9 リノリ達の恐怖の体験学習とヤナカのやらかし
9話です。
前半は暴力っぽいところがあります。
ちょっと長いです5千文字を超えてしまいました。
訂正:バザー中央の諸場代1日銀貨1枚→小銀貨1枚
図書館に依頼したコピーが仕上がるまで時間が出来たので、年長組にバザーで体験学習をする事にした。
10歳以下の子供と、引率役にソウナを童話館に残して、比較的安全と思えるお膝下バザーに店を出す。図書館に一番近い場所だから賢者サンのお膝下という意味らしい。
非常に珍しいことにマルグリットが、早起きしてミナとリリアの3人で幼年組のためにおべんとうを作った。
リノリがそんなマルグリットに驚いて「今日は嵐になるから気をつけなきゃ」と呟いていた。
大きな街のバザーには自治機能があって、参加協力金を払う代わりに警備や清掃、場所決めなどをしてくれる。場所代は中央の1区画が1日小銀貨1枚で、中央から離れていくほど安くなる。私達は一番安い銅貨10枚の場所を借りる。
リノリ、ミナ、ニム、ナウナ、リリアの5人で露店をやる。
私達大人は後ろでお金の管理と2体の警備ロボットで護衛をする。
もちろん上空にはドローンが1機、数分ごとに飛び上がって偵察をしている。
売り物は、下級兵の常食、ビスケットレーションとレトルトスープ。
リリアの提案でスープは温めてテイクアウトも出来るようにした。
真空パック4本入りビスケットレーションが銅貨2枚
スープ各種銅貨4枚(チキン、ビーフ、野菜、カレー)
テイクアウトのスープが銅貨2枚小銅貨5枚(紙カップ入り、1/2パック)
「おいしいスープはいかがですか?おいしいですよ」
「スープにレーションだよ」
「温かいスープ、カレーにパンを付けるとおいしいんだよ」
「チキン、ビーフ、野菜、カレーのスープ。どれでも銅貨4枚」
「スープ、スープ、スープ。ビスケット、ビスケット、ビスケットー。」
鍋のスープが温まっていい匂いがして来た頃から客足が増えて、売上が伸びていった。やはり匂いも客引きに重要な要素だと改めて解った。
店の前で客引きをするリリアに初老の男が声をかける。
「スープはいくらだい?」
「パックなら1パック銅貨4枚、温かいのはこのカップ1杯で銅貨2枚と小銅貨5枚だよ。」
「パックが欲しいんだが味見は出来るかい?」
リリアは少し考えてから男に答える。
「パックを買ってくれるなら、カップのスープを銅貨2枚にまけるから飲んで見る?」
「そうだな。何の味があるんだ。」
「チキン、ビーフ、野菜、カレーだよ。私はカレーが好きだけど、スープじゃなくてシチューみたい。」
そう答えたリリアは男をスープが温められている鍋の前に誘う。
男は一つ一つの鍋を覗いて匂いを嗅ぐとその度に笑顔になる。
鍋の横のサンプルのパックを手にとって表示内容を吟味している。
「チキンをくれ」
「はいはーい」
リリアは器用にチキンスープをカップに満たすと、おじさんに渡し、代金を受けとってポケットに突っ込む。
男はまず香りを楽しんだ後で一口飲んで笑顔になり、いつの間にか後ろにいた二十歳くらいの女性に飲ませる。
「美味しいですね」
「これなら大丈夫だな、チキンだからどんな具にも合うだろう」
2人はリリアを振り返った。
「このスープは幾つあるんだい?」
「幾つって、全部って事?」
「そうだ」
リリアは一箱20個入りのケースを指折り数えていたけど、途中で何か思い出した様に、奥にいる私の方を振り返った。
「カリナお姉ちゃん。チキンスープは全部で何個あるの?」
(こいつ計算が面倒くさくなったな)
男とリリアのやり取りを見ていた私は、すぐに店の前に出て行く。
「残りは175パックよ」
「だって」
「そうかい。全部でいくらになる?」
「全部買うの?」
「そうだ」
「じゃあ、小銀貨7枚だけど、他の味も4パックずつ12パックおまけするよ。」
「それは有り難い、それを頂くよ。私は値切るのが下手でね。いつもこの子に叱られるんだ」
「お買い上げありがとう。2人じゃ持ちきれないけど、どうする?」
「使いを寄越すから1時間ほど待ってくれ」
「分かったわ。店の裏に置いておくからね、夕方までに取りに来て。名前は?」
「この子が後で来るよ。ナーナだ」
「私はカリナ。お代はその時でも良いけど、どうする?」
代金をその場で払って2人は去って行った。
チキンスープが売り切れになったので、売り切れの貼り紙をして、鍋に残った分を皆で分けて飲む。
みんながスープを飲み終わるまで休憩。
「意外とレーションが売れたわね」
「そう?あたいは好きだよ。ちょっと甘いし、チキンスープと一緒に食べるともっと美味しいよ」
「へえ、ナウナは好きなの?みんなも好きなの?」
「分からない。お姉ちゃんも好きだって。リンちゃんとレーレちゃんも好きだって」
「ミナは嫌いだったわよね。」
「味は好きだよ。でも口の中にくっついて水を飲んでも取れないんだ」
子供達に人気があるのは意外だったけど、売れるのも解るような気がした。
購入者の半分が子供にせがまれて買っていたと思う。
「ナーナです。荷物を取りにきました。」
後ろに5人の子供を連れたナーナが立っている。
10歳前後の年齢に見え、男の子が3人いた。どの子供もサイズの大きすぎる服を着ていた。ナーナ自信も年頃には不似合いに地味な感じだ。
「この子達が荷物を運ぶの?」
「そうです」
「時間はある?」
「ええ、急ぎでは無いですが?」
ナーナは質問の意味が解らなかったようで戸惑っている。
私は後ろの子供達に話しかける。
「みんな、荷物を運んでくれるお駄賃に、このスープとレーション1本をご馳走するよ」
子供達の表情が綻んでナーナに視線を向ける。
許可を待っているのだろう、よく躾けられている。私もナーナと視線を合わせて頷く。
「ありがとうございます。みんなお礼を言うのよ」
「「「「「やったあ、ありがとうおばちゃん」」」」」
おばちゃん!
話を聞いていたミナが私の顔を見てニヤニヤしながら、子供達にどれが好きか聞いてスープを配っていく。
やはりこの子達もビスケットレーションが好きなようだ。渡した一本がすぐに無くなった。
「ナーナはどこに住んでるの?」
ナーナにも同じものを振る舞い、雑談をする。
「すぐ近くの孤児院にみんなで住んでます。さっきの院長さんと、私ともう1人の女性で子供達30人の世話をしています」
「30人て!大変でしょ?」
ロボット達と年長組が面倒を見てくれるから、私は苦労してないけど、30人の子供の世話は、肉体的にも精神的にも大変そうだ。それにどこから収入を得ているのだろう?
「年長の子供達が働いて家計を助けてくれますが、苦労が多いです。カリナさんもここで働いている子達を引き取ったのですか?」
「ええ、分る?ジアナ星の孤児だったの。」
「帰る時に院長がそう言ってました。あの子達は孤児だったのだろうって」
「それじゃ、養母仲間の好でレーションを40パックおまけするね」
ナーナは一瞬笑顔になったところで、私の後ろに視線を移し、表情を凍らせた。
振り返ると大柄な漢がリノリの喉元にナイフを当てて立っていた。
「きゃっ」
ニムの声だった。視線を回すと数人の男が子供達の腕を掴んで吊し上げていた。
往来を行く人々が事態に気がついて遠巻きになっていく。
ナーナは孤児達をかばいながら店の裏に逃げていた。
(ナーナ速い!)
「この店主はお前か女?」
「そうよ。あんただれよ?怪我をしないうちに止めなさいよ。うちの用心棒に殺されるよ」
漢はニヤリと笑うと、横に立っていた警備ロボットを蹴り倒した。
「そいつはこの唐変木かい?弱っちいなぁ。この子供達はお前が誘拐して働かせてんだろ、俺達が代わりに大事に育ててやるよ」
漢はリノリの腕を捻りあげ、頬をナイフで切りつけた。
「なっ!」
リノリの頬から赤い小さな玉が線上に浮かび上がった。
(良かった。傷は浅い。)
「あーあ、私達を本気で怒らせちゃったわよ」
「やれるもんならやってみろよ。この子供がどうなっても……」
どさ、どさ、どさ、ガタッ、ガラガラ。
漢以外の連中が何の前触れも無く倒れた。
ナウナが倒れた男の下敷きになって、側にいたミナが男を引っ張っている。
「何が起こった?」
「私は忠告はしたわよ」
倒れた男達はそれきりピクリともしない。糸が切れた操り人形の様にクシャッと地面に転がっていた。
漢は辺りを何度か見回して、仲間を全員失ったと理解したらしい。
呆けていた表情がみるみる怒りに変わっていく。
「くそー!」
リノリの首に当てられたナイフが、ほんの少し動いた瞬間、音もなくナイフが地面に落ちて、なにか違和感のある右腕が後ろに引かれた。
みんなが地面を見て沈黙する。
数秒の間の後、漢の絶叫が辺りに響き渡った。
「ギャーッ」
右手首からすごい量の血が溢れている。
ナイフを握った右手が地面に転がっていた。
漢の絶叫に我に返った人々の中からも悲鳴が聞こえてきた。
リノリにかまってなどいられなくなってしまった。
腕を押さえて呻いている漢を、警備ロボットが回し蹴りで転がし、腰を抜かして座り込んでしまったリノリを私が抱き上げて離れる。
「お前だけは許せねえ!」
漢を蹴飛ばした作業ロボットからヤナカが声を発した。
周りから驚きの声が上がり、再び沈黙が訪れる。
「てめえ、誰に手え出したと思ってんだ」
漢はヤナカを見上げながら下っ端悪役の常套句を再び吐き出す。
(それを言ったらだめでしょ!)
「ああ、お前はフリント一家の三男ドーゴだろ?」
その名を聞いた聴衆が、口々にフリント一家の犯罪歴を語っている。
聴衆の言葉に気を良くしたのか、ドーゴはニヤリとして態度を大きくした。
「お前はもう終わりだ。俺がやられたと知ったら親父達が必ずお前達を殺す」
「そうです。もう止めてください。フリント一家に殺されますよ」
見かねたナーナがヤナカというより私に助け舟を出した?
が、このドーゴとかいう漢の不幸が少し先に伸びただけだった。
「ナーナ。これから面白い物を見せてやろう」
ヤナカがナーナを見て答えた瞬間、聴衆の中で拳銃を握った男が倒れる。
近くにいた人々は逃げ惑い、ちょっとした騒ぎになる。
「あれは誰だ?ドーゴ」
ヤナカはドーゴを足で転がして倒れた男に向けてやる。
「兄貴!」
「あれは長男だな。隠れて隙きを狙ってたぞ。次は誰がいい?ここにいない連中でも良いぞ」
ドーゴはヤナカを怯えた目で見上げる。
ナーナも同時に驚愕の表情のまま固まってしまう。
きっと呼吸もしてない。
「ほら、答えろよ。次は誰だ」
「やめてくれー!」
「面倒だな。まとめて始末しよう」
ドーゴは恐怖で目を見開いたまま、猛獣が通り過ぎるのを待つように顔を強張らせて動かなくなった。
ピシャー、ドーン。
「わー」
数百メートル先で雷が落ちたような閃光と轟音が鳴り響き、遠くから悲鳴が聞こえて来る。
「お前達家族のアジトを潰した」
ドーゴは震えながら音がした方向を見る。
煙が上がり少しづつ炎が見えてきた。
ヤナカが煙を上げている場所の住所をドーゴに告げると、そのまま気を失ってしまった。
激しい腕の痛みで目を覚ます。
(は!)
今までの出来事を思い出したドーゴは悟られない様にゆっくりと目を開けて周りの様子を観察する。
右腕は包帯をぐるぐる巻きにされて、止血が終わっていた。
既に政府憲兵隊が数人で周りを包囲して、野次馬が周りを囲っていた。
憲兵は小銃とライトニングガントレット(電撃発射手甲)を身につけている。
どちらも手加減無しで敵を殺すための武器だ、それにあの警備ロボットは得体の知れない武装をしている。ドーゴは様子を見て逃げる事にした。
(役人に金を握らせれば簡単に出られる)
「おい、起きろ!」
憲兵隊長らしい服装の男に腹を軽く蹴られ、テントの中に連れて行かれた。
「お前、まじでヤバイ連中に手を出したな。この映像を見ろ。数時間でこれだけフリント一家の関係者が殺られたんだ。どう見てもあの女の仕業だろ。だがな、証拠が全く無えんだこれが」
ドーゴはスツールに座らされて、テーブルに置かれたタブレットを眺める。
みるみる表情が無くなり、浅黒い肌が蒼白になって行く。
身体が震えだして自分でも止められない様だった。
「隊長!こいつ…」
目撃者から集めた調書を確認していた隊長がドーゴに目を移して思わず立ち上がった。
「おい!」
髪は白くなり、顔面は70歳の老人の様に衰えて、ズボンの股間が濡れて水滴が落ちている。
ドーゴは何も聞こえていない様に虚ろな目で画面を見ていた。
隊長のタブレットには、憲兵隊が通報からカリナ達のところに着くまでの1時間でフリント一家に起こった凶事だった。
殺された仲間の監視カメラ映像や、消防隊オンボーボカメラに映った家族の焼死体は、体の一部が蒸発していた。そして現場検証で撮影された仲間の死体写真。次々とフリント一家に関わる情報が憲兵隊内を飛び交っている。
この日の深夜までにフリント一家は全滅した。血縁者や手下含めて手配書のある47人、ドーゴ以外の仲間は全員殺された。
一部は監獄の中で殺されている。
これは役人のメンツにも関わる事態だ。藪をつついてヤナカを出したのはドーゴだけど、ヤナカも鹿に集中して山を見てなかった。
全員が生死を問わない賞金首だったので罪は問われないが、私達は飽くまでも白を切った。
憲兵隊長の表情からして、要注意人物に指定されるだろう。
国外退去かもしれない。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
攻撃ドローンが犯罪者認定したのは顔認証という設定ですが、上から見て判別出来るのか難しいですが、200mくらい上空から偵察している感じです。




