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五話

「こんにちは」


 リィスが学校が終わると一度、家に帰ってから事務所に来た。

 手にはコピー用の代金と、コピーする紙だけだ。


「どうしましたか?」


「大量に紙をコピーしたいわ。貴方たちも手伝ってくれないかしら?」


 事務員はリィスの言葉に頷く。

 学校の昼休みの時間で印刷したモノだろう。

 どんな内容なのか興味深い。


「うわぁ……」


 セイナは印刷されていた内容を見て、これは確かに復讐したいと納得する。

 印刷されている紙に被害の内容が書かれている。

 被害者たちを全裸にして並べたり、金目のものを盗んだりと捕まったからと言って許せるものではない。


「本当にこれをばらまくんですか?」


 事務員は印刷された紙を見てリィスへと確認した。

 印刷された紙には加害者だけでなく、被害者の名前も書かれているせいだ。

 復讐をしても事件の復讐だと怪しまれる。


「当たり前じゃない。どうせ本当かどうか調べるときに私の名前も出てくるわ。それで下手に隠して怪しまれるよりは最初から名前を出した方が怪しまれないわ」


 リィスの言葉に事務員もそれならと頷く。

 どちらにしても怪しまれるなら最初から怪しまれても変わらない。

 もしかしたら姿を消せるマントで気が大きくなっているのかもしれないと想像する。


「そうですか。それじゃあコピーをしてきますので、明日渡せばよいでしょうか?」


「そうね。それでお願い。それとこれはコピー代金」


 リィスからコピー代金として千円、渡される。

 全て使うとしたら百枚コピーしてくることになる。

 またリィスはセイナへもお金を渡していた。

 これで合計で二百枚だ。


「こんなに使うんですか?」


 事務員も流石に多いのではないのかと声を出すがリィスは気にも留めない。

 少ないよりはマシという言葉に何も言えない。


「それじゃあ頼んだわ」


 リィスはそう言って事務所から出て行った。




「ええと、それじゃあ私もコピーに行くわね」


 セイナも事務所から出てコピーしに行こうとしている。

 それを腕をつかみ止める。


「え……。何かある?」


「明日の夜は暇ですか?」


「え………。え………」


 事務員の誘いにセイナは顔を赤くする。

 そういうことの誘いかと顔を隠してあたふたと視線を動かしてしまっていた。


「えっと、その……」


「暇ならリィスの後をつけませんか?」


 事務員の誘いに少しだけ残念そうにしながら安堵する。

 セイナはそこまでする覚悟はまだ無かった。

 何よりも付き合って数日なのに早すぎると思っている。


「………わかっているわよ」


 それでも、そういうことに興味津々だと思われたくないために顔を赤くしているのをバレないように平然としているように見せる。

 顔を隠すようにしていて良かったとセイナは思う。


「それじゃあ参加で良いですね?」


 事務員の言葉に頷いてセイナは事務所から出ていく。

 それを手を振って事務員は見送った。


「………何を勘違いしているんだが」


 見送った事務員はセイナの勘違いにため息を吐く。

 その顔を真っ赤だ。


「なんで付き合って直ぐにそういうことをすると思ったんだか」


 そんなに性欲の籠った目で見ていたかと後悔する。

 自覚が無かった。

 女性は性欲の籠った目で見られるのが嫌だと知っていたが行動に移せていなかった。


「………復讐のために来ているから、この程度は我慢する女性もいそうだけど治さないとな」


 もしかしたら視線が原因で提供した道具を信じられなくて使われないこともあるかもしれない。

 それを防ぐためにも取り敢えずはセイナから直接聞いて治していくしかない。


「それにしてもリィスは俺たちの力を借りると言っていたけど実行まで協力させるのかな?」


 便利な道具を渡したとからこそギリギリまで一人で実行しないかと考える。

 今も手伝わせているが、雑用としか言えないものだ。

 肝心な部分は一人で実行するかもしれない。

 そうなったら見守るつもりだ。

 事務員は自分を雇ったのだから、復讐は絶対に成功させると決意する。


「さてと俺もそろそろ行動するか」


 目的は頼まれたコピーではない。

 リィスだ。

 もしもの時、最低限のフォローをするためだ。


「リィスが去ってから、そこまで時間も経っていないし直ぐに見つかるだろ」


 直ぐに行かなかったのはセイナへと確認したいことがあったからだ。

 それも終わった。

 後はリィスを探すだけだ。


 事務員も事務所の外へと出る。

 そして上を向いて一息で上へと跳ぶ。

 一度、跳んだだけで事務員はリィスだけでなくセイナも見つける。

 二人とも正反対の方向に歩いていることに事務員は苦笑を浮かべてしまう。

 学校ではあんなに仲が良いのに正反対の道を選んでいることに、だからこそ仲が良いのかと想像していた。


「さてと取り敢えずはリィスを見守るか……」


 事務員は姿を消して決して気付かれないようにリィスの後を追っていく。

 自分のするべきコピーはリィスが孤児院に帰った後にやるつもりだ。

 このぐらいの量なら直ぐに終わると判断しての行動だ。

 外部で事件について印刷した紙をコピーするのだ。

 復讐がバレるのにとても危険な行為だと事務員は考えていた。




「早速だけど、今日の夜手伝ってくれない?」


 翌日、事務所でリィスは事務員たちに頼みがあると事務員たちにお願いしに来る。

 その事に事務員は笑顔で迎え入れる。

 復讐の手伝いが出来ると楽しそうだ。


「取り敢えず学校と復讐相手の近所へとチラシを配りたいわ」


 リィスの言葉に事務員は頷く。

 つまりはチラシを配りたいのだと事務員は理解した。

 そのために数百間もコピーして何をしたのか周知させたいらしい。

 もし犯人がバレても復讐されて当然だと理解されることを狙っているのかもしれない。


「最初は何処に行くんですか?」


「最初は復讐相手の近所へとチラシを入れておきたいわ」


 リィスの意見に事務員は頷き、セイナへと視線を向けると頷かれる。

 セイナにも不満は無いようだ。

 むしろリィスの受けた仕打ちに怒っていた。

 リィスに深く感情移入して酷く協力的だ。


「それじゃあ、今日の夜に行動するってことで良いのですか?」


 事務員の確認にリィスは頷く。

 そしてセイナにも視線を向けて確認するが元から予定は開けていたと頷く。

 どうやらリィスと事務員の二人だけではなく三人で行動できるようだ。


「孤児院では今日は友達の家に泊まるって言っていたから今日はここに泊まらせてもらうわね」


 リィスの言葉にセイナは身体を震わせる。

 セイナ自身はこれが終わったら家に帰るつもりだった。

 だけど女の子がここに泊まると聞いて不安になる。

 事務員も一緒に泊まるだろうから手を出してしまいそうだ。


「………本当に泊まるんですか?正直、見られたくない物もあるから嫌なんですが」


「何も盗む気も勝手に変なところに入る気は無いわよ」


「信頼できません」


 事務員はリィスがどんな相手か知っているが、それでも知らない相手として信頼できないと答える。

 もし知っていると答えたら正体が誰なのか予測されてしまう。

 それだけは防ぎたい。


「それじゃあ一緒に泊まる?そもそも、ここって貴方の家じゃないの?」


 やはり一緒に泊まることになったとセイナは事務員を睨む。

 そして、そういえばと思う。

 セイナもここが事務員の家なのか、それとも別にあるのか知らない。

 付き合っているが家のことについて聞いたことも無い。


「ここは俺の家では無いですよ。ただ使っているだけです」


 他に家はちゃんとあるのかとリィスとセイナは安心する。

 ほぼ廃墟の家に住んでいたら、どうやって過ごしているのか謎だ。

 ここは恐らく水も出ないんじゃないかと考えている。


「法的にそれって大丈夫なの………」


 そして思い至った可能性にリィスとセイナは冷や汗を流した。

 特にリィスはそんなことが原因で復讐が出来なくなることを考えて心配になっている。


「バレなきゃ良いんですよ。移動するとしたらここが開発されるぐらいですし」


 それまではここで復讐の手伝いをするという事務員にリィス冷や汗を流す。

 結局、法的に大丈夫とは言っていないし復讐の途中で見つからないとも言っていない。

 だがセイナは最初は冷や汗を流したが、よく考えて安心する。

 姿を消せるマント何て物を作ったいう事務員なのだ。

 おそらくバレないような仕掛けを作っているのだと想像する。

 でなければ今までの復讐者たちが二度と来ないのもおかしい。


「そもそも本気で復讐したい者しか、ここには来れませんからね」


 事務員の言葉に背筋が凍ってしまう。

 今まで来た客は全て復讐者だった。

 それ以外は来たことが無いし、かつての他のバイトたちは全員が事務員が自ら連れてきた者たちだ。

 そして、その者たちも来たことが無い。

 どういう理屈が意味が分からなくてセイナはゾクゾクと震える。


「…………えぇ」


 リィスはセイナを見てドン引く。

 事務員の言っていることは本当だと察し、そんな魔法があるのかと驚き、そして顔を赤らめて震えているセイナを見たせいだ。

 こんな犯罪に手を貸すような事務所にいるから、まともではないと納得して、ここにいることを少しだけ後悔している。

 この場にいる普通の感性を持った者は自分だけだと認識していた。


「それで夜になるまで何をするつもりですか?もしかして、ここで夜まで待つつもりでしょうか?」


「………どうしよう」


 事務員の疑問にリィスは悩む。

 夜まで、まだまだ時間はある。

 喫茶店などに行くなりと方法はあるが一人で行くのもつまらない。

 目の前にいる事務員たちが一緒に来てくれるとも思わない。

 それでも念のために確認する。

 顔を隠しているからこそ正体が気になってしまう。

 できれば頷いて顔を見せて欲しい。


「一緒に喫茶店に行く?」


「すいませんが断らせていただきます」


「………ごめんなさい」


 だが事務員は即答し、セイナは残念そうに拒否をする。

 リィスは予想通りの答えにため息を吐き、何をして時間を潰すか悩んでしまう。


「取り敢えずトランプとかウノは持っているけどやる?」


 セイナの持っているゲームにそれしか無いかとリィスはため息を吐く。

 どうやら一人で時間を潰す気は全くないらしい。


「それじゃあ三人だけでやりましょうか」


 めっちゃ白熱した。




 夜になる。

 外は既に月明かりに照らされ、外に出ている者は数人しかいなくなる。


「夜になったわね。それじゃあチラシを配りに行くわよ?」


 リィスの言葉に二人は頷いて外に出る。

 当然ながら三人ともマントを被り外に出る。

 そのせいでリィスとセイナはマントを被った他の二人が何処にいるのか分からなくなってしまった。


「………個人で動く分には良いですけど集団で動くには失敗作ですね、これ」


 事務員はため息を吐いて二人の手をつかむ。

 同じマントを被っている者を見つけられるように改良するか、そのままにする悩んでしまっている。

 他の者を見つけれるようにしたら効果は下がってしまうし、そのままなら誰にも見つからない効果が高いままだ。

 事務員が見つけられるのは、どこにいるのか把握できるからだ。


「何で見つけられるのよ」


「これ、思ったよりも不便ね」


 二人の少女は突然、手を捕まれたことに驚くが納得する。

 たしかに手を繋がなければ相手をどこにいるのか分からない。

 セイナは自分以外の女の手を繋いでいること不満を持つが我慢する。


「ねぇ、これって互いを見つけられるようにしないの?」


「………姿を隠す効果が低くなって見つかる可能性が上がりますので許してください」


 気にはなるが付き合っているわけでは無い男の手を繋ぐことに不快感を持って事務員にリィスは文句を言うが謝罪される。

 姿を隠す効果を高めるためと言えば何も言えなくなってしまう。


「………そう」


 男の手を繋いでいることにリィスは顔を赤くする。

 マントで顔が隠れていて良かったと思えていた。


「歩きにくいですし一気に移動しますね」


「「キャア!!」」


 事務員は三人手を繋いで歩くのは動きづらいと二人を肩に担ぐ。

 どこの誰に復讐するのか既に知っているために、どこに住んでいるかも知っている。

 取り敢えずは復讐相手の家に行けば良いだろうと考えている。

 復讐相手の近所に住む者たち相手に過去のことをばら撒けば良いのだから、復讐相手の家を中心に広げていけばよいと思っている。


「…………いきなり行動しないで!?」


「びっくりしたぁ!!」


 一気に空中に跳んで跳ねて行動したから担がれた二人にとってはジェットコースターのようなものだったかもしれない。

 そのせいで悲鳴と文句の声を上げ事務員に口を手で塞がれる。


「「………ん~!!」」


 二人は口どころか鼻まで塞がれ呼吸しにくくなる。

 息を吸おうと暴れ、その様子に事務員は仲が良いと観察する。


「………ぷはぁ!!」


 手を離すとようやく息が出来ると深く呼吸をしている二人。

 それに対して事務員は二人の肩に手を置く。


「分かっていると思いますけど、そのマントは姿を隠すだけで透明になるわけではないことを気を付けてくださいね。誰かにぶつかったり声を聞かれたら、そこに誰かいることがバレてしまいますから」


 事務員の言葉に二人は首をコクコクと頷く。

 急に自分達を担いだ事務員に文句を言いたいこともあるが何も言えなくされた。


「あぁ、それと口どころか鼻まで塞いでしまってすみません。それでは周囲の家に紙を配っていきましょう。三十分ぐらいしたら、ここに集合という形で良いでしょうか?」


 事務員の言葉に頷く二人。

 それを確認して事務員は二人から離れていった。

 リィスとセイナの二人はお互いに示し合わせることもなく別々の方向へと行く。

 そして手にしていた時計を気にしながらポストに紙を入れていった。




 時間が経ち、最初にいた場所へと集まるがリィスとセイナの二人は互いが見えないために一人でいるとしか思えなく不安になる。

 二人とも早く事務員が来てくれないかと祈っていた。


「………私が最後ですか、遅れてすみません」


 突然、肩を叩かれるが今度は悲鳴を上げない。

 姿が見えない以上、そうするしかないために最初から覚悟していたお陰だ。


「それとリィスさん。スプレーを使って嫌がらせをしますが?家の壁に人殺しと書いたりと色々な文字を書くのも良いと思いますが?」


 事務員の言葉にリィスは目を輝かせる。

 それに対して事務員はリィスにスプレーを手渡す。


「まずは人殺しね」


 リィスは手渡されたスプレーを使って壁に人殺しと書く。

 そして次には強盗犯。

 金のために人を殺す悪魔。

 悪魔の子供は悪魔。


 それらを復讐相手の家だけではなく周囲の家にも書きなぐる。

 流石に関係ないものにまで被害は、とセイナは止めようとするが今更出し事務員に肩を捕まれて止める。

 事務員は満面の笑みでリィスを見ていた。

 これが事実だと知ったら復讐に来た相手のせいで家が汚れたと復讐相手の家族に非難するだろう。

 あれだけのことをしたから捕まって嫌味を言われても復讐相手が悪いと納得するかもしれない。


「うわぁ……」


 スプレーを使い切る勢いで色んなところに文字を書いていくリィス。

 事務員はしばらく楽しそうに見ていたが一時間を過ぎたあたりで鞭を使って強引に止める。


「あ………」


 そしてセイナを抱きしめるように抱え、鞭を使って動きを止めたリィスを肩に担ぐ。

 リィスはセイナにも抱きしめているように抱えているのではないかと事務員に冷たい目を向けていた。



「降ろしますよ」


 復讐相手の娘のリィスのいる小学校に着くとディアロは二人を降ろす。

 一人は恋人、もう一人は客だからか、どちらも丁寧だ。


「ねぇ。マントを外さない?貴方は大丈夫でしょうけど私にとっては姿が見えないから不便なんだけど」


 リィスの言葉にセイナも頷く。

 あまりにも行動しづらい。

 ソロならともかく集団で行動するなら、これは邪魔だ。


「学校って監視カメラとかありましたっけ?」


「無いとは思うけど……」


 正体がバレたくないと事務員は難色を示して小学校のことについて質問する。

 昔はともかく今はどうなのか分からない。

 そして確証の無い答えに事務員はどうするか悩む。


「………よし念のため仮面を付けていきましょう」


 そう言って取り出したのは子供たちがお祭りで好んで使う仮面。

 戦隊もののヒーローの仮面もあれば、女子アニメのヒロインの仮面もある。

 リィスとセイナの二人はどうして、こんなのを持って来ているのか白い目で事務員を持つ。


「小さいかもしれないけど、それで顔を隠してください」


 子供の仮面を使うことを恥ずかしく思いながら言うとおりに二人は顔を隠す。

 二人は女児アニメのヒロインの仮面を使い、事務員は戦隊もののヒーローの仮面を使う。


「それじゃあ、まずは何をするんですか?」


 仮面を付けたまま質問していくる事務員にため息を吐きながらリィスは答える。


「まずは各教室の黒板と入るためのドアに紙を張っていくわよ」


 リィスのしようとすることに頷く。

 そうすれば確かに何が書いてあるのか気になって確認する。

 その結果、復讐相手の家族が何をしたのか知れ渡る。


「その次にリィスの学年とクラスを書いて人殺しの娘と黒板に書くわ」


 まずは復讐相手の娘のリィスの親が何をしていたのかしれ渡せようとしているようだ。

 そうすれば被害者が何をしなくても勝手に攻撃してくれる。

 それらの罪は子供たちやその親のモノだし、目の前にいるリィスのモノではない。

 事務員は良い考えだと頷いている。


「決まったら早速、行きましょう」


 セイナは二人が頷き合っているのを確認して校舎の中に入ろうとする。

 その瞬間、事務員は三人で一つのマントで覆い口を塞ぐ。


「………んん!?」


「ん………!」


 事務員は突発的に行動したため思った以上に力を強くしたことを二人に謝る。

 赤くなっていたらヤバイと思いながら理由を告げる。


「宿直がいたので、ついやってしまいました。しばらくはこのままでお願いします」


 二人は口を塞がれているため首を縦に振って答える。

 三人とも知ってはいるが異性の身体の感触を味わっている。

 女子たちは自分達とは違い思った以上にガッシリとした体に感心とドキドキと緊張し、事務員は柔らかさと良いにおいに反応しないように必死になっている。


「…………気のせいか?」


 そして事務員の言ったとおりに宿直が来たことで緊張でドキドキする。

 光が当てられるが本当に見つからないのか、わかっていても不安になってしまう。

 そのまま、早く通り過ぎないかと祈っている。


「………意味無いか?」


 宿直が通り過ぎる直前に事務員は声を出す。

 事務員の行動に二人は何をしているんだと事務員の顔を向き、非難の視線を向ける。


「ん?何か聞こえたよう………」


 そして宿直が事務員たちの傍で立ち止まった瞬間に事務員は宿直の頭を勢いよく殴った。


「「………は?」」


 事務員の行動に二人は付いて行けずに困惑する。

 そんな二人を置いて事務員は宿直の目を塞いで縄を使って縛り付けた。


「………何をしているの?」


「ライトを持っていたし、どれだけ上手くやってもバレそうだなと思って気絶させました」


「たしかにライトで教室を照らされたら張った紙も見つけられて外されるかもしれないけど………」


 事務員の突然の行動に驚きはしたが二人は納得する。

 たしかにライトで照らされて発見されたら外されそうだと思う。

 だけど縛る必要はあるのか疑問だった。

 そういう趣味があるのかと二人の女子は顔を赤くする。


「………縛ったのは途中で起きても邪魔されないためですよ?縛るのが好きなわけじゃないですからね」


 何となく事務員は何を思われているのか察して否定する。

 本当に趣味ではない。

 殺さず、行動させずにするなら縛るのが一番効率が良いと思っているだけだ。


「「…………」」


 女子二人はそれを信じられない目で見る。

 あれだけ手際よく縛っていたから当然だ。

 リィスも縛られたこともある。


「事実ですよ。それよりも今はやることをやりましょう?」


 事務員の言葉に問いただすのは後にすることを決めて教室に紙を貼ったり黒板に誹謗中傷を書き始めていく。

 そして終わったのは数時間経ってからだ。

 まだまだ暗いが日が見え始めている。


「これで終わりね。それで後は変えるだけ?」


 セイナはリィスへと確認するが首を横に振られる。

 他に何をするのか、と分からないでいる。


「すみません。後はグラウンドに思いきりリィスは人殺しの娘と書きたいのですが………」


 今からやるとどのくらい時間がかかるのか分からない。

 無理だろうとセイナは首を横に振り、リィスもそれもそうですよね、と頷く。

 そして事務員は………


「わかった」


 魔法をグラウンドに撃って穴を作っていく。

 そして終わったころにはリィスの望み通りの字が出来ていた。


「これで良いでしょうか?」


「…………!!」


 言葉もないとリィスは何度も首を縦に振って頷く。

 それを確認して、事務員は二人を事務所へと抱えて運ぶ。

 当然、三人とも姿を消すマントを被っていた。




「…………すごかった」


「…………うん」


 事務所に戻ってセイナとリィスの二人はディアロが小学校て使った魔法を思い出して夢見ごちで呟く。

 空中に数百もの殺傷力のある魔法を準備し連続して放つ。

 あんなものはテレビのデモンストレーションでも見たことがない。

 しかもそれをグラウンドに文字を書くだけにやったと言うことが信じられない気持ちを更に強くしていた。


「リィスさんは学生ですよね。朝の七時に起こしたら間に合いますか?」


「え?……あっ、はい」


 事務員の突然の質問にリィスは頷く。

 そのぐらいなら確かに間に合う。


「では、その七時になったら起こしますので寝てて良いですよ」


 時計を見ると日差しが差し始めたとはいえ、まだ四時前だ。

 三時間とはいえ寝ないよりはマシだとリィスは事務員の言葉に甘える。

 そしてソファの上で横になり、目を閉じていく。

 襲われるという心配は無かった。

 一緒に同じ目的のために行動したという事実が警戒心を失くしたのかもしれない。

 もしくは最後の魔法を見て抵抗しても無駄だとあきらめているのかもしれなかった。




「…………寝たわね」


「そうですね。セイナも寝て良いんですよ?」


「そうね」


 セイナは事務員の言葉に頷きながら、事務員をもう片方のソファに押して座らせる。

 そして事務員の上に乗って抱き着く。


「ところで私たちの抱き心地は良かったかしら?」


 事務員はセイナの言葉に二人を抱きしめた感触と匂いを思い出して頷く。


「えぇ。二人とも柔らかくて良いにおいでしたよ」


「………!!」


 事務員の言葉にセイナは衝動的に首を絞めるが全く効いていない。

 平然と受け止めて抵抗する素振りも見えない。

 顔も苦しそうに見えないからセイナは自分だけ必死になっているみたいで頭を冷やし、首を絞めるとのを止める。


「こういう時は私一人だけの感想を言いなさいよ。私の恋人なのに他の女に目を向けられているみたいで腹が立つ」


「あなたたち二人の感想でしょう?だから二人の感想を言ったのですが?」


「それでもよ」


 セイナの文句に事務員は黙って了承する。

 恋人の可愛らしい独占欲だと少し嬉しく思っている。


「………私も寝るわ。少しぐらいなら手を出しても構わないから」


 そう言ってセイナも目を瞑る。

 そしてリィスと同じように直ぐに寝息が聞こえてきた。

 目を瞑って直ぐに眠ってしまうあたり、すごく疲れていたんだと事務員は理解する。

 そしてリィスには毛布を掛けてあげ、セイナには一緒に毛布に包まって落ちないように片手で支えていた。




「………ん」


 そしてリィスは目を覚ます。

 最初は起きて見慣れない風景に混乱するが直ぐに寝るまでのことを思い出し覚醒する。


「まだ七時になっていませんけど起きますか?」


 言外に寝ても大丈夫という声が聞こえてくるがリィスは首を横に振って答える。


「…………」


 そして声のした方向を見るとリィスは顔を真っ赤にする。

 そこには一つの毛布に抱き合って包まっている二人がいた。

 しかも片方は眠っている。

 それを見てリィスも完全に目を覚ましてしまう。


「えっと、それじゃあお邪魔しました!」


 リィスは顔を赤くして事務所から出ていく。

 その様子に事務員は呆気に取られて見送ってしまった。


「………何で私がいるのに、あんなことをしているのよ!」


 リィスは顔を赤くして事務員とセイナの二人が抱き合っていたことを思い出す。

 ああいうことは二人きりの時にやってほしい。

 見られて興奮する性質だとしても巻き込まないでほしかった。

 そして路地裏から出るとリィスは腹を鳴らしてしまう。


「今の時間だとコンビニしか開いていないわよね」


 財布を手にしてコンビニへとリィスは向かう。

 適当にパンや飲み物で朝食を済ませるつもりだ。

 学校が始まるまで時間はあるが今から向かっても開いているはずだとコンビニで買った朝食を片手に学校へと向かう。

 教室で朝食を食べるつもりだった。




「……ん?」


 そしてリィスが出て行った後にセイナも目を覚ます。

 こちらも七時前に起きており事務員が起こす必要もなかった。


「………夢?」


 リィスと違いセイナは目を覚ますと現実だとは思っておらず寝ぼけていた。

 そして寝ぼけたままに事務員に更に強く抱き着いて満面の笑みを浮かべる。

 事務員は七時までまだ時間はあると好きにさせることにする。


「……………あれ?」


 そして、これが現実であるとセイナが悟ったのは寝ぼけて消すをした直後だった。

 自分のしていたこと、したことを思い出して顔を赤くして抱き着いていた事務員から逃げようとする。

 だが逃げられない。

 最初から事務員が落ちないようにと抱きしめていたせいだ。

 今も抱きしめていて逃げられず赤くなった顔を眺められている。


「………恥ずかしいから放して」


「嫌だ。七時まではこうしている」


 事務員としての敬語以外で断られてセイナは顔を更に赤くしてうつむこうとする。

 だが顔を持ち上げられて、それすらも見られて、あまりにも恥ずかしく逃げ場がない。

 そして事務員が言ったように七時まで、このままの状態で恥ずか死にしそうになっていた。

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