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第55話 エピローグ


 出会いがあれば別れもある。

 そんな言葉を聞いたことがあるが、人生でこれほど痛感したことはない。


 出会いはやはり別れから始まった。

 祖母の死から始まったこの奇妙な事件は、俺の人生に大きく印象を残すことになるだろう。


 神澤さんとホテルで別れてから1週間後、俺は新居にて日本人形達や大勢のプラモデル達と共にゆったりと過ごすことになる。家は神澤さんに提案された中で一番の大きさであった。

 引っ越し自体は元居たアパートが吹き飛び、持ち物が激減していた為迅速に行われた。

 ホテル内に大量に居たグイム達は進んで段ボールの中に入っていったので手間も省けたのだ。


 萌恵さんの所に居たグイムは念のために数体残し、あとは親戚中にばら撒いていたグイム達の回収も終わり一息ついていると、玄関のチャイム音が聞こえる。

 インターフォンのモニターを確認すると、そこには萌恵さんが居た。


「あ、聖人さん。お久しぶりです」


「やぁ、久しぶり。どうぞ、上がって」


「ありがとうございます」


 今日は萌恵さんとこの家で会う約束をしていた。

 なんでもカリーヌのお願いで、自分が動かなくなる前にお菊と話をしたかったとのことだ。


「久しぶりね。お菊」


「うむ、久しいの。カリーヌよ。まぁ、あれから半月も経ってはおらんがの」


 などとぶっきらぼうな挨拶から始まった。

 え? カリーヌはお菊と話がしたかったんじゃないの?

 まさか決着をつけに来たなんて言わないよね?


「あらぁ、カリーヌちゃん。久しぶりですわぁ」


「こうしてゆっくりと話せる機会ができるとは思いもしなかった」


「カリーヌぅ、あそぼーあそぼー」


 お菊とカリーヌが睨み合いをしていると、奥から他の日本人形達がぞろぞろとやってくる。今日来ることはみんなに伝えていたため、歓迎ムードで押し寄せてきた。


「あ、あれ!? なんでみんなが居るの!?」


 カリーヌはお菊は居ても他の形見分けされた日本人形達が居るとは思わなかったみたいで驚いていた。


「あぁ、それはサプライズで……と言いたいんだが、本当は形見分けした親戚連中がなぜか怖がってしまってね。

 神澤さんが親戚たちの記憶を操作したんだが、深層心理? とかにある恐怖までは取り除くことが出来なかったみたいで……。

 先日両親から俺の所に電話があって祖母ちゃんの日本人形に変わりないかと聞かれて、大切に扱っていると答えたら『なら、聖人の所に預けよう!』って全員こっちに送り付けてきたんだ」


「えぇぇ……なんか酷くない?」


 トメの子孫たちの人形達へのあまりの扱いにドン引きしているカリーヌ。


「いえいえ、実は私達も動くことができる最後までみんなで一緒に居たいという気持ちになりまして」


「まぁ、トメの親族も恐怖を感じるのも仕方がないだろう。

 我等も皆で一緒に暮らしたくてな。一致団結してなんかこう。嫌な雰囲気を必死に出してたのだ」


 お涼とお辰がそう自慢げに悪巧みした事を話した。

 なんだよ妙な雰囲気って。下手すりゃお寺かゴミ収集所へ捨てられていたかもしれないのに大した度胸である。


「そうだったの。じゃぁ、せっかくだし一緒に遊びましょ!」


「えぇ、そちらの話も聞かせてくださいね?」


 こうして人形達はワチャワチャと日本人形達用の部屋へと消えていった。


「俺達はリビングで話でもしようか」


「はい」


 俺は萌恵さんをリビングへと案内し、カリーヌ達の話が終わるまで話をすることにした。




 リビングのソファーで対面するかたちで座った俺達は、さっそく近況について話し出す。

 まず最初に話を切り出したのは俺からだった。


「そういえば萌恵さんも新しい家をもらえたんだっけ?」


 俺の新居については、萌恵さんが訪ねて来ることもあり教えていたが萌恵さんの新しい家については全く知らなかった。


「はい。最初は実家に住んでいたんですけど、最近住み辛くなって神澤さんに用意していただいた防犯性が高いマンションに引っ越しました」


「ん? 住み辛くなった?」


 萌恵さんから不穏な言葉を聞き俺の身に緊張が走る。また何か事件が起きたのだろうか。


「えぇ、父が最近……ちょっと」


「萌恵さんのお父さん? ご両親は黒地子の連中いや、可部和見の方だったかな? 彼らから受けた洗脳は解けたんじゃ?」


 萌恵さんの言いかけた言葉に不安を抱きつつ、萌恵さんの実家で何が起きているのかを聞こうとした。


「えっと、恥ずかしい話なんだけど、私に彼氏ができたと思っているらしくて、暴走しちゃって……」


「暴走? なるほど……。それで事ある毎に彼氏に合わせろとか、どういった彼氏だとか聞いてくるのかな?」


「はい。そういった人はいないと言っても信じてくれなくて……」


 萌恵さんが誘拐されてから実家に帰ってくることもなく連絡もなかった。おそらく誘拐された部分は神澤さんが記憶の操作をしてくれたのだろうが、帰ってくることもなく連絡もなかったという点については彼氏に夢中だったから。と思われてしまったのだろう。

 しかし、不思議な点もある。


「連絡を取っていなかった原因が彼氏との交際で忙しかったからと思われているのかな? いや、普通は娘が彼氏の存在を否定すれば仕事で忙しかったとかいう理由も考えると思うんだけど……」


 異性との関係だけではなく仕事や趣味という可能性もあるのだ。誘拐という可能性もあるだろうが、その可能性は神澤さんのおかげで真っ先に思考から削られてしまっているだろう。

 では、何故萌恵さんの父は萌恵さんに彼氏ができたと思ったのだろうか?


「その……部屋にたくさんグイムさん達が居たから、男の子がよく持つ趣味をいきなり持ち出した原因は男ができたからだろう。とか言い出して……」


「えぇぇ……」


 なんと、理由を聞けばグイム達が原因だった。それに元を辿れば俺がグイム達を萌恵さんの家に派遣したことが原因である。

 男が原因である点は間違いないのだが、そのせいで萌恵さんは実家に居辛くなってしまったようであった。



「えぇと、そ、それは何と言いますか……申し訳ない」


「いえ! 聖人さんが謝らないでください!」


 萌恵さんは慌ててそう言った。


「その件も神澤さんに相談しなくちゃな……。俺達が持つ事件の記憶が神澤さんによって消えれば、萌恵さんの部屋にガゾプラが大量にあったという事実も萌恵さんの記憶から消えるはず。そうなると萌恵さんのお父さんと萌恵さんの間に認識のずれが発生するだろうからね」


 俺は萌恵さんを安心させるために、直ぐに解決策を提示した。

 そういえば俺も事件の記憶がなくなればこの豪邸に住んでいる理由が見当たらなくなってしまう。

 隕石被害の補償という記憶は植えつけられるだろうが、他の被災者との補償の差が大きいので自分でもおかしいと思うのではないだろうか。


 そんなことを思っていると、


「嫌です……」


「え?」


 萌恵さんがぽつりと呟いた。


「聖人さんは……カリーヌやお菊さん達との思い出が消えてもいいんですか?」


 と、言ってきた。


「……いいわけが無い」


 俺は萌恵さんの"嫌"という言葉で、神澤さんの記憶消去には納得いっていないと察した。


「じゃぁ、なんで……。どうしてそんなに……! す、すみません。聖人さんも辛い……ですよね?」


「うん」


 きっと俺はとてもひどい顔をしているのだろうと思う。

 割り切れないのは俺も一緒なのだ。


「俺も嫌だよ。だけどお菊達に説得されてね……」


 今は最後の別れを惜しむ時間になっている。

 悔いが残らないように。いや、記憶を消されたら悔いは残らないだろうけど。


「私もカリーヌに言われました。私たちは本来は動いたり話したりできないって。だから普通の状態に戻るだけなんだって言われました」


 萌恵さんもカリーヌに俺がお菊に言われたように、これが正常なのだと説得されたようだ。

 なぜこうも人形達は割り切りがいいのだろうか。せっかく得た命を守るために足掻こうとしないのだろうか。


 その答えは予想することはできる。人形達はおそらく俺達を悲しませたくないのだと思った。

 グイム達は全員に聞いたわけではないので分からないが、お菊は少なくとも70年以上前から命が宿っていた。カリーヌも以前から動けなくても意識はあったようだったので、あの土地が原因ではなく命が宿っていた傾向はあったのだろう。つまり、生きていた年数で言えば俺達よりもずっと長生きなのである。


 ――――まるで祖母が孫を心配させないように振舞っている。


 そんな印象を俺は受けていた。



「だけど聖人さんは違います。カリーヌと話したことも当然ですが、聖人さんとの出会いも何もかも消されてしまうなんてあっていいわけがありませんっ!」


 俺が人形達の事を考えていると、驚くことに俺との出会いについて萌恵さんは失いたくないと言ってくれた。


「私はまだ何も……恩返しができていません。あの施設から逃げ出してきてアパートに辿り着いて……。私の部屋じゃなくなっていたとしても、私を暖かく迎え入れてくれて守ってくれました。それに私だけじゃなく、私の家族も」


「それは……今回の事件が特殊すぎたからだよ。カリーヌの持ち主でもあったからね」


 女性だから? 下心があったから? 不憫に思ったから? そんな気持ちで迎え入れたわけではない。

 声を掛けたのは偶然だった。

 アパートで一緒に住んでいたのは、単純にあの場で見捨てていたらカリーヌに殺されていただろうという恐怖もあったし、同じ悩みを抱える仲間という意識もあったからだ。

 よくよく考えれば俺も追い詰められていたとはいえ大胆な行動をしたと思っている。

 萌恵さんだったからよかったものの、もしこれが快楽殺人者とかだった場合、迎え入れたら黒地子家と戦う前に室内でグイム達とそいつとで戦争が起きていただろう。


「あと、もしあそこで見捨てていれば、きっと天国の祖母ちゃんがめちゃくちゃ怒っただろうからね」


「ふふ、私のお祖母ちゃんと聖人さんのお祖母さんが友人だって知ったのはあの日から後の事だったじゃないですか。だから大目に見てくれると思いますよ?

 あの時の私、どう見ても普通じゃなかったですから」


 うっすらと涙を浮かべながら笑う萌恵さんはそう言った後、


「だから私は忘れたくないんです。聖人さん、私を聖人さんの傍に居させてください!」


「えっ!?」


 突然目をつぶってそんな告白をしてきた萌恵さんに俺は驚く。

 これは……どう考えてもそういう事だよね?

 どうして俺に対してそんなことを? と、考えるほど俺は今までモテてこなかった。自分から異性に対して告白をすることはあっても告白されるなんてことはなかったのだ。と、自分で思い出していて悲しくなってくる。


「(吊り橋効果っていうのがあったな)」


 そんなことを呑気に思い出すほど頭がパニックになっていたのだろう。


「あの……俺でいいの? いや、それよりもどうして俺なの? 恩人だからってだけでそんな……」


 モテない男の悲しき疑いの心。理由を聞くと萌恵さんは真剣な目でこちらを見ながら語った。


「私は今まで男性というのは父以外恐怖の対象でした」


「それは……」


 今までとなると、あのアパートで起きた事件よりも前からだろう。以前何かトラウマになるような事でもあったのだろうか。嫌な男と付き合っていたとか、今回とは別件で男性による犯罪に巻き込まれた経験があるとかだろうか?


「私や私の家族が祖母の実家がある土地から逃げてきたという話は覚えていますでしょうか?」


「あぁ、うん。もしかしてそこで?」


「はい。私は祖母の親族にあたる私と歳が近い……いえ、私よりも15歳上の男性と結婚するようにと勝手に決められていました」


「えぇぇ……」


「もちろん私はそれが嫌でした。ですが、高校を卒業したらすぐに。と、言われ、何度も襲われそうにもなりました。ですが、その度に祖母や母が助けてくれて……父もあの土地から逃げ出すためにお金をこっそり貯めて祖母を含め逃げようとしていました。ですが、こっそりとお金を貯めるには限度があります。逃げ出すにはまだまだ時間がかかりそうだですが、祖母が亡くなり祖母の保険金が入ってきたことで状況は一変しました。

 祖母は以前から私たちだけでも逃げ出せるように準備してくれていたんです。保険金を何とか親族に奪われないようにしながら私たちはそのお金で土地を離れました。

 安いですがローンを組んで家も立て、安住の地を得たのです。

 ですが、それまでの間、何度勝手に婚約者と決められたあの人にひどい目に遭わされそうになったか。私はそのせいで大学生活でも男性が怖くて怖くて仕方がありませんでした」


「なるほど……。そりゃぁ守ってくれたお父さん以外は嫌だよね」


「だけど、聖人さんは違った。私を家に招き入れても変なことはしてこなかった」


 いや、変なことをしたらその瞬間にカリーヌに殺されると思うんだが?


「それどころか、私を常に守ってくれました。見ず知らずの私に寝るところや食べるものも用意してくれました。だから私はこの人なら一緒に居ても安心だと思ったんです。今度は私が少しずつでも恩を返していきたい。最初はそういった感情でしたが、だんだんと……聖人さんが特別な存在に思えてきたんです」


 なんか俺が騙しているような気がして仕方がないが、そこまで言われてうれしくない男はいないだろう。ちょっと罪悪感があるけど。


「う……ん。ありがとう。俺でよければこれからも一緒に居てほしい。

 萌恵さんなら俺が日本人形を大量に持っていても引かないと思うし」


 なにせ古びた日本人形が10体も飾られている家はなかなか無いだろうからな!


「本当に! こ、こちらこそありがとうございます。

 それと、お菊ちゃんたちですか? そうですね。私もフランス人形を大切に扱ってますから、記憶を失ってもきっとお菊ちゃん達も大切にすると思いますから」


「それはありがたい。お菊達は祖母ちゃんの形見だからなぁ。認めてくれる人が居ればうれしいよ」


 こうして俺は萌恵さんと付き合うことになった。

 記憶を失えばどのような関係になるかわからない。

 だって俺を好きになった原因というのがあの事件がきっかけだからだ。もし萌恵さんがあの事件の記憶を失えば男性嫌いの記憶しか残らないのではないだろうか。神澤さんがどういう記憶の操作をしてくるかわからないが、これ以上幸せを壊すような事だけはしてほしくない。

 そして、そのことに気づいた俺が告白を受け入れたのは卑怯なことではないのだろうかと、いまさらながら罪悪感を覚えたのであった。



「ちょっと!」


「こ、こら押すでない!」


「きゃぁあああ」



「お前たち、何やってるの?」


 リビングと廊下を隔てる扉が開き、そこから大量の人形とプラモ達が雪崩のように転がってきた。


「閣下、おめでとうございます!」


 と、総司令のグイムが俺達を祝ってきた。


「聖人さん! ここは殿方がリードをして萌恵さんを抱き寄せるべきですわ!」


「いや、男が苦手と言っていた人にそれをされるのはどうなのじゃ!?」


 お涼とお菊がそんなことを言って騒いでいる。


「萌恵、よかったね! 作戦成功よ」


 そしてカリーヌは萌恵の胸に飛び込みながらそんなことを言っていた。


「うん……」


 萌恵さんは恥ずかしそうに頷くが、


「……作戦って、まさか今回のこれって計画されたものなのか!?」


 と、俺は驚いた。

 萌恵さん単独の告白ではなく、俺以外の全員で計画されたもの。

 衝撃はあるものの納得した部分はあった。


「だからいつもに増してお菊とカリーヌの口数が少なかったのか」


 アパートでは和解した後あれほど険悪な空気にはなっていなかったと記憶していたため、お菊の出迎えには違和感があったのだ。


「そうですよ。お菊おば――お姉さまったら今日の事で緊張しすぎて大根役者になっちゃったんです」


「大根役者とは大きなお世話じゃ! というよりもお涼、お主今なんと言おうとした?」


「今日はめでたい日です。みんなでお祝いしましょう!!」


「おい、無視するでない! おいっ!!」


 次第にゾロゾロとグイム達も集まりだし、リビングはあっという間にパーティー会場へと変貌したのである。

 その雰囲気にのまれ、俺はすぐ未来に別れが待ち受けているとしても笑って過ごそうと思うのであった。














 3か月後。


「まだ大丈夫よ」


 そう声を出したのはカリーヌであった。

 お菊は俺と萌恵が付き合い始めたすぐ後に、人形が新たな家庭を邪魔するわけにはいかない。と、自主的に動かなくなった。

 ちなみに俺と萌恵は同居を始めたがまだ結婚はしていない。なぜならば今後事件の記憶を失った後萌恵との関係がどうなるかわからなかったからだ。

 萌恵は心配ないと言っているが、もし萌恵が男性嫌いを俺にまで範囲適応した場合結婚していた際には大変なことになりそうだったからだ。

 だから、萌恵さんのマンションも一応売り渡したりはしていない。


「そう。今日もありがとね」


「うぅん。お話しできてうれしいよ萌恵」


 二人は名残惜しそうにしながらそう会話を締めくくる。

 ここ最近の萌恵とカリーヌの日課であった。

 せめて思い残すことが無いようにといろいろな事を話しているのである。


 お菊のやり方も正しくもあり、カリーヌ達とのやり取りも大切なものだると思っていた。

 とくにカリーヌとお菊の絆は深い。元の人形に戻ってしまう時の事を考えれば……俺もどう萌恵と接すればいいかよく考えなくてはいけないと思う。





 4か月後。


「まだ大丈夫みたい。動き辛くもないし、まだ話せるわ」


「そう。もし辛くなったらちゃんと言ってね?」


「ふふふ、わかってるって。そんなことをしてある日突然萌恵とお別れなんて嫌だもん」


 まだ人形達の中にある霊力は底をついていないようだ。

 それがうれしいと思ってしまうのはいけないことなのだろうか?

 ここまで長く彼女たちと過ごすことになるとは思わなかった。


「なぁ、聖人よ」


「んおっ。珍しいなお菊。どうした? どこか痛むのか?」


 霊力が無くなっていくという感覚が分からない俺は、久しぶりに声を掛けてきたお菊に体調の変化を尋ねた。


「いや、それは大丈夫なのじゃが……。今日、ここにグイム達が遊びに来てな……」


 と、お菊は言いにくそうにしていた。


「あぁ、ここは私たちの縄張りだって文句を言いたいのか」


「いやいや、そうじゃない。なんじゃそのヤクザみたいな考え方は」


 お菊は呆れながらも説明を始めた。


「今日、グイム達がせめて最後に何か役に立とうとしているらしく家の点検をしていてのじゃ」


「点検?」


「うむ。軍人の視点からどこが侵入されやすい場所かとな。無駄に広い家じゃから、悪い人間も呼び寄せるかもしれないと言っておった」


「なるほど……ん? 迷惑だったとかそういう話じゃないのか?」


 お菊が何を言いたいのか分からない俺はそう聞くと、


「そうではない。まぁ、話を最後まで聞け。で、話を戻すと聞けばそのグイム達は日ごろからそういった活動をしているようなのじゃ。

 つまりカリーヌとは比べ物にならないほど動いている。つまり霊力とやらの消費が激しいはずなのじゃ」


「あぁ、そういう事」


 お菊が言いたいことがだんだんとわかってきた気がする。


「つまり、長くて3か月と言われていた霊力に対し、動きまくっているグイム達は倒れる様子もなく活動を続けることに疑問を感じたってことか?」


「そうじゃ。まさか神澤という男は戦闘を3か月間続ける事を前提に予測を立てたわけではなかろう?」


「だと思うよ。さすがにそんな予測は立てないと思う。普通に生活をしていてエネルギーが切れる時間が多くて3か月なんだと思う」


「ワシも同感じゃ。つまり、こんごワシらが問題なく動き続けることができるならば、再びこの土地に問題が起きたという事じゃろう」


「うわー……。それは喜んでいいのか悪いのか」


「悪いに決まっておるじゃろう! この土地の霊力がどう影響するかなど分からんと以前言われていたじゃろうに」


「それは覚えているよ。はぁ、一難去ってまた一難。ってか?」


 またお菊が包丁を振り回しながら襲い掛かってくる姿なんて見たくはない。

 もう少し様子を見ているか。





 半年後。


「「「「さすがにおかしい!」」」」


 俺と萌恵、お菊にカリーヌは声を合わせてそう言った。

 神澤さんが言っていた期限の多くて3か月とはいったい何だったのか。

 お菊達が動かなくなる予兆が全く現れないのだ。もしかするとある日突然動かなくなるのだろうか。



「議長閣下。我々も試しに演習を行いましたが、力が尽きるといった感覚はありません」


 総司令のグイムがそう報告をしてきたことにより、俺はようやくこちらから神澤さんに連絡をとった。

 こういった事は専門家に任せるのが一番だろう。



 連絡は簡単につき、電話口で軽く事情を説明した数日後、神澤さんは俺の家に訪れた。




「お久しぶりです城野さん。どうです新居の住み心地は」


「えぇ、かなり快適です。いい物件を紹介していただきありがとうございます」


 広すぎて管理が行き届かないが、今は掃除などはグイム達が交代でやってくれている。

 もし彼らが居なくなればこの広い家は寂しくなるだろう。


「ではどうぞ。こちらです」


 俺は神澤さんをリビングまで案内をした。リビングにはお菊達日本人形やカリーヌ、そしてグイム達の一部が総勢100体集まっていた。



「あぁ、どうも皆さん」


 神澤さんは人形やプラモ達の出迎えに驚いていたようだが、直ぐに落ち着いた表情となり俺が案内したソファーへと座る。

 俺の隣には萌恵が。テーブルの上にはお菊とカリーヌとグイムの総司令がそれぞれ立っていた。


「今日はよろしくお願いいたします」


「梅岸さんもいらっしゃったのですね? お久しぶりです」


「あ、はい。実はちょっと前から一緒に住まわせてもらっていまして……」


「おやおや! そうだったのですか」


 神澤さんは俺の方を見てにやにやしている。やるなぁ! とでも言いたいのだろうか?


「えっと、じゃぁ、人形達を調べていただけますか?」


 俺は神澤さんの反応にいたたまれなくなり人形達に神澤さんの意識を向けさせた。


「わかりました。拝見させていただきましょう」


 俺が気恥ずかしくなっていることをそれ以上茶化してくることは無く、神澤さんは真剣な表情でまずはグイム総司令官仕様を手に取った。


「……あれ?」


 すると、神澤さんは首をかしげて不思議そうな表情をする。


「あ、あの。どうかしましたか?」


「何か問題でも?」


 そのリアクションに萌恵が反応し、俺もなにか分かったのかと問う。


「いえ、ちょっと気になりまして……失礼」


 今度はカリーヌ。続いてお菊と順番に手に取って真剣に見つめた後、


「ここ最近パワースポットとかに人形達を持っていきましたか?」


 と、今度は神澤さんから聞いてきた。


「いえ。パワースポットどころかこの家から一歩も出してませんよ?」


 俺がそう答えるとますます不思議そうな顔をする神澤さん。


「ちょっと失礼」


 今度は立ち上がってぐるぐるリビングを回りだしたかと思えば、いきなり外に出て行った家の周りを歩き始める。

 そうしてまだ納得できていないという顔をしたまま家の中に戻ってきてソファーに座りうんうんと目をつぶって唸り声を出していた。


「あのぉ。本当になにかあったんですか?」


 いい加減何が気になったのか話してもらいたい俺がそう聞くと、


「あぁ、すみません。実は彼ら人形の霊力が全く減った様子が無かったんですよ……。外出していないようでしたのでこの土地が影響しているのかと思ったのですが……。どうやらそういったことは無いようですね」


 そう言うと神澤さんはもう一度グイム総司令官仕様を手に持って確認をしていた。すると、


「……ん? 霊力の放出量が人形達に比べて多い?」


 と、何かに気づいた様子でお菊やカリーナももう一度手に取った。


「えぇぇ。まさか……いや、そんなはずは。

 だけどそれ以外考えられない……。嘘だろぉ」


 そして顔を青くしながら人形達を机に置く。


「何かわかったんですか?」


「教えてください! カリーナ達はどうなるんですか?」


 俺や萌恵が何かに気付いた様子の神澤さんにそう詰め寄ると、彼は青い顔のまま、


「その……信じられないような事を言いますが、プラモデルの方は自力で霊力を生産しているようです」


「「?」」


 俺と萌恵は神澤さんの答えに顔を見合ってどういうことだ? と意思疎通をさせる。


「えっと、つまり……グイム達は自らエネルギーを生み出して、そのエネルギーで動いているって事ですか?」


 なんとなくだが俺は神澤さんが言おうとしていることを読み取りそう質問をした。

 その質問に対し神澤さんはコクリと頷く。


「それじゃぁ、グイムさん達はこれからも動かなくなるようなことはないけど、カリーヌやお菊ちゃん達はそのうち動かなくなるという事でしょうか?」


 今度は萌恵さんが質問をすると、神澤さんは首を振った。


「いえ、どうやらそういうわけでもないようです。ちょっと失礼」


 神澤さんはそう言うと立ち上がり、俺達の周囲を心配そうに囲んでいたグイム達数体を一体一体手に取って調べ始め、


「あぁ、やっぱり」


 と、呟きソファーへと戻ってきた。


「先ほどの話の続きですが、おそらく人形達は全員プラモデル達から生み出され漏れ出た霊力を吸収して以前と変わらない動きをしているようです」


「「えっ」」


 俺と萌恵はその答えに驚いた。


「つまり、この先ずっとお菊達は動き続けることができると言うんですか!?」


「いや、それは断定できない! こんな事は初めてなので私にもわかりません。ただ、少なくとも数年の内に突然動かなくなることは無いと思います……。あぁぁ、どうしてこんなことに」


 神澤さんも経験したことが無い事態に困惑している様子だった。頭を抱えて本気で悩んでしまっている。

 俺もなぜグイム達が霊力を生産で来てお菊達ができないのかも分からない。

 材質がプラスチックか木材かの違いだろうか?


「あのぉ。よろしいでしょうか」


 と、ここで総司令が手を挙げてた。


「どうした? もしかして何かわかったのか?」


 俺がそう言うと、総司令は、


「私も確証があるわけではありません。何せ霊力などという非科学的なものは専門外ですので」


 と、前置きを入れる。


「いえ、この際どんな意見でも参考になります。特に当事者の意見は耳に入れる価値があります」


 神澤さんは顔を上げて総司令の話に聞き入ろうとしていた。

 顔をズイッと総司令に近づけさせ、総司令は若干仰け反っていた。


「ありがとうございます。実は以前我々プラモデルが動くことができるようになった原因についてお話を伺いましたが、それは議長閣下……いえ、人の願いが作用したと聞きました」


「そういえばそんな話を聞いたなぁ」


 亜矢子からだっただろうか。お菊達は長年大切にされてきたことにより付喪神として魂が宿ったという推測をしていた。魂が宿るまでならばわかるが、それが動き出すとなれば話は別だ。そもそも人形はロボットとは違い自力で動くように作られてはいない。つまり、本来動かないものが動くようになるほど霊力というのはとんでもないことができるエネルギーなのだと思われた。

 そんなエネルギーが満ちた場所で新たにプラモデルなどの人形が生み出されたらどうなるか。


「我々は議長閣下の頭の中にある『設定』によって補強され意識が宿ったと説明を受けました」


 こうなるという事だ。


「それがどうしてエネルギーが生み出されることに――――あぁあああ!!」


 俺は思い出した。グイム達がどういった存在かという事を。


「ま、まさか"ガゾリアクター"!? 半永久エネルギー機関のガゾリアクターが稼働しているのか!?

 カゾリアクターがエネルギーの代わりに霊力を生み出していると言うのか」


「おそらくそういう事かと……」


 いやいやいや。そういう事だとすればとんでもないことじゃねぇかこれ?


「あの、ガゾリアクターとはどういうものなのです?」


 恐る恐るといった様子で神澤さんは俺に質問をしてくる。


「あ、えぇ、ガゾリアクターというのは、グイム達が出てくるアニメの中の架空のエネルギー機関でして、壊れない限り半永久的にエネルギーを生産し続けることができるんですよ。

 動くだけじゃなく、ビームを撃ったりレーザーサーベルを使ったりするにもこのガゾリアクターで生産されたエネルギーを使用します。

 ただし、リアクター1基では生産能力に限りがあり、戦闘中にビームを短時間に数百発以上撃ち続ければエネルギー切れを起こして歩くのがやっとになってしまいます。しばらくすれば回復しますけどね」


 俺がそう説明をすると、


「まさか! その設定が再現されているとでもいうんですか!? だとすれば彼らはこの先ずっと生き続けるという事じゃないですか!」


 と、神澤さんは「信じられない」といった様子でグイム達を見渡した。


「そう言われるとそうなりますねぇ」


 何せガゾギアの設定ではなかった霊力による消費した弾薬や破損の復元までされる。壊れなければエネルギーを生産し続けられるリアクターは壊れ知らずとなってしまっていたようだ。


「え。これってどうなるんですか?」


 この仮説が正しければ、お菊達もグイム達の傍に居ればずっと動き続けることができるという事だろう。

 その場合はどうするのかと俺がそう神澤さんに聞くと、


「あぁぁ……。こんなことどう報告すればいいんだ……」


 と、神澤さんは頭を抱える姿に戻ってしまった。


「……おぅ!?」


 俺もそんな彼を見続けることしかできないと思っていたが、隣からいきなり萌恵に抱き着かれた。


「これで、これでみんな一緒に……居なくなることを心配せずにずっと暮らせるんだよね」


 そう萌恵が涙声になりながら言った。


「そう……だね」


 抱き着いてきた泣いているのか体を震わせている萌恵を安心させるように抱き返して神澤さんの方を再び見る。


「……」


 神澤さんはというと俺の視線に気づいたのか渋い顔をした後、引きつった笑みをしてきたのであった。


















 結果から言おう。

 あれから数日後神澤さんから連絡があって俺達の記憶は消されないことになった。


 後日詳しくグイム達を調べたらやはりグイム達の中には霊力を生産するガゾリアクターのようなものができているらしく、人間の寿命は優に超えて活動をすると、神澤さんの上司っぽい巫女服を着た少女に説明をされた。

 お菊の封印も祖母の家の特殊な霊道も鎮静化していた事も判明し、再封印される事はなかった。

 その後、我が家で神澤さんはその少女から「もっとしっかり調べてから約束しなさい!」と怒られていた。


 そして俺達には誰にも事件の事や動く人形、プラモデルの事を話さないという約束を怪しい術まで使われてさせられた。関係者以外に話そうとしてもできないようになっているという術らしい。呪いかな?


 とにかく俺や萌恵はこれから動く人形達と一緒に暮らしていくことになるのである。


 お菊も必要以上に動くつもりはなかったようだが、誰にそれを言っても従うことは無い。何せグイムだけでも数百体居るのだ。毎日ワチャワチャと誰かが動いている。それを見てお菊も吹っ切れたようだ。



「ぬははは。なんじゃアレは。馬鹿な事ばかり言いおって」


 今もテレビのお笑い番組を見て爆笑をしている。

 かつてのただひたすら動かず、物静かにしていようとしていた人形の姿はどこにもない。


「A班からD班。掃除が終わりました!」


「了解。休んでよし!」


 グイム達のおかげで家の中は常にピカピカだ。市販されているお掃除ロボットよりも高性能だろう。


「見て見て! いいドレスでしょ! これ、萌恵が作ってくれたのよ!」


「いいなぁ」


「私たちも新しい着物が欲しいですわねぇ」


「萌恵にお願いしてみる? 萌恵~ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」


 カリーヌもすっかり家族の一員となり、賑やかに暮らしている。

 最初はどうなるかと思ったが、案外馴染んでいる様子だ。



「萌恵ちょっといいか」


 俺もこの環境からワンステップ進むために緊張しながらも声をかける。


「ん? どうしたの」


 萌恵は何かあったのかと近づいてきて首をかしげた。


「いきなりで悪いんだが、明後日の夜外食しないか?」


「え? うん、いいよ。外食は久しぶりで楽しみ!」


 よかった。ここでその日は都合が悪いとかだったらどうしようかと思った。できれば先延ばしにしたくはない。


「よかった。なら場所は後でメールで送るからお互い仕事が終わったらそこに集合という事で」


「場所も決めてくれたの?」


「う、うん。そうなんだ。ちょっと行ってみたいところがあってね」


 予約も無駄になりそうにないので本当によかった。



「ねぇ」



 と、人が人安心しているとカリーヌが声を掛けてきた。


「もしかしてそれってそういう事?」


「……」


 おいぃ! 何を言い出すんだお前は!


「なんじゃなんじゃ? 食事に行くという事はどういう事なんじゃ?」


「お菊おば――お姉さま! そういうことはあえて聞いてはいけません!」


「どういう事じゃお涼? ワシは長いこと封印されておったから俗世の事には疎いんじゃ……。じゃからワシは今からお主の首をへし折ることも常識じゃと思っておる」


「お姉さまいけません! それは非常識です!」


「うるさい! 人形界の非常識の塊であるお主が言う言葉か!? 今日こそはどちらが立場が上か分からせてやるぞ!」




「は、はは……」


 俺は乾いた笑いでその光景を見ながら視線を萌恵に戻すと、


「……!?」


 萌恵の顔は真っ赤になっていた。

 あ、バレた。俺が何をしようとしているかバレてしまった。



「「「「「おめでとうございます議長閣下!!」」」」」


 何を思ったか先走ったグイム達が俺を祝ってくる。




「えぇええい!! うるさいうるさい! まだ早い! お前たちのせいで計画が台無しだぁああああ!!! 畜生、俺がどんな思いで計画していたと思ってんだぁあああ」



 その日は俺はそう怒鳴って人形達を追い回すのであった。



 こんな日常が長く続けばいいな。


 非日常を体験した俺は心からそう思うのであった。



~fin~



ここまで読んでいただきありがとうございました。

ブックマーク、いいね、感想なども頂き励みになりました。<(_ _)>

主人公が一般人の現実世界ものは初挑戦でしたが、なんとか完結までいけたことを嬉しく思います。


もし、次回作がありましたら、その時はまたよろしくお願いいたします。


重ね重ね御礼申し上げます。

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