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高 11

「ねえ、そういえば、歩道橋の話覚えてる?」

 ほのかが思い出したように聞いてきた。

「歩道橋?ああ……」

 涼は頷いた。好きな人にふられてしまい一五歳で歩道橋から飛び降りた子の話だ。あまりにも酷なことだと涼は思った。そんな些細なことで自分で命を絶つなんて……。

「あれね、間違いだったんだよ」

 ほのかはじっと涼の顔を見つめた。

「自殺じゃなくて事故だったんだって。あの歩道橋、かなり古くて風が吹くだけで柵がぐらぐらしてたでしょ。その子が歩道橋を渡っていた時に強い風が吹いて、柵と一緒に落ちちゃったみたい」

 聞きながら涼は想像した。その死んでしまった子は、今あの世でどんな思いでいるだろう。まさか自分がそんな目に遭うとは夢にも思わなかったはずだ。ただ強風が吹いただけで、大事な命を失うなんて誰が考えても酷すぎる。さらにまだ一五歳。これから新しい人生が始まる時だ。

 女医の言葉が頭の中に浮かんだ。信じたくない、夢であってほしい、ショックな出来事。それはこの一五歳の子のことではないか。

「かわいそうだよねえ……」

 涼は残念そうに言うほのかの肩を掴んだ。

「お前、どうしてそんな話知ってるんだ?」

「えっ?」

 ほのかは目を丸くした。さらに涼は続けた。

「誰からそんな話聞いたんだよ。教えてくれよ」

 じりじりとほのかに近づく。怯えながらほのかは言った。

「どうしてそんなこと知りたいの?そんなことどうでも」

「またそう言ってはぐらかす。どうしてはっきりと答えないんだ?」

 ほのかの顔を睨むようにじっと見つめた。

「何を隠してるんだ?」

「何も隠してないよ」

「いつもどうでもいいって言うのは、何か隠してるからだろ。もうわかってるんだよ」

「違うよ。知らないよ。変なこと……」

 涼は掴んでいた手の力を強くした。

「やめて。痛いよ。放して」

「もう限界なんだよ……」

 涼は低い声を出した。今まで生きてきてこんなに低い声を出したことは初めてだ。

「その歩道橋から落ちた子って誰なんだ?」

 ほのかの顔が真っ白になった。そして口を開け何か言った。だが涼の耳には入らなかった。目の前が真っ白に覆われ何も見えないし聞こえない。ほのかの姿も消えてしまった。自分が違う世界に飛ばされているような気がした。ものすごい勢いでどこかに吸い寄せられていく。涼は強く目をつぶった。


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