表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/56

第33話 大結界


―可部和見 亜矢子 側視点―


 3台の車からそれぞれ白を基調とした古風な服装の男女が下りてくる。

 彼らはいわゆる狩衣かりぎぬという名前の服装であり、イメージ的には陰陽師の術者が身に着けている服装と言えばわかりやすいだろう。


 そんな現代社会の住宅街に合わない恰好をした集団が10人。とあるアパートの前に集結していた。


「いい? 気を抜けば喰われるのは私達の方よ。

 この土地は明らかにおかしい。黒地子の連中が探していた土地の可能性がある」


 そうこの集団のリーダーである亜矢子が言うと、


「調べます」


 と、20代の女と50代の男の二人がアパートに向け両手をかざし、呪文を唱える。


「これはっ!」


 男の方が声を上げ、女の方は顔を青くし一歩下がった。


「何?」


 と、亜矢子が聞くと、


「亜矢子様、ここは黒地子の言っていた土地に違いありません。霊脈と霊道が地中でつながっております」


 そう男が報告をしてきた。

 その報告の後、女の方が、


「ですが想定よりも大きいです……。

 その大きく開いた霊道が枝分かれのようになっていて……各地に力が分散しているようです」


 と、報告をしてきた。


「そう……だから場所の特定が難しく、広い地域で霊障があったのね……」


 事件の中心がここの土地にあったことが判明したことにより、亜矢子は憎々し気にアパートを見つめる。


「(あの男……やっぱり知っていて隠していたのね! なんてはた迷惑なっ)」


 男というのは先日対面した聖人の事である。

 除霊施設から逃げ出した萌恵を追ってアパート近くに行ってみれば、萌恵が住んでいた部屋から聖人が出てきたため、当初萌恵はそこには住んでいないように思えた。

 だが、聖人の体を調べてみれば萌恵同様に異常な力との縁ができてしまっている。これは何かあると接触してみれば、小さなロボットたちが護衛についており、軽装備だった亜矢子達は追い返されてしまった。

 これだけ騒ぎの中心に居る人物である聖人が知らぬ存ぜぬと言ったところで、その言葉を信用できるわけがない。


 理解できない攻撃方法。いや、一人亜矢子の仲間にどのような攻撃をされたかなんとなく分かるものは居たが、その場では対処が難しかったため、今日装備を整えてやってきたのだ。



「全員封印結界及び偽装結界準備!」



 亜矢子は覚悟を決め、部下たちに指示を下す。命令された彼らはすぐに車の中から長いしめ縄と直径30cmほどの赤い筒を取り出し、筒にしめ縄を括り付け地面へと次々と設置していく。


「「「「「隠蔽結界発動!」」」」」


 亜矢子を含め、仲間たちの半数が術を唱える。

 そして、筒の中から青白い光の柱が空へと延び、10mほどまで伸びると薄い膜となって広がった。


「「「「「封印結界!」」」」」


 もう半分の術者達が懐から札を取り出し、空中にばら撒いた。その瞬間――――、



バシュゥウウウン!


バシュゥウウウン!


シュポポポポポポ。ズバァアン、ズバァアン!


 ビーム兵器による光線、ミサイルによる爆発でお札は全て吹き飛んだ。



「くっ、現れたな! ってうわぁああ!?」


 予想通り小さなロボットたちが現れた。

 だが、亜矢子達が想定していた数よりもずっと多いグイムが現れたのだ。


 数体ではない。10――いや、20以上のグイムがアパートの敷地内から飛び出し、亜矢子達に襲い掛かってきたのだ。


「偽装札解除! 攻撃転用!」


 しかし数は多いが、この展開を想定しいなかったわけではない。

 グイム達によってボロボロにされた結界用の札が炎の球へと変わり、グイム達に襲い掛かったのだ。

 だが、


ピシューンピシュンピシュンピシューーーン!


 どこからともなくビームがあらゆる方向から飛んできて炎の球へと刺さり、爆散する。

 ロボットたちがまだ居たのかと思った亜矢子だったが、


「分離型独立飛行起動兵器"ライム"だとぉ!?」


 この手の事に詳しい仲間の男が、飛んできた方向に浮かぶプラスチックの塊を見て声を上げた。


「なにそれ!?」


 思わず亜矢子が声を上げると、16個のプラスチックの薄い板のような塊が素早く空中を移動し、後方の4基のグイムにガチャンガチャンと軽快な音を立てて戻った。


「亜矢子様! あれはネオヒューマンが使う特殊機です! お気をつけて!」


 などと、叫ぶこの手の事に詳しい部下に対し、


「何よネオヒューマンって!?」


 と、至極当然の反応を示す亜矢子。


「3次元攻撃に特化した特別な新世代の人間たちの事ですよ! あの小さい機械が本体から分離して相手のあらゆる死角から攻撃をしてくるので注意してください!」


 必死に説明する部下に対し、


「いや、あれ人間じゃないでしょ!?」


 などと叫ぶ亜矢子。

 その間にもバシィンバシュンとビーム攻撃を受ける仲間たち。

 だが、今回は何もできないわけではなく、術者達は自身の周囲に高度な結界を張って攻撃を弾いていた。

 それを見たガゾギアに詳しい術者は、


「やっぱりビームとは違う何かを発射しているんだ! おそらく高密度な霊力をビーム粒子に見立てて発射している。熱量や光の調節をしているのはさすがだが、音まで忠実に再現しているとは……。これは研究材料に使えるぞ」


 などと興奮した様子で見ている。

 そんな彼を他の術者は「いいからお前も対処しろ!」と言いたげに腹を立てながら、水や火炎、そして霊力を直接飛ばすといった攻撃を次々と空を飛ぶグイム達に放っていた。

 ちなみに彼らがいくら音を立てても隠蔽結界と呼ばれる結界で、外の人からは何も見えず、音も聞こえなくなっているので好きなだけ暴れられる状態だ。

 しかし、物を壊したら簡単に修復などできないので、そこそこの威力で対応している。


 だが、グイム達は違う。

 グイム達が放つビームは確実にアスファルトやブロック塀に小さな穴を開けていた。完全に戦闘後の事など考えず、周囲の被害などお構いなしだ。


「なかなかやるようね。だけど甘いわ!」


 膠着状態となった状況を打破しようと、亜矢子は動く。

 術を唱え、周囲に張った自分の防御用結界の性質を変えた。


「吹き飛べ!」


 そして、術を唱え終えた亜矢子は、周囲の結界を高速で膨張させた。

 その結界の広がりは、周囲の仲間たちには影響を及ぼさなかったが、グイム達は押しのけられてしまう。

 それもとてつもない速さであったため、高速で飛び回るグイム達は突然壁にたたきつけられたような衝撃に襲われたのだ。


「はははっ、いい気になってるからよ! 悪霊ど――――」


パァアン!


 亜矢子が吹き飛んだグイム達をあざ笑っていた時、アパートの方向から拳銃を発砲したかのような音が聞こえた。


「痛っ!」


 そして、亜矢子の左腕に何かが当たり負傷してしまう。

 負傷した場所からは血が流れていた。



「あ、あれはグイムホバー戦車!? 攻撃手段から見ても実態弾ですら再現しているのか!?

 いや、さっきミサイルで分かっていたはずだ。くそっ、相手は物質生成も可能だ! 霊力遮断決壊のみでは守り切れない。亜矢子様を囲んで砲撃から守れ!」


 グイムの事に詳しい術者が慌ててそう指示を出すが、


ビシュゥゥウウウウゥゥン。


「きゃっ!?」


 結界を張った亜矢子の部下の肩に、先ほど空中を飛び回っていたグイム達の攻撃とは威力が違うビームが当たった。


「大口径エネルギー砲撃ユニット……」


 と、アパートから放たれたその攻撃を目の当たりにした詳しい術者が冷や汗を流す。

 戦車タイプのグイムも大出力のビームを放ったグイムも1機ずつではない。3機ずつがその銃口を彼らに向けていたのだ。

 亜矢子の肩は焼け焦げており、亜矢子も蹲って額に汗を浮かばせながら涙を流していた。


ビシュゥゥウウウウゥゥン。


「うわっ!?」


ビシュゥゥウウウウゥゥン。


「いぎゃぁ!」


 立て続けに放たれるビーム。それらは確実に術者たちの足やわき腹を掠めていく。どうやら命までは奪う気はないらしい。

 そして、再びアパートの201号室内から空中戦用のグイムが幾つも飛び出してきた。


「あ、亜矢子様ぁ……」


 部下の一人が亜矢子にどうすればいいのか判断を委ねる。

 形勢は完全に不利。

 まさか自分たちがここまで追いつめられるとは思ってもみなかった。


「なんで!? なんでなんでなんでなの! なんでこいつら、こんなに強力なの!? こんなのありえない!」


 しかし、指揮をするはずの当の本人はこの状況に錯乱状態となってしまったようで、頭を抱えてい喚いているだけだ。


「動くな! 動けば撃つ」


 そして、空中に浮かぶグイムに日本語で呼びかけられ、術者達は一気に士気が下がった。

 亜矢子がこのような状態だったので、術者達は抵抗の意志を見せず、怯えた顔でグイム達を見ていた。

 この状況を戦闘の継続意志なしと見たグイム達は、


「よし、では両手を上げ降伏せよ。そうすれば命までは取らない」


 と、指示をし、術者達はそれに従い大人しくなるのであった。



---------------------------------------


―聖人視点―



 夜中の2時。丑三つ時と呼ばれるこの時間帯に彼らは攻めてきた。

 一時期グイム達が追いつめられたが、なんとか相手を負傷させることによって大人しくさせることに成功したのだが……。

 意外と戦闘も早く終わり、こちら側の被害は軽微だろう。

 第一次攻撃隊のグイム20体が吹き飛ばされたが、意識はあるらしく、修復も可能なようだ。

 問題はこれからである。



「これからどうすればいいんだ?」



 降伏させた相手に交渉をするというのがベストなのだろうが、俺が直接出ていくのは総司令官のグイムが止めに入った。


「交渉は我々を介するというのであれば、議長閣下の参加も認めます。

 これから代表団を外に向かわせますので、議長閣下はテレビモニターを介して状況を確認してください」


 と、言われてしまう。

 戦闘には俺は全く何も参加していないので、今後交渉の結果戦闘が再開しても対処できない俺は、大人しくその提案を聞き入れることにする。


「ふん、まったく呆気ない連中ね!」


「じゃが、まだ若い。戦う経験も未熟ながらよくやった方じゃとワシは思うぞ?」


 カリーヌやお菊が好き勝手言っている。お前たちはミサイルも撃てなければビーム兵器も使えないんだから戦闘力でいえばグイム達よりも下だからな?

 などと言ってしまえば新たな火種になることは明白なので、あえて触れずにじっとテレビモニターを見ながら戦闘の様子を伺っていた萌恵さんに声を掛けた。


「これで交渉がうまくいけば、今後俺達に手を出さないように約束できれば全て解決だね」


 と、言った。


「はい。彼らをどこまで信用できるかわかりませんが……」


 確かに彼らが約束を守るという保証はない。

 だから、モニターを見続ける萌恵さんは不安なままなのだろう。

 全てはこの交渉にかけられている。



「では行ってまいります!」


 と、グイム達は交渉に向かおうとしていた。

 俺が頷けば、グイム総司令官仕様を含め、通信強化型や護衛用のグイム等合わせて10体が移動を開始した。

 さて、どうなるのやら。



---------------------------------------

次話は2日後です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ