19 新人歓迎会と今後の方針
19話です。
そろそろサルベージは終わります。
よろしくお願いします。
新人ちゃん達の全快祝いと歓迎会を食堂でする事になった。
浮きトーチカの重力発生機関を移植して、居住区画ではナンナ星の0.8倍の重力が常に作られるようになった。
2倍以上の出力が出せるが、戦闘配備等の緊急時に、急停止させる際にタカチホノミネ丸が横回転しないよう、バランサーの配分に苦労したとヤナカが言っていた。
食堂はその居住区画にある。
30人分の席があるので、狭いが全員収容できた。
「新人ちゃん達!おめでとう!まずは注意事項から。船の中は自由に使ってね。だけど入場制限がある危険な場所が多いから気をつけてね。子供だけが入れない区画もあるから、大人と一緒に入るのも出来るだけ控えてね。以上!今日は食べて飲んで楽しんでね!子供達も食べまくってね!」
ノマがさっそく新しい子供達に赤芋チップスを食べさせていた。
「はい。あーんして」
「「「あーん」」」
幽霊のような長い黒髪のリリアナが、無情力区画で被っていた作業用キャップを脱いで寛いでいる。重力区画も回転半径が小さいので、頭にかかる遠心力が小さくて少しボワッとなりやすいが、顔の前に来る量が少ないのは良い。
無重力での長髪は、静電気を帯びているようにボワッと広がって毛玉が歩いているようになる。見た目は面白いが、本人はしんどい。
「これ、本物の肉?」
リリアナが肉を見る表情が怖い。
キャップを被り直して髪を結んでいる。
本気モードだ。
皿に乗った6本足猪の肉料理を見て驚愕している新人ちゃん達。
「ねえ、リーゼシア。肉よ、お肉よ!」
「え?食べていいの?」
「遠慮しないで食べてね。毎日出せるほどは無いけど楽しんで。早くしないと欠食児童たちに取られるわよー!」
「「はい!」」
女達が肉にフォークをブスブスと突き刺し始めた。
口の周りが汚れても、かまっていられない様だ。
宇宙では生の肉や野菜は重く、傷みやすいのでドライフードを積載するのが普通だ。めったに食べられないから目の色が変わるのも分かる。
だが盗賊内ではまともな食事が出されなかったのだろう。警備隊に連行されていった男達もガリガリだった。
「「今度は猫耳兎のお肉ですよ」」
「はーい。アイナ」
「はーい。コーナ」
「はーい。セリア」
「「おいしい?」」
「「「うん」」」
ノマとファナが新しい子達に細かく切った肉を与えている。
リノリ達が工夫して食べさせた通りに次世代に伝わって行く。
「あー!私の肉とったでしょ!リリア。返してよ」
「いいじゃない。取りに行くの面倒なんだから。お皿が山盛りじゃない。くいしんぼのニム!」
「私にも頂戴」
「あー!ミナまで、酷い!」
「いい加減にしなよ」
「「「はい!」」」
リノリが後ろから言葉をかけた途端、3人が気をつけをして返事をした。
「うっ。ゴホ」
「大丈夫か!ルシア」
「もう、そんなに口に入れるから」
ルシアが6本足猪肉を口いっぱいに入れて苦しそうにしている。
アーケとカリオペが半笑いでルシアの背中を擦っていた。
元軍人組が集まって楽しそうだ。
3時間ほど食べて、おしゃべりを楽しんだり、子供達とゲームをして遊んだりした。
眠そうな子が出てきたのを見計らって、リノリが子供達をシャワー室に連れていく。
子供達部門はお開きの時間だ。
アーケ、リリアナ、リーゼシアの母親組があとを追っていった。
通路から楽しそうな笑い声が聞こえる。
子供達が消えて、急に寂しくなった食堂に7人が残った。
母親組は子供を寝かしたら戻って来るだろう。
「ねえみんな」
新人ちゃん6人が私を見る。
「これからは大人だけの時間よ。お酒飲む?」
「「「「「「?」」」」」」
私の言った事が理解出来なかったようだ。
「お、さ、け。飲める?」
「あるんですか?」
「嬉しい」
「何でお酒があるの?」
「お酒?お酒なの?」
「ワァー」
マリエは泣き出してしまった。
嬉しいのか怖がっているのか分からない。
もう酔っ払った顔になっている女もいる。
みんなの感じだと嬉しいんだね。
私はキッチンの倉庫から食用油と表示のある20リットル缶を持ってくる。
「重いなあ。持ち上がれば軽いんだけどね」
油の缶を見てみんな驚いた。
「ハイハーイ。みんなシリンダー出して、注ぐわよ」
怪訝な顔で飲み物用のシリンダーを差し出すみんな。
20リットル缶をサーバーにセットして、私のシリンダーをサーバーにセットする。
カプラがシリンダーに差し込まれ、透明の液体が押し出されて、上がっていたピストンが下がりきって止まる。
私はシリンダーを取り出して飲み口から吸い出す。
「美味しい。ヤナカが作ったのよ、天才よね。吸い出すから酔いが回るの早いのよ」
近くにいるサンネのシリンダーを受け取り、同じようにお酒を注いで渡す。
まだ信じていない感じで、飲み口の臭いを嗅いでいでから、恐る恐る吸い出した。
表情が明るくなり、目に涙が浮かんだ。
「お酒だ!美味しい!うっ、キツイ、ゴホッ」
「ごめん、水と交ぜると重くなるからサーバーで薄めてたんだ。濃さは操作パネルで調節してね、それは濃いから私が飲むわ」
サンネは60%の赤芋ウォッカを飲んでしまった
その後はみんな先を争うようにサーバーに群がっていた。
(何か殺気立ってるよ)
「うえっ、生きてるうちにお酒が飲めるなんて。うー」
「そうね、何年ぶりかなあ。うえー」
泣き上戸がたくさんいた。
「戻ったぞー。ん?何で泣いてんの?」
「アーケ、これ。ひっく」
ゾフィが戻ってきたアーケに飲みかけのシリンダーを渡す。
「こ、こ、これは…さ…け…」
急に静かになったアーケも、目に涙を浮かべて喜んでいた。
箍が外れたようにみんなは飲みまくり、泣いたり笑ったりして大騒ぎになった。
最後は全員酔いつぶれて強制終了。
「ふあー眠い、あ!みんな寝てるー。うえっ、何の臭い?臭いよ」
最初に眠りから覚めたノマが、水を飲むために食堂に入った最初の言葉だ。
10人の大人が酒盛りをしたあとの酒臭さは、格別のものだった。
他にもいろいろなものが混じっているが。
目が覚めたマルグリットは、ヤナカ特性赤芋ウォッカ95%原液20リットル缶が、ほぼ空の状態に慌てた。
「おい!みんな起きろ!」
二日酔いでふらふらになりながら、転がっている女達を蹴飛ばして回る。
「お姉ちゃん、何があったの?」
ノマに話しかけられて驚いた。
「おお、ノマか。お酒の飲みすぎだ。私が持ち上げるから、2人づつ医務室に引っ張って行って。その辺にぶつけても大丈夫だからね」
「解った。うえっ、この人ゲロ吐いてる!汚いなあ。こっちの人!おしっこ漏らしてるー。やだー」
「ごめんね。嫌なこと手伝わせて」
持ち上げてしまえば無重力状態だ。ノマでも2人は引っ張って行ける。
ドンッ。
ノマは本当に女達を雑に扱い、時々壁にぶつかる音が聞こえた。
あれを飲み干した女達の健康が心配だ。
20%まで薄めると100リットル近い酒を10人で飲んでしまった。
死人が出てもおかしくない。
(ヤバいなあ。私が監視してないとダメだった。死んじゃったかなあ)
マルグリットの杞憂に終わった。
この船内に、1人だけ魔法を知らない女がいる。
新人ちゃん達に半殺しにされた盗賊団の首領レーナが、医務室の奥にある集中治療室で、秘密裏に治療されている。
上半身と両手両腕にギブスを装着され、ベッドの上40センチの高さに、細い金属の棒で浮かべられていた。
彼女がここに運び込まれた頃は瀕死の状態で、体中に管やセンサーが繋がれ、3週間意識が戻らなかった。
意識が無い間にほとんどの手術が行われ、レーナが気がついたときには上半身が動かせない状態で宙に浮かんでいた。
「レーナ、入るわよ」
「はい」
いきなり病室に入ると、レーナがパニックを起こすので、先に声を掛けてから入室することにしている。
最初にパニックを起こした時には、骨がくっつき始めた腕を振り回して、止めるのが大変だった。
本人は恐怖で痛みも感じなかったようだが、ギブスがずれて腕が変な方向になっていても、まだ暴れていた。
パニックは悪化というか癖になることが多い。
それからは力持ちの作業ちゃんも1体常駐させている。
「こんにちは、マルグリットさん」
「気分はどう?」
「いいです」
「良かった。指のギプスは明後日に外す予定よ。次は様子を見ながらリハビリだね」
「お世話になります」
(やりずらいなあ、怯えてるの隠せてないよ)
「レーナのこれからの事なんだけど、今話せる?」
「はい、何でしょう」
「話は2つ。1つは怪我の話し、前にパニックになったの憶えてる?」
「はっきりは覚えていません」
「鎮静剤の影響かもね。あの時にまた腕の骨が折れちゃって、あばれたから周りの組織を傷付けてたのよ」
「元に戻らないのですか?」
「ギブスが外れてから精密検査しないと解らないけど、覚悟はしておいて」
「はい」
(反応が薄いなあ、諦めちゃったのかなあ)
「次の話なんだけど、治療が終わった後の話し…」
(あれ?身体が震えて…)
「落ち着いて!レーナ!私は味方よ。作業ちゃん押えて、医療さん、鎮静剤」
「お、おおおおおおおねがい。たす、たすたす、助け」
レーナの頭を撫でて頬擦りをする、上半身はギブスで撫でてあげる場所がないので、抱えようとして丸くなった足をさすってあげる。
「大丈夫よ。何もしない。誰も居ないわよ」
(ギブスを強化しておいて良かった。凄い力ね。また折れたかなあ?)
「マルグリット、助けて」
「私が助けてあげる。レーナ心配いらないわ」
レーナは頬擦りするマルグリットに囁くような声で命乞いを繰り返す。
数分後、身体から力が抜けていく。
「安心してレーナ、もう何も起こらないから安心して眠って」
(鎮静剤が効いてきたね。失敗したなあ。まだこの話は早かったね、ごめんレーナ)
「うん。1人にしないでね」
「分かったわ。どこにも行かない」
レーナの丸めていた身体から力が抜け、何か幸せそうな表情で静かに目を閉じた。
溜息のように長く息を吐いたあと、寝息をたて始める。
「作業ちゃん、ありがとう。医療さんも、後はよろしく」
(これで半日くらいは目覚めない。最後のあれって……。レーナもここから離れらないかなあ?)
新しく入った女達は、都合よく高学歴な者が多かった。
彼女達に教師の仕事を与え、子供達全員の学習が強化された。
今まで学習指導をしていた年長組の4人が自分の勉強に集中出来る。
リノリとミナが16歳、ソウナとニムが15歳、孤児になるまで初等学校に通っていた。
マルグリットが引き取ってからヤナカとマルグリットで4人の勉強を見て、この4人が年下の子の勉強を見ていた。
「年長組はみんな優秀ね。もうすぐ高等部の学習が終わるわ」
「随分と速いな。適性で俺達が判断するのも良いが、自分で進路を決めた方が良いだろう。これからは専門分野の学習だからな」
「魔法の勉強も組み込まれたから、やることが増えてのんびりできないわね。1人立ちするまでに、魔法の方を強くしてあげないと心配だし」
「魔法だよな」
(あれ?ヤナカが悩んでる?)
「何よ?」
「魔法書は俺達が発見するまでに28年ネヅに保管されていたよな?」
「ああ、あれを知っている連中がいるって話しだよね」
「戦争より遥か前から魔法書のコピーがあったんだ。魔法書だけしかなかったって事は、原文の古文書を読んで選別したって事だ。ネヅの艦長は中身を知ってたと見て間違いない」
(ヤナカの心配は私も考えたけど、戦時中に魔法が兵器として使われなかったのは何か変だよね)
「それは私も考えたのよ。今まで魔法を見たこと無いし、発達したのは魔力兵器くらいでしょ」
「彼等の意図が解らない。魔法書だけが集められたなら、それを読める者がいる。だが、翻訳されたものは発見できなかった。全て原文で、しかも多言語だ」
「そうね。翻訳文だけあれば済む話よね。ネヅの出発地点と最終目的地って判らなかったの?」
「AI本体が自壊してたからな。指令書も消えていた。進んでいた方向からしてジアナ星方面なんだが、コンピュータウィルスが途中で航路を変更しているから、目的地は不明といってもいい」
「あっちには魔法書と関係ありそうな遺跡はあるの?」
「まだ翻訳が進んで無い。古代遺跡が存在する惑星はいくつかあるが、関係しているかは不明だ」
「虱潰しにもできないしね」
「問題はこの古文書を持っている連中だ。俺達だって図書館の資料を分析しただけで魔法が使えるようになったんだぞ。30年も経って俺達より遅れている方が変だ」
「警戒するとしても、ヒントは魔力くらいでしょ。地上に降りる時はヤナカが測定器を背負って歩く?」
「それもいい考えだな。出来れば全員に小型の物を装備したい」
「おっ、久々に整備くんのお出ましね!私も腕の見せ所よ」
「みんなには今まで通り、俺達だけが魔法を使える。魔法を狙っている敵がいるかもしれない。だから勉強して強くなる。て体で行こう」
「そうね」
(私が生まれた頃から存在していたのよね。一度も魔法を見たことが無いし、聞いたことも無い。戦争中だって敵味方でそんな兵器は聞いたことが無い。何も無いのがかえって不気味。何か他の目的があるのかなあ?)
「そろそろ出発しようと思う。格納庫が一杯だ。勿体ないがザザに譲った。遅くても2ヶ月でサルベージが始まるだろう」
「了解。どっちに行くの?」
「勿論ジアナ星だ。あそこならジアンナ元老院が味方になってくれる。一応はカリナ山田の故郷だろ。リノリたちだって2年振りだ。新人の子供に重力で治療させる必要があるからな」
「そっかあ、あの子達は本物の重力を知らないのよね」
「一通りこの宙域のお宝を再チェックしてから出発する」
「3日後でいい?」
ここまだありがとうございました。
あと1話で20話になります。
ここまでお付き合い本当にありがとうございます。
なんだか死亡フラグ立てたような?
首領のレーナはトラウマを克服できるのでしょうか?
自業自得な感じもします。




