5 孤児の怪我と最初の商売1
5話です。
長くなってしまったので2話に分けることにしました。
冒頭にちょっとエグいシーンがあります。苦手な人は気をつけてください。
まずはリノリに案内をさせて、彼等のねぐらに行く。
港の破壊された倉庫の中で彼らは暮らしていた。
屋根が残った大きな部屋に古いマットレスや布団がびっしり並べられて、修学旅行を思い出させる。
身なりは汚いがちゃんと眠れる場所に見えた。
薄暗いけど壁の穴から光が差し込んで全体を見渡せる。
「え?腐った匂い?」
「ああ、手前の子は右腕が腐ってるな。蛆がわいている」
「ソウナは攫われそうになった子を助けようとして、おじさんに突き飛ばされたときに腕を折ったの」
「ソウナって名前か。今、お医者さんロボットを呼んでるからな」
ヤナカはソウナの側に跪き、声をかけながら観察している。
右腕は土気色になり、身体全体に血の気が無く玉の汗を流している。
もう1人はほとんど呼吸もしていなかった。名前はリン、7歳だというが背が低くやせ細り、骨に皮膚が付いている様な姿で、眼球の周りが落ち込んでいる。
2人とも薄っすらと目を開けてこちらを見ている。
どちらの子も手遅れかもしれない。
ヤナカが地上に降りる時に連れていた医療ロボットをシャトルから呼び出した。
もう1人の子はリリア、10歳。トイレで便器に座ったまま眠っていた。激しい嘔吐と下痢で脱水症状になり便器から立ち上がれない。
項垂れた顔の下にバケツが置いてあるが、中には液体だけが入っている。
吐瀉物だと見て取れるが、胃に残る固形物は無いのだろう。
彼女を便器から抱き上げた時に下痢の原因が解った。
尻から白い紐のような物が垂れ下がって、それが微かに伸縮している。
ジアナ星の湿地に生息するラウンダーと言う寄生虫だった。淡水系の貝に寄生して、それを食べた動物にも寄生する。しっかり火を通して食べれば問題無い。この虫が動物の腸内に入ると、貝に寄生していたときより百倍以上も巨大に成長する。激しい腹痛を伴う激しい下痢を発症し、子供なら死んでしまう事がある。虫下しを服用すれば治療できるけど、この子も栄養失調だ。
医療ロボットが作業ロボットと共にやって来た。
子供達に何種類かのスキャナやセンサーをあてたり、採血をしている。
「ソウナは連れ帰って緊急手術だ。2人は薬と栄養の点滴。それから全員に虫下しを飲ませろ!」
「あたいも行く!」
ソウナによく似た子が、医療ロボットの手を握って揺すって来る。
名をナウナ、ソウナの2つ下の妹だという。
医療ロボットから指揮をとっていたヤナカが、ナウナの肩に手を置いて話しかけた。
「絶対に俺の言うことを聞くなら良いぞ」
ナウナは何度も頷いてから作業ロボットによって担架に固定されたソウナの後に付いて移動を始める。
「俺はこいつ等に付いていくからあとは任せた。2人の治療はロボットにやらせる」
私に声をかけてヤナカも移動を開始した。
私1人でこの子達と買い物するの?
翌日になってリノリに紹介されたジャンク屋を訪れる。
「故障した物でも買ってくれるってほんと?」
「何を売るつもりだい?」
「これなんだけど」
「おお!」
私がカウンターに出した袋を開けると、買取窓口のおじさんが目を丸くして黙り込んだ。
「動かないのか?」
焼け焦げのある連合軍マンパック型無線機をまじまじと眺めながら、おじさんは真剣な目つきでゆっくりと聞いてくる。
「暗号変換ユニットが被弾して壊れたのよ。普通の無線機に改造すればいいんだけど、パーツが見つからなくて売ることにしたの」
「いくら欲しい?言い値で買い取る」
「中身も確認しないのに?」
「今の相場なら帝国金貨3枚だが、他にもこんなお宝があるなら銀貨5枚上乗せだ。お嬢ちゃん、こんな代物どこで手に入れたんだ?」
帝国金貨4枚でジアンナなら大人1人が割と贅沢をして1年暮らせると言うが、日々物価が上がっているから今日の相場でだと念を押された。
「軍人くずれよ。戦場で集めた装備を横流ししてたけど、終戦で仕事が無くなってね。故郷の街は爆撃で無くなったから、こんな商売しながら放浪生活してるのよ。帝国領に来たのは初めてだから、何か売って通貨を手に入れようと思ったの」
「ほう、訳ありっつうか最近じゃ多い話だな。それから金なんだけどよ」
暴落し続ける通貨より、金銀銅などの金属や鉄くず、レーションの様な保存食とかを物々交換するのが帝国領の当たり前だと教えてくれた。
絶対に紙幣とは交換するなとも忠告された。紙幣には全く価値が無く、騙されて全財産を失う余所者が多いから気を付けろと教えてくれた。浮浪者でさえ拾わないそうだ。
レーションって味も素っ気もない、水分が無いと飲み込むことも出来ない軍用の保存食が通貨の代わりになるなんて……
聞いてなかったら、あんな不味い物はタダであげていたかもしれない。
孤児達にはあげたけど。
通貨が当てにならない時代に、金塊310kgってどんだけな価値なのだろう?
それにカードや札束より、コインは重さで価値が測れるし、物価が上がれば価値も上がっていく。
架空口座のお金って価値はどうなるの?
乗組員の所持金にコインがあったのを思い出して、船に帰ったら探すことにした。
何かあったら売りに来ると約束して、無線機を売ろうとしたが、本当に来たら残りを渡すと言われた。
騙された気分になったけど、今日はやめてまとめて売ることにした。
おじさんは残念そうにしていたが、そう話がついた。
彼の話なら明日の方が高く売れることになるから。
翌日、私は作業ロボットに押させた、台車に載せた重さが650kgもある連合軍の官印が入ったバッテリーを店に持ち込んだ。
「2800V600kWhのバッテリーっておい!軍艦用だろう。こんなヤバイものを裸で持って来て、盗賊に見付かったら命が幾つあっても足りねえぞ」
「そうなの?これはね、Lotを見れば分るけど、30年くらい眠ってた劣化品なのよ。相場が解らないんだけど、いくらで買う?」
「ちょーっと待ってろ。テスターで診断するからよ」
おじさんがバッテリーの制御回路にテスターのコネクターを繋いでモニターを凝視する。
「こりゃあ、戦艦で使ったら2年持たないだろうが、地上なら持て余すだろうから4年は使えるな。メンテして大事にすれば8年は間違いねえ代物だ。帝国金貨500枚と言いてえが、買い取れねえな」
おじさんは悔しそうに無精髭の顎を触りながら答える。
「何よ。買ってくれないの?運んで来るの大変だったのよ」
「すまん!ウチには金がねえんだ」
「そうなの。同じのがあと233個あるのよ」
「ええー!233個だあ!」
「キャッー」
おじさんの怒鳴り声に驚いて悲鳴を上げてしまった。
店員が思い思いの武器を手に集まって来た。
外で待っていた警備ロボットまで飛び込んで来て、騒ぎが大きくなってしまう。
「どうした?強盗か?」
「何だ!このロボット?やる気か?」
「違うんですうー!おじさんの大声に驚いちゃって。警備ちゃんも大丈夫だから」
私は、警備ロボットが実力行使する前に、すがり付いて止めた。
「みんな済まねえ!俺が悪かった」
おじさんの説明で一度は落ち着いた。
「「「「233個!」」」」
けど、話を聞いた店員さん達まで大声を出して、掃除のおばちゃんまでモップを構えている。
騒ぎが大きくなって行く。
私は、警備ロボットが暴れるのを止めるのが大変だった。
事情を知った人々が大勢集まって、小声で話し合いを始める。
ため息をついたり、そろばんを見せあって、項垂れたりしている。
私は小一時間放って置かれた。
「待たせて済まなかった。警備ロボットを付けてるなんて景気が良さそうじゃな。悪いがお嬢ちゃん、また明日ここに来てくれんか。このバッテリーは置いていって構わん。安全は保証する。それからこれの取引なんじゃが、他所へ持っていかんで欲しいんじゃ」
集まっていた人達の中から、いつの間にか混ざっていた人の良さそうなお爺さんが、私に話しかけた。
「分かりました、また明日、この店で、この時刻で良いですね?」
警備ロボットを使って一部始終を見ていたヤナカが答えた。
警備ロボットに一同の視線が集まり、静寂が流れる。
「失礼しました。私はこの女、山田と一緒に旅をしている中谷と申します。身体が不自由で皆さんの前に出られないので、このロボットを通して話しています。明日は私もこの姿で出席しますが、良いですか?」
闖入者に話が折れそうになったけど、明日の昼過ぎに集まることに決まった。
それにしても中谷って設定は、いつ聞いても笑いを堪えるのに苦労する。
翌日、私達はこのジャンク屋ゴールデンボールを再び訪れた。
店名があるとは知らなかった。パチンコ屋かボウリング場だったのかな。
「よく来てくださった、中谷殿。山田殿。昨日は名乗らぬまま別れて済まなかった。私はこのジアナ星首都ジアンナの元老院の1人、ザザと申す」
私達は昨日別れた部屋の奥に通された。
折り畳みの机を口の字にぐるりと並べてあり、半分くらいの席に人が着いていた。
昨日より身分が高そうな人達に見える。これで全員なのかな?
入ってすぐの席を勧められた。
「中谷殿、最初に聞きたいのじゃが…」
5話まで付き合って頂きありがとうございます。
ジアナ星での初めての商売がこれから本題に入ります。
ソウナやリンは大丈夫なのでしょうか。




