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「婚約破棄?喜んで!」元銀行員OLの絶対監査で辺境大改革!〜氷の公爵の極上溺愛と最強兎の物理ざまぁで元婚約者は完全崩壊〜  作者: 月神世一


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EP 10

届いたのは私兵全滅の報と莫大な損害賠償請求。愚かな元婚約者へ贈る『完全なる経済封鎖』の絶望通知

「遅い! ガンツの奴ら、一体何を手間取っているんだ!」

帝都の外れにあるルージュ伯爵家の屋敷。

かつてはミレイユが稼ぎ出した利益で豪華に飾り立てられていた執務室は、今や見る影もなく荒れ果てていた。

使用人たちは給与未払いで全員逃げ出し、魔導暖炉を動かすための火炎魔石を買う金すらないため、部屋の中は凍えるように冷たい。

セドリック・ヴァン・ルージュは、血走った目で窓の外を睨みつけながら、苛立ちに任せて爪を噛んでいた。

「ただの女一人と、ウサギの獣人一人を捕まえるだけだろうが! なぜ朝になっても戻ってこない!」

彼が全財産(ヤミ金からの借金)を叩いて雇った三十人の私兵部隊。

彼らがミレイユを捕縛し、首に縄をつけてでも連れ帰ってくれば、この絶望的な状況はすべて解決する。ミレイユを地下牢にでも繋ぎ、一生タダ働きで帳簿と魔導システムを管理させればいい。

そうすれば、自分は再び豊かな領主として、甘い汁を吸い続けることができるのだ。

そう信じて疑わないセドリックの耳に、パタパタという羽音が聞こえた。

「おっ、来たか! ガンツからの伝令鳥だな!」

窓を開けると、飛び込んできたのは帝国の正規通信用『魔導伝書鳩ドローン』だった。

ドローンはセドリックの机の上に、ズシリと重い漆黒の封筒を落とし、そのまま自動音声で無機質に告げた。

『ルナミス帝国財務局、およびポポロ村財務顧問より、内容証明郵便をお届けします。開封をもって、法的な「宣告」が完了したものとみなされます』

「……帝国財務局? ポポロ村の財務顧問だと? ミレイユの奴、まだこんな嫌がらせの手紙を……!」

セドリックは舌打ちをしながら、乱暴に封筒を引き裂いた。

中から出てきたのは、分厚い羊皮紙の束と、血の気が引くほど生々しい「一枚の魔導写真」だった。

「なっ……!?」

写真に写っていたのは、彼が雇った三十人の屈強な私兵たちが、下着一枚の姿で魔導手錠をかけられ、ズルズルと連行されていく無惨な姿だった。全員がボコボコにされ、顔の形すら変わっている者もいる。

震える手で、セドリックは羊皮紙の文面に目を落とした。

そこには、流麗だが一切の感情を感じさせない、ミレイユの筆跡でこう記されていた。

『セドリック・ヴァン・ルージュ様。

貴殿が派遣した非合法武装集団は、我がポポロ村の村長(ウサギの獣人一人)によって、わずか数十秒で【完全な物理的鎮圧】を受けました。

よって、彼らからの報告がそちらに届くことは永遠にありません』

「……は? じゅ、数十秒……? あの精鋭たちが、ウサギ一匹に……?」

『なお、彼らが所持していた違法魔導銃、および貴殿からの前金(ガバン商会系ヤミ金からの違法融資)は、帝国法に基づきすべて没収いたしました。彼らは現在、国家反逆罪および誘拐未遂の罪で、ドンガン地下帝国の最下層採掘所へと送られております』

セドリックの膝が、ガクガクと震え始めた。

文章はさらに、無慈悲な追撃を放ってくる。

『さて、本題の【損害賠償請求】および【最終決算】について通達いたします。

・ポポロ村への不法侵入および精神的苦痛への慰謝料

・村長が私兵を蹴り飛ばした際に生じた、石畳および森林の修繕費

・帝国軍の出動経費

以上を合算し、貴殿に対して【金貨5,000枚】の請求を確定いたします』

「ご、ごせんまぃっ!? 払えるわけがないだろう! うちにはもう、銅貨一枚だって……!」

悲鳴を上げるセドリックの目に、羊皮紙の最後にある「二つの署名」が飛び込んできた。

一つは、ミレイユ・アークライト。

そしてもう一つは。

『上記請求が即時履行されない場合、ルージュ伯爵家の全資産、領地、および爵位を直ちに凍結・差し押さえるものとする。

――ルナミス帝国筆頭公爵兼財務卿、ユリウス・フォン・ルナミス』

「ひっ……!? こ、公爵閣下……っ!?」

帝国で最も恐れられる『氷の公爵』の署名と、絶対的な効力を持つ黄金の公印。

セドリックはついに腰を抜かし、床にへたり込んだ。

「ど、どうして……どうしてミレイユなんかの後ろに、公爵閣下がついているんだ!? あいつはただの、計算しか取り柄のない地味な女だろうが!」

自分の愚かさを棚に上げ、なおも現実逃避しようとするセドリック。

だが、事態は彼を待ってはくれない。

ドンドンドンドンッ!!

屋敷の重厚な扉が、外から乱暴に叩かれた。

窓から見下ろすと、そこにはユリウスの命を受けた帝国査察部の役人たちと、重武装の近衛兵たちがズラリと屋敷を取り囲んでいた。

「ルージュ伯爵令息セドリック! 帝国財務局の命令により、この屋敷および全資産の差し押さえを執行する! 大人しく扉を開けろ!」

「あ、あああ……っ、終わった。俺の領地が、俺の人生が……っ!」

セドリックは頭を抱え、暖炉の灰にまみれた冷たい床に突っ伏して、獣のような嗚咽を漏らした。

彼がミレイユを「不要だ」と切り捨ててから、わずか数週間。

元婚約者の愚かな目論見は、【絶対監査】と【経済封鎖】、そして【物理粉砕】の完璧なコンボの前に、塵一つ残さず完全に崩壊したのである。

 * * *

一方その頃、ポポロ村。

「……たった今、ルージュ家の屋敷が完全に差し押さえられたという通知が、帝都の査察部から届きましたわ」

村長室兼オフィスで、私は手元の魔導デバイスの完了通知チェックマークを確認し、静かに息を吐き出した。

これで、私を縛り付けていた過去の負債はすべて清算された。

セドリックは莫大な借金を抱えたまま爵位を剥奪され、法の下で裁かれることになるだろう。

前世の監査でも、ここまで綺麗に「不良債権の処理」が決まったことはない。まさに完全論破、完璧なクロージングだ。

「お疲れ様、ミレイユ。君の完璧な仕事ぶりに、心からの拍手を贈ろう」

ソファに座っていたユリウス様が、優雅にパチパチと手を叩いた。

今日の彼は、なんと私がいつも使っている魔導ケトルを自ら操作し、私に『ポポロ・コーヒー』を淹れてくれていた。

帝国のトップにコーヒーを淹れさせるなど、不敬罪で首が飛んでもおかしくない状況だが、彼は「愛しい君を労う権利は私にある」と言って譲らなかったのだ。

「ありがとうございます、ユリウス様。……でも、少しだけホッとしました。これで、ポポロ村にこれ以上ご迷惑をおかけせずに済みますから」

「迷惑だなんて、誰も思っていないさ。キャルルなど『もっと蹴り飛ばしたかったのに』と不満げだったからな」

ユリウス様がクスッと笑いながら、香り高いコーヒーの入ったカップを私のデスクに置いてくれる。

「それに、君が事前に作成してくれていた『領地移行プラン』のおかげで、ルージュ領の無実の民たちは、スムーズに帝国の直轄管理下に入ることができた。彼らの生活は、あの愚か者が支配していた頃よりずっと豊かになるだろう。……君は、自分を追放した領地の民の未来まで、完璧に計算していたのだな」

ユリウス様の氷のように青い瞳が、どこまでも甘く、愛おしそうに私を見つめてくる。

「……私はただの監査役です。不正を見逃さず、最適化を図っただけで……」

「謙遜しなくていい。君のその慈悲深さと優秀さが、私をどれほど狂わせているか……君はもっと自覚するべきだ」

ユリウス様は私のデスクの横に立ち、空いた片手で私の頬にそっと触れた。

長い指先が、私の輪郭をなぞるように優しく滑る。

「さて、ゴミの掃除は終わった。過去のしがらみも消え去った。……ミレイユ、君は今、完全に自由だ」

「はい……」

「ならば、これからは私のために、いや、『私たちの未来』のために、その時間を使ってはくれないか?」

ユリウス様は身をかがめ、私と視線の高さを合わせた。

彼のプラチナブロンドの髪がサラリと揺れ、彫刻のように美しい顔が限界まで近づいてくる。

「来週、このポポロ村で大きな『収穫祭』が開かれると聞いた。その日は、財務顧問としての仕事は休んでほしい。……私の、ただ一人の特別な女性として、一緒に祭りを歩いてくれないだろうか?」

それは、帝国筆頭公爵からの、正式で甘いデートの申し込みだった。

仕事の口実でもなく、ただ私と一緒にいたいという、真っ直ぐな好意。

「……っ。よ、喜んで、お供させていただきますわ」

私が頬を真っ赤に染めて頷くと、ユリウス様はこれ以上ないほど幸せそうに微笑み、私の額にチュッと、羽のような軽いキスを落とした。

「楽しみにしているよ、私の愛しい人」

「――ちょっと待ったぁぁぁ!!」

甘い空気が最高潮に達した瞬間、オフィスの扉がバンッ! と勢いよく開け放たれた。

現れたのはもちろん、特注の安全靴を履いたヤンデレ最強兎・キャルルだ。

「公爵! 抜け駆けは許さないわよ! 収穫祭の日は、私もミレちゃんと一緒に『太陽芋のバター焼き』と『ずっ友ロコシ』を食べる約束してるんだからね! ミレちゃんの護衛は私がするの!」

「おや、最強の護衛殿。ならば祭りの屋台の食べ物は、端から端まで私がすべて買い占めて(奢って)あげよう。三人で仲良く回ればいい」

「えっ、全部奢り!? ……ぐぬぬ、アンタのそういう金に物を言わせるところ、本当にムカつくけど……ミレちゃんのためなら、同行を許可してあげる!」

買収に弱すぎる親友の反応に、私は思わずクスクスと笑い声を上げてしまった。

過去のしがらみは消え去り、最高の親友と、私を溺愛してくれる極上の公爵様に囲まれたポポロ村での生活。

元・鬼監査OLの私の心は、かつてないほどの温かさと幸せで満ち溢れていた。

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