第012話 商品購入2
続きです。
先程のTVショッピング風実演販売の影響で広場には何人かの大人の女性と、小さい子供達が残っていた。今度は店から出てきた俺達が、主に姉さんとサクラさんが興味の対象になっている。
一応、模擬戦となっているが二人のピリ付いた雰囲気はまるで衆人環視の中で行われる決闘だった。
姉さんとサクラさんは広場中央に移動して、で約10メートルぐらいの距離を取り向き合っている。始めから言葉は通じないのであとは行動だけ。けれども二人は時間が止まった様にお互いの動きに警戒しながら動かない。少しの挙動も見逃さない様に観察しているのか、どちらが先に動くのを待っているのか。
砂煙を巻き上げながら風が舞う。ここでロシアアザミが転がってくれば、なんとなく西部劇の映画のワンシーンっぽい雰囲気になるだろう。持っているのは剣だけど。俺達は、広場に居た子供達と保護者は、音を立てずに固唾を飲んでその様子を見守っている。
緊張した空気の中、サクラさんが動いた。『ぃやあああぁぁぁっっっ!!!』と、声を張り上げながら剣を上段に振り上げ、目標に向かって勢いよく突進する。それに対し姉さんは木剣をスッと構えを中段に持っていき迎え打つ。姉さんは如何やらカウンター狙い、先の後を取るつもりの様だ。
サクラさんの剣が勢いよく振り下ろされる。それに対し、姉さんは足捌きを使って気が付かないぐらいの幅で少し後退し射程から外れ、且つ、振り下ろされる剣の側面へ自分の剣を等速で差し入れる。
互いの剣同士が触れた瞬間、姉さんは己の剣先を円を描く様に下に動かし滑らせ、サクラさんの剣の振り下ろしの速度を瞬間的に上げ、回転させる様に剣を潜り込ませ、相手の剣を巻き取り、そしてそのまま空へと跳ね上げる。
九十九式刀術、円、二重赤星。
振り下ろした剣の勢いが触れた一瞬で加速され、握りが甘くなった瞬間に、それまでとは逆の力が手に加わって、不可抗力で剣を手放した形だ。両手から剣が巻き取られ手放してしまった瞬間の状態で、目を見開いたまま呆然と固まっているサクラさん。姉さんはそのままサクラさんの懐に入り込み、剣を首筋へトンと置く。
一瞬の間を置いて、跳ね上げられた木剣が数メートル離れた場所にガランと音を立て落下した。
それ以外の音は皆無、辺りは静寂に包まれていた。……うわぁ、これって。
『……うっ、ひっく……ううっ、うえぇーん』
う、ええっ、あれっ、泣いちゃう。ここで泣いちゃうの?!
サクラさんは目の辺りを服の袖で押さえながらダイフクさんの方へ歩いていった。
『お父さんっ、負けちゃったーっ、サクラ負けちゃったよぉーっ』
何も言わず優しく娘を抱きとめるお父さん。そしてこちらに向いて気にするなって感じで手を振って苦笑いをしている。
そして、そんな状況に呆気に取られながら、弾き飛ばした木剣を律儀に拾い上げ、姉さんが俺の方に寄ってくる。
「……姉さん、本気出し過ぎでしょう。二重赤星使う程でもなかったでしょうに」
「怖いぐらいの目力で勝負挑んできたから、てっきり凄い実力者かと思って……」
「目力ってなんだよ」
それって例の光波通信の事ですかねぇ。二人で少し離れた場所に居る親子に視線を向ける。
お父さんの腕に抱かれて泣きじゃくっているサクラさん、それをあやすダイフクさんの姿を見て小声で話しをする。
「え、ええっと、ボク。なんか悪い事しちゃった、のかな」
「や、泣いたのは想定外だったけれど、相手をコテンパンにするのは何時もの事だろ。気にするな」
「……コテンパンって。でも、悔しいなぁ。あの石像と戦った時にちゃんとした武器が有ったら何とかできたかもしれないのに」
開祖不明、爺さんが継承している古武術<九十九式>。刀術、槍術、弓術、体術等、他にも幾つか。色々と武術体系が別れているそうだ。そして姉さんが主に体得、会得しているのが刀術。使用技は大きく分けて点、線、円、球。その中の円。二重赤星。己の刃が届く射程の防御、且つ、相手の力を利用しカウンター仕掛ける。
流石に竹箒では九十九式の技も意味を成さなかったが。本来、得物が違うと勝手も違ってくるって聞くけれど、一応、剣術にも応用出来るって爺さんは話しをしていたから、案外こちらの技術、武術を向こうに逆輸入、最適化した。なんとなく、そんな気がする。
「……まぁ、昨日は手持ちが竹箒だったから仕方ないだろう。次が有ったら<更綱>を使えばいいんだし」
「ボクも輔も買い物するだけだからって持ってきてないじゃない」
「あぁ、今回は模擬戦で済んだけれど、次は何が有るか判らないから、今度から出歩く際は邪魔でも持ち歩く事にするか」
「……そ、だね」
そんな会話をしながら、俺と姉さんは泣きじゃくるサクラさんを一所懸命慰めているダイフクさんを見ていた。
村では負け知らず。街に行ってギルド登録の試験も一発でクリア。すぐに帰って来た様だけれど、今まで負けた事が無かったんだろうなぁ。甘えん坊さんな部分も有る、か。「井の中の蛙、大海を知らず」典型的なそれだったのだろう。以前ネット徘徊中に見つけたその言葉の後ろに付けた語句「されど天に浮かぶ月を知っている」今回はそれを知る事が出来たんだ。
今回は相手が悪かった。姉さんもなんだかんだ言って爺さんに鍛えられた人間でヤる時はヤるのだ。上を知り目標を持って努力していれば何時か届くかもしれない。そんな日が来るまで頑張って欲しい。
他人事っぽいけれど俺だって、他人に言えるほど世間を知っている訳じゃないし、むしろ知らない事の方が多いから、少しずつでも知識や見聞を広げていけたら、いいなぁ。と思っている。向上心は大切だ。
ようやく止まっていた周囲の時間が動き出す。
『うぉー、あのネェーちゃん、カッケーッ!』
『サクラ姉ちゃんよりツエーんだ、スゲー』
『でも、でも、見た事ない姉たんだよ、ねぇ、誰なんだろ』
村ではずーっと無敗だったのだろう、サクラさんの負けた所を見た、見てしまった、お子様達が握り拳を振り上げ凄く興奮していた。姉さんとサクラさんの模擬戦と云う名の戦闘終了後、タイミングを見計らったかの様にいい匂いが漂ってくる。
……あれ、これって。空腹のお腹に刺激を与えるこの香り。学園から帰った時に家の2,3件手前で夕食に何を作っているか判るあの独特の匂い。大きな台車にこれまた大きな寸胴を乗せ、女性が二人やってきた。1人はツヅラさん。もう1人は……多分、ツヅラさんのお母さん、かな。
『はいはい、みなさーん。昼食の準備が出来ましたよー』
『あれ。この匂いって……』
『領都や王都の高級レストランでしか食べられないってヤツだっ!』
『あれ、今日ってなんかめでたい事でもあったのか?!』
『わあっ、今日はお祭りだっ!カレーだ!!』
『やった、あたし大好物っ!』
ダイフクさんがサクラさんを伴ってニコニコしながら二人に寄って話し掛けている。サクラさんもなんとなく笑顔になっていた。ツヅラさんが昼食にと腕に縒りを掛けて作った鍋料理は、なんとカレーだった模様。しかも、あれはっ、白い艶々(つやつや)した粒粒のお米まで完備っ!よし、でかしたっ!!
そこからはもう別の戦場に変わっていた。配膳の準備を始めたツヅラさんの元に我先にと走り寄る子供達。続いてニコニコしながら後を追う保護者のお母さん方。普段口に出来ない高級食品だと言うから、そうもなろう。匂いに釣られ何処からとも無くふらふらと現れたお兄さん、お父さん方。仕事着の格好から昼休憩を取る為に畑仕事から戻ってきたのだろう。兎に角、何処からともなく人が湧いてくる。
遅れて俺達もカレーの魔力に引き寄せられる様に配膳場所へ向かう。お米の他にパンとナンも用意されていて、どれをご所望か聞かれた。当然、俺はお米を選んだ。
保護者のお母さん方も差し入れに色々と持ち寄っていた。ちょっとしたお祭り状態。各々が広場の思い思いの場所に陣取りカレーにパンやナンを投入したりライスを投入したり好き好きに食べている。
競争する様に3杯目の御代わりを要求した姉さんとサクラさんに『御代わりは1人2杯まで。これは他の子達の分です。ダメですよ、めっ!』って注意していた。スプーンを口に含み、空の器にしょんぼりと視線を落としていた二人を見て「もしかしたらツヅラさんがここで一番の強者なのではないだろうか」と思うのだった。
俺と姉さん。オクノモリ商会の家族4人、ダイフクさんと奥さん。娘さん二人、ツヅラさんとサクラさん。村の子供達やその保護者であるお母さん方。その他大勢。みんなで食べたカレーはとても美味しかった。
昼食を取っている時にダイフクさん家族と通訳を交え話をした所、村で子供達に勉強を教えているのは彼の奥様で名前はフィオナさんと言うのだそうだ。話した感じでは雰囲気が凄く柔らかく、それでいて凛とした感じの女性。
早速明日から俺達も子供達に混じり勉強を、主に日常会話に困らない程度の簡単な読み書き等、こちらの言葉メインに教えて貰える事になった。
そして、何故か勉強の後に姉さんがサクラさんと剣の練習をする事になったいた。まだ言葉は通じないけれどお互いに光波通信出来るからいいでしょう。うん、頑張れ。
俺達はちょっと早めの昼食を取り、オクノモリ商会で改めて買い物を済ませ、昼食の後片付けの終えたツヅラさんと合流し、別館へ戻るのだった。
読んで頂き有難うございます。
自己満足しながら楽しんで書いているので他の人が面白く読めるかは判りません。
多々読み辛い部分も有ると思いますが、そこは平にご容赦を。
更新は気分的に、です。




