EP 8
強制連行? では物理とデバフの出番ですね。ヤンデレ最強兎の瞬殺劇と、愚か者たちの自業自得ですわ
「おい! お前ら! あの女どもを叩きのめせ! 手足を折ってでも車にぶち込めぇぇっ!」
ガルシアの狂気じみた叫び声が、ポポロ川の河川敷に響き渡る。
悪事をすべて暴露され、絶望的な負債から逃れる最後の手段を失った男は、ついに武力による強制連行という最悪の強行突破に出た。
構えられたのは、魔力を帯びた重厚な金属バットと、巨大な鉄塊のような大剣。
下劣な笑みを浮かべた二人の巨漢用心棒が、ドカドカと激しい足音を立てて突進してくる。
「へっ、口の減らないお嬢ちゃんだぜ! その綺麗な顔、ボコボコにしてやるよ!」
「死にたくなけりゃ、おとなしくそのガキを渡――」
「うるさい」
ヒュンッ!
突進してきた大柄な用心棒の言葉が、最後まで紡がれることはなかった。
空間が歪んだかと思うほどの圧倒的な速度。
ミレイユの背後から姿を消したキャルルが、次の瞬間には一人の用心棒の『目の前』に移動していたのだ。
「え……?」
男が目を見開く猶予すら与えない。
キャルルの特注安全靴(タローマン製)が、月光のような鋭い闘気を纏って閃いた。
ドガァァァンッ!!
「ぐはぁっ!?」
空気を置き去りにする、音速の回し蹴り。
『月影流 鐘打ち』の一撃が、用心棒の分厚い胸甲を紙くずのように叩き割り、その巨体を真後ろへと吹き飛ばした。
男はバウンドすることすら許されず、遥か後方の太い大樹の幹に深々とめり込み、白目を剥いて即死級の気絶を果たす。
「な……っ!? ガロンが一撃で……っ!?」
もう一人の大剣持ちの用心棒が、あまりの惨状に足を止め、ガタガタと膝を震わせた。
彼らの戦闘能力は、帝都の闇社会でもそれなりに通じるレベルだったはずだ。それが、目の前の可憐なウサギ耳の少女に、視認すらできない速度で瞬殺されたのだから。
「あ、あら? まだ一人残ってたの?」
キャルルはクルリと可憐に着地すると、愛用のダブルトンファーを手に、首を少しだけ傾けた。
その愛らしい姿とは裏腹に、彼女の身体から立ち上っているのは、文字通り『空間を歪めるレベルの圧倒的な殺気』である。
「ミレちゃんとリーザちゃんの、すっごく良いシーンだったのに……。不快な大声でぶち壊してくれたわね。……ねえ、どんな風に砕かれたい? 顎? それとも全身の骨?」
「ひ……ひぃぃぃっ! バ、バケモノだぁぁっ!」
用心棒は大剣を放り投げ、脱兎のごとく逃げ出そうと踵を返した。
だが――満月の夜でなくとも、音速を超える『物理最強』から逃げられる人間など、この世界に存在するはずもない。
「遅いよ」
パキンッ!
「『月影流 破衝撃』!」
ヒュッと風を切る音と共に、キャルルのトンファーが逃げ出す用心棒の背中に正確に叩き込まれた。
ドカァン!という破砕音と共に、用心棒は前方に激しく転がり、地面を何十メートルも滑っていった後、二度と動かなくなった。
開始から、わずか三秒。
ガルシアが誇る二人の「最強の用心棒」は、ミレイユとリーザの指一本に触れることすら叶わず、完膚なきまでに『物理的』に粉砕されたのである。
「ふぅ……。ちょっと運動にもならなかったね」
キャルルはトンファーを軽く回して空間収納へ仕舞うと、パンパンと手についた埃を払った。
その光景を、口をあんぐりと開けて固まっていたリーザが呆然と見つめている。
「す……すごいですわ……っ! キャルルさん、一体何者なんですの……っ!?」
「え? ポポロ村の村長だよ? 普段はパフェが大好きな、ただの可愛いウサギさんだけど」
けろりと笑うキャルル。
そして、二人の用心棒が瞬殺される惨劇を間近で目撃したガルシアはというと――。
「ひ……ひぃあぁぁぁぁっ! 助け……た、助けてくれぇっ!」
腰を抜かして地面にへたり込み、股間からじわじわと生温かい液体を漏らしながら、必死に後ずさりしていた。
肥満体の顔は恐怖で激しく引きつり、額から滝のような油汗が流れている。
「お……お前たち! 暴行罪だ! 帝国法違反だぞ! 俺様は『ゴールド・エンタテインメント』の代表なんだ! こんな田舎暴力村、帝国の警察を呼んで全員逮捕させてやるからなぁっ!」
自分から襲いかかっておいて、負けそうになった途端に法を盾にして喚き散らす。
前世の悪徳経営者や闇金業者でもよく見かけた、あまりにも惨めで見苦しい悪あがきだった。
ミレイユは涙を拭ったリーザを自分の後ろに立たせると、冷ややかな、そしてゴミを見るような冷酷な瞳でガルシアを見下ろした。
「帝国法、ですか? ええ、ぜひ警察をお呼びになると良いでしょう」
ミレイユは静かに歩み寄り、胸元から一枚の魔導通信デバイスを取り出した。
「あなたが差し出したその『隠し奴隷契約書』。すでに私の【絶対監査】によって、証拠データとして帝国財務局および法務局のメインサーバーへリアルタイムで送信・保存されておりますわ」
「な……なんだと……!?」
「不法な人身売買の未遂、詐欺罪、脅迫罪、そして我がポポロ村の敷地内における不法侵入および武力行使。……これらの罪状により、あなたの会社『ゴールド・エンタテインメント』は、本日この瞬間をもって【法的・社会的な完全破滅】が確定いたしました」
ミレイユの宣告は、一切の情赦も余地もない、完璧なチェックメイトだった。
「ひ……ひぃぃぃっ!」
「ですが……そうですね」
ミレイユは扇子でトントンと自身の顎を叩き、くすりと酷薄な笑みを浮かべた。
「法的な手続きの前に……私の大切なプロデュース対象であるリーザの『心の傷』の清算をしなければなりませんわね」
「え……?」
ミレイユは振り向き、まだ少し不安そうに佇んでいるリーザに向かって、優しく微笑みかけた。
「リーザ。……覚えていますか? あなたのその歌声には、聴く者に奇跡を与える力があると同時に……あなたには、素晴らしい『ユニークスキル』があったことを」
ミレイユの言葉に、リーザはハッと息を呑んだ。
そして、自身のジャージのポケットの中に収められている、一つの奇妙な道具――『お賽銭箱型掃除機』へと手を伸ばした。
「ミレイユプロデューサー……。私、やっていいんですの……?」
「ええ、思いっきりおやりなさい。あなたの夢と誇りを踏みにじろうとした愚か者に、プロのアイドルとしての『お仕置き』を届けて差し上げるのです」
「……はいっ!」
リーザの瞳から、不安の色が消え去った。
代わりに宿ったのは、前世の社畜ソングやカオスな楽曲を歌い上げる時に見せる、あの強欲で無敵な『絶対無敵スパチャアイドル』の輝きだった。
リーザは芋ジャージの袖をたくし上げ、お賽銭箱型掃除機をガチャリと構えると、怯えるガルシアの前に堂々と立ちはだかった。
「ガルシア様! 私のファン(ミレイユさんたち)を侮辱し、私の夢を玩具にしようとした罪……万死に値しますわ!」
「な……なんだその妙な掃除機は! やめろ! 来るな! 俺様は金ならあるんだ! 許して――」
「許しませんわ! あなたの全財産、運気、そして悪意……私の歌と共に、全てを没収(吸い尽く)して差し上げます!」
リーザが大きく息を吸い込み、河川敷全体に朗々と、そして力強く響かせたのは――
「『Love & Money』!! スイッチ、オンですわぁぁぁっ!!」
ブォォォォォォンッ!!
お賽銭箱型掃除機の吸い込み口から、溢れんばかりの黄金の魔力光が解き放たれる。
自業自得の果てに待ち受ける、悪徳プロモーターへの『完全なる没収』の宴が、ついに幕を開けたのだった。
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