでも攻撃し始めたのは彼女が来るせいで、おかしくなっていたのだと八つ当たりする者もいる。



 そんなことを思われているとは知らず、知っていても関係ないとリィスは学校の屋上へと走っていく。

 授業中でもあるが途中、関わりたくないと無視しているのもあってストレートに屋上へとたどり着いた。


「えっと、まずは皆への恨み辛みを書けば良いんだよね……?」


 高校生に教えられたことを紙に遺書として書いていく。

 ただただ辛かったこと、苦しかったことを思ったままに書く。

 誰にも教えられたわけでは無く訂正もされず好きなように書いていく。


「結構、書いたかな?」


 終わったのは学校の鐘が二回ぐらい鳴ってから。

 多くの不満があったからか、かなりの枚数を使ってしまった。

 もう少しで紙も二桁に届いている。


「………ここから落ちるんだよね」


 屋上から下を見ると既に帰ろうと学校から出ようとしている者も見えてくる。

 これなら直ぐに気付くはずだと予想できる。

 そしていざ飛び降りようと屋上から下を見て足が震える。


「ふぅ……。ふぅ………。ふぅ……」


 ハッキリ言ってリィスはかなり恐怖を覚えていた。

 死ぬとは決めていても、やはり怖い。

 覚悟を決めていたというのに飛び降りるのを止めたくなってきている。


『貴女は今、死んだ方がマシかもしれないわ』


 高校生から言われたことを思い出すリィス。

 このまま生きて一生、あんな目で見られるよりは死んだ方がマシだと思い出す。


「そうだった。死んだ方がマシな人生だったんだ」


 覚悟を決めて地面を見る。

 そしてゆっくりと足を踏み出していき――


「何をやっているんだ!!」


 後ろから叫び声にびっくりして地面へと落ちて行った。




「え」


 目の前に何かが落ちて頬に何かが濡れる。

 拭ってみると赤いべったりとしたものがついていた。


「……………」


 上から落ちてきた何かを想像できてしまい息苦しくなる。

 見るな、見るなという声がどこからか聞こえてくるが落ちてきた何かを激しく息を途絶えさせながら直視してしまう。

 そこには女の子の服装を来た頭が潰れている何かがあった。


「はっはっはっはっ!!」


 その服装を見たことがある。


               ―思い出すな―


 朝にある少女が来ていた服装だ。


               ―思い出すな―


 何なら午後の勉強で教室から学校に来ていたところを見ていた。


               ―思い出すな―


 学校全体で人殺しの子供だと虐めていた女の子だ。


               ―思い出すな―


「おぇぇぇぇ!!」


 心の声を無視して理解すると同時に吐いてしまう。

 それは一人だけじゃない。

 学校のほとんどが目の前で死者が出て、それを直視したせいで吐いている。


「キャァァァァァ!!」


 遅れて悲鳴が聞こえてくる。

 目の前で見ていない者たちだろう。

 近くで見ている者たちは血生臭いのもあって悲鳴を上げる余裕もない。

 動く余裕も無いから近くで臭いと死体を見続けることになって悪循環。


「大丈夫ですか!?」


 そのまま蹲っていると聞きなれない声が聞こえてくる。

 白衣を着ていて、まるで医者の様だ。

 そのまま抱き上げられて学校のベッドへと運ばれる。

 保健室の中には他にも何人か寝かされている。


「お家の人を呼ぶから、それまでここで休んでいてね」


 聞こえてきたのは保健室の先生の声。

 その声も震えていて辛そう。


「これで学校内で倒れている子供たちは全員ですね。他の子どもたちは全員、帰ったはずです」


「ありがとうございます……」


 学校にいる皆は保健室にいるのを除いてみんな帰ったみたい。

 直接、遺体を見て臭いまでしたわけじゃないから自力で帰れる余裕はあったみたい。


「救急車にも乗せてありますので親御さんが来たら連絡をください」


「ええ」


 運び込まれているのは保健室だけではないみたい。

 そして思った以上に目の前でしなれたことにショックを受けていた者たちが多いみたいだ。


「それにしても学校で自殺をするなんて虐めでもあったんですか?」


「それは………」


 自殺をした者のことを思い出して吐き気が襲ってくる。

 昨日まで生きていた者が死んだということに今まで考えることも無かった死というモノに恐怖を覚えてしまった。

 虐めをしていたが、自殺をするなんて夢にも思っていなかった。


「大丈夫ですか!?吐きそうになったら直ぐに向かいますので我慢しないでね?」


 吐きそうになると直ぐに背中を擦ってくれる。

 だけどルカのように自分も味方をしていれば死ななかったんじゃないかと思い、自分に優しくしてもらう資格は無いと酷く後悔していた。



「そんな!」


「嘘を言うな!」


 小学生のリィスの両親、レイトとライムは娘が自殺をしたと聞いて信じられないと否定する。

 朝も元気は無かったが会話をしたのだ。

 とてもではないが信じられない。


「本当です。遺体も運んであるので確認してください」


 その言葉に家の前にまで来た救急車の中に入る。

 そこには確かに朝に娘が着ていた服装を身に纏っている何かがあった。

 恐る恐る顔に被ってある布を取るとたしかに頭が潰れていたが娘の顔だった。


「あああああああああ!!」


 レイトは慟哭しライムは意識を失って倒れる。

 幸い近くにいた看護師が倒れることを予想して近くにいてくれたおかげで怪我をすることは無かった。


「辛いと思いますが、これもお受け取りください」


 看護師は倒れたライムを横にしてレイトに手紙を渡す。

 それは自殺をする前に書いたリィスの遺書だった。


「これは………」


「勝手に内容を読んでしまいましたが貴方の娘の遺書だと思います。飛び降り自殺の現場に遺されてありました」


 勝手に内容を呼んだということに怒りが沸きあがり睨む。

 だが遺書だとわかったのは内容を読んだからでもあるはずだ。


「申し訳ありません。現場に落ちていたので何だったんだろうと確認した結果ですので許してください」


 思った通りの理由に許すしかなかった。

 そもそも中身を見なかったら遺書だとも思わず渡してくれなかったかもしれないと思うと感謝しかない。

 それを受け取りライムと一緒に読もうと決意する。




「起きたか……」


 ライムが目を覚ますとレイトが心配そうに顔を覗き込んでいた。

 その姿に娘が死んだというのは夢だと思ってしまう。


「………夢を見ていたわ。娘が自殺する夢」


 ライムの言葉にレイトは顔を逸らす。

 どうやら娘が自殺したのを夢だと思い込んでいるようで現実を思い出させることに戸惑ってしまう。

 だけど、これも自分達の罪だと現実を思い出させる。


「それは夢じゃない。現実だ」


「嘘よ」


「嘘じゃない」


「嘘!」


「俺たちの過去の罪が娘に降りかかっただけだ」


「嘘よ!!」


「これが俺たちの罪だと受け入れろ!!」


「嘘よ!!何で私たちじゃなくて娘に降りかかるの!罪に裁かれるのなら私たちじゃない!!」





「あっはっはっはっは!!」


 現実に対して認められないライムを水晶から見て高校生のリィスは腹を抱えて爆笑する。


「はっ」


「ぷっ」


 そしてセイナは鼻で笑い、事務員もニコニコとした笑みを浮かべる。

 リィスは事務所から二人を見ていた。


「あぁ~。さいっこう!!」


 レイトとライムが絶望している姿にリィスは満足げに笑う。

 自分の両親を殺したのだから、この程度では許すつもりはない。


「それにしても実際にやったのはチラシを配るだけで、ここまで出来るのね」


「それもそうね。そういうわけだからお金もまけてくれない?」


「マントが無ければ見つかっていましたよ。それにアドバイスもしましたし、あとは個人で学校や家に侵入できたんですか?」


「うぐ…!」


 払うべき金額を減らしてくれというリィスに事務員は自分が協力した内容を口にして拒否をする。

 リィスもマントが無ければ警官に見つかっていたかもしれないことを思い出して何も言えなくなる。

 特に家の中に侵入して気付かれないなんて夢のようなことを実行されたから金額をまけないのも納得できてしまっていた。


「なら私の身体をどう使っても良いから安くしてくれない?」


「なっ!」


 リィスの言葉にセイナは激しく反応し事務員はため息を吐く。

 何度もセイナといちゃついている姿を見せているのに何で同じことを繰り返すのか理解できない。


「…………何度も言っているけど、いりません。それとこれで終わりにするのでしょうか?」


 事務員の言葉にリィスは口を三日月のようにして笑う。

 それを見て事務員は理解する。


「そんなわけないじゃない。まだまだ続けるわ。あの二人が死ぬまでね」


 その言葉に本当にこれからの長い人生を苦しめるために使うのか、それとも殺害することに決めたのか、どちらか事務員は首を傾げる。


「………そうなんだ」


「それはどっちの意味でしょうか?」


 セイナは長く苦しめるつもりなんだと考え、事務員は疑問を口にする。

 事務員の疑問にセイナは意味がわからないと疑問を浮かべるがリィスは分かりにくかったかと言い直す。


「もちろん、殺害に決まっているじゃない」


「そうですか。なら、なるべく早く殺害した方が良いと思いますよ。悲劇の主人公たちにされそうですし」


 事務員の言葉にリィスは更に殺害することを決意する。

 両親を殺した癖に悲劇の主人公になるなんてふざけている。


「何か良い方法は無い?」


「そうですね………。上手くいくかは分からないですけど、こんな方法はどうですか?」


 尋ねると答えてくれる事務員に嬉しそうにリィスは近づいていく。

 セイナはそれを見てこめかみに青筋を浮かべる。


「良いわね!それなら確かに犯罪者として記憶に残りそう!!」


 凄い凄いとはしゃいで事務員に抱き着くリィス。

 セイナはそれを見て一瞬で移動し二人を引き離そうとしていた。




「…………ねぇ?もしかして貴方たちは誰かを憎んでいませんか?」


 家の中で娘が死んだショックで呆然としていたレイトとライムにマントを被った誰かが話しかけてくる。

 誰も家の中に入れた記憶に無いのに侵入してきた相手だが二人は何も抵抗をするつもりはない。

 このまま死んでしまっても、どうでも良いと思っていた。


「おかしいですね。大事に育てていた娘が殺されたと聞いたから復讐するかと思ったんですが………」


 本当に残念そうにため息を吐くマントを被った誰か。

 声からして女だとわかるが娘の死を利用しようして自分達を操ろうとしていることに二人は思いきり睨む。


「おぉ、怖い怖い。でも娘さんが死ぬのはおかしいと思いませんか?貴方たちが殺されるのは納得しますが、娘さんは関係ないでしょう?」


 心の片隅に思っていたことを口に出されて二人はマントを被った女を見る。

 自分達が迫害されるのは納得するが関係のない娘まで迫害されるのは納得いかなかった。

 無理矢理に納得していたが本心では怒りをため込んでいた。


「だから何だ?」


「そうよ。だから復讐をしろって言うの?娘が死んだのは私たちの罪なのに?」


 怒りをため込んでいるが、それでも死んだのは自分達のせいだという二人にマントを被った女は笑う。


「ぷっ」


「何がおかしい!」


 自分達の決意を笑うマントを被った女にどうしようもなく怒りを抱く二人。

 その姿が更にマントを被った女はおかしさを覚える。


「だからって自殺するまで追い込んで良いわけが無いじゃないですか?これはもう立派な殺人ですよ。貴方たちのことを調べさせてもらいましたが同じ穴の狢じゃないですか」


 マントを被った女の言葉に二人は何も言えなくなる。

 自分達の被害者がやったのなら因果応報だろう。

 だけど実際に娘を自殺にまで追い込んだのは、それとは関係のない者たち。

 そう考えると憎しみが沸き上がってしまう。


「おや?これは………」


 マントを被った女は机の上にあった遺書を見つけてしまう。

 それには同じ学校の生徒たちに虐められ隠れて暴力を振るわれて辛い苦しいと書かれてあった。


「へぇ……」


 そして両親への恨み辛みも書かれてある。

 二人の間に生まれて居なければ、こんな苦しみも味わうことは無ったのにと。


「虐めや暴力を振るわれていたんですか。もしかして娘さんは学校の皆を憎んでいたのかもしれませんね。案外、代わりに貴方たちが復讐したら喜ぶかも?」


 あえて両親にも恨み辛みが書かれてあることを無視する。

 良い感じに憎悪をたぎらせてきているのに冷や水を浴びせるつもりはない。


「………貴方もそう思いますか?」


 その言葉にマントを被った女は嗤う。

 自分達の責任や罪と言っていたが本心は憎くてたまらなかったのだと。

 ただ誰かに後押ししてもらいたかったのだと理解してしまった。


「えぇ、そう思いますよ。貴方たちが望むなら必要な物を準備してあげましょうか?」


 マントを被った女の言葉に二人はしっかりと頷く。

 どうやら復讐する気になったらしい。

 そのことがマントを被った女は笑みを浮かべる。

 もし後押しをしなかったら復讐をする気にはならなかっただろうと自分を褒め称える。


「それじゃあ何が必要ですか?」


「…………いえ、大丈夫です。今、あるもので十分に復讐は出来ますので」


 足りないものは無いというレイトとそれに頷くライムにマントを被った女は面白そう笑う。

 どうやって復讐するのか非常に楽しみだ。


「そうですか。それではもし必要になったら、これに連絡をしてください」


 そう言って連絡先を書いた紙を渡す。

 このためだけに準備をした連絡先で、目の前の二人の復讐が終わったら捨てるつもりだ。


「ありがとう。もしもの時は使わせてもらうわ」


 ライムの言葉に頷きマントを被った女は消える。


「「な!」」


 動いた様子もなく、その場から消えた女に二人は目を見開く。

 先程までマントを被った女の場所を確認しても何もない。

 夢を見たのかと思っても連絡先が書かれていた紙がこれは現実だと示していた。


「もしかして悪魔だったのか……?」


「何を言っているのよ?」


「急に姿を現して復讐を誘い、そして目の前にいたのに急に消える。悪魔だとしか思えない」


 レイトの言葉にライムも最初はあり得ないと思っていたが納得できてしまう。

 復讐なんて薦める者は悪魔ぐらいだ。

 普通は無関係な者であっても止めるように口にする。


「だとしたら復讐の協力に代価として魂でも奪われたのかしら?」


「有り得そうだな」


 二人は会話をしながら包丁やナイフといった刃物を準備していく。

 他者を殺すのは刃物さえあれば十分だという意思すらも伝わってきそうだ。


「…………決行は明日」


「一番人が外に出ている昼かしら?」


「いいや。朝にしよう。その時間なら警官もまだ少ないはずだ」


 誰かいても警官ではなく一般の見守りの人がほとんどだ。

 プロでないため警官よりは相手にしやすい。

 そのことを説明するとライムも納得してくれる。


「わかったわ。それじゃあ明日のために今日はもう寝ましょう」


「そうだな」


 二人は明日、復讐することを決めて同じベッドの入る。

 これで最後だと互いに抱きしめ合い、相手のぬくもりを感じながら目を瞑った。

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