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第35話 動き出す陰謀


 日曜日は飲食料の買いだめ。そして、グイム達の大量買いを行い、ついでに実家から持ってきたパソコンを久しぶりに起動した。

 ネット環境も業者に頼んで接続に来てもらったので、これでようやく俺の家にネット環境が整ったのだ。

 もっともすぐにこの家から出ていく話に昨日なったのだが、ネット工事業者はその前から頼んでいたこともあり、日曜日に家中のグイム達に動きを止めてもらい作業をしてもらったのだ。

 夜中に戦争をしていたとは思えないほど目立った傷跡が無かったため業者の方に怪しまれなかったが、これで穴だらけだったらどうなっていたのやら……。

 戦闘の跡は可部和見の連中が消したのだろうか?




 そして月曜日。

 今日もいつも通り出社すると、珍しく俺よりも早く仁井山係長が出社していた。


「おはようご――――」


 俺が挨拶をしようとした際、仁井山係長が物凄い勢いでこちらを振り向く。その顔は今までに見たことが無いほど困惑しているようだった。

 そして、


「城野!」


 と、俺の方へやってきたかと思えば、


「お前っ、嘘だよな? お前、この会社に来て早々あんな事考えていたなんて本当なのか!?」


 そう言ってガクガクと肩を掴んで俺を揺らしまくる。

 うげぇ、頭がおかしくなるぅ。


「お、落ち着いてください仁井山係長! なんですかあんな事って」


 確かに隠し事はかなりあるだろう。

 だけど、仁井山係長にここまで切羽詰まった様子で聞かれるようなことは無いはず……だよな?

 気付かない内に、俺は仕事で大きなミスをしてしまったのだろうか。


「それは――――」


「城野ぉおおおお!!」


 仁井山係長が詳細を話してくれそうになった時、これまたいつもより早く出社してきていた北見課長が大声で俺の名前を呼ぶ。


「城野! てめぇ、一体何考えてやがる!」


 真っ赤な顔をしてズンズンと足音を鳴らしながらやってきた北見課長は、仁井山係長を突き飛ばし、俺の胸倉を掴む。元々顔が怖いだけに、怒るとさらに迫力が増して怖さが倍になっていた。


「うげ。ど、どうしたって言うんです!?」


 恐怖から俺は情けない声を出しつつ、北見課長がなぜ怒っているのか聞こうとしたが、


「どうしただぁ? この期に及んで惚けるとはいい度胸だ!」


 と、乱暴に押しのけるように掴んでいた胸倉から手を放す。

 それにより俺は尻もちをついてしまう。


「ぎゃう」


 俺は倒れた拍子に机の下を見ると、ステルス機能を解除したグイムが、「殺っていい?」というライフルを上に向けてサインを出してきたので慌てて首を振って「Nooooooooo」と、心の中で叫んだ。


「北見課長! これは何かの間違いなのでは? 少なくとも、まだ本社に来て1ヵ月も経っていない奴がそこまでするとは思えません!」


 と、突き飛ばされた仁井山係長が俺を庇ってくれているようだったが、


「仁井山ぁ! てめぇもてめぇだ。こいつの教育係だったお前は一体こいつの何を見ていたんだ。

 それになぁ、その理屈が通用するのは入社1年目とかのハナタレのガキだ!

 こいつは支社での勤続年数を入れたらそれなりにふざけたことを考えられるだけの時間はあるだろうよ」


「そ、それは……」


 北見課長と仁井山係長は言い争いをしている。

 ふと周囲を見てみると、他にも数人の社員が俺を冷たい目で見ていた。なぜだ?


 もしかしたら彼らは何かとんでもない勘違いをしているかもしれないと思い、


「北見課長、仁井山係長。いったい俺が何をしたって言うんです!?」


 と、起き上がって強気で尋ねた。いい加減、訳が分からないことで怒鳴られているのにもイラついてきたからな。

 すると、北見課長は眼を鋭くさせ。



「そうか。あくまでも白を切り通すつもりなんだな?

 ならば言おうか。言い逃れができると思うなよ?」


 と、前置きを言う。

 正直それを言う暇が合ったらさっさと言えと思ってしまう。


「だから何なんですが。違うなら違うとはっきり言いますし、誤解されたままなんて嫌ですから」


 俺も負けじと言い返す。

 すると、


「ふん。もう証拠はあるんだ」


 などと言い出した。

 証拠?


「城野。お前、この会社の情報を別の会社に売ったな?」


「へ?」


 寝耳に水とはこのことだ。

 まさかあのアパート問題以外の件で問い詰められるとは思わなかった。隠し事と言えばそのことだけだったし、今か北見課長に言われたようなことをした覚えもない。


「そんな! 見覚えがありません。何かの間違いじゃないですか!?」



 一瞬、メールを出す相手に間違えて顧客リストも添付してしまったか? など考えた。

 だが、それならばミスであり、まるで企業スパイだみたいな扱われ方はしないと思う。


「まぁいい。早朝だが、緊急で役員を集めて査問会がある。

 城野、お前は当然出席だ。

 仁井山! お前も監督不行き届きで出席だ」


「は、はい」


「そんな……」


 仁井山係長は返事をして俺の方を見る。

 その目は信じられないといった顔であった。


 くそっ。何がどうなっているのかさっぱりだ!











 査問会。

 正式には査問委員会と言うのだが、団体――今回の場合会社――が何かの問題を起こしたりした社員に対して聞き取り調査をすることである。

 そんな場所に出席するというのは、入社してから今までで初めての経験であり、俺は集まったメンバーを見て卒倒しそうになっていた。


「(柏木かしわぎ専務、小倉おぐら常務、生駒いこま本部長、鈴野すずの監査役……げぇ、樹原きはら支社長までいる)」


 他にも取締役が数人居たが、会社の公報でしかその顔は知らなかったが、重々たるメンバーが揃っていた。

 特に、以前まで勤めていた支社の支社長までいるのは驚きを隠せない。

 何せ樹原支社長には何度もお世話になってきたのだ。お互い知った顔であったので、今回呼ばれた件で支社長はものすごく悲しそうな顔を向けてきた。


「(そして……中央に居るのは)」


 本来この会社の社長が座るべき場所に座っているのは桃谷 翼であった。

 彼も以前のような爽やかな雰囲気は消え、難しい顔をしながら鋭い視線を俺に向けている。


 そして、彼らの中心に立つ俺は、生きた心地がしなかった。


「城野くぅん……。まさか君がこんなことをするとは……。正直目を掛けていた分がっかりだったという感想しか出てこないよぉ」


 最初に発言したのは翼だった。

 あぁ、やっぱり目を掛けられていたのかという嫌な気持ちよりも、北見課長に言われた冤罪を早く解こうという気持ちで俺はいっぱいだった。


「待ってください! これは何かの間違いです! 俺が会社の情報を売ったとか。どういう経緯でそんなことになったんですか!? メールの誤送信であればチェックさせてください!」


 俺がそう言うと、


「そうです。翼さん、これは何かの間違いです!

 会社の顧客リスト、製品の設計図、開発中の製品情報など城野がライバル企業に売るはずありません!」


「はぁああ!?」


 樹原支社長が俺を庇う発言をしてくれた。だけど、それよりも樹原支社長が言った俺がライバル会社へ売ったという会社の情報リストに驚き、思わず間抜けな声を出してしまった。

 てっきり俺が請け負ったサポート履歴のメール誤送信かと思ったのだが、事は予想以上に深刻だったらしい。

 ってか、新商品の情報? 設計図?? なんでサポート電話対応係の俺がそんな情報入手することができるんだよ! 以前まで居た支社でもそんな情報かき集めるなんて無理だぞ?


「樹原さん。長年一緒に戦ってきた部下を思いやるのはわかるが、これだけ証拠や証言が出ているんだ!

 どこに否定できる要素があるというんだ?」


 と、小倉常務が樹原支社長を睨みつけながら言う。


「しょ、証言に証拠ぉ?」


 やってもないことになぜ証言やら証拠が出るのだろうか。


「そうだ。証言、証拠。共にある」


 小倉常務は俺をゴミを見るような目でそう言い切った。


「……残念ながらこれは言い逃れできないのではないか?」


 柏木専務がそう言うと、封筒を取り出し、一枚の紙を取り出した。

 紙にはA4サイズに拡大された写真がカラーで印刷されており、それを一緒に来ていた北見課長が受け取って俺に乱暴に見せつけてきた。


「これをどう言い訳する! お前がライバル企業の社員と会ってたのはこの写真で分かるんだよ!」


「へ?」


 だが、その写真に写る人物は見覚えがあったし、やましいことで会っていた人物でもない。

 というか、そもそも――――。


「えっ。これって翼さん。えっと、桃谷さんや北見さんが誘ったから会った人ですよね? 確か倉間さんだったか……」


 そう。そこには先週翼に誘われて会食した倉間さんと俺が写っていたのだ。

 仲良さそうに握手をしている姿が写真に収められている。


「はぁ? 紹介されたと言いたいのかね? どういう事だね北見君!」


 俺の発言を受けた生駒本部長が、北見課長に強い口調で問うと、


「この期に及んで俺だけじゃなく、翼さんにも罪を擦り付けるつもりか!?」


 北見課長はまた俺の胸倉を掴んできた。


「やめろ、北見!」


 と、小倉常務が怒鳴り、そのまま俺を殴らんばかりの勢いだった北見課長を諫めた。


「まぁいい。この倉間という奴か? 仮にこれがたまたま会って食事を相席していた可能性もあるし、ライバル企業とはいえど友人同士かもしれない」


 そう小倉常務は続けて言うのだが、


「相席? ははっ、そんな偶然ありえないでしょう。店の雰囲気的にもね」


 取締役の一人が有り得ないと笑っていた。


「まぁつまり私が言いたいのは、この写真一枚では、彼が本当に罪を犯したのか言い切れないという事だ」


 いったん言葉を区切った小倉常務は、


「では、証言をしたいという人物が居るので、その本人の口から直接聞こう。竹林君、入りなさい」


 そう言われて入ってきたのは見覚えがある人物だった。


「あ、アンタはあの時の運転手!?」


 部屋に入ってきたそいつは、翼と共に倉間に会いに行った際、俺達を乗せた車を運転していた運転手だった。

 証言という事であれば、俺の味方ではないのだろう。


「さて、竹林君。君はこの写真を撮った日の夜。間違いなくここに写る二人だけで話をしていたのかね?」


 部屋に入ってきた竹林は、俺の後ろの少し離れた距離で質問を受けている。


「はい。あの日、私はライバル企業であるこの写真に写る人とその人が食事をしているところを見て……。

 以前会社でも見かけたことがあった人だったので、あれ? と思い念のため写真を撮っておいたのです。

 それでもなんだか怪しいと感じていたので、入り口付近で彼らが出てくるところを待っていたところ、店を出てきてから『いろいろとデータをありがとう。役立てて見せよう未来の部長君』とライバル企業に人が言っていて、その人が『こんな所じゃその話はまずいですよ。ですが、顧客データや新商品のデータの件はくれぐれも私が渡したと言わないでくださいね』と言っていたんです……」


 などと言いやがった。


「ふざけんな! そんなの出鱈目だ! ってか、店の真ん前でデータ流出の話をする馬鹿が居るかよ!?」


 そんな都合がいいような話を外でするか!? なんで声が聞こえる程近い距離に人が居るのにそんな事話す必要があるんだよ!


「決まりのようですな」


「えぇ、竹林君の証言。そして、この写真。事実あちらの会社でわが社の特許前の技術を使用した製品の研究が始まったという情報もある」


 嘘だろ!? 役員の連中の一部が今の竹林のバカみたいな証言を鵜呑みにしているような事を言い始めた。


「まさか!」


 この時、初めて俺は翼や北見課長以外でも俺を嵌めようとしているのではないかと気づいた。


「残念だよ城野くぅん……。君には期待をしていたんだけどねぇ」


 と、翼が大げさに首を振ってそんな事を言っている。


「くそっ! 嵌めやがったな翼!

 お前、この日に一緒にここに竹林と一緒に行って飯を食ってたじゃないか!」


 俺がそう言って殴りかかろうと向かっていくと、北見課長や他の取締役、そして竹林が俺を抑える。


「貴様! 翼さんに向かってなんてことを!」


 北見課長はそう怒ってくるがお前にそんな事を言われる筋合いはない!


「離せ! このっ、離せぇぇえええ!! 前々からお前のことは気に入らなかったんだよ! 変なアパート契約しやがって! 一発ぶん殴らせろ!」


 俺は連中を必死に振り払おうとするが、さすがに三人も掴み掛られている状態で自由に身動きは取れない。


「ふむ。僕が共犯だって言いたいのかい? いいだろう、では社用車の記録や僕の予定等を調べたまえ、疑いをかけられたままでは何かと不自由だからねぇ」


 と、余裕の笑みを浮かべた翼がそう指示をする。


「調べるまでも無い事でしょうが……。畏まりました」


 そう北見が返事をする。


「そういう事で、みなさん。よろしいかな? 裏切者は彼のようだ。主任となって権限を得た彼がこうも早く動き出すとは予想外だったがね」


 翼がそうまとめ、


「そうですな。この馬鹿は懲戒処分に?」


 と、小倉常務が言う。


「そ、そんな! まだそうとはっきり決まったわけじゃ!」


 樹原支社長が俺を庇う発言をしてくれる。


「決まりでしょうよ。こんなの見せれたら」


 小倉常務が強くそう言うが、


「ひとまず彼には自宅謹慎をさせましょう。細かい調査をしつつ、実際何が起きたか真実を探っていけばいいのでは?」


 と、生駒本部長が。


「う、うむ。まだそうと決まったわけじゃないからな。本当に彼は食事をしていただけなのかもしれない。

 仮にその倉間とかいう人物が友人であった場合、ライバル企業の人間とは言え友人と食事をしてはいけないなんて事はないからな」


 次に柏木専務がそう言った。

 どうやら全員が全員俺を嵌めようとしているわけではないらしい。




 こうして俺は早々に家に帰される事になってしまった。







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―とある山の中―


 退魔士一族である可部和見家と黒地子家の両家が拠点としているこの山の中には、様々な施設が存在する。

 彼等に除霊目的で連れてこられた人達が暮らす場所や、退魔士達の訓練所もあった。

 しかし、広大な山の中にはまだ開発が全くされていない場所もあり、大きく開けたその場所も訓練目的以外で立ち寄らない何もない場所であった。

 そこに可部和見家の一団が集められていた。

 彼等は不安な表情でこの場で可部和見家の中で最も立場が偉い亜矢子を見ていた。


「大丈夫よ。今回は合同訓練なだけだから」


 と、亜矢子はみんなに言い聞かせていたのだが、


「しかし亜矢子様。こんな時に合同訓練なんてしている暇があるんですか?」


「そうですよ。我々が目的としている土地が発見されたのですよね? すぐに各地から人を集め、その土地を獲る準備をしなくては」


「敵は強大です。なぜならば小さいとはいえガゾギアが敵についているのです。下手をすればあの一帯が戦場になるかもしれませんよ」


 そう口々に亜矢子に進言していた。


「分かっている。だけど私達の力不足だからこその合同訓練なの。

 私達は守りに関しては強いけど攻めに関しては全くと言っていいほど力が無い。だから黒地子の攻めに対し私達が全力で彼等を守るために合同訓練をする必要があるの」


 亜矢子がそこまで言うと、5人程居る可部和見家の面々は渋々ながらも納得しているようだ。


「おい、お前ら。亜矢子様をあまり困らすな。我々が実力不足なのは前回の件で痛いほど理解しただろう」


 そう言ったのは亜矢子の側近であり、左目に眼帯を付けた50代の大男の日野辺であった。


「連中は今まで戦ってきた妖や悪霊共より厄介であることは明白。そこで、今後は黒地子家と共同であの土地を確保する事となったのだ」


「「「えっ」」」


  日野辺の説明により驚く亜矢子以外の一同。


「黒地子は直接動けないのではなかったのでは?」


「噂ではかつて何処かの能力者同士の戦いで負けた後、そういった誓約がなされたとか?」


「確か黒地子と争った術者は――――カミ……オカ?」




神澤かみさわだ。今も忘れんぞ、あの忌々しい男の名はな」



「「「!」」」


 一人の老人の声がした方向を可部和見の者達は一斉に向いた。

 そこには黒を基調とした狩衣やスーツを身にまとった黒地子家の者達が集まって可部和見の者達の所へと集まってきていた。

 人数は30人になるだろうかという位だ。

 そんな彼等黒地子家に亜矢子は彼等に頭を下げ、


「来たわね。今日の訓練の申し出を受けてくれて礼を言います。今度こそ必ず、あの土地の悪霊達を追い払い――――」


 と、亜矢子が礼と共に意気込みを述べていると、


「はっ、一度までならず二度も尻尾を巻いて逃げ出した連中が、今度こそだと?」


「お前達に次があると思っているのか?」


 黒地子の者の中からそんなヤジが聞こえてきた。


「なっ――それ、どういう意味!?」


 下げていた頭をグワッと上げた亜矢子の表情は怒りに染まっていた。


「ふん、事実だろう。散々金を無償で除霊などと無駄なことをして使い潰した挙句、肝心の仕事も満足にできんとは。自分達が無能だという自覚は無いのか?」


「なんですって!! このじじい!」


「落ち着いてください、亜矢子様! 相手は黒地子のトップ、『黒地子くろじし 大佐武朗おおさぶろう』ですよ」


 亜矢子の部下の一人が慌てて今にも殴りかかっていきそうな亜矢子を止める。


「だから何!? こっちは可部和見の次期当主よ!」


「いいから落ち着いてください、喧嘩しても勝てる相手じゃないですから」


「やってみなければ分からないじゃない!」


「やらなくても分かりますから!」


 そんなやり取りをしている彼らを尻目に、日野辺が前に出て、


「数々の失態は弁明しようも無い。我々が力不足だったと認めよう。だが、我々の行動理念である妖や悪霊などに困る人々を助けるといったことに対しては曲げるつもりは無い。それにもとよりそれはそちらも納得済みの話だっただろう?」


 と、言った。


「そうだな……。確かに認めはした。

 だが、限度というものがあるだろう。我々の資金は無限ではないのだ。いつまでも無能を雇う余裕などないわっ!」


「!?」


 老人、黒地子 大佐武朗が右腕を上げると黒地子の術者達が一斉に前に出た。

 中には銃を手に持つ者も居る。


「なにを!?」


「危ないっ!」


 亜矢子は異変に気付き、日野辺が慌てて結界を展開する。


「放て!」


 そして黒地子の術者達が炎の球や銃弾を放ったのだ。


「ぐっ!?」


 その攻撃を全て受けた日野辺の結界。だが、術者にもかなりの負担があったらしく、日野辺は苦しそうな声を出した。


「日野辺!?」


「来るなっ!! 逃げて下さい亜矢子様! これはさすがにまずい!」


 日野辺の傍に駆け寄ろうとする亜矢子にそう言いながらも、展開している術への集中力は切らさない。


「お前達、亜矢子様を逃がせ!」


「「「は、はいっ!?」」」


 突然の事態に他の可部和見家の術者達は呆けてしまっていたが、日野辺の叱咤で慌てて亜矢子を全員で担いで逃げようとする。


「なんで!? なんでこんなことを――――」


 と、亜矢子は担がれながらも大佐武朗に問う。


「ふははっ、決まっているだろう。当初の目的の通り、退魔士が再びかつての地位を取り戻す為だ。

 その地位に収まる術者には可部和見は存在せず、黒地子がこの日本を牛耳るというだけだ。

 あの土地さえ手に入れれば、お前達はもう用済みなのだよ!

 もう神澤などという輩におびえる必要も無い!」


「お、大佐武朗様! あまり大声でそのようなことは……」


「構わん、どこに逃げようが3日後には手に入る土地の力を使い探し当てればいいだけだ!」


 ご丁寧に目的や野望を全て話す大佐武朗。


「日野辺ぇえええ!! くっ、このクソじじいぃいいいい!!」


 そのまま亜矢子は担がれながら山を駆け下りていくのであったが、最後に見た日野辺の様子は、黒地子達の猛攻に術が耐え切れず破壊され崩れ落ちる様子であった。


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次話は3日後の予定です。

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