第32話 襲撃は突然に
―城野視点―
翼に連れられ倉間さんと会食をしてから1日。陰陽師と名乗る可部和見 亜矢子による誘拐未遂から2日が経った。
亜矢子の件はあれから音沙汰がないのは気味が悪いが、万が一に備えておく必要はある。
「「「「「議長閣下に敬礼!!」」」」」
「「「「「副議長閣下に敬礼!!」」」」」
「「「「「議長補佐官に敬礼!!」」」」」
「「「「「副議長補佐官に敬礼!!」」」」」
今日は土曜日。しかし休んでいる余裕はなく、黙々と戦力を増強しつつこれからの方針や作戦を話し合わなければいけない。
増えたグイム達は、隣の部屋の火星連合を警戒しつつ俺達を慕ってくれている。
俺を議長と。萌恵さんを副議長。お菊を議長補佐官。カリーヌを副議長補佐官と認識しているようで、崇めている感じだ。
これには俺や萌恵さんだけでなく、お菊やカリーヌもたじたじである。
そんな中、特に選挙とかをして議長になったわけでもない一般人のこの俺が、大声援の中彼らに指示を出していく。
「えぇと。空中警戒型の連続活動時間は6時間だから……。よし、空戦部隊は1番機から6番機の空中警戒型は4時間ローテーションで警戒に当たってくれ」
と、それぞれの特徴を頭に叩き込み、いざとなれば俺も指示をする。だが、ほとんど作戦立案などはグイム総司令仕様がやってくれる。
そこに、
「報告です!」
と、グイム通信強化型が飛び込んできた。
ずいぶんと焦った様子である。
「なんだ?」
「警戒をしていた敵アジトから車が発信しました。今の所予測進行方向はわが基地です!」
「マジか」
実は先日『グイム偵察型フライトユニット装備タイプ』をそのまま亜矢子が乗る車を追わせたところ、彼女たちのアジトを発見することができた。
ここから50kmほど離れた山の中で、大きな屋敷の中に何人かいるようであった。
今は、『グイム空中偵察型』と共に、ローテーションを組みながら常に監視をしてもらっている状態だ。
何かあればアジト上空から連絡を受ける手はずであったが、いよいよ動きがあったらしい。
これはいよいよ危ないことになって来たな……。
「緊急招集!!」
俺がそう声をかけると、
「なんじゃなんじゃ?」
「なぁに? 今、テレビがいいところなんだけど!」
と、人形達は危機感の微塵も感じない様子でノコノコやってくる。
どいつもこいつも危機感が足りないんじゃないだろうか?
「何かありましたか!?」
真剣な表情をして来たのは萌恵さんただ一人だ。
「みんな聞いてほしい。いよいよ萌恵さんを狙った連中がここに来るようだ」
俺がそう言うと、
「ほう。いよいよか」
「今度こそ萌恵を拉致した連中の顔を拝めるわけね」
と、人形達は張り切っている。
一方萌恵さんは顔を青くし震えていた。
その様子は可哀想になるくらいおびえている。
「萌恵。大丈夫よ。私と一緒に居ればあんな連中なんか怖くないから」
「そうじゃぞ。それにこのワシと対等に戦える沢山のグイムも居るのじゃ。おびえることなどありゃせんわい」
と、人形達は萌恵さんを怖がらせないように優しくそう言った。
今の萌恵さんに安全な場所はこの家しかない。それは俺も同様で、死ぬ気でこの家に攻めてくる連中に対抗するしかないのだ。
「とにかくグイムを沢山作って防衛力を高める。
そして、連中と話し合いをするしかない。本当ならば話し合いを最初にするべきだろうが、萌恵さんの件から連中は最初から暴力的に解決をしようとしかしていない。
ならば、俺達も可能な限り抵抗をしようと思う」
俺がそう言うと人形達は黙って頷き、萌恵さんは、
「ありがとうございます。私にできることがあれば言ってください!」
と、言ってきた。
「ワシも手伝うぞ!」
「私も!」
人形達もだ。
正直これはうれしい申し出だ。
「こちらこそ助かる。なら、みんなには分担して作業をしてもらおう」
グイム制作は既に全員が今も経験している作業だ。
連中が来る前に少しでも多くのグイムを作ることが目的である。
「とにかくみんな。頼むぞ!」
「「「おぉー」」」
どうなるかはわからないが、多くのグイム達と協力して作業を開始するのであった。
昼が過ぎ、特にこれまで襲撃などは無く過ごせた。
「もしかして、ただ単に買い出しに出かけただけか?」
と、俺が呟くと、
「閣下。その考えは早計過ぎます。連中は現在近くのホテルに滞在中とのこと。
おそらく夜まで待って、ここを襲撃しようとしているのでしょう」
そう総司令官が教えてくれた。
マジかぁ。夜戦かぁ。
明日が日曜日でよかった……。
「総司令! 大変です!」
「なんだ!」
と、ここで何やら雲行きが怪しくなってくる。
何かあの退魔士達に動きがあったのだろうか。
「火星連合の総統からの通信です!」
「なにぃ!?」
「えっ!? ……あぁ、お隣さんか」
最初何を言い出したのかと驚いたが、直ぐに隣に火星連合の勢力と名乗るプラモ達が一部屋占拠していることに気づいた。
そしてそういえば警戒していたな。と、思い出す。
衝突は最初だけだったため、正直存在自体を忘れてしまっていた。
今更なんの用だろうか?
「どうやら対話を求めているようですが……」
グイム通信強化型がどうしたらいいかと判断を求めてくる。
そして総司令型も俺を見てどうしようかという雰囲気を出していた。
え? これって俺が決めるの?
「あー。っと、一応話してみるか。
もし敵対行動はしないとか言うんだったら、お隣さんを監視するリソースを退魔士対策に回せるから」
「了解しました」
こうして火星連合の連中と話し合う機会が訪れた。
この件が解決すれば、余計な心配を今後しなくてもよくなりそうだ。
会談に応じるという通信を隣の部屋の火星連合側に伝えて10分後、5体のゾームが割りばしにティッシュを付けた白旗もどきを掲げてやって来た。
これは別に降伏の使者と言うわけであなく、話し合いをするための使者であることのアピールなのだろう。
そして、この話し合いに力を入れているのか、5体のゾームの内1体は隣の部屋を占拠している首魁である『ゾーム総統仕様』であった。
「ふむ。久しいな地球人達よ」
と、何処から出ているのか渋い声を出しながら俺の前に立つゾーム総統。
「あぁ、久しぶり……だな?」
実質まだそれほど最初の衝突から日数が経っていないため、それほど久しぶりな感覚は無い。
「火星連合総統。挨拶はそこそこに、今日の目的を教えてもらいたい」
次に口を開いたのはグイム総司令官仕様である。
ちなみにこの場に参加している人間は俺だけで、萌恵さんは隣の部屋で隠れていてもらい、お菊やカリーヌ達も同様である。
矢川もまだ隣の部屋には戻ってきている様子もないため、完全に彼らの独断行動だろう。
「我々は以前そちらの城野議長より創造主の為を思い今日まで大人しく基地内で過ごす。という意見を聞き入れその通りに過ごしてきた」
総統は話し始めたが、何を言おうとしているのかさっぱり掴めない。
ただ世間話をしに来たわけではないはずなので、そのまま俺達は総統の話に耳を傾け続けた。
「しかし、そうなるとやることも無くてな。創造主の家から情報収集をするとなれば、空を眺めるかラジオの電波から世界情勢を確認したりするしかないのだ」
そう言った後、総統はグイム総司令官仕様へと顔を向け、
「本日たまたま拾った電波から、この家へ襲撃を目的とする集団が接近しているとあってな。あの通信は諸君らのだろう?」
ピリッ。と、空気にひびが入ったかのような錯覚をするほど冷たい空気に緊張が走る。
グイム達は表情が無いため焦りなどは見て取れないが、おそらく俺はそうはいかないだろう。
平静を装っていてもまずいという空気を出してしまいそうだ。
あぁ、交渉の場なんて出ず、萌恵さんと一緒に別室に身を隠していればよかった。
そんな今更もう遅い後悔をしているとグイム総司令官仕様が、
「その通りだ。オープン回線で語り掛けていたわけではないのだが、その点に関しては今は置いておこう。
確かにその通信内容は否定しない。で? それを知った諸君らは何を思ってこちらへ来たのかな?
ご存じかと思うが、今我々はその件で忙しくてね」
と、言った。
それに対して火星連合側はクスクスと笑い、総統が再び話始める。
「ふははは。そう邪険にしなくてもよいだろう?
なぁに、今回の提案は双方にとって悪いものではないはずだ」
「提案? その提案とは?」
総司令官が聞き返す。俺も気になる。
「正体不明の敵を追い返す。または叩き潰すにしても戦力が必要だろう?
そこでだ。余の精鋭部隊を貸出しようという話だ」
「なっ!」
これには総司令官も冷静ではいられなかったらしい。
「なんの目的で?」
そして、直ぐに落ち着きを取り戻しながら総司令官は質問をする。
「簡単な話だよ。我々は貴君らに比べて圧倒的に戦力が乏しい状況だ。
そちら側の戦力を見れば一目瞭然。そうは思わないか?」
と、総統は質問をしてきた。
まぁ、外に出ることを控えている火星連合とは違いこっちは戦力を増やせるからね。
「我々は貴君らと戦闘をする意思も対立する意思もない。
当初の条約通り、この家から出て一般市民を害する行為さえしなければ我々も文句は言わない。
それに、我々は地球同盟軍、火星連合という間柄であるが、実際にはそのような組織的集団は存在しないし、戦力的外交バランスもとる必要が無い。よってこちらがどれだけ戦力を拡充させようがそれは自由ではないか?」
総統の質問に対し、総司令官んは答えるが、
「そう。確かに自由だ。
だから、我々も戦力の拡充を考えても自由ではないかね?」
「なに?」
戦力を増やしたいのであれば勝手にすればいい。と思いつつも、増えたら増えたで何か仕出かさないか監視の目も増やす必要もあり、何かあった際動かせる戦力も増やす必要があるので、そんなことはしてほしくないのが実情だ。
「そこで提案だ。
我らの戦力を貸し与える代わり、損失分の補充。そして働きに応じた戦力の提供をしてもらいたい。
無論、戦力補充、提供は火星連合所属のゾームだ」
やはり、彼らはそれを望むか。
向こうもこちらと同じように戦力の増強を危険視しているのかもしれない。
いくらプラモデル同士だとは言え、言葉も話し考えて動いている。生命とは違うのかもしれないが、似たような何かとして活動している為、思考も人間に近いのだろう。
だからか、領土を接している我が家のグイム達を危険視しているのかもしれない。そのための提案だろう。
「認めるわけにはいかないな。確かに現状我々は戦力を多く欲している。だが、それは我らの議長閣下やそのご家族らを守る為だ。
貴君らの勢力をいくら増やしたところで、今日を乗り切れてもその後貴君らは無償で我らの同胞を守る意思はないだろう?」
「それは当然だ。そちら側の守る定義は存じないが、我々も創造主。つまり、我らを作った202号室の住民を守る責務がある。
それを抑制しているのは貴君らではないか?」
「なに?」
「我らの行動を制限し、あまつさえ我の創造主の言葉を我々に伝えていただいたが、そもそもその言葉は本当に創造主のものかどうかは確かめようがない」
「無礼な! それは我々の代表である議長の言葉に偽りがあると言いたいのか!」
言われてそういえば以前矢川からの伝言を火星連合側に伝えたことはあるが、証拠を出せと言われても出せないことに気付く。
やっぱり本人に来させるべきだったか? いや、彼も自分の意志が固まるまで近づきたくはないと言っていたから無理に来させるわけにもいかないだろう。
「信頼してほしくばそれなりの証拠を提示せよと言っているのだ」
「では、202号室の矢川殿を連れて来いと?」
「ふむ。一番手っ取り早いのはそれだろうが……。現状難しいのだろう?」
くっ。気付いているのか。矢川が202号室に戻る意志がまだないことを。
「ならば、要求を変えよう。我らも202号室の防衛の為国境付近で戦闘が行われた場合、警告なしで出撃をする。
しかし、それを望まない場合は戦力の追加購入を申し入れる。
資金は当然そちら側。組み立ては我らで行うため、つまりそちら側に望む事はガゾプラの火星連合側プラモデルを購入し引き渡してくれるだけでよい」
「なっ!?」
くそっ。こいつらの要求、言うなれば戦場をかき乱されたくなければ俺の金を使ってゾームを買い揃えろと言っているのだ。
まったくもってふざけている。
「なんて図々しい要求だ!」
と、俺は思わず口に出して文句を言った。
「これはこれは議長殿。ずいぶんな事を言ってくれますなぁ? この提案は双方の利益を考えて行っているのだぞ議長殿」
そう"議長殿"を印象付けるかのように強く言い俺にそう言ってきた。こいつら完全に俺の事を馬鹿にしている。
なんで矢川という住民が居ない場所を律儀に防衛する必要がある?
戦いに巻き込まれたくないというならば俺に矢川を連れ戻すように説得するよう頼み引っ越しを検討するのが先じゃないか? つまり、こいつらはそういう要求をするよりも自分たちの戦力増強を優先し自分たちの目的を果たそうとしているに過ぎない。その目的が今のところ見えないが、こんなに強気に出るんじゃ碌なことじゃないだろうな。
矢川が居ない今、連中の戦力が増やせばどうなるかわからない。制御できない暴力装置になるかもしれないのだ。
ここで思いっきり突き放してやろうか。
そう考えていると、
「なるほど。では、勝手に戦闘に参加すればよいではないか」
と、総司令官が言った。
はぁ? そんなことをすればどこに流れ弾が飛んでいくかわからないんだぞ?
総司令官のグイムが狂ってしまったのかと驚いていると、
「ほぅ。ならば、戦闘に参加した結果、そちら側に被害が及んでも構わないと?」
と、総統が小馬鹿にしたように言ってきた。
「おや? なぜこちらが被害を受けて我慢しなくてはならないのですかな?
そちら側が戦闘に参加した結果例え誤射をしたとなれば、当然我々は反撃をします。徹底的にね。
それに勝手に飛び込んできて勝手に我々が放った弾に当たっても苦情は受け付けませんよ?」
そう総司令官が言った。
おぉ、マジか。強気だな。
「そうなれば開戦は避けられないでしょうな」
総司令官の言葉に言い放ったのは火星連合側の元帥であった。正確には宇宙軍元帥仕様のゾームである。
とてつもなく踏み込んだ発言だ。
それだけ強気になる理由もわからんが、火星連合もこちらと本気で戦争をするつもりがはたしてあるのだろうか。
「その時はその時です。我々はこちらに向かってくる連中とそちらの両方を相手にしても十分通用する戦力を保有しておりますので」
「「「……」」」
グイム総司令官仕様がそう言うと、火星連合側は黙り込んでしまった。
やがて、彼らは席を立ち、
「そちらの言い分はわかった。ならば、その時が来たら考えよう。
だが、我らが互いに手を取り合う道を示したという事だけは忘れては困るぞ」
と、総統が言った。
手を取り合う想像ができない内容の交渉だったことは百も承知だが、彼らもメンツがあって拘っているのかもしれない。
「了解した。我々も双方の平和を望んでいる。こちらとしても極力戦闘に発展しないよう努めたい」
と、グイム総司令官仕様が言い、2回目の会談は終わりを迎えるのであった。
今回の会談で得られたものはなく、謎の術者連中が襲撃に来る前に精神的な疲労が溜まってしまっただけだった。
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