13 ナンナ星を離れて
13話です。
4章に入りました。
よろしくお願いします。
ヤナカが指示を出すと、リノリの操縦でシャトルが浮き上がる。
「それじやあね。また来るよ」
搭乗口を開けたまま、作業ロボットのヤナカが
挨拶すると、孤児達が一斉に手を振る。
私達もタラップのギリギリまで出て手を振る。
風が舞い上がり、少しずつシャトルが浮上していく。
だんだん地上の人達が小さくなり、ヤナカの指示でタラップと搭乗口が閉められる。
「リノリ、頼んだぞ。」
「了解、ヤナカおじちゃん」
リノリが照れ笑いしながら敬礼をして、操縦桿をゆっくり引くとシャトルが上昇方向に加速していく。
「宇宙管制局、こちら中谷商会所属1537G、惑星離脱を開始する。指示を願う」
「1537G、 こちらナンナ星宇宙管制局。了解した。1537Gは方位235、仰角12、秒速2300メートルで離脱せよ」
「こちら1537G 。方位235度で上げ角12度、秒速2300メートルで離脱する。ありがとう」
「こちらナンナ宇宙管理局。どういたしまして。良い旅を」
リノリは管制官の指示通りに進路をインプットした。
「えっと、ダイアル235度とアップ12度。速度2300、単位はm。オートパイロットを着艦にして、235。12、2300、オートリターンモード、良し」
「スゴい、完璧よ。いつの間に操縦覚えたのよ(初々しいなあ。そのうちに忘れちゃうんだよ指差し確認。いつまでもそのままでね)」
「へへっ、ヤナカに教えてもらってたの」
シャトルはタカチホノミネ丸の腹に、毎秒5センチメートルでゆっくりと入っていく。
(オートパイロットって凄いわね。周回軌道上の船に着艦なんて、重力に逆らいながら動いてる船に近づくなんて、ベテランのパイロットでも怖いわよ)
格納庫ハッチが閉じてシャトルが固定されると、連絡通路が伸びてパッキンが搭乗口に密着する。
搭乗口近くに集まってお喋りしていた子供達は、みんなバラバラと船内に散っていく。
「あー疲れた。やっぱりお船が一番ね」
「そうよねえ」
レーレとファナがどこかのおばさんみたいな会話をしている。
「ちょっとお姉ちゃん!気が抜けたからってすぐに裸にならないの!」
床に散らかったマルグリットの衣服を、拾い集めながらナウナが文句を言う。
「ありがとう。でも作業ちゃんがやってくれるから大丈夫よ」
「道の真ん中に脱いだ服を散らかしたら危ないでしょ。大人のくせに馬鹿なの?」
「ナウナ、お姉ちゃんとニムを医務室に呼んで。ナウナも来るのよ」
「もう!あたいの話聞いてないでしょ。知らない!」
偶然近くに居合わせた作業ロボットにポイッと洗濯物を渡して、ナウナはプリプリしながら2人を呼びに行った。
大図書館に依頼した蔵書のコピーと古文書を元に、ヤナカは文明別にフォントを完成させた。まだ全体の半分も終わっていない。
基本的に表音文字だったのが幸いしている。性別で文字に変化があったり、特別なものに使われる表意文字があったりと、不明な部分も多数あるが、簡単な文章は問題ない。古文書の解読は大きく進むだろう。
ソウナの実証実験が成功したことで、ヤナカは魔力のある子供達を重点的に観察することにした。
誰にでも魔力はあるのだが、現代社会では魔力制御装置を動かせるなら魔力が有ると判定されるのだ。
「なんか用事あるの?またマギーお姉さんパンイチだよ。いつも思うけど、お姉さんのおっぱい小さいよね。ツルベタって言うんでしょ。孤児院の男の子が教えてくれたよ。」
「五月蝿いわね。ニムに言われたく無いわよ(あのエロ餓鬼共が!幼い男の子はみんなおっぱい星人なのよ!)」
ジアナ星人のニムは長命種だから成長が遅い。
「マルグリット姉さん、用事は?」
ソウナの質問でようやく本題に戻った。
「ナウナとニムは文字が読めるよね?」
「読めるけど難しいの嫌だ」
「私も面倒」
「ソウナ、2人に見せてあげて」
ソウナは頷くと、左手の人差し指から炎を出して見せる。
「「うわっ!」」
次は2人がよろけるほどの強風をぶつける。
「お姉ちゃん、何それ?」
「上達したわね。凄いよ」
「マギー姉さん。ソウナは何をしたの?」
「凄いでしょ。ソウナは魔法が使えるようになったのよ」
ナウナとニムに魔法とは何かを教える。
ヤナカが更に解りやすい魔法の簡単な解説書を作り、容易に導入部へ入れるように工夫している。
「言う通りにやればソウナみたいに魔法が使えるの?」
「そうよ。頑張れば使えるようになる」
「「私がんばる!」」
ソウナは順調にステップを登って、基礎編を終わらせている。
彼女の凄いところは、魔法を組み合わせて水や炎を吹き出したり、氷を飛ばしたりする方法を自分で工夫したことだ。
この方法は中級の教科書に書かれているとヤナカが言っている、魔力の使い道すら知らなかった少女が、ここまでたどり着いたことは称賛に値する。
ソウナには魔力持ちの子達に魔法教える教師になってもらうことにした。
(ヤナカと私じゃ駄目なのよね)
「スクリーンに出る文章を読んで、その通りにするのよ。解らないことはソウナに聞いてね」
2人は身悶えしながら、魔力が湧き出して来る感覚を感じ取ろうとしている。
「んー。うー。あー、何か出てきた!」
「えー、ニムちゃんずるいよ」
「ここに温ったかい感じがするでしょ」
ソウナがニムの背中に手を当てて、魔力の感覚を教える。
「お姉ちゃん、あたいにも教えて」
「ここよ。この辺に暖かいものが生まれるの」
「「熱い!」」
(ソウナの時は熱いなんて言ってなかったぞ)
「え、熱いの?」
「「熱いの出てきた」」
「それじゃあ、次に行くよ」
「えっと、えっと」
「わーっ、風が出るよ」
「凄いね。もうできるようになった」
「お姉ちゃん!見て見て!あたいも風が出た」
2人の指先から出た風が、小さな紙片を動かしていく。
実証試験の時よりも結果が出るまでの時間が短く、そして上達も速い。
ソウナの実演を見たことで、魔法に対する現実感が生まれたと考えられるが、1番の理由はソウナへの親愛なのだろう。
これからはソウナを中心にして全員が魔法を覚えて欲しい。
ニムが不安げな表情を浮かべ始める。
「ねえ、これどうやって止めるの?なんかどんどん強っくなってくよ」
「え?」
ソウナが少し慌てている。困った顔で私に助けを求めるように視線を向けられる。
(止まらないって、止まるよね)
「止めるって考えるのやめれば良いんだよ」
ナウナが適切な方法を簡単な言葉で表現した。
ニムはキョトンとした表情でナウナを見ると「そうか」と呟いて風が止まった。
「そうだよね。考えるのやめれば良いんだよね」
ソウナの方が感動して答える。
教科書には風の出し方は書かれていたが、止め方は無い。
ソウナも文字通り考えるのをやめて魔法を止めていたはずだ。あまりにも自然にやっていたので、どうやって止めていたか思い出せなかったようだ。
ちょっとした盲点だった。
「これは教科書に載せた方が良いわね。偉いぞナウナ」
「マギーお姉ちゃんは魔法が使えるの?」
3人の期待に満ちた視線が痛い。
「え?私は魔力が無いから無理よ」
「「「へー」」」
3人が目を細めて私を眺めていた。
今日のリノリはタカチホノミネ丸の艦橋で、ヤナカからレーダー制御の講義を受けていた。
レーダーの操作自体は殆どの戦艦で共通だが、駆逐艦クラスになると魔力による探査機能も装備されている。ソフトウェアが違うだけで、操作パネルを見ただけでは判断できない。ハードウェアが大きく違うのだが、後でヤナカに聞いて欲しい。
「このボールに触ればいいの?」
「そう、その半分出っ張ったボールだな。トラックボールって言うんだ」
トラックボールに指を添えて、動かすとスクリーンの索敵画像が回る感覚に驚いている。
「そんな風に転がしてこの船の周りが見られんだ。範囲を拡大縮小するときは操作パネル下にある拡大と縮小って書いてあるボタンの絵を押す」
リノリは右に見つけた黄色の点にあわせて拡大ボタンを押す。
小さな点だった隕石が拡大されて、なんとなく形が分かるようになり、その周辺に数字が表示される。
「この数字は?」
「それは上から、この船との距離、大きさ、重さ、相対速度だな」
「相対速度って?」
「この船の速度は前に教えたろ。その速度に対して速いか遅いか。この船が近づいてるときは黄色に変わるんだ。拡大する前の点も黄色だったろ?」
それは長手方向に直径3キロメートルくらいある小天体だった。
相対速度がマイナスなのはタカチホノミネ丸が速く、こちらが接近していることになる。もっと複雑な設定になっているが、今のリノリにはこれで充分だ。
「黄色いね。こっちに来るの?」
「相対速度がマイナスだろ。同じような方向に進んでいるんだけど、こっちの方が速いから近づいてるんだ。ん?おかしいな」
「何がおかしいの?」
「ああ、この天体は自転してないだろ。リノリ、立体図に切り替えてくれ。3Dってボタンだ」
「わかった」
小天体とタカチホノミネ丸の位置関係がわかる立体透視図が画面いっぱいに映し出される。
右30度からタカチホノミネ丸の進路に向かって進んでいる。速度が遅く、自艦が斜め後ろから追い越す形で接近中だった。
「このまま進むと最短距離300キロメートルで追い越すな。こいつよりこの船が下を通る感じだが……、タイミングが良すぎだ」
ヤナカが立体透視図を回転させて、リノリが解りやすいように、双方の進路を点線で見せた。
「この図はよく分かるね。2時間ちょっとで一番近い所かな?」
「そうだ。良くわかったな」
「ちょっとマギーを呼ぶから待っててくれ」
「何か変なの?」
「この小天体な、誰かが操ってるかもしれない」
「マギーいるか?返事しろ」
「はーっ、はーっ、はーっ、んーん。もう!何よ!今良いところなのに」
(馬鹿だな。気を利かせて音声通話にしたのに…。)
「ちょっとマギー!何なのよその喘ぎ声!」
「わっ、リノリ。何でも無いわよ」
「すまん、ちょっここれを見てくれ」
医務室のスクリーンにリノリとのやり取りで作成した資料映像が流される。
「質量から言っても岩石の塊みたいだけど、自転してないから質量も推測値よね。怪しいわね。超望遠でも映らない距離だし、一発牽制してみる?」
「そうだな、こっちに来てくれ」
「わかった」
「リノリ、どうやったら、そんな芸当ができるんだ?」
「この隕石をよく見ようと思って拡大してた」
「それだけではこんな風にならないぞ」
私が艦橋に着いた時には、ヤナカがパニック気味にリノリを問い詰めていた。
(AIがパニくるの初めて見たかも。ああ、ニシコヤマ要塞戦の時の方が酷かったか)
「どうしたの?」
「あ!マギー、私も解らない。……パンツ濡れてるよ。やっぱりえっちな事してたな?」
「これを見れば解る。と言うより解らなくなる」
私達の会話を無視して、ヤナカはスクリーンを見るように促す。
3D透視図には、小天体の向こう側に数隻の宇宙船らしい船影が表示されていた。
「いつの間にこんなに接近したの?ドローンで索敵したんでしょ?」
「違う!データをよく見ろ」
私は息を吸ったまま言葉が詰まってしまう。
てっきりドローンを索敵に出せるほど接近したのかと考えたが、そうではない!
レーダーには障害物の向こう側を見る能力なんて無い。
これじゃX線投影だよ。いや、この距離でX線投影だって不可能だ。
私は目だけでリノリをじろりと見て、視線を合わせたまま何も言えなかった。
「どうしたのよ?マギーまでおかしくなっちゃって」
(これも魔力?)
「リノリ、席を立って」
リノリが席を立って横に移動する。
3人はそのままレーダースクリーンを凝視する。
この距離だとレーダービームが往復するのに15秒くらいは必要だ。
やがてレーダースクリーンの複数の点が1つになる。
「あれ?消えちゃった。何だっんだろ」
「これな何だ、説明しろ」
「リノリ、もう一度座ってあの小天体を調べてみて」
「うん」
操作シートに座るリノリのすぐ横まで近づいた作業ロボットのヤナカは、背もたれに掴まってさらに操作卓が見えるように近づいた。
自動追尾で拡大しているレーダー画像と3D透視図に何度か入れ替えていると、小天体の向こう側に小さい点が増えていった。
「これってリノリの魔力でしょ。ソウナの魔法を見てるから、魔法に近いのかな?」
「古文書には何も書かれていなかったが、機械なんて無かった時代だから当たり前か」
「私、魔力無しでしょ。魔法が使えるの?」
「一発かましてみれば分かるわよ。これが本物なら宙賊よね。試しに火薬抜きでミサイル打ってみる?金属反応型にすれば一石二鳥かもね」
ジュボーッ!
「もう発射したの?」
「マギー!着替えてきてよ!」
4章です。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
12話をリニューアルした後に、一瞬だけランキンが上がりました。
びっくりです!
これからもよろしくお願いします。




