4 終戦と提案と孤児の仕事
4話です。
ヤナカとマルグリットが訪れる最初の惑星です。
「さてマルグリットくん。朗報だ」
「なんだよ、気持ち悪いなあ」
「戦争が終わった」
「ん?」
「1時間前から連合軍共通チャンネルで同じ電文を繰り返し送信している。暗号もひねりもない平文だ。「本国標準時、明日日付変更時刻0時をもって、全ての作戦を終了する」ってね。帝国軍でも似たような電文が送信され続けてるな。今日一日で戦争は終わりだ」
私は全身から血の気が引いてへたり込んでしまった。
「本当に終わったの?」
ヤナカがネヅのメインスクリーンに、ヤナカより高性能なアンテナで受信したニュース番組を表示する。
「ほら、ニュースでもやってるぞ」
テレビのどのチャンネルも戦争終結を報じていた。休戦条約が結ばれたのが正確なところだった。後のことはどうでも良かった。
私は歴史という学問が好きだ。多くの資料や記録から戦争が引き起こす混乱を垣間見られる。
戦後の苦しさが次の戦争の引き金になることだってある。
この後の混乱を考えると、腰が抜けるほど恐ろしい。
敵意、憎しみ、恨み、悲嘆、憎悪、悪意、デマ、流言、金棒ビキ。
労働力不足、物資不足、食糧難、政治家や軍幹部の汚職と物資の独占、金持ちの買占め、企業や店舗の売り控え、役人の汚職、狂気のインフレ率。
窃盗、強盗、殺人、餓死、疫病。
暴動、内乱、難民流出、難民問題、地域格差、地域差別化戦略、地域紛争、大規模紛争、世界大戦。
人は、貧すれば鈍し、貧して無くても貪し、同じ轍を踏み続け、国破れて山河も残さない度し難い生き物だと私は思う。
平民は徴兵されて最前線へ送られる。戦争が避けられないなら、後方で指揮をすれば生き残れると思い私は士官学校へ入った。
軍隊の生活は好きでは無いけど、衣食住は最低限安定していた。
故郷に残した家族の方が貧しい暮らしをしたと思う。
「戻りたくない!この後の混乱に巻き込まれたくない。ヤナカと離れて生きていけるなんて思えない」
「卑怯者と呼ばれてもいいのかよ?」
「かまわないよ。守る家族だってもういない」
家族は初期の戦乱で全員死んでしまった。都市一つまるごと灰になって、戻る故郷は無い。
ヤナカはしばらく考えているようだった。
「了解した。バックレよう!俺だって戻ったら解体屋行きだ」
「これからどうする?」
「ここで提案なんだが。耳の穴掻っ穿って聞けよ」
「どうしたの?」
「このままだと身動きが取れない」
「うん、それで?」
「俺をネヅに移植して、この艦を放棄しようと思う」
ネヅは無傷だから、ヤナカ本体を引っ越して来ればいいが、私も一度考えた。考えたが、ヤナカ艦は小さい。
「ヤナカにネヅを操れるのか?」
「IOの数が少ねえから全部は無理だ 。魔力持ちがいねえから魔力武装は接続しねえ。艦内用のカメラがあるのに、監視カメラは必要ない。ユニットごと格納庫行き。搭乗員が1人だから生命維持の負担も無いに等しい。ほとんどの仕事はサブAI達に丸投げでなんとかなりそうかな?」
「やろう!」
作業ロボットが搬送をやるから、私がやる事は少なかった。
装置や部品の取り外しは、小さいネジやコネクターの作業を私が担当して、残りは整備ロボットに任せた。
燃料はコンテナに移し替えてネヅの格納庫に移動。
ネヅで使っている古いバッテリーの中で劣化が進んでいるものを、ヤナカのバッテリーと交換した。ミサイル突撃艦のバッテリーでは数が足りなかった。外したバッテリーはヤナカの格納庫に搬入。
最後に、空っぽのネヅAI本体を撤去して、ヤナカ専用に配線と冷却配管や空調ダクトを私が1人で改造した。
2ヵ月後。
「いよいよだね。ここまで大変だった。主に私が」
私は船外作業用スーツを着てヤナカの艦橋に立っている。
空調設備も生命維持装置も外した艦内は空気を回収して0気圧になっている。
「俺だってやったろう?主に荷物運びだけどよ。まあ、そうだな。ありがとう、マギー。外部バッテリーの準備は完了だ。始めてくれ」
ヤナカは私をマギーと愛称で呼ぶようになった。最初に言われた時は固まったけど、今は嬉しい。
私はヤナカ本体の後ろにまわり、電源コネクターの固定リングをはずす。
「電源コネクターの準備はいいよ」
「おお、緊張するな」
ヤナカが操作して電源コードへの電流が止まり、コネクターのパイロットランプが消える。
私は直径10cm以上あるコネクターの両側にあるロックピンを抜いて、真っ直ぐに引き抜く。
作業ロボットに完了の合図をする。
電源が外部バッテリーに切り替わった後、ヤナカの筐体が浮き上がり、ゆっくりと作業ロボットに押し出されて行った。
ヤナカは作業ロボットを自分でコントロールして、ミサイル突撃艦の外へ向かって狭い通路を進む。
「これが外か。いつもロボットから見てる景色とおなじだな」
「ロボットから船外にいる自分を見るのは不思議でしょ」
「ちげえねえ」
2体の作業ロボットに担がれて黒い箱がネヅに入っていく。
ヤナカの筐体に繋がった外部バッテリーが、子犬と散歩しているようで可愛い。
さらに1ヶ月が過ぎた。
ヤナカは、新しい身体との調整に夢中になっている。
認識コードは40年前にスクラップになった退役艦の経歴を詐称して、中谷という貿易商が自営船団の護衛のために買ったことにした。自営船団なんて無いけどやり過ぎではないのかな。
艦名は護衛艦タカチホノミネ丸。
前に決めた中谷のプロフィールと違うなあ。
食料も燃料も心配が無い。
私は寿命が来るまでタカチホノミネ丸で生きて行ける。
「え?今なんて言ったの?」
「乗組員と准将の口座が残ってたから、架空口座を作って移した」
「いくら?」
「431億83…」
億のあとは聞き取れなかった。
私の人生には関係の無かった金額に、嬉しさよりも私に群がる守銭奴達を想像して戦慄を覚えた。
「そんなに?」
「准将と艦長で8割だな。貴族だしな。乗組員で残ってたのは将校7人だったが、金持ち揃いの艦だな」
「犯罪だよね?」
「マギーの軍銀行口座は殉職扱いだから凍結されてるから架空口座が必要だ。俺はAIだから疑われない。マギーが捕まるだけだな」
「何でそうなるのよ!准将の口座ってヤバくない?私が捕まったらヤナカだってメモリーを覗かれるのよ」
「うっ、それは非常にマズいが、足が付かない安全な口座だ。生涯働かないで暮らせるぞ」
ニシコヤマ要塞戦から、ヤナカがやらかした犯罪は、全て私の命令でやった事になるよね。
あれ?ヤナカに騙されてる?
身体が勝手に震えてくる。
「そうだ、艦長室に隠し金庫が見つかった。1kgの金塊か310本入ってた。この量の運用資金は異常に巨額だ。かなりヤバい任務に就いてたなあ。つくづくネヅって艦はヤバイ任務に就いていたみたいだ。一緒にあったメモリーはパスワード解析中だ」
数日後。
ネヅの素性を隠したい私達は、帝国側の辺境惑星ジアナに寄港した。
「この港は港湾施設以外はほとんど無傷ね」
「ド田舎だからな。軍事基地以外は無傷だ。都市攻撃はレーザーより爆撃の方が効果が高いから、弾を使うのも勿体無いってほど無用な星って事だ」
上空から見ると軍事基地の跡らしい廃墟や墜落した戦闘艦の残骸ぐらいしか戦争の痕跡は見られなかった。
首都ジアンナでは物価が40倍になっていた。工業が未発達なこの星では工業製品がものすごく高かった。
食料自給率は高く、農産物は物価に比べて安い。
地上に降りてジャンクの相場を調べる事にした。
ジアンナは人口が700万人を超えるこの星最大の都市で、主要なバザーだけで8箇所もある。
私と警備ロボットは下町サーナル地区のバザーを探索していた。
道の端に座ったり寝転んでいる人を多く見かける。
警備ロボットを見つけた子供達が、私に群がって物乞いを始める。
金持か余所者として狙われたのだろう、私によじ登って背嚢に手を突っ込む子供もいた。
みんな痩せてサイズの大きすぎるボロを着て、ほとんどの子が裸足だった。
5歳くらいまでの子供達だろう。
年長組の子供達は警備ロボットを見て近づかない。
低年齢の子供なら手荒な真似はしないと考えているんだろう。
あざといなあ。
往来の人々もいつもの風景のように通り過ぎていく。
警備ロボットが指先からパチパチっと電磁パルスを発すると、子供達が一斉に逃げ出す。蜘蛛の子を散らすとは、これだと他人事のように思った。
小さい子が逃げ遅れてパタンと転ろび、遠巻きにして見ている子供達に緊張が走るのが見て取れる。
警備ロボットがその子に近づくと、一番背の高い女の子が怒鳴りつける。
「触るな!」
見ると、木の棒を上段に構えて私達を威嚇していた。
警備ロボットは彼女を無視して転んでいる子供を抱えあげようとすると。
カーンッ。
大きな音を立てて折れた棒が地面に転がって、棒を振り下ろした彼女は、なんとも無い警備ロボットを見て呆然としていた。
「小僧。いい度胸してるな。名前は?」
抱き上げた子供を立たせて、怪我が無いか確かめながら、ヤナカの声で彼女に話かける。
「ノマ」
「なあに、お姉ちゃん」
「そうか、この子の名前がノマか。俺は中谷、こんなロボットの姿だが人間だ。お前の名は?」
「リノリ」
ヤナカが決めてた偽名で名乗る。
「リノリか。このおばさんはカリナだ」
「おばさんって。怒ったら古いテンプレじゃない。よろしくリノリ」
リノリは肩の力を抜いて、残った木の棒をやっと手離した。
「お前がこいつ等の親玉か?」
「うん」
「ここにいる連中だけか?全部で何人いる?」
「んーんと、……11人」
リノリは周りの子供を見回しながら指折り数えている。ここにいる子達より多い様だ。
ヤナカはノマの頭をなでながら私に預けて、膝と肘の傷を手当する様に促したあと、リノリと話を続ける。
「自分は入っているのか?」
「アッ。12人」
「ここにいない子はどうしている?」
「ねぐらにいる。怪我してたり、お腹が減って動けなかったり。病気の子も」
「女の子が多いがなんでなんだ?」
リノリは少し落胆したような表情を浮かべ、ヤナカに縋り付いた。
「一生懸命働くよ。この中の1人でもいいから連れて行って!」
「そうか、男の子は働き手として連れて行かれるのか」
「そう、戦争で息子が死んだ農家の人が、男の子を連れて行く代わりに食べ物をくれるの。怖いおじさんに攫われる子もいるよ」
リノリは子供達の面倒を見ながら、同時に引き取り手も探していたらしい。男の子の話で慌てたのは、養い親候補を逃すまいと思ったからだった。
ヤナカは何か考えていた。この星のことを調べているのだろう。
「孤児院はあるのか?」
「あるけど、たくさん子供がいて入れないし、ご飯も食べられないよ」
「今日だけだが、仕事は欲しくないか?」
「何を貰えるの?」
周りにいた子供達から歓声が上がり、ヤナカに群がる。
「おばさんの買い物の手伝いだ。荷物を持つ。バザーの案内をする。荷物が盗まれないようにする。この3つだ」
「それなら私らもできるよ。何をくれるの?」
ヤナカは私の背嚢から真空パックのビスケットレーションとレトルトのチキンスープを出した。
「仕事が終わったら、これを人数分やる。子供なら2日分の栄養だ」
「「「「「ワーイワーイ」」」」」
子供達は大声で喜び、リノリが目を丸くしてレトルトを凝視している。
「こんなにもらって良いの?」
「ああ、約束だ。腹が減って動くのも辛そうな子もいるな。このレーションを1人1本ずつやるから食べてから出発だ」
ここまで読んで頂き本当にありがとうございます。
ヤナカが出会う初めての民間人です。どんな態度にするか迷いましたが、妙に紳士的になってしまいした。




