八話
「レイさん。ディアロ君がリィスに連れて行かれているけど良いの?」
「多分、大丈夫よ」
レイへとクラスの女子が心配して声を掛けるが気にしていないと返す。
それよりも正体がバレてしまったと焦っている。
ディアロが二人で行ったのも黙るように頼むためかもしれない。
「なぁ、なんかリィスが悪い顔をしてディアロが嫌そうな顔を浮かべて後をついていたんだが弱みでも握られたのか?」
教室に来るなり一人の男子生徒がそんなことを言ってくる。
クラスにいた者たちはその顔を見ていなかったからディアロが嫌そうな顔をしていることに気付かなかった。
「そうなの?」
「…………多分、そうかも」
もしかしたら復讐の協力代金を無料にしてくれと言われるかもしれない。
そして、その原因となった私がどうなるか分からない。
たしかに捨てる気はないと言われたけど、純粋に信じるのも難しい。
「…………皆、どうしたの?」
思ったよりも早くディアロとリィスが戻ってくる。
リィスは顔を赤くし、ディアロの顔は不機嫌そうだ。
しかもリィスはチラチラとディアロを見ており、レイを不快にさせる。
「……………ねぇ、何をしていたの?」
レイの行動にクラスメイト達は修羅場かとワクワクする。
海岸の火事だから楽しく眺めれている。
「ちょっとした頼み事と貸しを消すことになっただけ」
「あ………」
レイは事務員の言葉に納得して目をそらしてしまう。
自分のミスで赤字になったのだ。
申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「あれ?」
「思ったのと違う?」
浮気や三角関係だと思ったがディアロの言葉に理解を示すレイに違うのではないかとクラスメイト達も想像する。
でなければ最近、知ることになったレイの嫉妬深さから納得するのはあり得ないと考える。
そしてリィスを確認すると顔を赤らめて首を撫でながらディアロを見ていた。
「「「「「「……………」」」」」」
クラスメイト達はリィスの顔を見てディアロに好意を持っていることを悟ってしまう。
しかも首を撫でていることに、この短い間に触られたと想像してしまう。
そして首を触るといったら絞めることに思い至って背筋が凍る。
「それと今日の放課後、リィスと一緒に小学校に行くことになったから。最近、遊んだ小学生が気になるし」
「わかったわよ。放課後になったら直行でいいのかしら?」
「………そうだよな、リィス」
「えぇ」
小学校と聞いて妹や弟に小学生がいるクラスメイト達は反応する。
中には事件の記事をチラシに入れられた者もいる。
「それってリィスって子の?」
小学校で起こっていることを知らない者たちは何でここでリィスが出てくるのか分からない。
自分達と同じ年齢の相手に子とつけるのも困惑してしまう。
「そう。偶然、会って一緒に遊んだんだけど良い子だったから今日も遊ぼうかと思って」
「………でもさぁ、人殺しの子供だぞ。悪影響を与えるかもしれないから出来れば距離を取らせたいんだけど」
「それはしょうがない。でも良い子だから親御さんと引き離した方が良いと思うんだよな。むしろ長く一緒にいた方が影響を受けそう」
「…………たしかに。さっさと引き離した方が良いな。苛めを受けているらしいし、この件で恨まれたら殺されそう」
クラスメイトとディアロの会話に知っていた者たちは顔を見合わせる。
引き取るべきか、それともそのままにしておくべきか悩んでしまう。
中には一度家に帰ってから両親に相談するべきだと考えている者もいる。
「そういうわけでよろしくね、レイ。これからも私も一緒にいることが多くなるから」
「…………」
どういうことだとディアロに視線を向けるレイ。
ディアロはこの場で話す気は無いのか何も言わない。
「……………」
「……………」
二人は黙って見つめ合う。
レイは睨み、ディアロはただ見ている。
クラスメイト達は二人の作り出す空気に呑まれて緊張する。
リィスは笑っている。
「ふぅ。………後で説明してね」
「わかっている。ここだと口にしにくいだけだ」
ディアロの言い訳にレイはそういえばと納得する。
たしかに教室では言いづらい。
放課後まで待つべきかと納得する。
「ふふっ」
二人が見つめ合っている間も話している間もずっと楽しそうに笑っているリィス。
リィスを何となく見ていたクラスメイトはそれを見て楽しそうに笑う。
これから修羅場が起きると想像するが、第三者として身近で眺めれると思うと楽しそうだからだ。
自分には関係ないから楽しめる。
「…………ねぇ、リィスってディアロのことが好きになったの?」
そして確認のために誰にも気付かれないように小声で話しかける。
他の皆はリィスとディアロを見ていて、こちらには気づいていない。
「そんなにわかりやすい?」
「多分、教師に入ってきたときの顔を見れば誰でも理解できると思うよ。それで何で好きになったの?」
興味本位で確認するとリィスは自分の首を軽く触って恋する少女の顔でほほ笑む。
「秘密」
予想が当たっているのなら首を絞められたはずだ。
それなのに恋をするなんて被虐趣味なのかと引き、少しだけディアロに同情した。
女性の首を絞めるなんてことをしたから、いい気味だと思っている気持ちの方が強かったが。
「うわっ!来るなよ!」
「人殺し!近づかないで!」
教室に入るとリィスはクラスメイト達に拒絶される。
親のせいで遊んでいた友達すらも距離を取っていく。
「……………」
教室にある机に移動するまで警戒されている。
ルカは最近まで仲良く遊んでいたのに掌を返す友達たちを軽蔑していた。
そして隣の席ではなく少し離れているのに悔しがる。
近くだったら守れたのに離れているから同じクラスでも守りにくい。
「…………っ」
机の上には菊の花が置かれてある。
そして椅子の上には画鋲が所狭しに椅子に乗った人に刺さるように置かれている。
椅子を引いたときに何個か落ちて気付いた。
「うわっ!何やってんだよ。ちゃんと拾えよ」
「…………」
リィスは自分が原因でなく椅子に悪戯をした奴らが悪いと思って無視して座ろうとするが男子に突き飛ばされ画鋲が手に刺さる。
「無視してんじゃねぇよ。人殺しの癖に!!」
運が良かった。
突き刺さったのは手だけだったのだから。
運が悪かったら手どころではなく首や顔に刺さっていた可能性もある。
今も画鋲が刺さった手は血で濡れている。
「キャーー!!」
「うわぁ!!」
自分達で怪我させようとやったことなのに実際に血を見ると悲鳴を上げる小学生たち。
リィスも被害を受けた本人だから一番泣きたいのに泣けないでいる。
手の痛みよりも友達の行動が心に痛みを与えてくる。
「ちょっと!!リィス、大丈夫!?」
ルカはリィスの手が血だらけになったのを見て自分の席からリィスの元へと移動する。
そしてクラスメイト達を睨む。
こんなことをするクラスメイト達と同じだと思われたくないと、ますます一緒になってリィスを排斥するようなことが嫌になった。
「リィス、一緒に保健室に行くわよ!」
まだ教師は来ていないが関係ないとルカはリィスを連れて保健室へと行こうとする。
手が怪我をしているから治療するのが最優先だと行動する。
「何があった?」
生徒たちが悲鳴を上げてから、ようやく教師が来た。
悲鳴を上げてから時間が少し経過しており来るまで遅かったことでルカは冷たい視線を送る。
「血か?誰か怪我をしたのか?」
そう言って周りを見て確認するとリィスが怪我をしていることを認識すると教師は安心したように息を吐く。
そのことに、どうして安心したのかとルカは睨みつけた。
教師は怪我をしていたのがリィスで本当に良かったと安堵していた。
他の子供が怪我をしていたら人殺しの子供がいるせいでとクレームを付けられる。
何で人殺しの子供と一緒のクラスにしたのかと抗議を受けたくないのだ。
そして保護者達に学校から追い出せと言われて追い出したくもない。
学校から何も悪くない子供を親が人殺しだからと追い出すのは教育機関として褒められたものではないし外聞も悪い。
できれば自分から退学してほしいと思っている。
「先生、リィスを保健室に連れて行って良いですか?」
「あっ。大丈夫ですよ。行ってきてください」
今もクレームが激しい。
苛めでも何でも良いから転校してほしいと学校の先生たちは願っていた。
「わかりました!それじゃあ行ってきます!」
その気持ちが察してしまったのかリィスは泣きそうになり、ルカは怒りをぶつけないように大声で保健室に行くことを伝えて教室から去っていった。
そしてルカとリィスが離れてから生徒たちが先生へと思い思いに話しかけていく。
「先生もリィスが学校から消えて欲しいと思っているの?」
当然、生徒たちも先生がリィスに対して転校してほしいと察している者もいる。
同意を求めているのは先生公認でリィスを苛めて良いのかということ。
先生公認なら気軽に出来るし、責められても悪いのは先生だと言い張ることも出来る。
「そりゃそうだけど……」
そして先生はクレーム対応で疲れていて頭がそこまで回らずに肯定する。
転校してほしいとは思っているが苛めるのは許可してないから大丈夫だろうと考えてしまっていた。
「ふぅん」
子供たちは先生の言葉を聞いて頷きあう。
これからも転校するまでリィスを苛めようと決める。
自分達の安全のためだ。
そして人殺しという悪を退治するのに罪悪感は子供たちにはなかった。
血を流したことに悲鳴を上げていたのに、もう忘れてしまったらしい。
「私たちもリィスが怖いし、さっさと転校してもらわないと………」
その声は隣にいた子供にしか聞こえず、深く深く頷いていた。
「すいません」
「……………どうしたの?」
リィスが保健室に入ると一瞬だけ嫌そうな顔をして笑顔を浮かべる保健室の先生。
ルカはこの先生も同じかとため息を吐く。
もう、この学校にいる大人も信じられない。
リィスは人殺しの娘かもしれないが何も悪くない友達なのに誰も味方しようとしない。
「リィスの手が血だらけになってしまって……」
「ちょっと見せてくれる?」
怪我の具合を見た保健室の先生は消毒液を掛けて包帯を巻いていく。
どうやって、こんな怪我をしたのか気になる。
他の子供たちも怪我をしないようにするための仕事だ。
「実は…………」
「そう。辛かったわね」
保健室の先生の言葉にルカは胡散臭いと顔をしかめる。
リィスを見た瞬間にした嫌そうな顔を見逃さなかったからこそ口だけの嘘だと理解していた。
「二人とも久しぶり」
学校が終わり下校しようとすると以前、一緒に遊んでくれた高校生たちと出会った。
つい最近のことだし同じ名前の者もいるから印象深い。
それでもルカは警戒して睨みつける。
「ふふっ」
そんなルカに高校生たちは笑う。
友達を守るために警戒する姿は微笑ましい。
高校生のリィスは内心を押し隠して優しそうに笑い、レイは感心している。
そしてディアロは同情するかのように視線を小学生のリィスへと笑った。
「…………何?」
ルカはこの三人に以前、置かれた状況について教えたが考えを変えた可能性もあるとして距離を取ろうとする。
高校生の同じ名前のリィスが優しそうな笑みを浮かべてことに大丈夫かもしれないとも思っているが学校生活のせいで警戒心が強くなっていた。
「大丈夫?高校でも君の噂が届いているけど辛かったら両親と相談して、この地から離れて転校するのも手だよ」
小学生のリィスの方を確認するとアドバイスをしている男の人がいた。
その姿を見てルカは取り敢えず警戒を解いた。
警戒している自分を無視して小学生のリィスに心配そうに声を掛けている姿に呆れたのもある。
「その………。お久しぶりです………」
ルカは自分達によくしてくれたのに、久しぶりにあって警戒したこともあって決まりが悪そうに挨拶をする。
高校生たちはそのことに気付き、気にしていないと伝える。
「別に気にしていないから大丈夫よ」
「そうそう」
「ありがとうございます……」
気にしていないという言葉に小学生のリィスは感謝をする。
味方がルカ以外にもいて凄く嬉しそうだ。
「もしかして味方がこの子しかいないの?」
信じられないようにレイが質問すると頷かれて絶句する。
少なくとも教師の何人かは味方だろと思っていた。
それなのに誰もが味方をすることがいないと聞いて教育現場が腐っていると思ってしまう。
「君は凄いなぁ」
ディアロも誰一人、他にも味方がいないのに小学生のリィスを味方するルカに感心して肩を叩いた。
自分だけが周りと違う行動をするのには勇気がいる。
それを学校という一つの世界で行うにはどれだけの勇気が必要なのか分からない。
だから何度も凄いと肩を叩いてしまう。
「痛い痛い痛い!!」
「…………はぁ」
「あがっ………」
何度も肩を叩いているせいで痛みを覚えているルカを見てレイはため息を吐きながらディアロの頭を叩いて止める。
叩くのをやめてくれたおかげでルカは肩を抑えながらレイへと感謝する。
「何度も肩を叩くのを止めなさいよ。ルカちゃんなんて肩を抑えているじゃない」
レイの言葉にディアロも確認して頭を下げる。
女の子が痛そうに肩を抑えるのはたしかにダメだった。
「ごめん。お礼に出来ることなら何でもしてあげるから許してくれないかな」
ディアロの言葉にルカは目を輝かせる。
正直、家に置くのも危険だとルカは考えていた。
記事が張ってある紙がポストに入っていた日、リィスが泣いていたのを思い出す。
もしかしたら家族にも暴力を振るわれていないか心配だ。
「それじゃあ家に泊めてもらえませんか?前に家の中からでリィスが泣いていたのを聞こえてきたので」
「ごめん。私、孤児院育ちだから無理。他のことなら大丈夫」
高校生のリィスの言葉にルカは残念に思う。
孤児院で暮らしているのならしょうがないとも思っていた。
他の案を考えるしかない。
「それじゃあ、また遊んでくれませんか?」
ルカは高校生と遊んでいれば、その間は誰にも虐められないだろうと考える。
ディアロはその方が都合が良いと頷き、レイもリィスも頷く。
「…………良かった」
これもまた断れるかもしれないと想像していたせいか安心する小学生たち。
流石に毎日は無理でも遊んでくれる日があるなら良い。
その日は確実にリィスを守れるのだから。
「それじゃあ今日は何をして遊ぶ?二人の好きなことで良いわよ」
レイが頼み事はそれまでにして遊ぶことを考えようという言葉に小学生の二人は悩む。
一緒にいてくれることを望んでいたから何をして遊ぶかなんて考えていない。
「公園も良いけど、前みたいにゲームセンターでも良いよ。金なら俺が払って上げるし気にしなくて良い」
「へぇ……」
「良いわね」
「小学生の子供は気にしないが、お前らは自腹だ」
「なっ」
「えぇ~」
高校生たちは自腹と言われて文句を言うがディアロは無視をする。
金はあるが小学生優先で払いたくない。
「ふふっ」
「ぷっ」
高校生たちの会話に小学生たちは吹き出してしまう。
特に小学生のリィスは久しぶりに心から笑ってしまった。
「………?それじゃあゲームセンターに行こうか」
小学生たちが笑ったことに何か面白いことがあったかと疑問に思うが、それよりもゲームセンターへ行くことへと優先する。
小学校の敷地からはこちらを怪しい者を見る目で見られている。
その目から逃げるようにディアロは少女たちの手を取って移動する。
近くにいる二人の女子高生と小学校の敷地から見られる視線が更に厳しくなった。
「…………はぁ」
「どうしたのよ?」
小学生の二人を見送ったあとディアロはため息を吐き、レイはそんな恋人に心配そうに声を掛ける。
口では何だかんだ言いながら、やはり人殺しの娘は関わりたくないと思っているのか疑問だ。
「なんで変態を見るような目で見られたんだろうなぁ……」
「あぁ……」
何でため息を吐いたのか理解できてしまった。
遊んでいた最中や外を歩いているとき手を繋いでいたディアロは怪しいものを見る目で見られていた。
小学生の少女二人とどちらも似ていない男が手を繋いでいると思えば、しょうがないかもしれない。
「まぁ、どちらの女の子とも全く似てない男が手を繋いでいれば怪しく思うのはしょうがないわよ」
「…………こういう時、男って不便だなぁ」
「なら女装する?「私も参加させて」……リィスもこう言っているし」
「ふざけんな」
女装と聞いてリィスが良い笑顔で話に加わってくる。
余程、ディアロを女装させたいらしい。
もしくは、それを片手に弱みを握ろうと考えているのかもしれない。
「良いじゃない。恋人と同じ服を着れるのよ?」
「そうね。今は恥ずかしくても時が経てば笑い話になるかもしれないじゃない。女装しましょうよ」
「本当に勘弁してください」
頭を下げてディアロは許しを乞う。
そんなにゲームセンターで奢らなかったのが不満なのかとため息が出てきそうだ。
「…………そんなに嫌?」
「恥ずかしいから嫌だ。男子では女装は変態がやるって基本認識なので許して」
変態だとは思われたくないのだとディアロの言葉にレイも考え直す。
恋人が変態だとはレイも思われたくない。
「しょうがないわね」
「えぇ~」
レイは納得しリィスは不満の声を上げる。
是非ともディアロの女装姿を見て写真を撮りたかった。
恥ずかしがり嫌がるなら、それを撮ることで弱みを握れると思った。
そうなればディアロとも一緒にいられると考えたのもある。
「あ?」
レイはそれを察知してリィスを睨む。
自分の恋人を狙っている気がしたせいだ。
「どうしたの?」
リィスの疑問にレイは頭を冷やす。
ディアロを狙っていると口にしていないのに睨むのは嫉妬が強すぎると反省している。
「一応、言っておくけど恋人になろうとは思っていないわよ」
そして続けられたリィスの言葉に安心する。
折角、恋人になったのに奪われるなんて情けなくて嫌だ。
それだけ自分に魅力が無いと言われてしまうものだ。
目の前にいるリィスは魅力的な女の子だと友人だからこそ知っているから警戒してしまう。
「ただ愛人でも良いから傍に置いてほしいだけで……」
「は?」
「あっ、知っていると思うけど私に親はいないから何か言われることは無いわよ。最悪、家政婦としてでも置いてくれれば良いし」
「ねぇ?」
目の前の女の言葉に今度はディアロへと視線を向ける。
少なくともレイの知っているリィスはこんなことをいう女ではない。
だからこそ、こんなことを言わせるのはディアロが原因だと睨む。
「…………そんなにレイのことが好きなんだ?」
「?レイのことは友人として好きですが私は貴方の隣にいたいからこんなことを言っているんだけど?」
リィスの言葉にレイは目を吊り上げ、ディアロはどうしてこうなったんだと困惑する。
ディアロからすると好意を持たれるようなことをした覚えは無いから疑問だ。
むしろ嫌われたり怯えられるようなことしかしていない。
その割にはそんな姿を一切見せなかったが。
「本当に何をしたの?」
「…………?」
レイの再度の質問にディアロは首を傾げるだけ。
本当に何で好意を持たれているのか理解できない。
そしてレイはディアロが首を傾げて本当に理解できていなくても原因は目の前にいる男にあると睨み掴みかかっている。
「……………」
ディアロは目の前のすぐ近くに顔がある恋人を見て見惚れていた。
一直線に自分だけを見てくる目に嬉しくなり、独占したくなる。
「何……?」
何も答えないディアロに不機嫌そうにレイは尋ねるが何も返さない。
そして腰を抱き寄せキスをした。
「……………ん」
そのままの状態のままディアロはリィスへと視線を向ける。
キスもしたかったが同時に目の前でこんなことをすればリィスも諦めるだろうと思っていたからだ。
現にリィスも不機嫌そうな表情を向けている。
「ぷはっ………」
キスから離れたレイは友人の前でキスをしたことで恥ずかしくて顔を赤くしたり、キスをしていたのに別の相手を見ていたことに怒りで顔を赤くしたり、目的を察して顔が赤いまま複雑そうな顔をしたりする。
レイもこれでリィスはちょっかいをかけないだろうと予想している。
「俺は二股をするつもりはないよ」
続けられたディアロの言葉にレイは嬉しくなり、リィスは首を傾げる。
何でここで二股という言葉が出てくるのか理解できないでいる。
念のためにもう一度言うことに決める。
「どんな形でも貴方の傍にいたいだけだから恋人じゃなくても近くにいるわよ?」
「…………………」
「…………………」
リィスの言葉に二人は沈黙し風が吹いていった。
リィスはディアロとレイと別れて事務所へと向かう。
二人は用があると言ってリィスから離れていって白けた目を向けられる。
とっくにリィスにはバレているのに未だに隠そうとしていた。
「こんばんわ」
そして事務所へと着くとマントを被り姿を隠した二人がいる。
用があると言っていたのに、やっぱり復讐相談事務所にいた。
「こんばんわ。何の用でしょうか?」
「復讐相手の娘の友達を排除したいんだけど、良い案は無い?」
茶番だと思いながらリィスは事務員へと尋ねる。
もう正体は分かっており、この場にいるのは三人しかいないのに隠す必要があるのか疑問だ。
そしてディアロへと既に相談した質問だ。
「えぇ。もう手は打ちましたから安心してください。彼女は明日から虐められるでしょうね。友達を守る余裕も無くなるでしょう」
ルカを排除したいと言ったのは、まだディアロにしか言っていないのに手を回すあたり本人だと言っているようなものじゃないかとリィスは呆れる。
だが、そこらへんは口にしない。
口に出してまたいろんなことをされるのは嬉しいが今はあとだ。
それよりも復讐が優先されるべきことだ。
「…………何で首に触れながら身体を抱きしめているんですか?」
「そんなの…………」
セイナの言ったとおりの姿勢に疑問を持たれるが顔を赤くしてチラチラと事務員を見ることで答えを教えようとするリィス。
それでようやくリィスは思い至る。
身体を抱きしめたのは恥ずかしい格好を撮られたから。
そして首を触れているのは触られたから。
もしかしたら首を絞めようとしたのかもしれないと事務員を見る。
「……………」
事務員はセイナの視線に顔を逸らす。
その行動のお陰で首を絞めたのだと理解してしまう。
友人にそんなことをした事務員に本気で睨みつける。
「…………ねぇ?」
「許してくれませんか?脅されそうになったので逆に脅そうとした結果なんです。本気で殺す気なんてあるわけないじゃないですか」
脅されたから逆に脅そうと首を絞めたのだと聞いてもセイナは事務員を許す気は無い。
セイナからすればリィスが顔を赤くしているのも事務員が新しい扉を開いたせいだと確信していた。
思いだせば身体を強引に操られて好きなように写真を撮られていた時から顔が真っ赤だった。
アレが怒りや屈辱ではなく興奮で顔を赤くしていたのかもしれない。
「ねぇ、何てことをしてくれているの?」
友人は片鱗はあったのかもしれないがノーマルだった。
それが目の前にいる恋人のせいでマゾへと開花させられていく。
その上、虐められるなら開花させた本人が良いと考えていた。
他の女に好意を持たれるように動く。
これは、ある意味浮気じゃないかと事務員を責め立てる。
「…………本人の資質が無ければ開花しなかったし」
事務員の苦し紛れの言葉にセイナは更に責め立てていく。
「…………もう私は帰ろうかしら?」
頼みたかったことは既に完了しているから、もう要件は無い。
目の前で痴話喧嘩を見られるのも辛くて帰りたい。
流石に好きな男と、おそらくは友人がいちゃついているのを見て興奮するまでまだ至ってもいない。
多少とはいえ、見ていて流石に心苦しい。
「私はもう帰りますね」
「えぇ、またのご利用を……」
静かに帰ろうとしたら事務員から挨拶を返される。
痴話喧嘩をしながらリィスを把握していたらしい。
セイナも事務員の言葉でセイナがいたことを思い出す。
ただし、事務員の膝の上に乗っているが。
「それでは、また」
頭を下げてはいるがその腕は決して離さないという様に事務員へとくっついている。
その姿にリィスは羨ましくなり自分も隣に入れたらと羨望した。
「なにこれ………」
翌日、ルカは学校の教室へと入ると机が酷く汚れていた。
机の上に”帰れ”や”死ね”、”学校に来るな”と消えないように机を削って書かれている。
「誰がやったのこれ!?机を好感しなさいよ!」
リィスが狙われたわけでは無いとわかったのは机にルカの名前も書かれているからだった。
何で急に自分も狙われたのか理解できない。
陰湿にやるのではなく正々堂々と来ないのも理解不能だ。
そうしないということはルカが正しくて論破できないから嫌がらせをするということだ。
そうでなくては勝てない奴らに、こんなことをされて悲しくなる自分がルカは嫌だった。
「何があったんだ?」
「先生!」
「………ルカちゃん。机を大事にしよう?こんなに汚して。卒業したら他の子も使うんだよ?」
「は?」
「は?じゃなくて……」
先生の言葉にルカは思考が混乱する。
何でルカが机を削ったのだと判断するのか理解できない。
中にはルカという名指しで悪口を書かれているために、どう考えてもルカ以外の誰かがやったものなのにだ。
「罰として、それを使って学校では勉強しなさい」
こちらの反論を一切聞こうとせずに一方的に話を進めていく先生にルカはクラスメイトと手を組んでいることを理解する。
これが先生のやることかと睨み、削れて使いにくい机でルカは意地でも勉強してやった。




