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7 新しい仕事とマルグリット刺傷事件、そして謎の文書

7話です

マルグリットがやらかします。

 2ヶ月後。


 中立域内のサラン星に近いナンナ星で、難民たちの遺品を家族に返す作業を自腹で始めた。


 大量の遺体を積んだまま、入国審査や抜き打ち検査がある星には近づけない。だから遺体と証拠を消却しようと言うヤナカの意見に、私が反対したのがきっかけだった。


 ナンナ星はジアナ星よりノーム帝国領のさらに辺境に位置するが、中立国の多い宙域に近く、肥沃な土地の多いナンナは食料品の輸出で利益を出している。


 孤児達と、いや、子供達と一緒に作業を進める。


 ヤナカは積極的に孤児達を受け入れ、難民の調査を手伝ってくれている。

 難民の遺族が見つかった時点で紹介状を送り、返信があった順番に遺品を返す。


「何割くらい終わった?」

「返却希望の48%が発送を完了しています。発送待ちが19%です」


 作業ロボットに進捗を聞いて、リノリ達を休憩させる。

 避難民243人、家族や親類の連絡先が分かった者が7割の170人、そのうち129人から返却希望の返信があったけど、亡骸を帰して欲しいという家族が多く、子供達には作業させられないので対応に忙しい。


 遺族に生存者が多いのは、サラン星人の平均寿命が300年と長いのが原因だと思う。遺体の返還を求めるのは宗教的な教えだと聞いた。


 遺体は私と作業ロボットで手分けして処理しているけど、別の荷物に偽装するのが難しい。


 戦後の混乱で情報の確実性が低く遺族の捜索が難航している。返信の無いものも含めて、あと2ヶ月ほどで打ち切る方針だ。


「今ある分の残りの作業は2日ぐらいね」





 ヤナカは私の提案で、サルベージを始めた。

 ヤナカが自分の本体に性能の良いパーツを使いたいと、ジャンク屋を回り始めた頃にサルベージと言う仕事を知った。

 新品なんていくら金を積んでも手に入らないのだから、良い中古品を自分で探すしかない。


 サルベージは、戦場に放棄された艦や車両から使えそうなパーツを剥ぎ取って売る職業だ。はっきり言えば泥棒だけど、ゴミを拾って売っているのと同じ感覚だからギリセーフな必要悪として重宝されている。


 ヤナカが欲しいパーツは抜き取り、残りは売却すればいい。


 手始めに、部品取り用に曳航していた元ヤナカの部品を売った。

 駆逐艦には小さくて使えないので放置していたヤナカのエンジンは、目玉が飛び出すほど高く売れた。

 動かなかった右エンジンでさえ新品と変わらない値段で売れた。

 これで子供達と数年は暮らせる。


 現在はヤナカ本体の改造も終わり、大型艦並みの性能になっている。

 続ける必要が無くなった今も、サルベージ場所近くの惑星で整備工場に卸したり露店を出したりを続けている。


 ヤナカは自分で作業ロボットを操って値段交渉までして、私から見ても楽しそうにやっていた。





「ああ、疲れた。奴等、いきなり暴れるから警備隊まで来ちゃった」

「しばらくあそこのバザーには行けないな」

「見ヶ〆料ケチるからよ。お金は全部持って帰ったわよ」


 食堂のテーブルの上に背負子に括り付けられた工具箱を置く。

 ジャンク屋に工具箱は当たり前だから、改造して金庫に使ってる。


 私達はナンナ星砂漠都市ズゾのバザーで商売をしていた。

 見ヶ〆料の要求にヤナカが切れてチンピラ達と乱闘騒ぎになった。

 たまたま近くを巡回中の警備隊に見つかって逃げてきた。


 テントやテーブル等の備品は失ったが、ネヅの件は探られたくない。


「良くやった。そんな重いもん、どうやって担いだ?」

「作業くんに頼んだの」

「ああ、感心して損したぞ。奴等のアジトは警備隊に通報しといたから、次に行く頃にはいないだろ」

「次は別の連中が幅を利かせてるわよ。あの子達に社会勉強させたいけど、他の土地かなあ」

「それもそうだな。じゃあ次は店をドローン警備だ」

「ほどほどにしないと、私が指名手配されるのよ。これから医務室行くから邪魔しないでね」

「お前こそほどほどにしろよ。毎日だろ。危険な物が多いから子供達は入室禁止にしているが、絶対に子供には見せるなよ」


 この艦に越してきた頃に、乗組員室を回って宝探しをした。

 驚いたのは男女それぞれがドールを支給されていたことだ。官給品を表す印が押された未開封品もあった。

 私はミサイル突撃艦と駆逐艦の待遇の差に殺意を覚えた。誰にって駆逐艦の乗組員に。

 あれからプライバシーが完璧に保てる医務室で大切にしている。


「わかってるわよ」


 私はバザーで埃だらけになった服を床に脱ぎ捨て、シャワールームに向かう。


「ここで脱ぐなよ!子供が真似してるの知ってるか?おい!洗濯物!」

「作業くんお願いね。それが終わったらお姉さんのところに来て」

「了解しました」





「痛い!いたた、ううっ。もう嫌だ!」

「マギー姉ちゃん大丈夫?」


 医療くんとリノリがナイフで刺された私の脇腹を手当している。

 リノリはこの星で14歳になった。今では色々な事を手伝ってくれる。


 港湾都市ハイのバザーで、テントを出してジャンク屋をしていた。

 仕事が終わって、酒場で男を漁っていた時に誘ったイケメンに刺された。


 酒場の2階が連れ込み宿になっている。個人で商売する女が使う、この辺りでは割と多い形態の店だった。ちなみに港湾都市ハイでは店の給仕が2階を使うと店主が逮捕される。


 部屋を取り、先に裸になった私はノリノリで男のベルトに手をかけた。

 その瞬間に左脇腹に痛みが走って、見るとフォールディングナイフの柄があった。

 何でそこに誰も握っていないナイフの柄があるのか解らなかった。

 太ももに自分の生暖かい血が流れるのを感じた頃にようやく刺された事を理解した。


(なんで私のお腹にナイフが刺さってるの?

 あれ?なんか部屋が暗い。

 力が入らない。身体が無くなった感じ、どうなっちゃうの?

 床が目の前に見える。

 あいつが私を見下ろして何か言ってる。

 あ、それは私の財布……)


 ドカンッ。


 警備ロボットがドアを蹴破ったところで記憶が途切れた。


 この街で商売する女を狙った常習犯だった。もう何人もやられているそうだ。

 外に待たせていた警備ロボットが、私のバイタルの異常を察知して助けに入ったが、私の保護を優先したので、男は窓から逃げてしまった。


「せめてやってから金を盗ってけよ。良かったら全部あげたのに。私には魅力が無いのか?いい男だったのに!」


 刺されて金を盗られた事よりも、最後までやれなかったのが悔しかった。

 これでは蛇の生殺しだ。


「お姉ちゃんって本当にバカなんだから。殺されなくて良かった。」


 リノリが呆れ顔で治療が終わった傷口にガーゼを貼り付けている。


 ーーリノリがこの手の話に免疫があるのは、孤児の頃の経験からだった。

 同じ基地で働いていた親たちを爆撃で失い、リノリの家が基地外だったために、ミナとその兄、ニム、ローナ、ソウナとナウナ姉妹の6人で、そこで暮らし始めた。年長のリノリは9歳だったと聞く。


 数日後にミナの遠い親戚と名乗る見たこともない男がミナの兄を連れ去った。

 白昼堂々と金目も物を持ち出す知り合いや親戚、そして深夜に強盗に入られることが数回あった。

 最後に押し入った強盗は軍服を着ていた。盗む物が無いと分かると、近くにいたローナを蹴り飛ばして、死んだと分ると家に火を付けて逃走した。


 家まで無くしたリノリ達は街に出て路上生活を始め、物乞いや残飯漁りや泥棒と、食べるためなら何でもした。


 そんな時に知り合った娼婦をしていた3人組と一緒に港の廃墟で暮らすようになった。ねぐら周辺にも廃墟が多くあり、ホームレス達のコロニーが形成されていた。


 リノリ達は娼婦たちの仕事場の掃除や食事の世話をしたりして、男の扱い方を学び、避妊の方法を学び、逃げ方を学んだ。

 近所の路上生活者には置き引きの方法、残飯の効率の良い漁り方や魚釣り、金属拾い等の生活の糧を得る方法を学んだ。


 そう言えば初めて会った時に、小さい子の何人かが、鉄くずの着いたスピーカーの磁石を紐で結んで地面を引きずっていた。


 戦争で世の中が不景気になるにつれて、窃盗に対する報復も厳しくなり、路上生活者もどんどん増えて、路上生活者同士でも窃盗や強盗殺人が横行していった。

 生活を共にする大人たちもどんどん変わっていく。


 最初に犠牲になるのは知恵も体力もない孤児達だった。

 そんな中でリノリは幼い孤児を養うようになったが、自分達の力が足りずに何人も死んで行ったと言う。

 悪い大人達に会わなくて本当に良かった。ーー


 話は戻ってネヅ医務室。


「傷は浅かったが、2週間は様子を見る。医務室も入室禁止だ」

「くっ、殺してくれ!」

「いい根性だ、マギー。今は接着剤で塞いでいるが、傷口が開いたら次は麻酔無しでステープラーを使って塞ぐ」

「ごめんなさい!殺さないで!」

「ヤナカのおじちゃん、マギーお姉ちゃんをいじめちゃダメ!」

「ち、違うのよ。マノちゃん。これは私が悪いの」


 幼い子は入室禁止なのに、どうやって入ったの?

 本当にウッカリしたことが言えない。知らないうちに死角から近づいてきて私達を観察している。


 子供達の悪い手本にならないように行動しないと。






「この宙域じゃあ、もう稼げない。レーダーに映るのは20〜30cmの小物ばっかりだ。金属くずも鉱山からの供給が安定してきて値下がりしてるしな。違う宙域に移ろう思う」

「ナンナ星も1年以上だね。難民の件は切りをつけたからいいよ。いつ出発するの?その間に友達に挨拶する」

「在庫を売り切るなら1週間後だな。ナンナで欲しい物があったら買っとけよ」

「分かった。ヤナカは欲しい物があるの?、」

「欲しい物で思い出した。艦長室の隠し金庫にあったメモリーな、パスワードが昨日解読できた」

「忘れてた。1年以上前だよね?」


 ヤナカと漂流を始めて半年の頃に遭遇した駆逐艦ネヅ。

 艦長室に隠された金庫で金塊と一緒に見付けたメモリーをその時からずっとパスワード解析をしていた。


「多言語で組まれていて、まるで呪文だったぞ。艦長はどうやって暗記したんだ」

「それで?」

「興味無さそうだな。まあいいか。1年以上かかって解読して、嘸かし重要な内容かと思いきや。ナノマシンとは無関係だった」

「へっ?え?じゃあ何?」


 ネヅで見つけた250人あまりの遺体は、体内に注入されたナノマシンが死因だった。医療准将が秘密裏に乗艦していた事から、戦争犯罪だと考えていた。

 艦長室にあったメモリーの中身が関係ないなら、医療准将とネヅは直接関係無かったの?だったら何のための金塊?


「おそらく古文書だな。手書き文書のコピーが500ページ以上あったよ。図形とか地図が混じったのも多いな。どんな種類の言語なのかも解らない。言語ライブラリが欲しいんだ。ネットで探したがこの星には無さそうだ」


 ヤナカは戦闘用AIだから現代言語のライブラリーしか搭載していない。現代言語はこの世界に10,000を超える言語が知られている。ヤナカはそのほとんどのライブラリを持っているし、近い言語同士なら似た単語や文法から推測できる。ヤナカが解らないというのなら消滅言語か未知の言語で間違いない。


「どんな感じなの?見せてよ」


 メインスクリーンに次々に古文書を表示していく。

 どこかで見たような文字だけど思い出せない。

 図形が描かれたページで目が止まる。


「これは遺跡だね。何かの教科書にあった。えっと、えっと、ブロン文明の遺跡で、何処だっけなあ」

「これだな」

「そう!その写真。何処だっけ」


 ヤナカがブロン文明をヒントに、ネットから神殿とされる遺跡の門に彫られたレリーフ画像を見つけてスクリーンに表示する。


「たまには役に立つなマギー。これはラーメ星ブロンザ山の神殿遺跡だな。この文明には文字があったのか?」

「たまにはって酷いわねえ。んー、斎藤教授の論文で、えっと、神明文字かな。それにしても現文は何に書かれてるのかな?」

「お?これか?出版されてるがネットにはころがって無いな。この感じだとコピーを白黒2階調に直してゴミを消してるな。それにしてもマギー、詳しいな」

「士官学校で歴史を副専攻してたのよ。好きだったの。そうだとしたら粘土板みたいね」


 それから図形があるページを重点的に表示して、3つの遺跡に使われている文字だと判った。

 ラーメ星ブロンザ山神殿遺跡

 ラワ星ライナワ都市遺跡

 ラガボー星ナリ大洞窟遺跡

 それでも大部分は解らなかった。


 3つともラで始まるのが気になる。


「ニシコヤマ要塞の近くにラワ星があるぞ」

「要塞は稼働してるの?」

「遺体の収容作業が1年前に終わって、今は要塞を解体中だ。鉱山みてえに金属資源回収だな」

「近づても大丈夫なの?」

「サルベージはできるんだが、平和維持軍とかいう連中が周囲を警備してて、サルベージ品は全てそいつ等に売却することになってる。それにこの船は駆逐艦だし、因縁付けられるのは間違いないな。ラワ星に集中するか?」


7話まで読んで頂きありがとうございます。

孤児達の養母になったのに、マルグリットは自重できませんでした。

艦長の秘密のメモリーはなんと古文書でした。なんだか先が読めるような展開になって不安です。

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