21 リリアナの秘密とリノリ達が暮らした廃墟
21話です。
文字を大きくしました。読みにくいかもしれません。
ジアンナのホテルに25人もバラバラに宿泊するのはセキュリティ的に問題があると言って、ヤナセがワンフロア貸し切りにしてしまった。
(金の力は強い)
そのフロアにいた他のお客さんには、宿泊費を無料にして退いてもらった。
(ありがとう)
新人ちゃん達が街を見物しながら歩きたいと言うので、歩き出したのは良かったが、数年ぶりの重力にホテルまでの半分でバテてしまった。
これから2ヶ月はどこに行っても何をしていても重力を感じて生活をする。
毎日街に出て、少しずつでも体力を回復して欲しい。
年少グループは、早速エスカレーターとエレベーターを何度も往復して遊んでいた。
ホテルマンに注意されるまでは放って置こう。年長組が監視しているから安心だ。
「ねえ、明日の朝から中央市街に行くけど、一緒にどう?途中にバサーがいくつかあるから降りるのは自由よ」
「あの、私達お金が無いのでバイト出来るところ紹介してくれないかなあ」
ゼーリシアがセリアを重そうに抱っこして近づいてきた。
「あ、ごめん。忘れてた。お小遣いよね。だいたい2年前の相場だと金貨4枚で大人1人が1年間暮らせるらしいから、1人1枚渡しておくわ。足りなくなったら言ってね。金額の大きい物が欲しいときは相談して」
「「「「「金貨!」」」」」
「「「「1枚!」」」」
「そんな大金もらっていいのか?」
「子供がいるんだからお母さん達は遠慮しちゃだめよ」
「遠慮なくても使いきれねえよ」
翌日、ヤナカが作ったバックパック型高感度魔力センサーが3人に1台渡された。
バックパックの大きさだが、容量は4分の1で、15リットル程度の荷物が収納出来る。ほとんどの体積がバッテリーと太陽光発電パネルだ。
付属のメガネに情報が表示される。
結局全員が市街と住宅地域を結ぶバスに乗って中央市街に向かった。リノリ達は中央市街を通り過ぎて廃墟を見に行く。
30分で中央駅のバス停で降りてリノリ達と別れた。
「夕方には帰るのよ」
「「「「はーい」」」」
「「「「バイバーイ」」」」
「マギーはどこに行くの?」
「船以外ではカリナでよろしくね。私とリノリ達の保証人のところよ」
「一緒に行くなら紹介してあげる。偉い人だから何かあったら助けてくれるよ」
「「「「「行く行く」」」」」
大人達は全員でザザに会うことになった。
元老院は中央駅からバスを乗り換えて10分の官庁街にある。
「どうしたのリリアナ?」
リリアナが官庁街に入った辺りから雰囲気がおかしい。
両手を固く握りしめて何かに脅えているようだ。
「行きたくないなら一人で街ブラする?」
リリアナは顔を上げて決心したように頷いて、母親組の2人をみる。
「私も行く。何かあったら助けてね」
正門で身分証を見せると、詰め所の衛兵が全員整列して「お待ちしていました。カリナさま」と言って敬礼をした。
ちょっと偉そうな衛兵が案内を申し出て正面玄関に案内される。
「凄い歓迎されてるようですが、私で間違いないですよね?」
人違いだったら怖いと思い、案内の衛兵さんに聞いてみる。
「はい、カリナ山田さまで間違いありません」
衛兵さんは間違いないと言う。
「カリナは何でこんな立派なところに入れるんだよ」
衛兵さんは一瞬驚いたが、アーケの質問に嬉しそうに答える。
「カリナさんはこのジアナ星の恩人です。高性能の軍艦用バッテリーを230台も相場の半額以下で売って頂いて復興に尽力しただけで無く、運搬中の事故で死傷した者達に補償までして頂きました。さらに縁もゆかりもないジアナ星の孤児達を12人もまとめて養女にしてくださったのです!」
衛兵さんは満足そうに語り終わると再び私に敬礼した。
新人ちゃん達は沈黙して私から一歩引いてしまう。
「「「えー!」」」
ジアナ星出身のブリジア、ゾフィ、マリエが感嘆の声を上げる。
「私達も夢の島から助け出されたんです!」
「それは凄い。夢の島が1隻の戦闘艦に潰されたというニュースは見たのですが、まさかカリナさまのお力とは、もどったら皆に自慢しないと」
(みんな止めて!)
「ジアナ星の目の前で桃源郷の戦闘艦を6隻沈めたんだ」
「え?」
衛兵さんは激してしまい、私の手を握りしめて男泣きを始める。
(みんな助けてよ!)
「もう止めなさい。ビクターくん」
声の主はザザだった。
衛兵さんはいきなり姿勢を正してザザに敬礼する。
「済まないね。この星に来たら概ねこんな歓迎を受けるから気を付るのじゃぞ」
「ザザさん、久しぶりね」
「「「ザザ閣下!」」」
またしてもジアナ星出身者の3人が叫んだ。
ザザが私の後にいる新人達に目を向けると、誰かに注目したのが見て取れた。
「貴女はもしや」
「久しぶりねザザ元老議員」
「リリアナさまではないか!」
「生き恥を晒してオメオメと戻りました。この子の為なら何でもしましょう」
「詳しい話しは中で」
リリアナはサラン星サーラ王国公爵家の娘だった。内乱が拡大した時にリリアナの実家、サーラル公爵が秘密裏に3人の娘をバラバラに逃がした。
「妹達の消息は?」
「二人とも無事です」
胸を撫で下ろすリリアナだが、ザザの曇った表情に次の言葉を待つ。
「サーラル公爵はサガン星間連合の艦隊と交戦中に戦死なされたと聞いています」
「解りました。私の事はザザさんもご察しかと思いますが、お話しいたします」
リリアナが17歳の時は内乱が終息の様相を見せ、1年以上大きな戦闘は無かった。
サラン星サーラ王国の国主は、サガン星間連合から派遣された総督の家系だ。
何が原因かは解らないが、サーラ王国として200年近く前に独立してしまったらしい。
それからサガン星間連合とはいざこざが絶えない。
ムーノ帝国を経由しなければたどり着けない辺境の魅力的な資源も無い星に、これだけ星間連合が固執するのが、私には理解できなかった。
「そこで夢の島に拿捕されて若い女達以外は全員殺されました。私達は性奴隷として夢の島の男達の‥‥そして20歳の頃に何度目かの妊娠でセリアを授かりました。当然の事ですが男親が誰か判りません。そして私だけが生き残り、カリナさんに助けられました」
「それは大変な経験をなさった。私などには想像もできませぬ。ここにおられる方々も夢の島から助け出されたのじゃな?」
一同が無言で頷いた。
「ザザさん、この子供達の重力治療をしたいの、前に引き取ったリノリ達も一緒だから、30人くらいで住める家を貸してくれる人を紹介して欲しいんだ」
ザザは顎髭を弄りながらしばらく考えていた。
「おう、そうじゃった。閉鎖中の軍施設なら無料じゃ」
「無料なの?ありがとう!流石はザザさんね」
「今日は中谷殿とリノリ達はおられぬのか?」
「リノリ達はみんなで住んでた廃墟を見たいって中谷を護衛につけて行ったわ。リノリ達もザザさんに会いたいって。みんな見違えるように成長したわよ。日を改めて会いに来るわ」
「それは楽しみじゃ。お二人には別件で改めてお礼がしたい」
「ねえ、ヤナカ。私達が出会った時の事。覚えてる?」
「ああ、お前の一撃は効いたぞ」
下町でバスを降りた一行は以前より活気に満ち、バザーの様な露店通りを行く。
「こんにちは。リノリです。覚えてますか?」
パン屋の前でリノリは老店主に挨拶をした。
孤児の頃に、材料も乏しい中で時々売れ残りと嘘をついてパンを譲ってくれた恩人だった。
リノリもそれに気づいていたが、空腹に耐えられない時には頼っていた。
老店主は慌てて店内にいた妻を呼んだ。
「心配したぞ。急に居なくなったから‥‥てっきり」
老夫婦は涙を流して再会を喜ぶ。
「あそこにいるロボットの人に拾われたの。今は幸せに暮らしてるよ」
「ロボットって、あそこの?」
「大怪我で動けないから、お船からロボットを操ってるのよ」
「あら、ナウナちゃんも」
「みんな元気ですよ」
「ソウナ!腕はどうしたんだ?」
ソウナは無くした右腕を嬉しそうに老夫婦に見せる。
「ロボットの中谷さんが治してくれたんですよ。腕は無くなっちゃたけど、幸せです」
老夫婦は3人の肩を抱き寄せる。
「あー、パン屋のお爺ちゃんだ!」
他の子供達も集まって行く。
「あんたが中谷さんか。ありがとう!この子達を拾ってくれて。私等にゃ、この子達を育てる自信も金も無かった」
「本当にありがとう。心残りだったんだよ」
ロボットの手を握って老夫婦は礼を言う。
「商売がうまく行って余裕が出来たからさ。仕事の連れがこの子達を気に入ってたからな。全員養子にしたんだ」
「ほう、お連れさんが?」
「今日は中央市街に行っている。この子達は山田という苗字になったんだ」
老夫婦が大きく目を見開いて顔を合わせている。
「苗字がどうかしたのか?」
「山田ってもしかしてカリナ山田?」
「なんで知っている?また何かしでかしたのか?」
「中谷って聞いたことがあると思いましたよ爺さん!」
「おお!ジョージ中谷とカリナ山田だ」
「どうして俺の名まで?」
「この国を救ってくれた英雄ですよ。あなたは」
ヤナカは固まってしまう。
(どうやったらそんな話になるんだ。
俺達は商品を売って、マルグリットが可愛がっていた孤児を引き取っただけだぞ。どうやったら英雄になるんだ?)
「済まないが、その話を中で詳しく教えてくれ」
あの232台のバッテリーは、街のインフラや農地の開拓に使われ、いろんな場所で見かける高性能バッテリーは有名になっていった。高価な物だから盗難が絶えなかったが、有名すぎてジャンク屋で盗難品がバレてしまう。
どこのジャンク屋が言い出したのか解らないが中谷バッテリーと呼ばれるようになり、中谷と山田の話が口伝てに広がった。今ではジアナ星の救世主のように伝えられている。
「まじか!(ゴールデンボールの店主だな!まさか秘密まで喋ってないよな?)」
「まさか救われた孤児がリノリ達だったなんて!」
「他には何か聞いてないか?」
「ザザさまが赤芋の普及に力を貸して頂いたと発表があったよ」
「ザザもか!」
「ねえ、中谷。パン食べていい?」
「ノマ!もう食ってるよな。みんなで好きなだけ買っていいぞ。支払いはリノリがやってくれる」
「ワー、みんな!好きなだけ買って良いって!」
「「「オー!」」」
「こらー!おじちゃんにありがとうは?それから食べすぎてお昼ご飯食べられなかったら怒るからね!」
「「「「「はい!」」」」」
廃墟は別のホームレス達が使っていたが、リノリ達の馴染みの人も何人か住んでいた。
ガリガリに痩せていた以前の隣人たちも、多少は普通の体型になり、こんなところにも復興の兆しを見ることが出来た。
リノリ達が使っていた大部屋は、部屋割りされて数人の街娼達が商売に使っていた。
「リノリ!」
悲鳴のような大声に全員が振り返ると、大声に似合った大柄な女性が奥から走り寄る。
「スーおばちゃん!」
リノリも走り寄って2人はガシッと抱きしめあった。
「2年近くもどこほっつき歩いてたんだい。こんなに大きくなって」
「おばちゃんだってまだここにいたの?」
「うるさい子ね。前よりずっと良いでしょ」
「ああ、スーだ!」
「ニムじゃないか。みんなも一緒なの?」
「今もみんな一緒だよ」
スーはニムの頭を撫でながら他の子供達を見回した。
「この子達はなんだい?商売のじゃまだよ」
「2年前まで私達とここで暮らした先輩だよ。挨拶しな」
「突然いなくなったって、この子達か。良かったねえ」
他の4人の街娼も出て来てスーが紹介した。
次はリノリが中谷を紹介する。
「この建物は誰の所有なんだ?」
「なんとか倉庫って言う海運会社だって聞いてるよ」
「そうか、商売の話がしたい。聞いてくれるか?」
商売というのは、ナンナ星でリノリが代表になっている会社を使って、この建物を記念館として保存する事だった。ここまで有名人になってしまったら、自分達も名声を利用させてもらおう。倒れてもただでは立ち上がらないAIだった。
「ホームレス達には出ていってもらうが、この辺り一帯を綺麗に整備して、客から入館料を取る。お前たちはここで働いてもらう。どうだ?」
ここに住む全員が集まって中谷の言葉に固唾を呑む。
全部で15人だった。
「俺みたいな者でも働けるのか?」
その男は左足の膝から先がなかった。
「どんな仕事をしていたんだ?」
「料理人だった。徴兵されて基地の食堂で働いていた時に負傷した」
「それならちょうど良い仕事がある」
男は少しだけ希望の色を見せた。
「赤芋って知ってるか?」
「知らないな」
赤芋を知らない男はほんの少し落胆したように聞いた。
「美味いのか?」
「おいしいよ!」
横からニムが答えた。
「そんなにか?」
男がニムの方に向き直り真剣な目つきで聞く。
「ナンナ星のバザーで売った時は一日で小銀貨20枚売れる日もあったよ」
「「「「「えー!」」」」」
「いくらなんでも20枚も……」
「ねえ、リノリ。ホントなの?ふかしてんじゃないよな?」
「そうよ。あの時はバザーの中央で売ったからお客さんが多くて、初日は日が高いうちに売れきれて小銀貨10枚だったの。評判になって次の日からは毎日小銀貨20枚前後だった」
21話です。
せっかくジアナに帰ったのでリノリ達が暮らした廃墟に行かない選択はありません。
途中から読んで頂いていたり忘れている方は4話辺りからのお話しですので確認してみてください。
自分も読み返して確認しながら書きました。




