3/5
報告
役職者が事情を聴きに来た。
負傷した同僚に消極的価値の強い語句を用いたのは労災隠しのためであっても好ましくはなかったとも言える。しかし結果としてはそれが上席者の関心を引いて労災隠蔽を困難たらしめたのでもある。
余は姿勢を正して事情を説明するとともに、不忠不孝という容易ならぬ語を用いたことについて弁明した。
不忠とは国法、具体的には労災防止を命じる労働安全衛生法に悖ったこと、不孝とは身体髪膚を損なったということで、要するに一般論として言ったという趣旨であった。
このとき「シンタイハップ」とは何で、そんなことを誰が言っていたのかと若いスタッフから訊かれたように思う。
余は髪や膚までも含めた体のことであること、孝経には孔子の言葉と伝わるが昔のことなのでわからない旨を丁重に伝えた。
これは余も配属された直後であったのでその若いスタッフより余の年次が上であることに確信がなかったことも一因である。
先輩には率直に答えること
と、介護施設への就職が決まった余が慌ただしく読んだ介護ノウハウの一節を思い出したのだ。
視点をかえると、労災隠しが公然と語られる場に居合わせた動揺から余の思考は半ば停止していて、ただ威儀を正し率直に、かつ能う限り迅速に答えることのみで外形を保ち得ていたのでもある。




