第54話 新しい家での過ごし方
―聖人視点―
世間では隕石落下事件という事になっている襲撃事件後、悠々自適なホテル暮らし生活をしていた俺であるが、2週間が経つと神澤さんから連絡があり会う事となった。
会う場所はホテルの俺の部屋。
部屋には客を出迎えることができるテーブルや椅子などが用意されているため、人を迎えるのにはちょうど良かった。
「お久しぶりです」
「えぇ、お久しぶりです。どうですか? あれからお変わりはないですか?」
「はい。おかげさまでホテルでのんびりさせてもらっていますよ」
このホテルを手配してくれたのは神澤さんなので、俺は感謝の言葉を伝えた。
結構いいホテルであるため、どこからお金が出ているのか気になるところでもある。
「そういえば、会社での件も解決したらしいですね。何とかなったようでなによりです」
と、神澤さんは俺が勤める会社にて翼が起こした事件について触れた。
「ははは……グイム達が証拠を集めてくれていたおかげですよ。……あれ? そういえばこの話していなかった気がするんですが」
会社での出来事に振れたことで、俺は神澤さんに会社での出来事を伝えていなかったことを思い出す。
「あぁ、その件は噂程度で聞き及んでおりましてね。とは言っても私自身、桃谷商事とはあまりご縁がありませんでしたから、今回の騒動にて桃谷商事のライバル会社による不正が明るみに出て、それに対して私の知り合いの経営者があんな会社と付き合いはできないと言って取引関係にあった桃谷商事のライバル会社と縁を切ったみたいなんですよ。あの会社はいろいろと黒い噂もありましたからね。
桃谷商事は城野さんがいらっしゃるので、私もなるべく不利にならないように話しておきました」
「そうだったんですか。お気遣いありがとうございます」
改めてその人脈の広さと情報収集能力の高さに、この人は一体何者なんだろうかと若干恐怖を感じてしまう。
「私の知り合いのところとは結構な額の取引をしていたようでしてね。例の会社、かなり大変な状況まで追い込まれているようですよ」
「うわぁ。悪いことはやるもんじゃないですねぇ」
「全くです。黒地子もそうですが、人を傷つけてまで自分の欲を満たそうとするなど愚の骨頂。正当な手順で力をつけるのであればだれも文句は言いませんよ」
「まったくです」
そんな会話をしながら部屋に用意されていたコーヒーメーカーで作ったコーヒーを互いに飲みながらゆったりとした。
「さて、では今後の城野さんの事について話をしていこうかと思います」
「あ、はい」
そしていよいよ本題に入った。
一体どんな事になるのだろうかという不安がある。もしかしたら一連の事件の記憶を消されるとかされるのだろうか。もしそうなった場合記憶消去の副作用で頭がおかしくなるのではないかという不安もある。
「まずは住むところですね。あのアパートは既に取り壊されることが決まっていますし、建て直すまでとしても時間がかかります。ならばいっそのこと住む場所を変えてみてはいかがでしょうか?」
最初は住居からの話になった。
確かにこのままずっとホテル暮らしというわけにはいかないだろう。俺も引っ越しについて考えてはいた。
「そうですね。今度は幽霊騒動とか謎の組織に狙われない土地がいいかなと思っています」
そう言うと、日本人形達が何か言いたそうな顔をしながらこちらを見ていた。
実はお菊以外の形見分けされた日本人形達はあの事件の後俺と共にこのホテルの部屋で過ごしている。何が楽しいのか夜な夜な楽しそうに飛び回るのは勘弁してほしかった。
お菊はいつも止める側で、俺と一緒に暴れまわる人形達を叱る係だ。
とは言ってもお菊は「昔に比べて楽だ」と言っている。理由とすれば遊びまわる日本人形達を止める係としてグイム達も居ることだ。数十体居るグイム達が班に分かれて日本人形達を捕縛して回る様子は、恐怖というよりホラー映画の中にSF作品の要素をぶち込んだようなよくわからない光景となっていた。
ちなみに今、我が一族のSNSグループメッセージ内は大変な事になっている。
『飾っていた日本人形が消えた!』
『俺の所もだ!』
『私の所も消えた!』
もう大パニックである。
これも事前に神澤さんに相談していたので彼等が何とかしてくれるとの事だ。
「勝手ながら候補をいくつか用意しましたので、こちらを見てください」
すると神澤さんはA4サイズの紙をいくつか出してテーブルの上に置いた。
「これは……家?」
その紙には家の間取りが書かれた。それぞれ違う家のようだが、一軒一軒は俺基準で言えばかなりの豪邸のようであった。
「6LDK……。こっちは平屋造りで7部屋も……。場所も会社からそれほど遠くない。いやいや、神澤さん。紹介してもらってありがたいですがさすがにこれは手が出せませんよ。これ金額かなりのものになるのでは?」
あまりにもいい物件すぎたその家たちは、例え俺が黒地子から迷惑料をもらったとしても払い切れるものではないと思われた。しかし神澤さんは首を横に振り、
「大丈夫ですよ。これらの物件は無償でお譲りできるものとなっています。当然固定資産税などは発生しますが、手に入れる元手は発生しません」
「は? え? た、ただで貰っていいって事ですか? 贈与税とかかかりますよね?」
「ふふふ。いいえ、その心配には及びません。城野さんにはそのような負担を強いらせはしませんよ。当然これは内緒の話ですが」
「ま、マジですか……」
税務署にも融通が利くのか? なんだかだんだんと怖くなってきた。ただより怖いものは無いとかいう言葉も真っ先に思い浮かんだ。
だけどこれには口止め料も含まれているのだろうな。という考えもできた。何せ黒地子だけではなく亜矢子や神澤さんも退魔士とかいう異能集団と交流を持ってしまったのだ。世間では知られてはいけない事実を知ってしまった俺には何かしらのアクションはあるだろうなと予想をしていた。
つまり、この話を断れば懐柔できないと判断され余計にややこしいことになり得るのではないかと思われる。ここは素直に家の提供を快く受け入れた方が賢明であると考えよう。
「そういうわけですので、こちらの中から決められないという事であれば後日改めて物件の方を探します。
もしどういった物件がいいか希望があれば聞きますが?」
「あ……いえ、もう少し小さい家はないですか?」
豪邸のカタログを見せられても気が引けてしまう小物な俺に嫌気がさしながらもそんな要望を神澤さんに伝えると、
「これでよいではないか。いい家ばかりじゃと思うぞ? あまり贅沢な事をいうものではない」
「そうですねぇ。こちらの物件なんかどうでしょう? 一番大きいですわよ」
と、いつの間にかテーブルの上に乗っていたお菊とお涼。
いや、贅沢すぎるうえに大きいから嫌なんだけど。
「これより小さい家……ですか? 彼らを収納できるスペースが限られてしまうと思うのですが?」
「あっ」
神澤さんに言われて思い出す。
日本人形達は形見分けされた元の持ち主の所へ戻ってもらうにしても、お菊やグイム達が大量に居るのだ。
事件後に神澤さんの部下らしき人達が瓦礫の中から回収して直したグイム達も続々とホテルに到着しているため、日に日に部屋のグイムの数は多くなっていく。
「萌恵の所に送った連中はどうするのだ? 確か50は居たのぅ。まさか全て萌恵に預けるつもりじゃったのか?」
「殆ど回収しましたが、まだ親戚の皆さまの所にも送っているのもありますわよね?」
「いや……それは」
そういえば萌恵さんの所や親戚達の所にも送ってたな……。えっ、あれ全部俺の新居に来るのか?
「彼らの保管場所も兼ねて家を紹介させていただきました」
「そうだったんですね……」
神澤に言われて気づいた事実に俺は納得する。
当然グイム達は今後も俺の家で過ごしてもらうつもりだった。動く人形を中古ショップに売り払うわけにもいかないし、そもそも俺の為に命を張ってくれた恩人たちを粗末に扱うつもりもない。そうなるとやはり数百体を超えるグイム達は我が家で過ごしてもらうことになりそうだ。
「土地からの霊力供給もなくなるので、長くても2か月……いえ、3か月といったところでしょうか。家はすぐにでも引き渡しができる状態にしておきますので、新居で皆様とゆったりと過ごすといいでしょう」
「あ、はい。じゃぁ家の件はよく考えてから――――え?」
今、神澤さんは何と言った?
霊力供給の供給がなくなる? 長くて半年?
何のことを言っている……いや、そんなのわかりきったことだろ。
「か、神澤さん……あの、もしかして霊力がなくなるとか長くて半年とか、お菊やグイム達の事を言っていますか?」
自分でも声が震えていることがわかった。
なぜ自分でもこんなに悲しい気持ちがこみあげてくるかわけがわからなかった。
「……」
神澤さんは、「あっしまった!」というような顔を一瞬したのだが、すぐにまじめな顔になり、
「そうですね。もう少しタイミングを見てこの話をさせていただくべきだったかもしれません。
ですが、現実から目を背けたり話を先延ばしにすることはしない方がいいでしょう。私も今話す覚悟を決めます」
神澤さんはそう言うと、一度深呼吸をして話を始めた。
「ご推察の通り、今のお菊殿を見る限りではそのぐらいの期間で動かなくなるかと思われます。
もちろん個体差はあるでしょうが、今人形達はあの土地の霊力を吸収したエネルギーで動いているのですよ。
霊力を人間たちが活動するための栄養と例えればわかりやすいかもしれませんが、当然生命活動をするにあたり動いても動かなくてもエネルギーは消費されるでしょう。激しく動けば動くほどその消費量は高くなるはずです」
「なんとかならないのですか?」
俺はすぐに解決策を模索しようとした。
お菊やグイム達が動かなくなる? 身勝手な話だがそんな最後はあんまりだと感じた。
「なんとか……ですか。あのアパートは今は地鎮祭をしているのでもう無理でしょうし、同じような土地を発見してもおすすめはしません。悪い土地に当たれば悪霊化するという結果になるかもしれませんからね」
と、神澤さんは希望は無いと言ったのだ。
「そんなぁ」
俺が神澤さんの答えを聞き絶望していると、
「聖人。人形というのは本来そういうものじゃ」
と、お菊が俺の方を見て話し始めた。
「人形は昔から人と共にあった。遊ぶ為や人の厄を肩代わりする為などの道具。それらの全てが人と会話をするということなどありえないのじゃ」
以前にもした会話だ。AI搭載のロボットなどがあるよ。と再び教えてやるのは無粋なことだろう。
「お菊……」
だけど、お菊の淡々とした物言いに俺は驚いていると、
「じゃからワシらが動かなくなることを喜ぶならまだしも、悲しむなどしなくていい」
今度は優し気な声で俺にそう言ってきた。
「いや、悲しむとか……あれ?」
気づけば俺は涙を流していた。
頬に手を当てればその手が濡れている。
「どうし……て」
俺とお菊はそれほど長くない付き合いだ。そもそも最初は殺し殺されるような仲だったはずだ。
喧嘩どころではない洒落にならない思い出だ。
グイム達も俺を助けてくれたが、恩はあっても涙を流すほど情があるわけではないと思っていた。
「ふふっ、おぬしはトメに似ているのぉ。ワシら人形に対してそれほど大切に思ってくれているとは」
そうお菊の言葉を聞き、
「(あぁ。そうか……)」
と、俺は涙の理由を理解した。
「(やっぱり俺、こいつらの事を生きていると……。家族だと認識していたんだ)」
彼ら人形は話したり怒ったり笑ったり悲しんだり。そういった事ができる一つの生命体として俺は共に過ごしてきたんだと感じた。
彼らには思い出がある。
お菊やカリーヌ達にはグイム達にある『設定』などの偽りの記憶ではなく、俺の祖母や萌恵さんの祖母達と過ごした記憶もある。お菊達日本人形には自分たちの"歴史"があるのだ。
それに俺を救ってくれただけではない。俺が生まれる遥か昔、祖母を黒地子の連中から守ってくれたという事実もある。
祖母の思い出を聞かしてもらった時点で、俺は彼女たちの事をただの人形として見ることができなくなっていたのだとわかった。
命を救ってくれたという点が一番インパクトが強いものであるだろうが、やはり祖母の代から家を守ってくれたという恩は家の歴史としての重みを感じていた。
「では、続いて聖人さんのこれからについてと……その前にこの事件にかかわった人達の話をしていきましょうか」
「はい」
事件に関わった者。この話を聞くと自分たちのように"巻き込まれた一般人"というよりも、亜矢子や黒地子家の連中のような者達の事を思い浮かべた。
しかし、彼らの話が出てくるのは後半になる。
「まず、あの場に居た警官達についてなのですが……」
「あぁ、名前は何というか覚えていませんが萌恵さんの誘拐を見逃した人ですか」
そういえば悪人として分類される人物が警官にも居たことを思い出す。
しかし彼は妻子を人質にされたりしていた為、根っからの悪人というわけではないことも思い出した。
俺自身がどうこうしたいわけではないため、実際に被害にあった萌恵さんの気持ち次第だよな。とも考えた。
「まず、黒地子家や可部和見家に協力していた警官についてなのですが、彼は退魔士に関わる全ての記憶を消された後、警察官を退職しました」
「そうですか……。記憶を」
「はい。一般人の方々に保有してもらっても困る記憶ですからね」
「そりゃぁ、まぁそうですよね」
プラモ軍団と退魔士が国内で戦争をしました。なんていろいろ厄介だろう。反戦団体とかはどう出るかわからないが、プラモ業界も大打撃を受けそうである。というか、国内どころか世界中混乱しそうな話だ。信じればだけど。
「一応彼には我々が手配した監視体制がしっかりしている再就職先が用意されています。彼自身、進んで人を傷つけようとしたわけではないのでこれで大丈夫でしょう」
と、神澤さんは言った。
「それは萌恵さんと二度と接触しないという保証はあるという事ですか?」
「それは……。まぁある日偶然出会うとしても向こうは気づきもしないと思いますが。あ、ちなみにこの件は梅岸さんの方からも許可を得ていますよ」
「萌恵さんからですか? それなら俺からこれ以上言う事は特にないですが……」
萌恵さんが彼の処分に関してそれでいいと言うのであれば問題ないだろう。
「もう一人の警官に関しても記憶を消しておきました」
「えっ!? あの警官もですか!?」
彼は最初は善良な市民を助けてくれないポンコツ警官として認識していたが、最終的には俺を命がけで助けてくれたので仲間意識はあった。
「えぇ、普通の生活を送るには必要ない記憶でしょう?」
「は、はぁ」
しかし、神澤さんは当然でしょう? と言わんばかりの口調でそう言ってきたではないか。
そのことに俺はうっすらと恐怖を感じてしまう。
「えっと、じゃぁもしかして矢川や萌恵さんも?」
俺がそう言うと、
「いいえ、彼らは別です。今、貴方と同じ状況ですから」
と言った。
「同じ状況? といいますと?」
「今、大切な友人達との別れを惜しんでいるのです。記憶を消して邪魔をするつもりはありません」
そう言われて安心したと同時に不安も出てきた。
「それは……別れが済んだら」
「えぇ、城野さんを含めた全員も今回の事件の事については記憶を消させてもらいます。大切な友人達との別れだけではなく、記憶も消されてしまうというのは非常に辛いことだと思います。
ですが、その記憶を持って日常生活に戻れますか?」
「それは……。戻れると思います……」
「そうでしょうか?」
俺が戻れると答えると、はたして本当にそうなのかと神澤さんは言ってきた。
「確かに日常生活をする分には問題ないでしょう。皆さんそうでしたが、PTSDなどの兆候は今は見えません。
しかし、今後はどうでしょうか? 貴方は知ってしまったのです。付喪神の存在や霊力、そして霊能力者の存在。これらは世間一般では存在しない者と同義で扱われています。宗教上それらを崇めていることはあっても、その信奉者達の殆どは実際に目にしたこともないでしょう。それでも城野さんは今後はっきりと認識してしまった霊的存在に怯えることなく生活は可能ですか?」
神澤さんはそう説明してくれたが、俺はどうにもそれが引っ掛かる。
「それは貴方達能力者にとって俺達の記憶があることは不都合でもあるんでしょう?」
彼が言う通りこれから幽霊や妖怪などといった存在に怯えることはあるだろう。だけどそれは俺の問題というだけだ。被害者を支援してくれる親切心から言ってくれているのかもしれないが、どうにも彼……いや、彼らのような能力者の都合のようにも俺には聞こえた。
「ふふっ、そうですね。確かにそう言えます」
つまりは、俺のように真実を知った存在が厄介というだけの話だ。
不用意に俺が彼らの存在を吹聴したとしてそれを多くの人が信じてしまえば困るのは彼らではなくとも、この国の政治体制にも大きく影響はあるだろう。
特別な力を持つ存在の声が大きくなる。頑張ってもどうにでもならない能力を持っている。神澤さんや亜矢子はそういった存在なのだ。
しかしながらどうして彼らは表舞台に出ないのだろうか。やはり俺たちそういった霊能力がない者達によって排除されてきた歴史でもあるのだろうか。魔女狩りという言葉が真っ先に思い浮かび、それの再来を恐れている神澤さんによって記憶を消す作業というとてつもなく人の脳に悪影響を及ぼしそうな事をされるのだと思うと、納得したくはないが考えることはできた。
「城野さんが考えている通りかと思います。人は持たざる者が持つ者に対しいい感情だけを向けてくるとは限りませんから。それに、私どものような能力ですと、特にねぇ?」
「そういう能力を持つ者が排除された歴史は世界中に多くありますからね。昔なら崇められていたんでしょうけど」
「えぇ、考えると我々にとっては嫌な時代になった。ということでしょう」
「だから黒地子家の連中はあんなことをしたと?」
「無茶な事をしたものです。現状を打破しようとしたのかもしれませんが、最もやってはいけない手段です。仮に彼の手にあの土地が落ちたとしても、世界どころか日本を征服する力は得られなかったでしょう。せいぜい日本で起きる内戦で多くの人が死に至る。という結果だけで、彼らは何も得られなかったはずです」
「それはそれで嫌な話ですね」
黒地子家と日本政府が戦って日本政府が勝つことまでは予測しているようだが、それによって一般市民が巻き添えになってしまうなんてとんでもないことだ。
すると、俺はふと黒地子家と戦うという点で思い出したことがあった。
「そういえば、神澤さんの師匠さん……いや、親類かはわかりませんが、俺の祖母を助けてくれたようで……。あの時はなぜ祖母の記憶を消したりしなかったんでしょう。お菊の話からするとそういった事はされていなかったようでして」
記憶を操作する術を持っていなかったかもしれないが、何か特例というのがあれば聞いておきたかった。
俺もなぜ記憶を消されるかを聞いたが、できれば彼らと過ごした日々を忘れるという事をしたくはない。
もし仮にお菊の記憶がなくなれば、俺はきっとお菊の事を記憶が消えた時点で当初感じた【呪いの人形】という評価を変えることは無いだろう。
そんなことが無いようにしたいという気持ちがあったので、俺は神澤さんにそう聞くと、
「あぁ、その件でしたか。あれは土地の鎮静化という目的もありましたから、お菊さんの封印が解けないようトメさんの記憶を保持させたままだったんです。
それに黒地子による被害も今回ほど大きなものではありませんでしたから、例え周囲に話したとしてもメディアが発達していない時代でしたから大きく取り上げられる前に対処が可能だったんですよ」
「そういう事だったんですか……」
今回は土地の鎮静化にお菊を使っていない。
以前神澤さんに聞いた話では、神澤さんより能力が上の上司的な存在が土地の安定化に努めているそうだ。
つまり、俺の記憶は今回必要ないことになってしまう。
「城野さん、申し訳ない。少しでも安心できる環境で皆さんと過ごしてもらいたいと考えておりましたが、記憶を消されるという内容についてまでは説明しておりませんでした。
あなたにとって二度命の恩人を失うことになってしまう。そのことについては私は謝ることしかできません」
「いえ……。霊力が消えるのは神澤さんのせいでもありません。記憶についても……気持ちの整理はできませんが仰っていることの重要性は理解できますから」
また暗い現実を突きつけられてしまった。
しかしだからと言って拒否して暴れても彼に敵うとは思えない。仮に神澤さんをどうこうできてもその後はお尋ね者の人生を過ごすことになるだろう。
「城野さん、矢川さん、梅岸さんは似たような状態です。お別れが済み次第我々がお伺いいたします。連絡は不要です。霊力が完全に消えれば我々は察知できますから」
「そうですか……」
つまり監視されているという事だろう。
「最後に、黒地子家と可部和見家についてですが、黒地子家はその力を完全に失いました。全国に散っていた部下も拘束、または死亡。資産も没収。生き残っている者も記憶を消され再起を図れるだけの力は持っていません」
「そうでしたか。今後似たようなことが連中の手によって起きないという事であれば言う事はありません」
黒地子家の実力者の大半があの戦いで死んだ為、もう以前のような力は残されていないだろう。
主犯格も全員死んだようだし、これ以上恨みもない。
全国で可部和見家と戦ってもいたようだし、まだ残党が居るのではないかという心配があったが杞憂のようだった。
「可部和見家は今回黒地子家にいいように利用されていただけですが、無用な混乱を招いた責任を取り、我々の監視下にあります。元々人手はあっても資産は無い者達でしたので、どちらかと言えば管理下に置かれたことを歓迎しているようですが……」
「うぅん。なんとも言えないですが、まぁ問題を起こさなければいいですね」
最後には助けられたこともあり、黒地子家以上に恨みはなかった。萌恵さんはきっと俺よりも大きい恨みを抱いているだろうけど。
「では私はこれで」
俺と人形達を気遣ってか、話を終えた神澤さんはそう言って部屋から出て行った。
こうして俺はこの奇妙な出来事の終わりを突き付けられた事により、人形達やプラモ達とのこれからの過ごし方を考えることにしたのであった。
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次話で最終話となります。
3日後の予定となります。
昨日投稿した短編小説「有能追放~スキルを沢山授かっても何故か無能扱いされました~」も読んでいただけると嬉しいです。(・∀・)




