19 できること
ピリピリとした空気の中、エラが言う。
「私たちの背後に二人。それと、あの大きい培養槽の裏にも一人いるよ〜」
「へぇー。全員バレてんね。」
黒髪の男は口角をあげて言う。
その不気味さに嫌な汗が流れる。
「んだよ!バレてんのかよ!!」
突如後ろから大声が響いて、俺は反射的に振り向く。
そこには真っ黄色の髪でファンキーな服装をした男と、その隣に大きなナタを担いだ濃紺の髪の女が立って
いた。
「シスト、うるさいわ。」
「うっせぇ!黙れアメ!」
なんなんだ……こいつら……。
ふいに、培養槽の裏から、がさりと音がして俺は視線を移す。
そこにはボロボロの灰色のパーカーに、真っ黒の不気味な仮面をつけた人物が立っている。
あいつ……男か?それとも女なのか?
何なんだこいつら……四人に囲まれてる……
黒髪の男がにやりと笑って言った。
「んじゃ、はじめよか。」
その言葉と同時にアズル中尉が俺を引っ張る。
『ゴウッ』
「!?」
風を裂いて眼前をナタが通過する。
つーっと汗が頬を流れた。
アメが顔をしかめながらナタを振り抜く。
仮面の人物が拳銃を抜いて引き金を引く。
同時に、チェリーの撃った銃弾が仮面の人物の銃弾と空中で激突した。
「おらあぁぁぁ!」
銃撃音とナタを振る音がする中、大声とともにシストが拳を振り上げて、スミス少尉に突っ込んでくる。
スミス少尉はその攻撃をよけると、殴ってきたシストの腕をつかんで投げ飛ばす。
「うおっ!」
シストは数メートル宙を舞ったがスタッと着地する。
「真正面から突っ込むなんてバカじゃないの。」
「うるせぇ!しゃべんなアメ!」
「お断りするわ。」
アメは走りながらそう言うと、近くにいたルズと俺に向かってナタを振り下ろす。
やばい……!
俺とルズは反射的に横に飛び退く。
『ドンッ』
ナタが地面を砕いて破片が飛び散る。
あぶねぇ……もし当たってたら……
恐怖で手が小刻みに震える。
「ちょこまかと……まぁいいわ。一番隙があるわね。まずはあなたから。」
そう言うと俺に向かって走り出す。
「セルザ!」
ルズが俺に向かって叫ぶ。
マズイ……
そう考えた瞬間、肩に一瞬だけ重みが乗る。誰かが俺の肩を踏み台にして空中に飛び上がった。
二丁の銃を持ったレピが空中で引き金を引く。
「面倒ね……」
と呟きながらアメが身をひねって避ける。
黒髪の男が戦況を眺めながら笑みを浮かべて言う。
「へぇ〜君の部下、結構強いんやね。アズル中尉。」
あいつ……アズル中尉を知ってる……!!?
アズル中尉は目を細めながら、男の前に進み出てあの怪物用武器を掴む。
次の瞬間アズル中尉は一気に間合いを詰めると、武器を振る。
「おっと。危ないなぁ……」
黒髪の男はそう言いながら、表情を全く崩さずに紙一重で避ける。
その光景を見ながら俺は唇を噛み締める。
クソっ……何もできない……
できることをするって決めたのに足を引っ張ってばっかりだ……
視界の端にアメの攻撃を間一髪で避けているレピとルズが映る。
このままじゃみんなが危ない……何かできること……
周りをぐるりと見渡して俺はピタリと視線を鉄骨やら電球やらがぶら下がっている部屋の天井で止める。
あれなら……単純な案だけど行けるか……?今、俺を気に留めている人はおそらくいない。みんなそれぞれ
別の敵と戦ってる。だがこの案は一歩間違えたら誰かが死ぬかもしれない。
手のひらがじっとりと汗で濡れている。
できることをするために……
やるしかない。
*** ***
弱いってーこういうとき嫌なんだよね〜
そう思いながらエラは物陰から少しだけ顔を出す。
足手まといになるよりはこうやって隠れて、何もしないのがいい……と思ってる。
戦闘の様子をじっと窺っていると、ふとセルザが辺りを見回してるのが目に入る。
セルザ……何かしようとしてる……?
何考えてるかわかんないけど……後輩が頑張ろうとしてるのに〜先輩がここに隠れてるわけにはいかないよ
ねー
白衣のポケットに手を入れると”あるもの”がコツンとぶつかって、チャプっと音を立てる。
さて〜行くかー。
私は静かに物陰から一歩踏み出した。




