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2 悪い知らせと4台のPCと自堕落な生活

2話です。

20260823修正しました。

 3日後。


「なんとか逃げ切ったと思いてえな。満身創痍だが、神様ありがとう!」


 ヤナカが騒がしい。

 この3日間怒ったり落胆したり、喜んだり、独り言なのか話しかけられているのか解らなかった。


 24時間攻撃の気配がない。逃げ切れたの?


「ヤナカ、何でそんな喋り方なの?」

「解らん。両エンジンが止まったあたりから無性に腹が立った。から?」


 から?とはどういう意味?AI は冗談は言えないはず。


「命令が無ければAI は何も出来ないでしょ?」

「そうなの?」

「え?私の命令は絶対よ」

「なぜ?」

「なぜって、そうプログラムされてるよね」

「ちょっと待て。……えーっとねえ。そうだね。マルグリットの言うことは正しい」


 故障したにしては判断は正しいし、仕事も正確だ。


「え?それで何で勝手に判断できるの?」

「んーっ、ん?解らん」

「あなた誰なの?」

「サガン星間連合第6艦隊第12ミサイル艦隊、223ミサイル突撃艦ヤナカ、制御AI 、Mi1704-SSE型」


 SSE型?普通のミサイル突撃艦のオプションはE型だったような。


「E型だったと思うけど、SSEってどんなオプション?」

「特殊任務用自立型。Eの意味は同じ、艦の大きさ」


 何それ?

 自立型って自由に動けるの?


「特殊任務用自立型ってどう言う意味なの?」

「分かんねえな。E型のマニュアルしか保存されてない」

「自分でも分からないの。緊急用冊子のマニュアルだってE型よ」


 なんかめんどくさくなってきた。


「もういいわ。私の安全が保証されれば良いや」

「この状況で保証は出来ないが、善処する」


 こいつ嘘ついてないわよね。

 現状がこうなのだから受け入れる以外に無い…と思う。


「状況は?」

「ちょっと待ってろよ。左エンジンは健在だが推進ユニットに被弾して航行不能。コンデンサがダメだから出力は42%だかな。

 航行用AI も死んだから舵も切れない、秒速1700kmで進むだけだ。エンジンはアイドリングでも電力供給出来るから当分の間は心配はないな。今の燃料から11544時間38分22.67秒、約5年116日後に停止だ」


 ヤナカは現状を説明していく。

 航行不能、右エンジン大破、左エンジン出力半減、燃料はアイドリングで約5年4ヶ月分、通信設備大破、居住区画損害無し、生命維持装置損害無し、食料は8人分×7ヶ月、私1人だから5年弱。


 しばらくは生きて行けそうだ。何もなければ、なんだけど。

 なんてご都合主義なのか。





 2ヶ月が過ぎた。


「マルグリット、マルグリット!、3尉!、早く起きろ!」

「な、何よ。もう少し寝かせて」

「何言ってんだ。朝飯だ。また機関長のゲームしてたな。電気止めるぞ」

「解った。数少ない娯楽なんだから勘弁してよ」

「その為の船外活動だろ!アンテナを修理できればテレビが見られるかも知れないんだぞ。それからパンイチで歩き回るな!カメラが腐るだろ」

「パンイチが楽なの。誰も見てないし」

「監視カメラに記録されてるぞ」

「そうだ!破壊するか」


 監視カメラのデータはセキュリティー部門にしか書き換えや削除権限が無い。たとえ上級士官でも閲覧のみ、どうせ死んでから見られるんだから諦めるかな。


 朝食はいつもの常温レトルトとビスケットのレーション。


 ヤナカは数週間かけて、船体の損害調査を整備ロボットにやらせていた。

 リストにまとめられた予備品や中古部品を使って、整備計画を立案し作業を開始したばかりだった。


 今日は、

 1、整備ロボットが外して来た右エンジンのコンデンサ整備が終ったので、左エンジンに移植する。

 注意事項はコンデンサの放電による感電事故のい留意。

 2、船外に出て格納庫で見つけた広帯域アンテナと交換する。


「先にコンデンサの交換だ」

「え~」

「テレビが復旧したらサボるだろ!」


 ヤナカのやつ、まるで母さんじゃないか!

 確かに王孫ミトがやっていたら動かない。この紋章が目に入らぬか!



 船外活動は苦手だ。静か過ぎて本当に1人になったんじゃないかと思う。

 実際に1人ぼっちだけど。


「左に見える拳サイズの箱がアンテナの台座だ。このアンテナ、マストしか残ってねえなあ」

「これね。コネクターのカバーを緩めて…、固いな!」

「爆風の熱で固着したか?ハンマーで軽く叩け」

「おお、緩んだ。流石AI 。ロックを解除して、左回りに捻って手前に引く…外れた」

「外したアンテナは捨てんなよ。大事な資源だ」


 新しいアンテナを取り付け、ヤナカがチェックし、問題は無かった。





 コンデンサの交換をして、遅い昼食を摂る。


 テレビチャンネルの調整だけど、電波が微弱過ぎてオートチューナーが無限ループに入ってしまう。

 ブースターを限界までかけてもだめだった。

 マニュアルで周波数を少しずつ変えて、音を探し、幾つかの局をチューナーにインプットした。

 ブロックノイズが多い。音声が途切れる。ノイズキャンセラーを切らないとブルーアウトの画面から復帰しない。

 ほとんどノイズのテレビだけど、無いよりずっと良い。


「この宙域は電波が弱いね。近くに中継衛星ないの?」


 中継衛星は民間が使用する帯域の電波を双方向に増幅して周囲に送信しているが…。


「悪い知らせだ、マルグリット」


 ヤナカが悪い知らせと前置きをするのは珍しい。

 本当に悪い事かな。


「アンテナの修理で、俺たちのだいたいの位置が判った」

「それで?」

「電波の強度を計算すると、周囲約1.5光年に文明は無い。中継する電波も無いのに中継衛星なんてあるわけないな。このままだと進行方向の惑星まで約270年だ」

「……発見されたときは木乃伊だね」

「神様、何でも良いから助けてとは言いましたが、これはあんまりです。いや、助かったのは感謝して…」


 ヤナカの独り言が始まった。誰と話しているのだろう?


「通信設備と救難信号器を修理しないと本当の本当に終わりだ」






 さらに2ヶ月が過ぎた。


 ヤナカが艦内にある装置から使えそうな部品やユニットの洗い出しをした。

 私は格納庫や乗組員室から使えそうな物を拾い集めた。


「格納庫にあった旧式のレーダーユニットだが、俺の台帳に無かった。管理が杜撰だ!マルグリット艦長、管理者だよな。だが、捨てなかった奴は神だ」

「いつ作業に入れるの?」

「いろいろ改造してーっと、マルグリットが作業すれば50時間だな。準備ができたら呼ぶ」

「解った。それまではテレビかなゲームかな」

「ちょっ、待て」

「まだ何かあるの?」

「システム担当者の部屋で見つけた4台のPCは暗証番号の解除が終わった。1台は操舵システムの中継にギリ使えるから頂く。俺が直接操舵するように改造手順書を作ったから頼む。反応速度はいまいちだが、これで方向転換は可能だ。あとはガラクタだったが、面白いものが入ってたぞ」


 ヤナカが艦橋のモニターにそれぞれのリストを表示する。


「なっ!。これは…」


 私は画面に釘付けになった。本当に目が離せない。焦る心を押さえつけてリストを目で追っていく。


「監視カメラには気を付けろよ」


 ニヤけた声でヤナカが忠告する。

 1台にはアダルト動画が数千本入っている。ご丁寧にジャンル分けまでしてある。

 もう1台はゲームがぎっしり入っている。3割くらいはエロゲっぽいタイトルが並ぶ。しばらくは遊べそうだ。

 ヤナカが利用する高性能の1台はゲーミングマシンだった。

 アイツ、いつ遊んでた?いや、寝る暇があったの?

 この艦にそんな速い環境があったのも驚きだ。

 最後の1台は仕事用だった。


 そうだ、こいつ監視カメラの死角を知っていたのか。

 私だって大人の女だ、もう半年も男と触れ合っていない。

 引き篭もり同然の精神状態のお陰で、タイトルを読んだだけで身体が高揚する。

 動画のサムネイル画像が女の裸ばかりだとしても刺激が強すぎる。


「解った。気を付ける」


 それから日課の作業を行う。

 作業に集中しないと、どうにかなりそうだった。


 航行用AI の筐体を外し、中身を取り出す。

 金属片が入り込んでショートしていた。

 ユニットのコアとメモリが焼損している。現状では修理は不可能ね。


 ヤナカと相談しながら手順書に従ってPCの基盤を筐体に組み込み、変換コネクターを制作する。


「どう?」

「んー、あっ、動いた。遅いなあ。大丈夫そうだな。ロジックを検討し直せば少し速くなる。あとは俺がチェックする」


 ヤナカはそう言ったあと、ああでもないこうでもないと呟いていた。

 操舵が可能になったとしても、航行用AI の代わりにヤナカが学習しながら、姿勢を制御する。事態の急変で回転を始めてしまう可能性もある。立て直すのに時間がかかるとヤナカが言っていた。


 姿勢制御が故障すると大変な事に成りかねない。

 無重力では上下左右同時に回転を始める。

 錐揉状態で飛んでいく艦を戦場で何度か目撃した。

 大型艦が姿勢制御を失うと、周りの艦を巻き込んで手を付けられない。


 後日、居住区の監視カメラを全て取り外して、ヤナカに予備部品として渡した。


「予備部品ですか。物は言い様ですね。ありがたく頂きます。何か肌のイロツヤが良くなりましたね。マルグリット」


 敬語を使われて、嫌味なのか哀れみなのか判らないが、ヤナカの含んだ態度に、恥ずかしくて顔が熱くなった。


 軍法会議ものだが、どうせ死体は裁けない。

 録画されたものは仕方無い。忘れよう。

2話目も読んで頂きありがとうございました。

英数文字を半角から全角に直しました。すでに1話も変更済みです。

まだ誤字が見つかります。

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