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第22話 厄介な隣人



 休日となった。

 あれから人形達や萌恵さんと同居を続け、毎日騒がしく暮らしている。


「ラスト1周!」


「「「「「はい。教官! えっほ、えっほ」」」」」


 効果があるかわからないが、増え続ける新人グイム達が先輩グイムに扱かれていた。

 この一連の件が解決するまで警戒をし続けなくてはいけないが、平和と思える日常である。

 だが、萌恵さん誘拐されたが時の事も考えれば、油断している時に連中は襲い掛かってくるだろう。

 もちろん萌恵さんの実家にも夜中に追加の護衛グイム達を送り続けている。今のところ彼らに不調は無いが、唯一問題があるとすればエネルギー問題だった。しかし、彼等が設定上搭載されている半永久機関である【ガゾリアクター】は正常に稼働しているらしく問題は無いと連絡があった。

 俺達が予測していた通り、どうやらこの家には不思議エネルギーがあるらしく、そのエネルギーが無い萌恵さんの実家はグイム達の稼働時間が決まっていると考えていたが、不安は払拭された事になる。

 一応、エネルギー増設タンクなどの輸送や設置。そして、補給型グイム等を萌恵さんの実家に送っていたが、使われる事になるとしたら【ガゾリアクター】でも賄いきれない程エネルギー消費が激しい戦闘時となるだろう。

 そのような戦闘はまだ起きていない為、おかげで活動時間が長いグイム達により実家で萌恵さんが使っていた部屋は要塞と化しているそうな。見るのが怖い。


 ふと思ったんだが、グイムが大量にいれば人類のエネルギー問題は解決できるのでは……?

 もっともこの事を世間に公開したら今以上の厄介ごとが発生しそうな気がするので、神澤さんとの接触後いろいろと今後の方針を決める必要があるだろう。


 今はグイムを増やしていくことに集中しよう。



「まぁ、我が家も随分戦力がそれなりに揃ってきていると思うけどな……」



 急遽棚を買わなくてはいけなくなるほどグイム達を置く場所もなくなってしまっていた。

 この家にあるだけで総勢50を超えるグイム達は、今日も元気に訓練をしていた。

 様々な色や装備をしているグイム達がワイワイしている様子はなんだかおもしろい。


 他に変わったことと言えば、



「聖人ぉ。お茶が入ったぞ~」



 お菊の態度がめちゃくちゃ俺に対して柔らかくなったことだろう。

 というか、もう孫を構いたがるおばあちゃんかって位、俺に対して何かをしようとしている。

 昨日もどこに隠し持っていたのか、


「ほっほっほ。お小遣いじゃぞ」


「いん? いやえんかこれ。圓壺えんつぼ? なにこれ?」


「ほっほっほ。"壹圓いちえん"じゃ。お金じゃぞい」


 と言って1円札を渡してきたのだ。

 ありがたいが、どう扱えばいいのかわからない。

 旧紙幣の1円札は現在でも1円として扱うことができるらしいが、気軽にお店で使う事はできない。

 まぁ、そんなことがあり、俺達の関係は不思議なものとなったのである。



「お茶か。ありがとう」


「いいんじゃよ。ほっほっほ」



 人形がお茶を用意するというのも不思議な光景であり、念力で浮きながら電気ポットを操作し、急須にお湯を入れて茶を作っていた。


「萌恵も手を休めて休憩をとると良い」


 萌恵さんの分の湯呑を置き、休憩を進めるお菊。

 この一連のやり取りを見たカリーヌが、


「まるで本当のおばあちゃんみた――――」


 と、言いかけたところで萌恵さんが素早く手でカリーヌの口を塞ぐ。


「余計な事を言わなくていいの」


「もごもご」


 年寄扱いされるとキレるお菊に配慮した形なのだろう。

 それよりも口を塞がれてもごもごしているカリーヌに驚きだ。

 やっぱり人間と同じように口から声出してたんだね。


「ほっほっほ。気にするでない」


「「「えっ」」」


 すると、お菊は年寄扱いされたことに対して気にした様子もなく、笑っているではないか。


「丸くなりすぎでしょアンタ……」


 と、驚いた拍子に外された手から解放されたカリーヌがそう呟いてしまうほどだ。

 俺もカリーヌの意見に同感である。

 そんな変化を感じつつも、平和な日常生活を過ごしていると、


ピンポーン。


 と、インターフォンが鳴る音が聞こえてくる。

 その音に鋭く反応したのは俺だけではない。萌恵さんも含め、この家に居る全員が行動に移した。


 まず、萌恵さんは玄関から見えない部屋。もともと萌恵さんのベッドが置かれていた寝室へと逃げ込む。

 お菊やカリーヌ。その他多くのグイム達が物陰へと隠れ、3体のグイムのみが玄関にある下駄箱の上へと登ってポーズを決めていた。

 3体の内、1体のグイムは銃口を玄関へと向けた状態である。


 そして俺は覚悟を決めて玄関へと向かい、チェーンを掛けて、


「はい。どちら様でしょうか?」


 と聞いた。

 すると、



「あ、突然すみません。隣の202号室に引っ越してきました『矢川やがわ』と申します!

 引っ越しのあいさつに来ました」


 と、言ってきた。

 え。このアパートに新しい住人??


 俺はどうしたものかと考え、玄関へと銃口を向けるグイムをチラリと見た。

 俺と目が合った? グイムは、コクリと頷いたので、チェーンを外して扉を開けた。

 そしてそこには、



「あ、どうも!」



 と、ドクロが描かれた黒いTシャツ。首から下げる金のネックレス。ジーパン。そして頭髪を赤く染めた見るからにヤバそうな若い男が立っているではないか。


「(チェーンを外したのは早計過ぎたか)」


 そう思うほど引っ越しの挨拶に来たとは思えないほど見た目がアレな人物だったのだ。

 だが、


「これ、つまらないものですが……」


「え? あ、はぁ。ありがとうございます」


 人当たりがよさそうな物腰で、ご丁寧に引っ越しの挨拶の品なのかタオルを渡してきたではないか。

 そのあまりにも見た目と態度のギャップの違いに俺は戸惑ってしまう。


「(いや、こういった偏見の目が差別を助長させてしまうんだな。いかんいかん)」


 反省しつつ渡されたタオルを受け取る。

 タオルはビニール袋に包まれたごく普通なものであり、真っ白で綺麗だ。


「(ん?)」


 その渡されたタオルに視線を集中していたがふと妙な気配を感じ、新しく引っ越してきたという矢川の顔を見直した。


「――――ッ!?」


 なんと、再び見た矢川の顔は憎悪に塗れているではないか。

 だが、その表情は俺に向けられているわけではない。

 視線を追って振り返る。そこにはグイムが3体並んでいるだけだ。

 なんだ? 何が気に入らないんだ?


「あの……何か?」


 俺は恐る恐る聞いてみると、


「なぁ……。そこに並んでいるのってガゾギアのグイムか?」


 と、聞いてきた。

 やはりグイムを見てそんな恐ろしい顔になっているのか? でもなんで?


「あ、あぁ。その通りだ。もしかして、ガゾギアが嫌い……なのか?」


 世の中にはそういったジャンルを親の仇かのように毛嫌いする人間がいることは知っている。

 何かの悲惨な事件が起こるたびにアニメや漫画のせいにする連中のように理解し合えないような存在だ。

 すると矢川は「はんっ」と、馬鹿にするように鼻で笑い、


「いや? ガゾギアは大好きだ」


 と、思っていた答えとは違う事を矢川は答える。


「じゃあなんでそんな――――」


 全てが憎いというような顔をしているんだ?

 と、聞こうとした。だが、彼は俺が質問を全て言い切る前に、


「――――freedom and Glory to Mars(火星へ自由と栄光を)」


 そう、矢川が薄暗く挑発的な笑みを浮かべながら放った言葉で全てを察した。


「貴様っ!」


 俺は一歩下がり、矢川を警戒して身構える。

 俺の反応に矢川は「クククッ」と笑い、


「そうさ! 俺はマーズリアン支持者。腐敗した地球人共に裁きが下されることを願う清き人間――いや、簡単に言えば地球同盟嫌いなんだよ」


 と言い放った。


「……」


 俺は息を呑み、矢川の出方を見る。

 互いに黙って見つめ合う時間は僅かであったが永遠に感じた。しかし、その時間は矢川によって終わりを告げられる。


「俺はなぁ? 世の中に嫌いな人間が5種類ある」


「多いなぁ」


 なんだ? 何が言いたいんだ矢川は。


「くくくっ。まずは、無理やり人から宝を奪いそれをお前の為だと言い張る奴。

 二つ目。周囲には全く迷惑をかけていないというのに、他人の趣味に口出しをしてダサいだの気持ちが悪いだの言って馬鹿にする奴。

 三つ目ぇ! 人の物を奪った挙句壊して笑う奴ぅううう!!!」


 嫌いな奴の特徴を紹介しながら興奮する矢川は、とてもまともな状態には見えなかった。

 目は血走り鼻息は荒く、顔が紅潮している。


「俺も嫌いだぞそんな奴」


 と、俺はなるべく矢川を興奮させないように同調するような言葉を掛けた。

 しかし、矢川は俺の言葉で収まる気配もなく、


「四つ目ぇええええ!! 隣の部屋の事なんか気にせずカップル同士で昼夜問わずギシギシアンアンしている発情期のサルぅううう!!

 ラスト五つ目ぇええエエエイヤァアアアア!!! 戦機兵記ガゾギアLegendの地球同盟支持者ぁあああああああああ!!!!!

 地球同盟支持者は死ねぇえええ!! 社会のゴミだぁ! 生きている価値すらない!」


 おい、お前のその嫌いな奴リスト。5番が2番に抵触しているから自分で自分の事を否定していることになっているぞ!?


「ふひひっ。ふひっ、……おい」


「な、なんだよ……」


 俺は矢川の豹変にドン引きしていると、突然落ち着いた矢川が声を掛けてくる。俺は矢川をいつでも殴り倒せるようにファイティングポーズをとりながら聞き返した。


「この部屋に女。居るよなぁ?」


「!?」


 なんだ突然。なぜ女の話!?

 まさかこいつ!


「その靴ぅ。お前の足のサイズとは違うよなぁ? しかもサイズが小さいぃぃ……。つまり、女だろぉ?」


「ははっ。だったらどうだって言うんだ?」


 前置きが長かったが、萌恵さんを誘拐した一味の奴で確認に来たのか? だったら遠慮なく倒すのだが。グイムがな!


「ん~? もしかして、俺の話を聞いていなかったのかぁ?」


「なっ!?」


 矢川はポケットから長い金属の何かを取り出す。

 ナイフか!?

 いよいよ戦闘が始まるのか!?

 俺は逃げるからグイム! 後はよろしくっ――――あれ? 矢川が取り出したものはナイフじゃない?




 金属ヤスリ……だと???




「俺はなぁ! 昼夜問わず女とよろしくやって近所迷惑を考えない馬鹿が大っっっっ嫌いなんだよぉおお。レロレロレロレロレロレロ」


 矢川はそう言うと金属ヤスリを高速でベロベロと舐めまわし始める。き、汚ねぇ。


「なんなんだよお前は!? く、靴は母親とか姉や妹のものかもしれないだろ!」


「"かもしれない"と言っている時点で、それは家族の物ではないと言っているようなもんだ!」


 俺の指摘は火に油を注ぐ発言だったらしく、彼は怒り狂っていた。


「なんなんだよお前は? だと!? それはこっちのセリフだ!

 ガゾプラ(※ガゾギアのプラモデルの略)を、玄関に飾ることを許す女だとぉおおお!?

 許せん、許せんぞ! そんな理解がある彼女と同棲をしている奴が俺の隣に住んでいるだぁ!?

 認められるかそんなものっ!!」


 俺もお前のような狂った奴、今日から隣人だと認めたくねぇよ!


「くそがっ! いいか、よく聞け? もし俺の隣で発情してみろ? 近隣トラブルとなって裁判起こしてやるからなぁ!」


「いや、そんなつもりは無いぞ!」


 萌恵さんは彼女じゃないしな!


「口だけなら何とも言えるんだよぉ。特に、俺のゾーム生産中に邪魔をしたら……。火星の裁きを下してやるからなぁ?」


 ゾームとは、戦機兵記ガゾギアLegendに出てくる火星連合の機体ガゾギアだ。

 火星の裁きってなんだよ!


「基本は静かにしているつもりだ。だが、友人とかを招けば少しうるさくなるかもしれない……」


 一応予防線として人形達のうるささの事を友人と偽り伝える。


「うぅぅん、友人。いいねぇ。見せつけようとするねぇ。マウントとろうとするねぇ!!」


 頷きつつ、だんだんと声を荒げる矢川であったが、


「ふひひ。まぁ、友人たちとの団らんで目くじらを立てるほど俺は愚か者ではない。節度さえ守ってくれたらなぁ!」


 自分の行動の節度も守れない矢川は、そう俺に要求をしてきた。


「善処するよ」


「あぁ、是非ともそういてくれ」


 それだけ言うと、矢川は自分の新居へと帰っていった。

 それを見届け、俺は扉を閉め、ドッと押し寄せてきた疲労によりドサッと玄関に座り込んだ。



「は、はぁぁぁ……。なんなんだよアレェェェ」



 異常な存在であった。

 対応に困る。

 怖かった……。


「も、申し訳ありません議長閣下。手出ししてもいいか判断に迷ってしまい……」


 と、玄関を守っていたグイムが謝罪してくるが、


「いや、あれで正解だよ。多分萌恵さんの誘拐とは関係ないと人物だと思う」


 自信は無いが、あれだけ目立つことをしていた奴が隠れてこそこそしている連中と関りがあるとは思えない。


「善良な一般人とは思えませんが、一般人であれば動いて攻撃すれば大変なことになっていましたからね」


「そういう事だ」


 自分達がプラモデルという事を理解しているグイムが射撃ポーズから楽な姿勢になり、そう言った。


「行った?」


「なんなんじゃあ奴は……」


 カリーヌやお菊も隠れていた場所から顔を出し、不安そうに聞いてくる。


「うん。騒がしくしなければ大丈夫だと思う」


 何か因縁をつけてくるならば、警察に通報――――いや、頼りにならないかもしれないな。

 警察で思い出すのは心霊現象にビビッて逃げ出したあいつと……萌恵さんの誘拐を見過ごした警官だ。

 そういえば萌恵さんの件で関わった警官も調べなきゃいけないな。

 それはそうと、矢川の件は大家さんに報告しつつ解決策を考えなくては。


 あぁぁぁぁ。考えなくてはいけないことがいっぱいだぁ!


「隣人の件は様子見だ。グイムを増やして監視でもしておけばいいだろう」


 俺がそう提案すると、


「監視ですか……。それってまずいのでは?」


 と、隣の部屋から出てきていた萌恵さんは乗り気ではなかった。

 それもそうだ。なんの捜査権限もない俺達がそんなことをすれば犯罪だからな。


「う……ん、そうだね。じゃぁ何があっても言いようにグイムの数だけは増やしておこう」


 レーダー要因だとか対人制圧用だとかをそろえておけばいいだろう。

 今できる対応について考えた俺は、今後のグイム購入リストをグイムの司令部の面々に相談をして詳細を固めるのであった。







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次話は明日を予定しています。

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