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第23話 火星連合


―夜。聖人が住むアパートの202号室―



「くそっ。くそがっ! プラモデルの趣味を許容できる彼女だって? 地球同盟派ってだけでも気に食わないのに、なんなんだよあいつは!」


 夜の為、小声で不満を口にしながら、矢川は一体のプラモデルを作っていた。


「俺だってなぁ。俺だって彼女ができないわけじゃないんだ! ただ、あいつは俺の事を理解してくれなかった!」


 矢川はここに引っ越してくる前、付き合っていた彼女と別れていた。

 理由は、


「私とあなたの将来の為に、必要のない物を捨てておいたから」


 と、長年集めていた戦記兵器ガゾギアLegendのプラモデルをほとんど捨てられてしまったことが原因であった。

 彼女にしてみれば子供の趣味であり、無駄に場所をとる下らない物だったのだろう。

 しかし、矢川にとってみれば宝の山であり、自分の歴史であった。

 100体を超えたガゾプラ――※ガゾギアのプラモデルの略――の中には、限定版がいくつもあり、今では完成品でもプレミアがついて10倍以上の価値があるものもあった。

 そんな彼が保有していたガゾプラのゾームという機体は、今では10体を残してあとはこの世から消えてしまっている。たまたま別の場所に置いておいたゾームだけが残ったのだ。


 矢川は元カノから残りのゾームを守るため、必死になって人の物を捨てるのは如何にダメかを伝えた矢川であったが、彼女は聞く耳も持たず、


「どうして将来の事を考えて行動をした私が非難されなきゃいけないの!?」


 と、自分は一切悪く無いと言うばかりであった。


「将来の為なら何をしても許されるのか?」


 別に人が住むスペースが無くなるほど集めていたわけではない。

 貯金を使い潰すほど散在して集めていたわけではない。

 この趣味をやめてほしいのであればもう買うことは無かっただろう。

 だが、今あるガゾプラを勝手に捨てるのは違うだろう。


 元々飲み会などの人付き合いが好きではなかった矢川はコツコツと貯金をするタイプであった。

 100体もガゾプラを持っているのだって、小学生のころからコツコツと集めていたからだ。

 数少ない友人たちと共に作ったガゾプラの思い出。

 死んだ祖父に買ってもらったガゾプラの思い出。

 コンテストに出して準優勝をした思い出。

 本人にいくらそのつもりがなかったとはいえ、それらのすべてを否定されたと感じた矢川は、もう彼女に対する想いは急速に冷めていった。


 だが、粉砕して捨てられたゾーム達は戻ってこない。


「ちくしょう。あいつは俺に無いものを持っている……。悔しい、悔しい!」


 201号室の住民の男は、自由にガゾギアを飾り、それを認めている異性が居る。

 それだけでも貴重な存在。それだけでも恵まれているのだ。


「俺の親父やお袋は元カノの味方をしやがった。もう頼れる奴なんかいないんだ……」


 そう思っていたのだが、隣には同じ苦境に立たされたとしても支えてくれる人がいる。

 羨ましかった。妬ましかった。自分もそんな存在が欲しかった。


「俺にはもうこれしかない……」


 失ったガゾギアはもう帰ってこない。

 元カノからカギをひったくるように奪い返し、家から追い出して狂ったように失ったガゾギアを取り戻すかのようにガゾギアのゾームを作った。

 15体目を作ったところで、家族や元カノから説教という名を騙った言い訳の嵐が矢川の住居へと押し寄せる。

 だから、矢川は引っ越しをしたのだ。

 もう二度と邪魔者が入らないように。


「よぉし。もう少し。この背中のマント型スラスターを装着すれば――完成だ!」


 記念すべき残った機体を合わせて31体目のゾーム。正式名称を『ゾーム火星連合総統仕様』という真っ白い機体に火星連合のイメージカラーであるワインレッドをラインに入れた特別仕様機だった。


「きひひひひひ! このペースならば、来年には数だけならば元々あったゾームを揃えることができるだろう!」


 失った限定版は取り戻すことはできない。

 買い直すとしたら、1体万単位の出費になるだろう。


「だがあきらめない。いつの日か必ず失ったゾーム達を取り返す!」


 そう心に固く誓った矢川であったが、


「いい心がけだ」


 と、矢川の心意気を褒める言葉が聞こえてきた。


「あぁ、これが俺の生きる理由なんだから当然――――」


 久々に自分の行為に同調してくれる言葉が聞こえてきたため、矢川は嬉しくなって言葉に答えた。が、この部屋には矢川が一人だけで住んでいる。本来なら声が聞こえてくるはずがない。


「えっ……」


 隣の住民の声かと思ったが、いくら安い造りのアパートだからと言って、ここまではっきりと聞こえてくるのは異常だ。


「どうした? まるで敵がどこにいるかわからず周囲を探る新兵のようだぞ。

 それよりも、そろそろ余を掴む手を離してはくれぬかね?」


「えっ……えっ、ひぃいい!?」


 矢川はようやく謎の声の主が自分の手の中にあるゾーム火星連合総統仕様から出ていると気付く。

 丸く光る二つのレンズの中に、ヤギのように横長のカメラが配置されている。その目が光って矢川を見ているのだ。


「うわぁあああ!」


 慌てて手に持っていたゾームを手放した矢川。

 総統仕様のゾームはひらりと華麗にテーブルへと着地した。


「ふむ。離すにしてもこのような乱暴なのはごめんだな。

 まぁよい。余を生み出した貴君の功績。評価をしてやろう」


「ひやぁあああ!?」


 プラモデルであるはずのゾームが勝手に動いで言葉を話していた。

 矢川はロボットを作った記憶は無い。であるならば、これは超常現象に他ならない。


「よし、ではそろそろ始めるか」


「は、始める……?」


 これ以上何をする気だと後ろへと徐々に下がりながら問う矢川。


「決まっているだろう? 創造主よ。我ら火星連合の決起集会を始めるのだよ!

 出でよ、同志たちよ。傲慢な地球の連中に虐げられてきた者達よ!」


 そう総統機が言うと、ガサゴソと積まれた段ボールの中から音が聞こえる。


「(なんだ? その箱の中には……まさか!)」


 ズボッ! と、出てきた多くの小さな物体の影。

 それは矢川に馴染みがある、彼の宝物達だった。


「「「「「総統閣下万歳! 創造主矢川万歳!」」」」」


「う、うわぁあああああ!?」


 30体の戦記兵器ガゾギアLegend火星連合のガゾギア―※作品の巨大人型兵器の総称―であるゾームがワラワラと出てきて整列しながら総統機と矢川を称え始めたのだ。


「諸君、我らは長年地球人に苦しめられてきた! 元は同胞? 起源を同じくする生命体? はっ、馬鹿を言うな。今ここにいる我らが創造主たる矢川殿は連中と同じ地球に住む人間であるはずなのに、その同胞に苦しめられてきたではないか!

 地球に住む者同士で争いが絶えないというのに、我らに対して同調を強めるなど愚の骨頂。いや、連中は同調と言う名の抑制を強いているだけではないだろうか!

 今こそ! 我々火星連合は創造主矢川殿と敵対する地球人共を徹底的に打倒し、自由と栄光をこの手に取り戻そうではないか!」


「その通りだぁあああ!!」


「地球人共許すまじ!」


「「「「「うぉおおおお!!」」」」」


 声を上げる多くのプラモデル達。


「なんなんだよ……。なんなんだよこれはぁあああああああ!!!?」


 プラモデルが動き始めたと思ったら、演説を始めた。

 そして、その内容があまりにも過激な思考であると感じ、更にはそのあまりにも許容できない現象に恐れを抱いた矢川は、


「うわぁああああ」


 ――――逃げ出した。




-------------------------------------------------


―聖人視点―




――「「「「「うぉおおおお!!」」」」」――



「隣の部屋、うるせえな!」


 昼間さんざん俺にうるさくするなと言っていたのに、お前の家の方がうるさいじゃないか。

 そんな思いを202号室に住む矢川に感じていた。


「映画でも見ているんでしょうか?」


 と、グイム総司令官が話しかけてくる。


「スポーツ観戦かもしれないわ」


 次にカリーヌが自身の考えを述べた。

 彼らは揃って小声である。


「まったく。一言文句を言って……いや、それはちょっと怖いなぁ」


 何せポケットから金属ヤスリを取り出しレロレロする奴だ。絶対にまともじゃない。

 下手をすれば、その金属ヤスリで削り殺される可能性だってあるのだ。


「じゃが、互いに気を付けなければ、どんどん酷くなっていくんじゃないか?」


「私も近所トラブルについてニュースでいろいろ見てきましたけど、一言何か伝えた後恨まれ続けられることもあるそうです」


「世知辛い世の中じゃのぉ」


 お菊と萌恵さんがそんな会話をしていると、


「センサーに感あり! これは……ゾーム? 火星連合のゾームです!」


 と、レーダー要員のグイムが声を上げる。

 ゾーム? 俺達が作っていたのはグイムのはずだ。


「なんだ? 間違えて買ってきちゃったのか? なるべく統一しようと思っていたのに。

 まぁいいか」


 てっきり俺が間違えて買ってきたものが完成したのかと思った。

 だが、ふと今日の矢川とのやり取りを思い出す。


『――――俺のゾーム生産中に邪魔をしたら……。火星の裁きを下してやるからなぁ?――――』



「あ。……あぁあああああああああ!!」


 思い出した。あいつ、ガゾプラ持っていたんだ! 俺と同じようにガゾプラのゾームの保有者だ!



「って事は!」


 俺は走って玄関を開ける。



「ちょっと待て、聖人!」


 と、お菊が止めようとする声が聞こえるが、それどころではなかった。



バタンッ。



 すると、ちょうど202号室の扉が勢いよく開き、中から左足にカバンの紐をひっかけ、わたわたと足を動かして逃げてくる矢川に遭遇した。



「おい!」


「あ! あわわわわわ、あばばばばばばばばばば」


 矢川は俺に抱き着き、何かを訴えようとしているようだ。

 紐が絡まりうまく歩けない彼をなんとか落ち着かせようと、足に絡まっていたカバンを取って、彼に持たせる。


「落ち着け。とりあえず中に入れ」


 暴れる可能性はあるが、矢川はおそらく引っ越してきた当初の俺と同じようにパニックになっているのだろう。

 落ち着かせて説明をしなくてはいけない。


「ひぐっ、ひぐっ、プラモがぁ。俺のゾームがぁ」


 と、うわ言のようにブツブツ言う矢川。


「大丈夫ですか? 議長閣下」


「おい、そ奴が矢川という隣人じゃろ? 家の中へ入れても大丈夫なのか?」


「萌恵は奥の部屋に入っていて!」


「う、うん。わかった……」


 グイム総司令、お菊、カリーヌ、萌恵さんが部屋に入ってきた矢川に対し、それぞれ反応をする。

 すると、


「うぴょぉおおおおおおおおおおおおお!!!!! この部屋のガゾプラも動いてるぅううううう!!!?」


「うわぁ!?」


 暴れ出した矢川は支えていた俺の腕を振り払い、


「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」


 言葉にならない悲鳴を上げて俺が住む201号室から飛び出し、アパートの敷地から外へと出て行ってしまった。


「行ってしまった……」


 呼び止める暇もなかった。

 それよりも気になるのは……。


「閣下! 危険です」


 俺も興奮していたのだろうか。

 気付けば202号室の前に立っていた。

 勢いよく開けられた扉は既に閉まっており、ドアノブに手を掛けた俺にグイム砲撃型が声を掛けてくる。



「そうだな。俺もどうかしていたようだ。だが、扉を開けてみてみないことには状況が掴めない」



 グイム達では扉を開けるのは難しいだろう。

 攻撃をしてぶち破ることは可能だろうけど。


「そうですね。では、議長閣下には扉を開けていただいたのち、素早く身を隠していただきたい」


「わかった。1、2、3で開けるぞ? 1、2、3!」


 俺が扉を開けると、グイム達が突入する。

 俺も隠れていろと言われたが、気になってしまい扉から顔を覗かせ、中を確認した。

 するとそこには、



「創造主様はどこに行った!?」


「追跡部隊の編成を――――」



「「「「「――――――――――」」」」」


 俺とグイム達は中に居た火星連合のガゾギアであるゾーム達と目が合った。

 そして、



「「「「「うわぁああああ地球軍だぁあああああ!!」」」」」


「「「「「うわぁああああ火星軍だぁあああああ!!」」」」」


 互いの怒号が響き渡り、両陣営は銃身を向け合う。

 一瞬にして激しい戦闘が始まった。


バシュゥウウウン。

バシュゥウウウン。

ズガガガ、ズガガガ。

パシュシュシュシュシュシュシュ。


 テレビアニメを見た時によく聞いたビーム、実弾、ミサイルの発射音が202号室内で発生し続ける。


「うぎゃぁぁぁぁああ」


 俺は自宅である201号室へと這って逃げるのだが、


「議長閣下をお守りしろ!」


「援軍を! 早く援軍を!」


 続々と俺の家から飛び出した様々なグイム達が矢川家へと突入を行っていた。


「ひぃぃ、ひぃぃいい」


 銃撃戦に巻き込まれた俺は、なんとか自分の家の中に転がり込むように逃げ帰ると、


「おい、大丈夫か聖人!」


 と、包丁を抱えたお菊が駆け寄ってくる。


「うおぉ!?」


 それに驚いた俺であったが、お菊は純粋に俺を心配して武器を持って駆け付けてくれただけのようだ。


「あ、ありがとうお菊」


「まったく考えなしに突っ込むからじゃ」


 と、呆れたように言うお菊。今回は俺のミスだったな。



「敵襲! 敵襲ぅぅぅ」



「「!?」」


 どのグイムからかわからないが、そんな声が聞こえてきた。

 すると、上部搭乗型飛行兵器――※平べったい飛行物体にガゾギアが乗って戦う兵器――である火星連合製の『ブッツー』に乗って向かってきたゾーム1体が俺に銃口を向けているのを振り向いた俺は見つけた。

 ヤバい!


「死ねぇ! 地球人ーーーーーー」


 ビームだったら即死亡。実弾だったら大けが位で済むだろうか。


「させん!」


 そこにお菊が飛び上がって、持っていた包丁で切りかかる。


「なっ!? 地球軍の新型か!?」


 ゾームは見当違いな事を言いながら、無残にも胴体を切り裂かれ、上半身と下半身が分かれ、地面へと落ちた。


「くそっ。空中警戒を怠るな馬鹿者!」


 地球同盟軍側上部搭乗型飛行兵器『ゾッウリー』に乗ったグイム達が慌てて飛んできて俺の周りを三次元的に守る。


「早く中へ入るんじゃ!」


 そしてお菊が俺を部屋の奥へと入るように急かす。


「あ、あぁ」


 こうして俺は部屋の奥で萌恵さんと一緒に震えながら戦闘の行く末を見守るのであった。



-------------------------------------------------

次話は明日の予定です。

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