EP 9
【絶対無敵のスパチャアイドル】全財産から服まで完全没収!? 悪徳プロモーターの無残な末路と、一文無しのスッポンポンですわ
「ブォォォォォォンッ!!」
ポポロ川の河川敷に、まるで次元の裂け目が開いたかのような凄まじい吸引音が轟いた。
限界地下アイドル・リーザが構えた『お賽銭箱型掃除機』のノズルから解き放たれたのは、眩いばかりの黄金の魔力光である。
「♪愛! アイ! 愛! アイ! ラ〜ブラブ! (Fu Fu!)」
「♪マネー! マネ! ローン! ダーリン! グ! (Yeah!!)」
リーザがタローマン製のレッスン着の裾を躍動させ、可憐にステップを踏みながら『Love & Money』を絶唱し始める。
人魚族特有の美しく力強い歌声が、お賽銭箱型掃除機の魔力と共鳴し、広範囲に及ぶ超広域デバフフィールドを展開していく。
「な……なんだぁぁぁっ!? 体が……体が動かねぇぇぇっ!?」
腰を抜かしていたガルシアが、胸を押さえて悲鳴を上げた。
彼の全身を、蛇のように絡みつく黄金の光の鎖が包み込んでいく。
それこそが、リーザが持つ恐るべきユニークスキル――【貧乏神】の真の権能であった。
「ガルシア様! 私のファンであるミレイユプロデューサーたちを侮辱し、私の純粋な夢を闇の奴隷契約で踏みにじろうとした罪……私の『お賽銭箱』に全てを差し出して、償っていただきますわ!」
「♪ダイヤが欲しい〜♪ 土地も欲しい〜♪ (Want You! Want You!)」
「♪貴方の愛で生きていける〜♪ (Fuuu〜!)」
「チャリーン♪ チャリーン♪ チャリーン♪」
どこからともなく、コインが投げ込まれるような軽快なSE(効果音)が響き渡る。
それと同時に、ガルシアの身に『悪夢』のような現象が巻き起こった。
「ひぐあぁぁっ!? 俺の指輪が! 俺の金ピカの時計がぁぁぁっ!?」
スポンッ! スポンッ!と音を立てて、ガルシアの太い指にはめられていた巨大な宝石の指輪や、腕の高級魔導時計が次々と引き抜かれ、お賽銭箱型掃除機のノズルへと勢いよく吸い込まれていく!
「う、嘘だろ!? 俺のポケットの厚い財布が! 金貨が入った革袋がぁぁっ!」
シュボッ!
ガルシアが必死に押さえていたジャケットの懐から、分厚い長財布と金貨袋が飛び出し、掃除機の暗黒の吸引口へと呑み込まれていった。
「や、やめろ! 返せ! 俺の金だ! 俺の会社再建のための資金なんだぁぁっ!」
「いいえ! まだ終わっていませんわ! 『全て』を頂戴いたしますわぁぁっ!」
「♪株券欲しい〜♪ お城も欲しい〜♪ (Buy Now! Buy Now!)」
「♪貴方の全て(人生)を背負って生きていける〜♪ (Fuuu〜!)」
リーザが歌のボルテージを最高潮まで引き上げると、ユニークスキル【貧乏神】の吸引力は次元を超越した。
「な……なんだこの光はぁぁぁっ!?」
ガルシアの額から、青白い光の球体がいくつも吐き出されていく。
それは、彼が帝都の地下金庫に隠していた『裏金の権利書』、ダミー会社の『隠し口座データ』、果ては彼が個人的に貯め込んでいた『魔導電子マネー』の全アクセス権に至るまで――彼の所有する「あらゆる財産と運気」が、容赦なく根こそぎ没収されていく光だった。
「ひ……ひえええぇぇぇっ! 俺の……俺の裏金が! 隠し口座が! ゼロになっていくぅぅぅっ!?」
「チャリーン♪(※全額没収完了)」
(※なお、吸い込まれた膨大な財産は【貧乏神】のスキル仕様により虚無へと消滅するため、リーザの懐には一銭も入らないという理不尽すぎるオチである)
だが、恐怖のサバイバルアイドルの一撃は、それだけでは収まらなかった。
「最後に! あなたのその不快な悪意ごと、身ぐるみ剥がして差し上げますわぁっ!」
「ぶ、無念……っ! 破滅だぁぁぁぁぁっ!!」
バリバリバリッ!!
「ギャぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
絶叫と共に、ガルシアが着ていた派手な紫色の高級ブランドスーツ、シルクのシャツ、靴、靴下、果てはネクタイに至るまで、すべての衣服がメリメリと引き裂かれ、掃除機へと吸い込まれていった。
「……ぽん」
土煙が晴れた河川敷。
そこに残されたのは――全財産、隠し口座、運気、そして衣服のすべてを失い、ドット柄の派手なトランクス一丁で地面に丸くなり、震えている哀れな肥満体の男の姿だけだった。
「ひ……冷てぇ……。金が……服が……俺の人生が……全部消えた……っ」
「ふぅ……。ごちそうさまでしたわ!」
お賽銭箱型掃除機をパタンと閉じたリーザが、額の汗を拭いながら、爽やかな満面の笑みを浮かべた。
「す……すごいですわ、リーザちゃん」
隣で見守っていたキャルルが、呆然と拍手を送る。
「物理的にも凄まじいけど、社会的にここまで一瞬で無一文のスッポンポンにするなんて……やっぱりアンタ、本物の『貧乏神』ね」
「えへへ、褒めないでくださいまし! 私、ミレイユプロデューサーの敵を退治できて、最高にスッキリいたしましたわ!」
胸を張るリーザ。
その横で、ミレイユは扇子で口元を隠しながら、冷徹な一言を付け加えた。
「素晴らしいパフォーマンスでしたわ、リーザ。これで彼の財務的・社会的な『存在価値』は完全にゼロ……いいえ、マイナス一億同粒となりましたわね」
「ひ……ひぃぃぃっ! バケモノどもだぁぁっ! 助けてくれぇっ!」
トランクス一丁のガルシアが、地面を這いながら涙と鼻水で顔をグチャグチャにして叫ぶ。
その時だった。
「――おや。随分と見苦しい格好の害虫が転がっているな」
河川敷の木々の隙間から、静かな、だが絶対的な冷気を孕んだ声が響き渡った。
現れたのは、完璧に仕立てられたフロックコートに身を包んだ『氷の公爵』ユリウス様と、彼が率いる帝国の近衛騎兵部隊だった。
「ゆ、ユリウス様!?」
ミレイユが目を丸くする。
ユリウス様はミレイユの元へ優雅な足取りで歩み寄ると、ごく自然に彼女の腰を引き寄せ、その手を取って親指にそっと口付けを落とした。
「遅くなってすまないね、ミレイユ。君からの連絡を受け、帝都の法務局と警察機構に手を回していたのだよ」
ユリウス様は氷のように冷たい瞳で、トランクス一丁で震えるガルシアを見下ろした。
「ガルシア・ヴァルガス。お前が代表を務めていた『ゴールド・エンタテインメント』は、先ほど我が帝国財務局の監査により、破産手続きと資産凍結が正式に完了した。さらにお前が企てていた『人身売買未遂』および『公爵家関係者への恐喝罪』により、正式な逮捕状が出ている」
「あ……あ……っ」
「連行しろ。……当然、服を与える必要はない。そのドット柄のトランクス姿のまま、帝都の大通りを行進させて刑務所の地下牢へぶち込め」
「はっ!」
近衛兵たちが容赦なくガルシアの腕を掴み上げ、ズルズルと引きずっていく。
「嫌だぁぁぁっ! 寒ぇぇっ! 服をくれぇぇっ! 金を返せぇぇぇっ!」
みっともない悲鳴を上げながら連行されていく悪徳プロモーター。
彼が夢見た「一獲千金の集金計画」は、元・鬼監査OLの完璧な論破と、物理最強兎の暴力、そして貧乏神アイドルの全財産没収によって、一塵の残骸すら残さず完全崩壊したのだった。
* * *
害虫が完全に排除され、再び穏やかな清流の音が戻ったポポロ川の河川敷。
「……ふぅ。これで、本当の『障害』はすべて消え去りましたわね」
ミレイユが安堵の息を吐くと、背後からリーザがそっと、ミレイユのミッドナイトブルーのドレスの裾をキュッと握りしめてきた。
「あの……ミレイユプロデューサー」
「どうしたの、リーザ?」
振り返ったミレイユに、リーザは少しだけ恥ずかしそうに、けれど今までにないほど真っ直ぐで力強い瞳で見つめ返した。
「私……さっき、悪党に言われた言葉に、少しだけ心が揺れてしまいましたの。『私なんかが、ミレイユさんたちと一緒にいていいのか』って……」
「リーザ……」
「でも! もう迷いませんわ!」
リーザはタローマンのレッスン着の胸元を強く握りしめ、弾けるような笑顔を見せた。
「私を救ってくれて、温かいご飯と、本当の『夢』をくれたミレイユプロデューサーのために! 私、明日のフェスで、宇宙で一番輝くアイドルになってみせますわ! ポポロ村のみんなも、ミレイユさんも、全員私の歌で幸せにして差し上げます!」
「……ええ! 期待しているわ、私の自慢のトップアイドル!」
ミレイユは微笑み、リーザの頭を優しく撫でた。
「さあ、みんな! 明日はいよいよ『ポポロ村・第1回 アイドルフェスティバル』の本番だよ!」
キャルルが特注の安全靴をカンッ!と鳴らし、元気よく拳を突き上げる。
「金貨一千枚の特設ステージで、ポポロ村の特産品を売りまくって、最高の黒字を出しましょう!」
「はいっ! 5円玉の嵐を巻き起こしますわーっ!」
「ふふっ、私の愛しいプロデューサー。君の晴れ舞台、特等席で見守らせてもらうよ」
ミレイユ、キャルル、リーザ、そしてユリウス様。
悪党を蹴散らし、固い絆で結ばれた最高の4人組。
明日、ポポロ村の特設ステージで、世界を揺るがす伝説のアイドルフェスが、ついに幕を開けようとしていた――!
読んでいただきありがとうございます。
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