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第21話 封印の儀式



「起点……」


 静まり返った部屋の中。神澤が言ったその言葉を誰かが繰り返した。


「それはなんでしょうか?」


 その中、人形のお涼が神澤に聞く。

 聞かれた彼はとても言いづらそうにしながらも、


「それは……」


 と、答え始めた。


「この力の源は、そちらの人形……お菊でしたでしょうか? その人形から多く発せられているようです」


「「「……」」」


 一同が神澤の答えによってお菊を一斉に見た。



「えっ。ワシ?」



 その中心に居たお菊は自分を指差し驚いている。



「自覚は……無いようですね。ですが、ほぼ間違いないでしょう。

 つまり、人形達が動き出す力となる霊力の噴出口がお菊さんに繋がり、彼女達にとって扱いやすい力となって噴出されているようです。いわば、余計な力を濾過している役割をお菊さんがしているのです」


 と、神澤は続け、


「つまりはこの力を封印するには、まずはお菊さん。あなたを中心に封印をするしかないようです。後に土地の鎮静化もしなくてはいけませんがね」



「「「「「!?」」」」」



 その衝撃的な話に鎌田家の人間、そして人形達は大きく反応を見せた。



「そんなっ。それってどういうことですか!?」


 真っ先にそう言ったのはトメである。

 トメはこれから毎日お菊は動けなくなり、話せなくなりはするが、顔を合わせることができるだろうと思っていた。

 しかし、その思い描いていた日常がもろくも崩れ去ったことを神澤の話で突き付けられたのだ。


「いや、何も土に埋めたりするわけではありませんし、形が崩れるような事もしません」


 と、神澤はトメ達を落ち着かせようとする。

 だが、自分でも説明する内容は残酷なものになるだろうと思い始めてきた。


「本格的にやろうとするのであれば、特別な箱に封印を施すことになるでしょう。

 そうすると……。おそらく長い年月を掛けなければ二度と出すことが難しいかもしれません。

 私がやろうとしている事は、霊脈の力が流れ出す出口を人工的に塞ぐ行為です。

 生半可な時間でふさがるとは思えません」


 その話を聞いたトメは大変ショックを受け、泣き出したのであった。








 トメが落ち着くのは時間がかかった。

 それに対し、お菊はトメに何度も言い聞かせた。

 自分が封印されることで、鎌田家に平穏が訪れるならば、喜んで封印へと送り出してほしいと。


 はじめは受け入れられなかったトメだったが、何度も説得を受けてようやく頷くまでに至る。

 しかし、本当はトメはお菊と離れたくはなかった。

 トメにとってお菊は大切な人形だった。

 今は亡き祖父からこれはわが家に伝わる家宝だと言われたが、大切にしてほしいと譲り受けた人形である。

 ある意味最初に自分のものになった人形。そして、一番長く遊んだ存在だった。



「では、私は一端失礼いたします。

 封印の儀式の準備。そして、件の襲撃者に関して調べますので」


 なんでも同じ術者という事から、そういった情報は警察よりも入手しやすいだろうと神澤は説明した。

 と、いう事はあの襲撃してきた者達と同じような不思議な技が彼にも使えるのかとトメの母が聞くと、そこははぐらかされてしまった。





 そして、1週間後。

 お菊を封印する儀式が行われた。

 当然、源吉が遊びに行っていない時に素早く行われた。



 そうは言っても、大々的に何かをしたわけではない。

 お菊を入れる用の箱を用意し、お菊を用意した台座に乗せた神澤が、必死になって何かしらの呪文を唱えていた位である。


 そして、


「思ったよりもお菊を通しての力が強い。もしかしたら最後かもしれないから、一言なにか言ってあげなさい」


 と、神澤はトメにそう言った。

 最後かもしれないという事は覚悟をしていた。

 いつ封印が解かれるかわからない。自分の寿命が尽きてからかもしれない。そう思うと悲しくなってきた。


「お菊……。今まで……ありがとう。

 私と遊んでくれてありがとう。私とお話をしてくれてありがとう。私を守ってくれて……ありがとう」


 トメはこれまでのお菊とのことを思い出し、お菊を抱き締めながらそう言った。そして今まで黙っていたお菊が、


「ワシも幸せじゃった。こんなに幸せな人形は他には居らんじゃろう」


 と言うのであった。

 その会話を見届けた神澤は、


「さて、封印はどのくらいの期間になるかはわからない。

 長い時になるかもしれないが、その際誤って封印が解かれることもあるだろう。

 しかし、術者でもない者が封印を解くという事は大馬鹿者かこの家を襲った術者同様悪い者であるかもしれない。

 お菊、もし封印が解かれることがあれば、しっかりとその目でその人物を見極めよ」


 と、言った。

 こうしてお菊は背中に札を張られて封印の箱へと仕舞われ、鎌田家から出ていた不思議な力は弱まっていったのである。




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―城野視点―



「うぅぅぅ」


 お菊の話が終わった後、萌恵さんは涙を流して泣いていた。


「あれ? おかしいな目から汗が……」


 そしてなぜか俺の目から汗が流れている。


「うぐぅぅぅ。お菊とトメにそんな話があっただなんて」


 カリーヌも泣いていた。


「感動しました」


「お辛いご経験をされたのですね……」


「我ら一同、お菊殿のご決断に尊敬の念を感じます」


 グイム達もお菊に対し、特別な思いを感じたようだ。



「うむ、まぁ封印を解かれたのが見知らぬ男じゃったから、問答無用で襲い掛かってしまったという短絡的な行動をしてしまったのは致命的な間違いじゃったがな……。

 しっかりと見極めろと言われていたのにな……」


 と、お菊は反省していた。

 しかし、俺に対して敵対的だった理由も明確に判明したことにより、怒りはとっくになくなっていた。

 それよりも、


「えっ。じゃぁ今祖母ちゃんの家ヤバいんじゃ……?」


 と、ポツリと言った。



「う……む。それはまぁ、そうかもしれんのぉ……」


 お菊も俺と同じく――いや、俺以上にヤバさを知っている為、どうしようかと悩んでいた。


「神澤という人に聞くのが一番なんじゃ?」


 そう萌恵さんは言うが、


「いや、その人祖母ちゃんよりもずっと年上だったんだろ? さすがにもう亡くなっているだろう」


 俺がそう言うと、「あぁ、そうだよね……」と残念がる萌恵さん。


「だけど、これでなんとなくカリーヌやグイム達が動き出した原因はわかった。

 お菊は祖母ちゃんの家で動けるようになったから外すが、カリーヌやグイムはもしかしたらこのアパートの土地にできた霊力の道の影響で動けるようになったのかもしれないな」


 俺がそう言うと、お菊の話を聞いていた全員がそうだろうな。と言った。


「だけど霊脈と霊力の道の違いがいまいちわからないですね……」


 と、萌恵さんは言った。


「うん。まぁ、ニュアンス的に地下水道と湧き水が霊脈で、井戸水が霊力の道と例えればわかりやすいのかも……」


 そう俺が自分の考えを述べた。

 付け加えると、これは適当に考え例えである。

 俺の考えになんとなくなるほど。という雰囲気になるのだが、俺だってその違いは判らないし、ぶっちゃけ両方同じなんじゃないかと思っている。


「じゃぁ、温泉はどっちなの?」


 と、カリーヌが変な質問をしてきたので、適当に、


「妖怪の世界の入り口なんじゃないかな」


 などと答えておいた。


「お菊の話で分かったことは、もしかしたらこの土地にはヤバい力が湧き出ているかもしれないって事だ」


 と、俺が言うと、


「考えなく人形を買ったら大変な事になりそうですね……」


 そう萌恵さんが言った。

 もう後戻りできないほどグイムを買いすぎているんですけどね。

 この件が終わったらどうすればいいんだろう。

 祖母の実家がある村の神社に訪ねていけばいいのだろうか。



「それと、もう一つわかったことといえば、謎の術者集団か……」



 祖母の土地を狙った謎の集団と萌恵さんを誘拐し、萌恵さんの両親まで危険な目に合わせた連中は繋がりがあるとみていいだろう。

 服装は白を基調としているか、黒を基調にしているかで違いはあるだろうが、同じく霊的な術を使おうとする連中なのだろう。



「俺の祖母ちゃんの家を襲った連中と萌恵さんを誘拐した連中とのつながりは不明だが、確認しておきたいことができた」



「確認しておきたいこと?」


 カリーヌが不思議そうに聞いてくる。


「お菊を封印した神職の人だよ。神澤だっけ? やっぱりその人に連絡を取りたい」


 俺がそう言うと、お菊は、


「じゃからそれは無理な話じゃろう。ワシがあの時見た神澤という人間は30を超えていたはずじゃ。

 今はあれからかなり時が過ぎておる。つまりは、人の寿命をとうに超えているという事じゃ」


 そう言って神澤という人物との接触は無理だと言った。


「もちろんだ。当然過去にお菊を封印した神澤さんは生きてはいないだろう。

 だけどな、その子孫は? もしくは弟子は? そういった人たちならまだいる可能性が高いだろう」


 そこまで伝えると、今度は萌恵さんが、


「そういう事かぁ……。つまり、今回の件をもし神澤さんがお弟子さんや子孫に伝承していれば、彼らが解決してくれるかもしれないという事ですね」


 と言い、俺はそれに力強く頷いた。


「という事で、まずは源吉じーさんに連絡だ。残念ながらあっちの神社の電話番号なんて知らないから聞き出さないと」


 こうして俺は祖母の弟である源吉じーさんへスマホから電話をした。

 すると、




「おぉ、聖人か。ちょうどよかった。こっちから連絡をしようかと思っていたんじゃ」



 電話を掛けるなり、俺に話があると言ってくる源吉じーさん。

 これはただ事ではなさそうだと感じた俺は、音声をスピーカーモードに切り替え、テーブルの上へと置き、全員が聞けるようにした。



「えっと。何かあったの?」


 ついに俺の親族にも怪しい術者集団が現れたのかと警戒をしていたが、


「実はな。お前に渡した木箱があっただろ? あの一番古びた気味の悪い人形が入っていた」


 と、電話の向こうの源吉じーさんがそんな発言をすると、


「このっ! クソガキめ、言わせておけば」


 そうお菊がいきり立ちズシズシとテーブルへと近づこうとする。そんなお菊を必死にグイム達が止めていた。


「ん? 今変な声が聞こえたが……。おなごのような声だったような」


「あぁいや、テレビの声だよ気にしないでくれ。それで、人形が入った木箱の話だったよな? それがどうしたんだ?」


 慌てて誤魔化して俺が問うと、


「うぅむ。言いにくいんじゃが、あの後姉さまの遺書が見つかってな。

 と言っても、財産分与に関しては聖人の親父を含めた兄弟みんなで仲良く分けろと書いてあっただけなんだが……」


「ふーん」


 大した話じゃなかった。

 遺産を分ける話に関しては、父さん達は特に揉めてはいなかったはずである。祖母ちゃんの取り越し苦労というやつだろう。

 では、なぜ源吉じーさんは言いにくいと言っているんだ?


「その中で、人形の事について少し書いてあったんじゃ」


「えっ!」


 その情報はまさに俺が知りたいと思っている事のように感じた。


「な、なんて書いてあったんだ!?」


 俺が迫るようにそう言うと、


「いやな……。それが、押し入れに木箱に入れてしまってある人形だけは特別だから絶対に中を開けるなと。

 そして、もし開けてしまっても札は剥がすなと書かれていたんじゃ……」


「へ、へぇ」


 遅い! 遅すぎる!! なんでもう少し早くその遺書を発見しなかったんだ!


「前々から書いていた遺書のようでな。以前の形見分けの遺書とは違う紙に書かれてあったんじゃよ。

 まさか、仏壇の裏に隠しているとは思わなくてなぁ」


 申し訳なさそうに言う源吉じーさんであったが、


「聖人。もしや開けてしまったとか言うんじゃ?」


 と、心配そうに聞いてくる。


「……」


 当然開けてしまった俺は、なんと返せばいいかわからなくなってしまった。


「開けた……のか? まさか……そうなのか?」


 源吉じーさんも電話越しであるが、顔を青くしているのが容易に想像できる。


「あ、いや。札を剥がしていなければ大丈夫か。

 ほっほっほ、姉さまもああ見えて信心深いところがあったからなぁ。何もないとは思うが、念のためな」


 札もちゃんと剥がしている為、俺は源吉じーさんに合わせて笑うことができなかった。


「ほっほっほ。……剥がしておらんよな?」


 再度質問をしてくる源吉じーさん。

 そこで話を変えるために、俺は電話した目的を話すことにした。


「それはさておき、そういえばさ。そっちの地域で祖母ちゃんの家に近い神社の電話番号って知ってる?」


 俺がそう話題を変えようとすると、


「姉さまの家の近くの神社? あぁ、電話番号は知っておるが……。まさかお前」


 あぁ、話題変わってなかったわ。

 俺の今の言い方だと悪い方向に想像できちゃうよな。


「いや、全く問題ない。問題ないんだが、ちょっとこの札の事に関して聞きたいんだ」


「うわぁ……」


 電話の向こうで「やっちまったな!」とでも言いたげな声が聞こえてくる。

 こら。勝手な想像をするんじゃありません! その想像通り札は剥がしちゃっているけどさ!


「で、源吉じーさんが神社の電話番号知っているんだったら教えてほしいんだけど」


 俺は無理やり話を進めようとすると、


「うぅん。わかった……ちょっと待ってろよ」


 そう言って源吉じーさんは電話の向こう側でごそごそとし始める。

 おそらく引き出しにでも入っている電話帳を取り出しているのだろう。


「おぉ、あったあった。じゃぁ言うぞ?」


 こうして俺は祖母の家がある地域の神社の電話番号を入手することに成功したのであった。







「はい。もしもし――――」


 源吉じーさんに教えてもらった番号へ掛けると、電話に出たのは男であった。


「あ、もしもし。私、城野 トメの孫の城野 聖人と申します」


 俺がそう言うと、


「あーあー。トメさんの所のお孫さんの! 昔よく神社に遊びに来ていた」


「えぇ、はい。その節はどうも」


 夏休みとかに祖母が従兄弟たち全員まとめて連れて遊びに行っていたため、神社の人は昔からの知り合いだ。


「いやぁ、この前はトメさんの件……」


「えぇ、葬儀はありがとうございました」


 それに、祖母の家の葬儀は神式であったためつい先日会ってもいる。

 わずかな時間のみの再会だったが、覚えてくれていたようでありがたかった。


「今日はどうしたんだい?」


 前置きも早々に、本題へと入りたさそうにする神主さん。この人は当然お菊が語った時の神主さんではなく、何代目か後の神主さんだ。


「えぇ、実は変なことをお願いしたいのですが……」


 俺がそう切り出し、神澤という人。もしくはお弟子さんか職を引き継いだ人に相談したいことがあると言った。

 すると、神主さんは、


「神澤……」


 と、一瞬息を呑むような音が電話の向こうから聞こえてきた。

 なんだろう。普通ではない反応だ。


「いったいどこでその名前を?」


 そして、探るように神主さんは聞いてきた。


「あぁ、いえ。実は祖母の人形を形見分けでもらったんですが、その人形はどうやら家から離しちゃ拙い人形だったみたいで……。

 一応祖母からは生前人形の事で困ったら神澤という人を頼りなさいと言われていたので、唯一連絡が取れそうな人に確認をしている最中なのですよ」


 俺がそう説明すると、


「だから私のところに電話を……」


 と、神主さんは納得しているようだった。


「うぅん、一応先代から鎌田家……いや、城野家か。その家にまつわる人形の事を聞かされていたよ。

 人形の封印の話は、昔は有り得ないとも思って聞いてもいたが、おそらくその人形の事だろうか?」


「えぇ。その人形の事かと」


 神主さんは祖母の人形の事を聞かされていたらしく、理解も早かった。


「懐かしいな。そういえばトメさんは人形を大切にする人だった。

 ……わかった。神澤さんはちょっと特殊な人だから、こっちから連絡をしてみる。

 連絡が取れたらこっちから電話をするから、聖人君の番号を教えてほしい」


「わかりました」


 こうして俺はスマホの番号を神主さんに教え、神澤の縁者と連絡が取れるのを待つことになった。

 それまで不安な生活になるだろうが、今できることと言えばそれだけしかない。



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次話は3日後を予定しています。

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