6 孤児の怪我と最初の商売2
6話です。
もう4千文字が当たり前になってしまいますた。
「中谷殿、最初に聞きたいのじゃが、預かっているバッテリーが他に233台あるのは本当か?」
ザザが睨み付けるように質問する。
「有りますよ。現物をチェックして、使えない物を返品してもかまいません」
「「「「おーっ!」」」
数人から歓声が上がって、皆の表情が明るくなった。
ザザはすぐに真剣な顔になる。
「元老院のメンバーが出席しておるから不審に思うておるじゃろうが、我々はジアンナの復興のために決死の覚悟で交渉に来た」
いきなり決死って売らなかったら奪うつもりなの?
近くに座っていた身なりの良いおじさんが、バッテリーの使いみちについて説明した。
戦中に物資や食料の徴発を受け、インフラや建設に必要な物資も無く、狂気じみたインフレで購入もままならない。
戦中に物資や食料の徴発を受け、インフラや建設に必要な物資も無く、狂気じみたインフレで購入もままならない。
太陽光パネルは戦場では脆すぎて使えず、徴発されずに大量に残っていたが、制御ユニットが無いために、出力変動が大き過ぎて接続した機器が損傷してしまう。蓄電して昼夜使用できる電源としてもバッテリーが必要だった。この軍艦用バッテリーは制御ユニット付きで、容量が大きく軍用なので頑丈に出来ている。水道や灌漑用水のポンプ、重機や工具の電源、1台あれば20件程度の家の電源にも使える。なによりも以降のエネルギーがほぼ無料になる。
「そちらの事情は理解しました。全部買いたいような口振りでしたが?」
「全て譲って欲しい」
「可能です。まとめて運ぶのは無理ですが」
ザザの頬がニヤリと緩むのが横で見ていても解る。
すぐに険しい顔に変わったかと思ったら、いきなり頭を下げた。
「すまん、我々ジアンナシティは帝国金貨10万枚しか出せない。どうかこれで譲ってくれ。我々を助けてほしい!」
ガーッ。
「「「「お願いします」」」」
ザザが頭を下げた後、椅子を引く音が鳴り響いたかと思うと、全員が席を立って私達に頭を下げたまま動かなかった。
「見なさん、頭を上げて座って下さい。これでは私達がいじめているみたいですよ」
一同が各々に礼や詫びを告げて席に戻る。
なんなの、この人達、真剣すぎて怖い!
「昨日の話しでは帝国金貨500枚でしたが、それならば200台で金貨10万枚でも良いと思うのです。他所ならもっと高値がつくと言うことでしょうか?」
「それはジャンク屋の俺が説明するよ。まずは済まなかった。うちの者が無知なもんで、かなり低い値で査定しちまった。俺の査定だと帝国金貨800枚だが、もっと出す連中もいるだろう。ちなみに30年前の新品価格が金貨1100枚だった」
ジャンク屋の社長だと名乗る男が説明をはじめた。
「こいつは戦前に作られた。当時は製造技術が低くて中身の純度がスゲー高くねえと危なくて使えなかった。2台で今のバッテリーが3台作れる量だ。この時代はまだ安全マージンって規格があって、性能は額面の1.3倍まで使える様に作られたんだ。だからよ、性能は1.3倍、寿命が来て資源回収しても1.5倍の値が付くって事だ」
店長が話し終わって席に戻り、室内は静寂に包まれる。
「そうですか。正直に言ってしまって良いのですか?旅の商人なんていくらでも騙せるでしょう」
ザザが硬い表情で立ち上がって答える。
「その通りだ。騙すのは簡単じゃが、中谷殿は静止軌道上に停泊しておる軍艦の持ち主じゃろう?騙したのがバレて報復をされるのも恐ろしいしな。それに3日前に瀕死の孤児を助けたじゃろ。縁もゆかりもない星で他人の子供の世話をする様な御仁には嘘はつけない。そして同時に無理を承知で頼んでいる」
最後にザザがもう一度頭を下げる。
「私達からの条件を飲んで頂けるなら、9万枚で譲りましょう。残りは有効に使ってください。他にも買って頂きたい物もありますし」
「「「「オーッ!」」」」
今日2度目の歓声が上がったけど、こいつら4割引きってなによ。しかもヤナカは半額以下で売るつもりなの?
ザザだけが渋い表情で右手を上げて皆を制した。
「条件は3つ。1、私達の情報は隠す。取引に関する情報も偽装するか無かった事にしてください。2、バッテリーの固有情報はこちらで削除しますが、それ以上詮索しない事。3、前の条件とかぶりますが、このバッテリーの出所は秘密にする事。ちなみに、私達は犯罪者ではありませんよ」
静まり返っていた室内で、小声で話し合う会話が続く。
話に参加していたザザが振り返って質問した。
「この条件を破った事を中谷殿はどうやって知るのじゃ?」
確かにそうよね。私も中谷を見る。
「直接知る事は出来ませんが、命を狙われる事で知るかもしれません。何も起こらないかもしれません」
「え?私も?」
思わず私が声を出してしまう。
「そうだよ。や、ま、だ」
警備ロボットに頭を小突かれる。
「私達も、バッテリーを回収した船も、犯罪者や犯罪組織とは関係ありません。ですが、その船を発見した時には大量の死体が残されていました。現状から見て戦争犯罪だと思われます。30年近く前の事件だと判っていますから、生き残りの犯人も少ないと思います」
「我等に事情を話した方が安全だと?」
近くに座っていたスキンヘッドの男が詰めよって来る。
「皆さんは知らない方が安全ですが、無闇に情報を拡散されると、犯人を刺激する可能性があります。事情を知らない方が危険かもしれません。訳も分からずに犯人に尋問されたくはないでしょう。お安く提供するのは口止め料と思ってください」
3日後、取引は成立した。
危険は伴うが、破格値の魅力に負けたそうだ。
5日毎に50台納品して、市側で性能チェックを行い、次の納品時に現金で支払う事になった。
返品は無かったけど、運搬作業中の事故でバッテリー1台が大破して、下敷きになった1人が死に、重傷者が5人出てしまった。
関係者が数人逮捕されて事情聴取を受けている。関係者の2人が大怪我をしたが、医者の許可が出てから事情聴取を始めるそうだ。
老朽化したスリングを使ったのが原因だが、品不足でまともな備品さえ無く事故が絶えないと言う。ジアナ政府も「事故は割に合わない」という見せしめに逮捕せざるを得ないそうだ。
シャトルから事故を見ていた私には、銃傷の仲間を見るより辛かった。
こちらの落ち度では無いが、個人や中小企業に弁償出来る金額では無い。
私とヤナカは相談して1台分値引きした。
大破したバッテリーは分解して部品として換金し、死傷者に見舞金として、死亡者の家族と重い障害が残った人に金貨20枚ずつ、怪我人に金貨3枚ずつと、残りを全員の医療費に使うようにザザに渡した。
ヤナカはリノリ達を引き取る気でいたようで、彼女達の身辺調査と戸籍の移動をザザに依頼していた。
ほとんどの子供の親は軍事施設で働いていた軍人か民間人で、戦闘に巻き込まれて死亡した。
徴兵のために片親家庭が多く、徴兵先での戦死者も多い。帝国国民はDNA情報を登録しているため、親戚を捜し出すことは容易だったが、貧困を理由に全員に引き取りを断られた。行方不明の親族が生存していたり、配属先から帰還した場合を考えてザザに連絡先を残した。
ジアンナ市民のカリナ山田として私の戸籍を作り、孤児達全員を養女として入籍させたとザザから説明された。
帝国領では全員の身分が保証される。
私達に引き取られる孤児は幸運だとザザは言う。
私に何かあったらジアンナシティが面倒を見ると約束してくれた。
旅先のどこかで何かあっても頼る術がないだろうけど、ザザから言質をとったようなものだ。それだけで嬉しい。
私にも新しい故郷が出来たのかな。
私がリノリ達12人の養母になった。
「不安しか無い」とヤナカに言われたけど、私も不安だ。
リノリ達をタカチホノミネ丸に連れてきて1周間が過ぎ、子供達の興奮状態も収まってきた。
無重力の歩き方を教えるのが大変だった。親や先生の苦労が身にしみた。今だに空中に飛び上がって戻れなくなる子がいる。
装置のボタンや摘みを触りまくり、ヤナカが入室制限をする。私が入れないような隙間に入り込んで行方不明になり、船内カメラの履歴を追跡したり、ほとんどの子供が広い艦内で迷子になり、ヤナカが音声で案内をするが、すぐに他の物に興味が行って戻って来ない。何処にあったのかいろんな物を引っ張り出してそのまま他の遊びに夢中になる。作業ロボットの稼働率が100%になり、警備や作業ロボットが出動する。
ソウナは右腕を肩近くまで失ったが、妹のナウナが手伝って医療ロボットと一緒にリハビリをしている。この姉妹は魔力を持つ事が解った。
栄養失調だったリンは、まだ筋力が戻りきらず、ヤナカが栄養と運動のプログラムを作って医療ロボットが世話をしている。
寄生虫の疾患だったリリアはすっかり回復した。
彼女達の中に魔力を多く持っている子が他に3人いたのが大きな収穫だった。
この艦の魔力装備の係員として教育するつもりだ。大人になって独り立ちしても就職先は多いだろう。
私達2人の事も、私の本名とヤナカがAIだという事はみんなに教えたが、小さい子は艦内スピーカーで喋るヤナカを探しまわる子が多い。
「マギー、この船にはキッチンはあるの?」
悪戯そうな目でミナが私の肩を叩いた。
「無いと思うわよ」
「何嘘ついてんだよ。あるよ」
ヤナカが食堂のモニターに館内図を表示させてキッチンの位置を教える。
当然だけど食堂の隣だった。
「マギーは知らなかったの?」
「えっ、うん、行ったこと無いんだ。ミナは料理できるの?」
「うん。見に行こう!」
ミナに手を引かれて初めてキッチンに入った。
「わー、綺麗だね。新品みたい」
キッチンは30年前のままだった。
その当時から使う機会が少なかったのか、汚れ一つ無い。
「ここは何も無かったから片付けはしてない。自由に使って良いぞ。使い方は解るか?」
ヤナカの説明を、ミナは聞いているのか聞いてないのか、上の空でキッチン内を物色している。
棚の扉をあけて「おー」「凄い」「何これ」等と呟いている。
2人で調理器具や食器を出して並べてみる。
「食器は全員分よりあるわね」
「マギー、これ見て。小さい棒がいっぱいある。串かな?」
「ああ、それは箸ね。私も使ったこと無いけど、こうやって食べ物を摘んで口に運ぶのよ」
「へー、ウッ、え?上手く出来ないや。二本で一組なんだね」
ミナが真似をして空中のスプーンを摘もうとしている。
「フライパンに鍋に、全部蓋が付いてるな。無重力で使う自動調理機ね」
奥にもう一つ扉があった。
全部確認したとヤナカが言ってたけど、子供に遺体は見せたくなかった。
「ヤナカ、ここは入っても大丈夫?」
「あ?ああ、大丈夫だ」
そこは食料倉庫だった。50人収容の食堂並みの広さがある。
冷蔵庫や冷凍庫が並び、その奥に棚が並んでいる。中身があっても全部凍っているのかな。
バタン、バタン。
ミナが端から順々に扉を開けていく。
「アッ!みーっけ」
振り向くとミナが棚の中に上半身を突っ込んでいた。
「何を見つけたの?」
「ほら」
それはアルミのトレイに入ったドライフードだった。
ラップを指示線まで剥がしてスチーム調理器に入れる指示が印刷されていた。お湯を注いでも食べられる。ビーフステーキとサラダセットと印刷されていた。
「何これ!」
棚の中に大量にある。
印刷の色が違い、それぞれに料理名が表示されている。
全部の棚にこのトレイが入っていた。
「ああ、それなら格納庫にたくさんあるぞ」
「何で言ってくれないのよ!意地悪!」
「え?いつもレトルトをチューチューやりながらビスケットレーションだったろ。それが好きなんじゃ無いのか?」
「他に無いと思ってたのよ!ミサイル突撃艦はこれだけだったでしょ!なんでこんなに贅沢なのよ!頭に来るなあ」
「ねえねえ、これ食べてみようよ」
試しに2人で1食ずつ加熱してみる。
スチーム調理器はこのトレイ専用みたいで、100個が一度に加熱出来る。
スイッチを入れると画面に指示が出る。
個数を入力してスタートを押す。
「美味い!何これ!」
「うん、美味しいね。お母さんの料理みたい」
格納庫に30万食あった。難民の一年分の量だ。新天地で開拓でも始めて、収穫まで食いつなぐつもりだったのか。
すぐそばで作業していたのに気が付かなかった。
悔しい!
ここまで読んでくださってありがとうございます。
破格の安値でバッテリーを売ったり、孤児達を助けたり、ヤナカが優し過ぎたように感じます。
リナリ達を引き取り大所帯になった彼等は、これからどうするのでしょう。




