第34話 術者達の言い分
「ふざけないで! 悪霊如きが交渉!? 嘗めるな馬鹿!」
交渉の切り出しは最悪の一言だった。
交渉相手のトップである可部和見 亜矢子は恐ろしいほど憎悪を顔に浮かばせながら喚いている。
「亜矢子様、落ち着いてください!」
「れ、連中をあまり刺激しては危険でございます!」
これには彼女の仲間たちも若干引き、亜矢子の怒りを鎮めようとしている。
「テレビ画面いっぱいに映し出されるのは勘弁願いたい」
などと俺は全く交渉に関係のない感想を抱きながらその様子を見ていた。
考えても見てほしい。なぜこんなにも恐ろしい顔を自宅のテレビ画面いっぱいに映して見なくてはならないのだろうか。これはちょっとしたホラーではないだろうか?
「こちらの実力はわかったのではないかな?
このまま戦闘を続けるより、こちらとしては和平交渉をしたいのだが――――」
「うるさいうるさい! あんたたちなんかねぇ、私が本気を出せば――――」
総司令官のグイムの話を遮り、大声を出す亜矢子。
バシュゥウウウン!
ここで、これでは話し合いもできないと判断したのだろう。総司令官がビーム兵器を亜矢子の横面すれすれに発砲し、
「交渉のテーブルに着かないという事であれば、遠慮なく全戦力を君たちに叩きつけることができるのだが、どうする?」
と、脅した。
すると亜矢子は、
「うわぁぁ……」
と、放心状態になり呟いた後気絶をしてしまう。
おいおい。これじゃぁ交渉どころじゃないだろう。やりすぎだぞ総司令!
「亜矢子様!」
「大丈夫だ。気絶しただけだ」
と、総司令は亜矢子の仲間へ言うのだが……いや、だから交渉はどうするんだ?
「くそっ……」
術者達は気絶した亜矢子を守るように取り囲む。
交渉の意志は無いと考えていいのだろうか?
そうなると戦闘を継続することになるのだが、最悪死人が出るぞ。
あれ? そうなると俺は逮捕されるのか? 既に銃刀法違反がばっちり適応されそうである。
「こ、交渉をしたい! この中で俺は2番目に権限がある!」
すると、ここで手を挙げたのは50代の男性だ。
眼帯をしており、歴戦の戦士のように見える。狩衣よりも鎧を着ている方が似合いそうだ。
「いいだろう。では、諸君らがこの家に襲撃に来た理由を聞こうか」
と、総司令官が質問をする。
「わかった。だから亜矢子様の命だけは助けてほしい!」
眼帯男は気絶している亜矢子を気遣いそう条件を出してきたのだが、
「元より危険が無ければ全員無事に返す考えだ」
そう総司令官が言うと、術者達は安心したようで、険しい顔が少しだけ緩む。
余程亜矢子の存在が大切なのだろう。ナンバー2と名乗った眼帯男は他の亜矢子の仲間を視線で合図し合い、
「そうか……、なら話そう」
そう言うと、事の顛末を話し始めたのだった。
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眼帯男の名前は『日野辺 利男』。退魔士の名家である可部和見家に代々使えてきた一族の長らしい。
退魔士とは、簡単に言えば陰陽師が有名だ。イメージ通り世間を騒がす悪霊や妖などを依頼されて倒すという事をしているらしい。
しかし、近年強力な妖などの討伐依頼は減っていき、彼らも食べていくのに必死なのだそうだ。
そこに、他の退魔士の一族から可部和見一門に声がかかったそうだ。
「資金提供はこちらで行うから、目的の土地を探してほしい」
簡単に言えばこのような依頼だ。
万年資金難と化していた可部和見家にとっては願ってもない依頼であった。
目標となる土地は、霊道に霊脈が繋がっているものという何ともレアなケースだったらしく、対象を探す作業は難航したらしい。
霊道や霊脈単体であれば簡単に見つけることはできたが、対象となるものは完全に自然現象なのだ。
そんなものは本当にあるのかと言えば、過去そういったものはあったと資金提供をしている一族は言っていた。
何も適当に全国を飛び回るというわけではなく、探す土地というのは条件があるらしく、その条件となるのは「不思議な現象が起きる土地」といったものだ。
例えばいわくつきでもないのに突然幽霊が大量発生したり、死亡事故や病死が多発する地域。そういった場所をニュース記事などで調べて直接可部和見家の者が向かうのである。
発見できた場合の利点も教えてもらっていたようだ。
なんでも、その土地を支配すれば自分の退魔術の能力が格段に上がるらしい。
もちろん術などを対象の土地にかけて霊脈の力を自分たちの体になじませる必要はあるだろうが、これは落ちつつあった自分たちの力の底上げにもつながるのだ。
発見した可部和見家や出資者である一族が共同運用していくことで合意していたため、可部和見家は全力で全国どこでも探し回っていたそうだ。
そして、怪しい土地を端から調べていたある日の事、この地域で異常なほど霊的現象が確認されたそうだ。
本日晴れてこのアパートが建つ土地が原因という事が分かったが、それ以前に霊力が噴出する場所があまりにも多く、特定の土地を探すのは困難を極めたようである。場所によってはここよりも霊力の噴出が多い場所もあったそうだ。
調査中でも、彼らは霊的現象に悩まされる人々を救って行った。同盟関係の術者一族たちから資金はそれなりにもらっているが、それは人々の救済ではなく土地の調査。可部和見家は切り詰めながら人々の救済にかかる資金をねん出していった。
この救済活動中に萌恵さんを誘拐した事件が起きたらしい。
彼らも萌恵さんがまさか自分たちが探している土地に住んでいるとは思わず、除霊をしようとしていたらしい。
それもそのはず。萌恵さんからはそれほど"悪い"ものは感じられず、強い霊力を持つ何かに縛られていると判断したからだ。
この地域で萌恵さんのような霊気を纏う人間はそれなりに居たらしく、大勢の中の一人と思われていたそうだ。
今日来た目的はこの土地の安定化。
そして、住民たちの除霊。
さらにはグイム達の討伐である。
俺や萌恵さんを殺す目的は無かったらしい。ここの部分が本当かどうかは分からないがな。
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「ほぅ。君たちから見た我々は除霊が必要なほど悪い存在なのか」
話を聞いたグイム総司令官仕様がそう尋ねた。
聞かれた日野辺は、
「それは……はっきり言ってわからない」
と、答えた。
「わからない? 君たちは少なくとも退魔士としてはプロなのだろ?
私は専門外なのでよくわからないが、例えば人間に憑りつく霊が悪霊か守護霊かもわからず君たちは除霊をしているのか?」
再びグイム総司令官が質問をすると日野辺は、
「いや、それはわかる。
だが、アンタたちのその霊質はどっちにも転ぶと言った方がいいだろうな。言わば無色に近いんだ。
おそらくだが、アンタらのその根底からあるものが悪を望めば悪に染まり、善を願えば守護霊になる。
見た感じは今は善の塊に見えるが俺達はこの地域の鎮静化を目的としている。それを邪魔をするのは果たしてどのような存在なのか――という事だ」
つまり彼が言うには今は両方に正義がある状態なのだ。
グイム達は俺達を守る為。
術者達はこの土地の秩序を守る為。
「我々は我らの主人を守ろうとしているだけだ。
誘拐や家族の洗脳、直接危害が与えられるようなことは断じて見逃せない」
そうグイム総司令官は言った。
その意見には俺も賛成だ。彼らなりの正義はあるのかもしれないが、萌恵さんにしたことは決して許されるものではないだろう。
「あぁ、わかっているさ。あのアパートに俺達が除霊対象者としていた男が住んでいるんだろ?
その彼をお前たちは守っているのはわかっている」
「なら、襲撃などせず、この家から出ていくことを願えばいいだけだっただろう。
議長――主はこの家から出ていくことを視野に入れている。だから誘拐や襲撃などは到底認められたものではない」
「そうか……。わかった」
日野辺はそう言うと、残った片方の目を閉じて考えている様子だ。
迷っているのだろうか? 自分の主を差し置いて判断を下そうとしていることに。
「除霊対象者と判断されているアンタたちの主の除霊は受けないつもりか?」
しばらく迷っていた日野辺はポツリと質問をした。
「それは当然だ。除霊は容認できないことである。
詳細は誘拐された女性から話は聞いた。拷問まがいの事をするような除霊を受けるなど言語道断。
お前たちの除霊に関しては疑問があると我らが主は言っている」
グイム総司令官はそう返した。
当然だ。俺は嫌だし、萌恵さんには二度とそのような仕打ちは受けてもらいたくはない。
というか、本当に除霊できているのかわからん。
やるんだったら神澤とかいう人の関係者と連絡が取り次第、その人に受けたい。
「強すぎる力だ。今後どのような影響があるかわからない。それでもか?」
「すでに宛があるそうだ。その人に任せると主は言っている」
グイム総司令官がそう言うと、眼帯男は驚いた様子だった。
「わかった。では、約束は――絶対というわけではないが、俺が命に代えても時期ご当主である亜矢子様を説得しよう」
「それであればいい。我々も引っ越しをしたいのだが、そちらの資金源から捻出可能か?」
「あ、あぁ。それは聞いてみる」
ちゃっかり総司令官は引っ越しの資金を調達しようとしていた。
まぁ、俺も貯金があるわけだからできないわけでもないが、無駄な出費は抑えたい。
というか、ここら辺の土地が危ないのであれば、どこに引っ越せばいいんだ?
会社に通うのが難しいほど離れるわけにはいかないぞ。そこらへんは追々調整が必要なのかもしれないな。
「それでは交渉は終了という事でいいかな?」
「あぁ……」
こうして彼らはボロい車に乗り込みこの場を後にした。
再び来るときには引っ越し資金の提供の場となるのだろうが、それまで気を抜けないのが正直なところである。
「あぁ、なんだか精神的に疲れた。グイム達、ありがとう。お菊、カリーヌ、萌恵さんもありがとう」
そう俺が言うと、
「私は何にもしてないわよ。萌恵を守ろうとしただけだから気にしないで」
と、カリーヌが。
「ワシも聖人を守ろうとしただけじゃ」
次にお菊が首を振る。
「私もお礼を言います。ありがとう、みんな」
萌恵さんも人形達や俺も互いに礼を言う。
これで終わりではないのだろうが、一つの区切りがついたのではないかと感じるのであった。
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