148 危険な作戦
開幕戦、予選Q2が行われています。杏香と結菜は1回目のアタックで、まずまずのタイムが出たようです。
スーパーフォーミュラ開幕戦in鈴鹿です。予選Q2で杏香と結菜が1回目のアタックを終えたところです。
「二人とも1分36秒台ですけど、36秒の中に6人いるんですね……」
そんな事を言うのは菜穂子さんです。今までそんなに気にした事なかったのかな……
「そりゃそうよ、1000分の1秒差を競っているんだから」
小林さんは当たり前のように、そう言ってますけど……
「まあ、そう言われればそうなんですけど、今まで姫が1000分の1秒差の争いをした記憶がなくて……」
まあ、そんな事はないでしょう、タイムだって1000分の1秒まで計測してるんだから。
「小山内さん2回目のタイム1分36秒297です」
小林さんのコールに菜穂子さんも驚いています。まあ、私はこれくらいではもう驚かないけどね。
「えっ、凄くないですか!」
まあ、1回目が1分36秒328で2回目が1分36秒297だから0.03秒短縮してますからね。
1回目はヨハンソンに邪魔されたからとは言うものの、速すぎる気はします。あれ……
「山口君、杏香の燃料給油した?」
私がそう訊いた時、彼の目が泳いだのを私は見逃しませんでした。
「青木、給油したよな……」
「いや、俺はタイヤ担当ですから……」
という事は……
「山口君! どういう事?」
「水上!」
「山口君! どういう事?」
私はもう一度声を掛けました。
「Q1前に40リッター給油しています」
水上君がそう言いました。まったく、もう!
「杏香の順位は……」
「今、トップです」
小林さんがそう言いました。
「あの……」
「どうしたの菜穂子さん?」
菜穂子さんの顔が緊張してるような……
「姫の2回目1分36秒698です」
凄く言い辛そうにコールしてくれました。でも、順位は5位です。
いや、そんな事より……
「山口君、止まらないよね、大丈夫なんだよね」
私は山口君に確認しましたけど……
「えっと、計算上は大丈夫です……」
「美郷さん、ちょっと怖いですよ! 目が吊り上がってますから」
はあ、まずい私はそう思いましたけど、小林さんからの一言で私はちょっとだけ冷静になれたかな……
「山口君、出走前に必ず確認してね!」
私は笑顔のつもりでニコッとしましたけど……
他のスタッフは、かなり恐怖だったようです。
「はい、すみません……」
まあ、2回目のアタックでトップなら3回目の途中で止まっても5位以内には入れるでしょう。まったく無理するから……
「でも小山内さんも大胆ですね、Q1で40リッター入れてQ2まで走り切るなんて」
「菜穂子さん、だから困ってるのよ! 杏香の事だからQ2は燃料を少なくしてマシーンの重量を少しでも軽くしようと思ったんだろうけど」
「あっ、そうか! そうすれば少しでも速く走れる訳だ、凄いですね、そこまで考えられるなんて」
「まあそうだけど、途中で止まるリスクもあるのよ……」
杏香には呆れるわ、メカニックまで巻き込むなんて……
「小山内さん3回目、1分36秒316で現在2位です」
うーん、これまでかな…… でも、よく止まらなかったわよ! しかも2番手スタートなら上出来でしょう。私がそう思った時でした。
「あの、小山内さん止まりました。第1コーナーの手前です」
小林さんから報告がありました。はあ、やっぱりギリギリだったのか……
「山口君、マシーンの回収よろしく!」
「あ、はい……」
山口君はそう言ってレッカーの手配をしてるようです。
「結菜の3回目1分36秒428で4位です」
うん、結菜も4位に入ったから上出来だね!
あれ、あまりにも良過ぎないかな……
私はQ2の順位を確認しました。
ポールが中森です。2位に杏香、3位にメンゼル 、4位に結菜、5位にライブリー、6位にヨハンソン、7位に松島、8位にマクレーですが……
中森が1分36秒162、杏香が1分36秒297…… そして、マクレーが1分36秒758です。1位から8位までが1分36秒台という事は、ちょっとでもタイムロスをしただけで8位になるという事か……
今シーズンは大変だ…… 決勝でも、タイムロスをしたマシーンから脱落するんじゃないかな……
「ただいま」
杏香が戻って来ました。一言言っておかないと。
「杏香、出走前はある程度燃料は給油しておくように」
「いや、入れていたんだけどね……」
はあ、今回の主犯はこいつか……
「Q1前に40リッター給油して、Q2前には何リッター給油したの?」
「えっと、確か5リッターだったかな……」
まったく見えすぎた事を……
「それじゃ杏香が給油したんだ、メカニックはみんな知らないらしいから」
「えっ!」
杏香は周りを見渡していますが、もちろんメカニックは、誰ひとり目を合わせてくれません。そして、杏香が私の方を見ました。
「ごめんなさい……」
うん、今回は素直に謝ったわね、でも……
「杏香、ちょっと来て!」
私はQ2の結果を彼女に見せました。
「杏香、これがどういう事か解る?」
「あっ、私2位なんだ! 一列目じゃん」
もう、見るところはそこじゃないつうの!
「そうじゃなくて、1位から8位までが1分36秒台なの! 一歩間違えば8位以降になるのよ」
まあ、今回は最初から飛ばす事が出来た杏香は2位だったけど…… あれ、これって、結菜は相当頑張ったって事だよね…… いや、凄い事です。
予選Q2が終わりました。杏香は計画的犯行もありましたが結果2位です。結菜も相当頑張っての4位だけど…… タイム的にはさほど差はありません。決勝はどうなるでしょうか……




