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第53話 久しぶりの実家



 数日後。



―萌恵、カリーヌ視点―


「大丈夫? 無理しなくてもいいんだよ?」


 そう萌恵へ言ったのは彼女が祖母から譲り受けた大切なフランス人形であるカリーヌだった。

 旅行鞄のチャックの隙間から顔だけが見える状態で周囲に配慮しながらカリーヌは声を出す。


「うん、大丈夫。ちょっと緊張していただけ」


 久しぶりに帰ってきた萌恵の実家は、以前と変わらぬ様子であった。

 実に数か月ぶりとなる帰省は普通ではあり得ない緊張を彼女にもたらしていた。


 何せ誘拐された経験を経て、さらには戦場も経験し、その上両親はというとその期間誘拐犯たちにより記憶を改ざんさせられ萌恵の事を忘れていたというのだ。

 しかも萌恵の目の前にある実家というのも長年過ごしてきた家とは違う。元々萌恵達一家は田舎の小屋のような平屋に押し込められており今の家は父が長年貯めてきた貯金を使用し買って間もない家だったからだ。萌恵もこの家で過ごしてきた期間は短く、久しぶりに帰ってきたという実感が薄かった。


「じゃぁ、いくよ」


「うん。頑張って!」


 萌恵は決心してチャイムを押す。

 まだ自分の事を忘れていたらどうしようという考えが全くなかったわけではない。

 この事件の後始末をしてくれた神澤の仲間からもう大丈夫というお墨付きをもらえなかったら、まだ来ることはなかった実家。

 緊張しながら待つと、インターフォンから「はーい!」と、母の声が聞こえてきた。


「お母さん? わ、私だよ。萌恵だよ」


 一度両親が萌恵の事を覚えていないという悪夢を見てからいらぬ緊張をしていた萌恵は、マイクスピーカーの前でそういうと、


「あらあら、帰ってきたのね? ちょっと待ってなさい」


 と、萌恵の母がそういった後扉の鍵を解除し扉を開けた。

 自然な態度で接してくれたことで、話の通り洗脳が解けたということがすぐに理解できた。


「おかえりなさい、萌恵」


「ただいま……お母さん!」


 母親から暖かく出迎えられたことで、萌恵の心は安らぎを得て、目元が熱くなってくる。涙を流さないように必死に笑顔を作りながら家の中へと入っていった。





「おぉ! 萌恵じゃないか。おかえり!」



 家の中には萌恵の父親もいた。

 父親の様子も元の状態であり、ここでも萌恵は安心することができた。

 今日は土曜日だったため、父は仕事が休みだったのだ。


「ただいま。お父さん」


 自分の事を忘れていない父親に対して、嬉しさのあまりまたもや涙を流しそうになりながらも耐えていた。

 そしてソファーに座って一息つくと、


「いや~。萌恵が無事でよかった。ニュースでそっちが大変だったことを知って、いてもたってもいられなくなってなぁ」


 と、萌恵の父がそう話を切り出した。

 今回萌恵が実家に帰ってきたきっかけは父からの連絡である。

 その連絡というのは、


『萌恵! 今、ニュースでお前が住んでいる地域に隕石が落ちたと言っているんだが大丈夫か!?』


 というものである。

 連絡は戦争があった翌日に来たので、神澤の仲間がその日のうちに萌恵の両親の記憶操作を解除してくれたのだと確信した。

 それだけでもうれしいが、しばらく神澤や警察の事情聴取やらなにやらでホテルから出ることもままならず、ようやく外に出られたのは5日後の事であった。


「住んでいたアパートもボロボロになってしまったんだろ? しばらくこの家に居るのはいいが、仕事とかどうするんだ?」


 萌恵は住んでいたアパート――現在は聖人が正式な住人であるが――が崩壊してしまったことは既に両親に伝えていた。


「うん……。なんかいろいろあって辞めてきたから大丈夫だよ」


 萌恵がそう言うと、


「いろいろあって辞めたって……それはそれで大丈夫なの?」


 まさか仕事を辞めたとは思わなかった萌恵の母は、娘が仕事先でイジメやパワハラ等で苦労したのではないかと心配してしまう。


「しばらくは仕事探しかなぁ。アルバイトとかをしながら探していくつもりだけど、しばらくすれば補償金とかも出るらしいし、それで過ごそうかと思っているの」


「補償金? あぁ、隕石被害に遭った住民に対して出る補助金みたいなものか?」


 萌恵の父が心配そうに聞くと、


「そう、それ」


 と、萌恵は答えた。

 国からは隕石被害があった住民に対して家の修理などをするために補助金が出ることになっていた。

 アパートに住んでいた萌恵や聖人達に関しては持ち家の住民達よりも本来もらえる額は少なかったが、神澤の話では事件解決の為に働いた者達に関してはそれなりに報奨金も出るとのことだった。

 金の出どころは黒地子家が保有する資産を売却などでも到底足りないようなので、この国もかなりの身を削っているのかもしれない。


「しかし、運よく隕石被害があった場所の住民が全員その日に家を留守にしていたなんて、不思議なこともあったものだ」


 萌恵の父も超常的なことが起きて自分の娘が無事であったことに神に感謝したいぐらいだった。もちろん萌恵自身が事件の渦中に居たことなど知りはしない。


 こうしてしばらく久々の一家団欒の時を過ごした後、萌恵は自分の部屋へと向かった。

 いくらホテルのベッドが材質もよく、フカフカであっても自分の家という安心感は無い。聖人の家でも家具などはなじみ深くても自分の家ではないという気持ちもあって心から寛ぐという事はできなかった。そのため久しぶりに実家のベッドに横になろうとしたのだ。


「……」


 無言で自室の扉を開け、中をのぞく。


「「「「「……」」」」」


 部屋の中には50体を超えるグイム達が扉の方を向き、無言で敬礼をしてきた。


「……」


 萌恵は彼らににっこりと笑った後、再び扉を閉めた。


「~~~~~!!」


 そして頭を抱える。


「そうだった。私の部屋は基地になっているんだぁぁ……」


 小さく叫ぶという器用なことをしながら萌恵は、ベッドの上が既に航空兵力の発着場になっていたことを嘆くのであった。







 いつまでも廊下に居ることはできないと、萌恵は自室に入る。

 足の置き場が無いほどに萌恵の部屋の要塞化は進んでおり、この家に来る敵を全力で排除する気で満々のグイム達は急いで萌恵が座れる場所だけでも確保しようと動き回る。


「……!」


「……!?」


 そんなことをしていると、あちこちでトラブルが起きているらしく、衝突事故がかなり発生しているようだ。

 グイム達は化粧台の引き出しの中ですら武器を仕舞いこんでいたらしく、部屋の中の武装化が徐々に解かれていった。


「え!? そんなところにも!」


「あ、あんた達!」


 箪笥の下着が入った引き出しの中が開かれ、その中からグイムが数体出てきた。

 これにはカバンの中から出てきたカリーヌもびっくりである。カリーヌは全力で飛び出していき、引き出しから出てきたグイム数体の頭をひっぱたく。



「だ、大丈夫であります。カリーヌ殿。彼女らは全員女性です!」


「あんた達の性別なんかわかるわけないでしょ!」


「は、はいぃぃ」


 どうやら下着の引き出しに入っていたグイム達は女性だったらしい。それでも萌恵は複雑な心境である。


 その後も順調に片付け作業は続き、ベッドの上は奇麗になり、床の一部は歩けるようになった。


「まるでゴミ屋敷みたい……」


 と、奥に追いやられたグイム達のぐちゃぐちゃな状態を見てカリーヌはそんな事を言ってしまうほどだ。


「うわぁ、ベッドの下もすごいことになってる」


 気になってベッドの下を覗いてみると、そはグイム達の修理兼生産工場と化していた。今はグイム達の多くの格納庫にもなっている。

 グイム達は各々好きに過ごしていたようで、格納庫エリアでは武器の品評会のようなものも行われていた。

 それが今では朝の通勤ラッシュの満員電車のようになってしまっている。


「よくテレビで見ていた不審者や幽霊がベッドの下に潜り込んでいるってのを見たことあるけど、この様子じゃそういうのとは無縁だよねぇ」


「変なこと言わないでよぉ」


 カリーヌが言う通り、安全なベッド下であれば世界広しとはいえ萌恵のベッド下に並ぶものはそうはないだろう。

 不審者が入り込む余地もなければ仮に入ったとしたら蜂の巣と化した不審者ができるだけだ。しかも有効なのは生身の人間だけではなくオカルト的な要素を含む存在も対象だ。まさに鉄壁の防御と言っても過言ではない。


「聖人さんに返さなきゃいけないよね?」


 事件が解決したのであれば彼らを返却しなくてはいけない。というか返却したいという気持ちが強い萌恵はグイム達を見てそうカリーヌに言うのだが、


「全部返したら身の安全に関して不安があるけどね。いくら黒地子の連中が倒されたとしてもこいつらが居ると安心だし。こいつら地味に私より強いから……。あ、何だか自信がなくなってきた……」


 もし黒地子の残党が萌恵を狙ってきたら。と考えると全て聖人に返すのは惜しい気もしてきたカリーヌ。

 何せあんな大規模な戦闘を経験してしまうとどうしても今後あのようなことがあったら? と想像してしまう。

 1対1では分からないが、地味に量産型グイムもかなりの強さがあることはその身をもって知っていたのでカリーヌは手放したくない様子であった。


「ってか、一番手っ取り早い方法は萌恵と聖人がくっついちゃえばいいんだよね。そうすればここのグイム達も一緒に聖人の家に連れていけるし」


「ちょ!? な、ななななんてことを言うのぉ!」


 萌恵は突然カリーヌがとんでもないことを言い出したため慌てて大声を出してしまう。


「え~。でもまんざらでもない様子だったじゃない」


「そんなわけないでしょ!? 聖人さんは恩人だけど……その……」


「あらあら、正直になっちゃいなよぉ~」


 萌恵がしどろもどろになっていると、それを茶化すように笑うカリーヌ。


「もうっ! 馬鹿知らない!」


 と、恥ずかしさのあまり布団をかぶって視界を閉ざそうとした萌恵であったが、





「おいっ、どうしたんだ萌恵!? 何かあったのか!」




 普段は大声をだあない自分の娘を心配した萌恵の父がノックもせずに萌恵の部屋の扉を開けた。



「「えっ」」



 萌恵は父のあまりの行動に驚いたのだが、萌恵の父はそれ以上に部屋の惨状が目に入り驚いた。



「え……基地になってるぅ。ここは天国かな?」



 萌恵の父も陰ながらガゾギアにはまっていた時もあった。

 家では息子は存在せず、陰に隠れてガゾプラを数体購入して楽しんでいた涙ぐましいファン活動をしていた。

 しかしどうだろうか。今、娘の部屋は自分が恋焦がれた部屋そのものになっている。

 娘がガゾギアにはまった? どうして? そんな素振りは無かったが……。そうした思考を一瞬のうちに駆け巡らせた後一つの答えにたどり着く。



「男の影響かぁああああああ!!!!!」



 そう。萌恵の父は娘の部屋が夢の世界と化した原因を娘にできた男による影響と考えたからだ。

 ガゾギアというのは男女比でいえば男性の方にファンが多い。その為今までガゾギアに縁が無かった娘が急にガゾギアに嵌るという理由がこれしか考えられなかったのだ。

 ある意味聖人という男の影響で萌恵の部屋がガゾプラに埋め尽くされているので間違ってはいないが、萌恵自身の趣味の可能性を真っ先に消してしまっている。

 娘を溺愛し、もし娘に彼氏ができたら冷静には居られないのではないかと考えていた彼は冷静さを失ってしまっていたのであった。



「お父さん! 勝手に部屋に入ってこないで!」


 萌恵はそう言うのだが、


「これはどういうことか説明しなさい! お父さん、認めないからな! 趣味は合うようだが、お父さんは認めないからな!!!!」


「いいから出て行って!」


 意味不明なことを騒ぎ立てる父を追い出した萌恵は、本当にどうしたものかと動きを止めたグイム達を見ながら思ったのであった。



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次話は明日の予定です。

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