145 開幕戦Q1A組
開幕戦前に結菜の姉、光瑠さんがプロジェクトNinaの広報担当と訊いて驚いたけど、結菜も杏香もレースにマイナスになるような事は無かったようで、フリーは思う存分楽しんで走っていたようです。
杏香の2年目スーパーフォーミュラ開幕戦です。昨日はフリーを楽しそうに走っていた二人です。今日も問題なく普通に車検とドライバーを含むマシーンの計量がされたと思ったんですけど……
「小山内さんが680kg、木村さんが682kgで設定してますので」
山口チーフから、そう報告を受けました。
「ねえ、何故私は杏香よりも2kg多いの?」
まあ、たったの2kgでも少ない方が良いんだろうけど……
「結菜はレース後に3kgほど体重が落ちるから、それと燃料消費も考えて設定している」
岩崎チーフからそう説明がありました。
「えっ、結菜ってそんなに痩せるの?」
そういえば、同じような事が本多君ともあったわね……
「杏香だってそうでしょう!」
結菜は羨ましそうに杏香を見てますけど……
「私の体重ってレース後1kgくらいしか変わらないんだよね…… 結菜みたいに痩せれるなら良いダイエットになるのに」
今度は杏香が結菜を羨ましそうに見てます。いや、嫌味なのかな……
「えっ、どうして変わらないの?」
「さあ、なんでだろうね……」
なんだか他人事みたいな会話だな……
「まあ、レース後、マシーンとドライバー込みの重量が677kgを下回らないようにしないとだからね」
「あっ、レギュレーションだよね……」
結菜、今頃? もう3年目の先輩だよね…… Team Aoiの時は何も言われなかったのかな?
「こんにちは、今日も賑やかですね!」
そう言ってうちのパドックへ入って来たのは……
「あっ、神田さん!」
月刊フォーミュラの神田さんです。
「神田さん、どうして1月のテストに来なかったんですか?」
いや、チームはうちだけじゃ無いし、神田さんはうちのスタッフでもないんだから……
「いや、本当は来たかったんだけど、いつテストをするのか公式発表がなかったから」
まあ、公開してなかったから普通はそうなるんだけど……
「中森とマクレーは来てたんだよ」
ちょっと杏香、それは言わない方が……
「えっ、合同テストだったんですか?」
もう、いらん事杏香が言うから……
「神田さん、向こうが勝手に偵察に来てたんですよ! 何処でどういうふうに情報を得たのか判りませんけど……」
一応私が説明しました。
「まあ、昨シーズン中森とはやり合ってますからマクレーも興味があったという事でしょう」
神田さんも納得のようです。
「杏香そろそろ準備をして、Q1A組が始まるわよ」
「うん、6位までに入ればQ2に行けたよね」
何を今更、A組の時の杏香はメンタル弱いな……
「うん、とにかく開幕戦だから無理せずに6位までに入ってね」
私がそう言うと、杏香はだるそうにピットへ行きました。
「小山内さん、調子が悪いんですか?」
神田さんから見ればそう見えるのかも知れませんが……
「あっ、気にしないでください! ルーティンみたいなものなので……」
「はあ……」
そう、昨シーズンからそうだけど、Q1A組を引いた杏香のメンタルは弱いです。マシーンに乗り込むまでは……
「杏香、イケる?」
マシーンに乗り込んだ杏香に私は言いました。
「うん、任せて!」
そう言った後、杏香はピットレーンを通ってコースへ出て行きました。まあ、いつものことだけど、さっきまでのメンタルの弱さはなんだったのか……
「杏香、大丈夫かな……」
結菜はそう言って、心配そうに杏香の走りをモニター越しに見てますけど……
「大丈夫よ、結菜も準備して!」
私がそう言ったので、結菜はピットの方へ行ってしまいました。
「北島さん、本当に大丈夫なんですよね」
心配する神田さんに私は……
「はい」
一言だけ返事をしました。
「杏香が戻って来たよ。小林さんよろしく」
私がそう言った時、ウォーミングラップを終えた杏香がメインストレートを通過して行きました。タイムアタックスタートです。
まずは第1コーナーを回ってS字からの逆バンクです。昨シーズンの初めは逆バンクはスピードを落とさないとGが掛かるからとか言ってた杏香だけど、今は得意気にそこでオーバーテイクを狙ったりするくらいまで成長しています。
去年の事だけど懐かしいな……
そんな事を思ってる間に、杏香はスプーンカーブを回って西側ストレートを快調に飛ばしています。
「結構速いタイムですよ」
小林さんも嬉しそうだけど、その隣でストップウォッチを覗き込むように菜穂子さんもワクワクしてるかな。
杏香は今、シケインを抜けて最終コーナーを回ってメインストレートに戻って来ました。
「これ、凄いですよ」
小林さんがそう言った時、杏香がメインストレートを通過して行きました。
『ピッ』
モニターに杏香のタイムが表示されました。
「1分36秒129です」
「えっ、何それ!」
私は、ただ驚きました……
「私、そんなタイム見た事ないです」
菜穂子さんも唖然としています。神田さんも驚きのあまり無言です。
「どうかしたんですか?」
鈴木オーナーもパドックに来ましたけど、モニターを見てフリーズしています。
「これ、小山内さんのタイムですか?」
「はい」
鈴木オーナーはその後すぐ嬉しそうにピットの方へ行ってしまいました。
「小林さん手元のタイムは?」
私がそう訊くと……
「えっと、2分26秒、27秒……」
えっ、LAPしなかったの? ストップウォッチを止め忘れていたみたいです。
その後、2回アタックしましたけど、杏香はA組をトップ通過しました。次は結菜です。
今シーズンも杏香はやってくれました。まだQ1A組が終わったばかりだけど、杏香のベストタイムが出ました。




