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12/22

12 赤芋ブームと司書長と秘密の実証実験

12話です。

これでナンナ星のエピソードは終ります。

気に入らなかったので、大幅に変更しました。すでに読んでしまった方々、ごめんなさい。

図書館に蔵書のコピーを受け取る部分を追加してちょっとエロくしました。

嫌いな方は注意してください。

 翌日のバザーはここ数日の評判を聞きつけた人達やリピーターで行列が出来ていた。


 売れすぎて孤児院の調理が間に合わない。


「ニム、生のお芋ある?」

「5キロくらいあるよ。どうするの?ミナ」

「間に合わないでしょ!やけくそだー」


 焦ったミナが皮むきのスライサーで赤芋を鍋の上で削ぎ始めた。

 ジューッと音を立てて薄くなった赤芋が次々に波打っていく。

 ニムとミナは鍋で踊る赤芋チップスをじっと眺めて、上げ時を狙っている。


「「うん、大丈夫だね」」


 2人で1枚ずつ取り上げて口に入れた。


「「美味い!」」


 2人の声に何事かと集まってきた子供達に、2人は1枚ずつ口に入れる。


「うまい」

「美味しい」

「もっと頂戴!」

「誰か、生の芋持ってきて!」


 赤芋チップスはかさばるので、少ない原料で1人前が出来る。

 もちろんフライドポテトと同じ値段で売る。


 フライドポテトが間に合わないから、時間稼ぎで作った赤芋チップスさえ評判になってしまう。

 さらに行列が伸びていき、客引きをしていた子達は店内で調理や販売を始めた。


 事態を考慮したバザー自治体が、巡回警備スタッフを呼び戻して交通整理をやってくれた。


 これは好機とばかりに並んでいる客達に売り込みをかける近所の店主達。

 物売りの声が響き渡り、辺りの喧騒をより一層大きくする。

 申し訳ないと思っていたが、嬉々として商売をしている人々を見て思い直した。


 その場で屯している客達が、混雑を助長して大混雑にしていた。

 ニムが雑踏に向かって大声で語りかけた。


「蜂蜜をかけるともっと美味しいよ!シナンモの粉をかけるともっと美味しいよ!」


 言うまでもなく数件先のスパイス店や果物屋で売る蜂蜜に、買ったばかりの芋を手にした客が流れていく。果物を受粉させるために養蜂を副業にする農家が多い。

(フライドポテトの味付けで、高くなるからボツにしたアイデア。客に買わせれば良いのね。ニムは本当に凄い)





 今日は院長さんもバザーに参加している。

 私と一緒にスープのカップや揚げ物用の紙袋を並べて、調理済みの商品を入れる作業を手伝っていた。   子供達に急かされて舞い上がってしまい、なんだかいつもより小さく見えた。


「カリナさん、昨日はありがとう。赤芋が普及すれば、飢饉も貧困もなんとか凌げるだろう」

「これは中谷の考えよ。それに院長さんに丸投げなんだから、却って悪いわ」


 院長さんは2年間、赤芋の仲買人をする。農家から買い上げた赤芋を転売するのだ。今のようにバザーで料理を売るのもありだ。

 儲けが出るかはまだ解からない。


「中谷のマージンは5%でいいそうよ。それからもう一つお願いなんだけど」

「5%だと!普通なら半分寄越せというぞ。頼みとはなんだい?なんだか恐ろしいな。なんの取引だい?」

「図書館市の西に大きな原野があるでしょ?」

「ああ、地元だからよく解る。50キロ四方以上はある。土地が痩せていて、昔から何もなかった」

「あそこで農場経営をしてほしいのよ」


 院長の表情が固まってしまう。いろいろと解からなくて戸惑っているのが判る。


「あの大きな原野で赤芋を掘ってるのは知ってるでしょ?それでヤナじゃない、中谷が原野を24,000ヘクタール買ったの。今は作業ロボットを使って開梱しているところよ。これを孤児院のみんなで私達の代りに農場経営して欲しいのよ」

(赤芋がブームになるからって土地を買い足したのよね。24,000って15キロ四方あるのよ。ほんとに大丈夫なのかな)


 院長さんは固まった。


「院長!止まってるよ!お客さん待ってるんだから急いで!」





 依頼したコピーの完成予定日


「いらっしゃいませ、カリナ山田様」

「依頼したコピーを取りに来たの。出来てる?」

「こちらがその品です。中身を確認しますので応接室へどうぞ」


 重厚な作りの廊下を通り、色とりどりの花が咲く、ウォールドガーデンを目の前に見る豪華な応接室に入る。


 私を庭園が見渡せるソファーに案内して、マーサが端末にメモリーをかざして読み込ませる。


「お茶を用意しますので、確認をお願いいたします」


 私はヤナカに一覧を見せながらページをスクロールしていく。

 最後まで進むとヤナカはハンドサインでOKを出した。


「全部ある、大丈夫よ。メモリーは貰うわね」

「もう終わったのですか?どうぞお納めください」

(マーサさん、少し嬉そう)


 警備ロボットの胸が開き、中にあるスリットにメモリーを差し込む。


 ヤナカは警備ロボットの振りをしたまま入口近くまで歩き、歩哨のように直立不動になった。

(中身が気になって仕方ないみたいね)


「せっかくお茶を淹れましたので、ごゆっくりしていきませんか」

「そうね」


 マーサは馴れた手つきでお茶を淹れ、ジンジャーブレッドようなお菓子をだして、向かいのソファーに浅く腰掛けた。

(耳が赤い。暑いのかな?)


 この応接室はインナーパティオになっていて庭園に直接出る事ができる。


「綺麗な庭園ね。ここは宮殿だったの?」

「お察しの通りです。1、200年前に建造された王族専用の区画でした」


 マーサさんは立ち上がって庭が見やすいように私の右隣まで来る。


「花壇の中央にある石像が賢者サンの写し身だと言われています」

「あれが賢者様かあ、意外とマッチョね」

「それからこの部屋の肖像画ですが…」


 そう言ってマーサさんは左の壁を指差す。


「この離宮の主、第9代国王ネリア4世です。き、希代の、こ、好色家と呼ばれ、妻を36人持ったと言われて…います」


 ばさっ。


「え?」


 床で物音がして振り返ると、マーサさんの足下に制服が落ちていた。

 そのまま見上げていくと、恥ずかしそうに股間を隠している、全裸のマーサが立っていた。肩から上を真っ赤にして身悶えている。

 下着は最初から着けていなかったようだ。


「ここは誰も入れません。2人きりです。どうか私をご自由にお使いください!」


 思わずヤナカの方に目が行くが、微動だにしない。無視を貫くつもりだ。





 受け取った蔵書のコピーを使って、ヤナカが古文書の解読を始めている。


 ヤナカは魔法教科書を、基礎から風魔法を習得できるように、ステップ・バイ・ステップで練習する形式にまとめた。この手順書で実験を行う。

 被験者は魔力が強く、文書読解の容易な人物、ソウナにした。


「ソウナ、これを読んでその通りにやってみてくれ。解らない事があったらマギーになんでも聞けば良い」


 1人、医務室に呼ばれたソウナは、スクリーンに映し出された文章を読む。

 特に難しいとは思わなかったが、何を要求されているのか理解できずに不安になった。


「スクリーンに出る文章の通りやって行けばいいのよ」


 全体を読んで先に何をするか解ると、ソウナが躊躇するかもしれないので、実行する文書は、1ステップずつにしてある。

「目を閉じて、深呼吸して呼吸を鎮め、背中の真ん中より上のあたりから、力が湧き出してくるように意識する」


 ソウナは朗読して書かれた通りに背中に意識を集中している。

 なんとなく温かい塊が、もっと奥から感じる。背中と言うよりは胸の奥のような胃の裏側のような。


「湧き出してくる力が全身に行き渡るように意識する。最初は両肩を巡って腕に、肘に、指先に」


 指先が温かい。無くした右手の指先が感じられる。これは寒いときに便利だとソウナは思った。孤児として生活していた頃は、冬が本当に辛かった。


「背中を下って腰、お腹、膝、つま先へ」


 全身が暖かくなっているのを感じる。


「それから風が出ていくように指先から湧き上がる力を出す」


「あれ?」


 自分の指を見つめながら朗読したソウナの顔に、風があたった様に感じた。


「上手く行ったね。前髪が動いたわよ。凄い」

「これは何なの?」

「魔法って言うのよ」

「魔法?」

「魔力を使って自分の思い通りに何かを動かす事かな(もっと深いけど、今はこれで良い)」


 ヤナカの反応が無い。一部始終を見ていたのに何も言わない。


「もっと強い風が起こせるように練習しようか」

「うん」


 ソウナは優秀なのかもしれない。初めてやった実践に上手く応えてしまった。

 魔法を実践で証明してしまった。


 これをネヅ艦長が理解していたとしたら、どうせ軍人が考える事だから人間兵器か新兵器なのだろうが、常識が根底からひっくり返ってしまうのは間違いない。魔力の有無で人間を差別する時代が来るのは近いだろう。


 それに大量の金塊と駆逐艦にしては豪華な装備、政府の中に金を出した者がいる。星間連合の支配階級に、手を引いている奴等がいる。


「今度は紙くずを動かしてみようか」

「うん、これ面白いね」


 1時間ほど練習を繰り返すと魔法の威力が格段に上がっていた。

 ソウナが小さく千切った紙に、指先を向けて集中している。やがて紙くずが揺らいで、だんだん全体がヒラヒラと動き出し、テーブルの上から落ちていく。


 これはもう疑いの余地がない。


 医務室の空調は切ってあるし、息を吹きかけているわけではない。

 誰か近くを走りでもしない限り風は起こらない筈だ。


「本当に凄いよソウナ」

「ありがとう、お姉ちゃん。でもちょっと疲れた」

「そうね。今日は終わりにしましょ」





 シャトルが農場のすみに着陸する。高い空港利用税と面倒な管制官とのやり取りを誤魔化すためだ。

 自分の土地に降りるのに、誰に遠慮が必要だろう。


「今日はみんなで赤芋掘りをするぞ。作業着は着たか?」

「「「「「はーい!」」」」」

「籠は持ったか?」

「「「「「はーい!」」」」」

「お姉ちゃん達の言うことを聞いてたくさん掘って来い!」

「「「「「はーい!」」」」」


 バタバタバタバタ。

 ヤナカの号令で小さな身体に似合わない大きさの籠を背負った子供達が芋畑に走り出す。


 ヤナカと大人組は、耐火煉瓦を積んで作った野外キッチンで、以前仕留めた6本足猪と猫耳兎の調理を始めた。


 種芋用に放置してある土地で、孤児院の子供も一緒になって一心不乱に芋掘りをしている。

 手入れをしていない野生の芋は、弦が伸び放題で子供の力ではなかなか地面にたどり着けない。

 泣いたり、笑ったり、叫んだり。とにかく大騒ぎだ。

 力一杯引っ張っては後ろにひっくり返っている。


 年長者同士も仲良くなって幼年組を指導しながらお喋りをしていた。


「ナーナ、マリア、あなた達のためなんだから今日は楽しんでね」


 2人は頷いて子供達の中に入って行った。


「マリアさんの登場よ!たくさん掘るからね」


 今日の監視役は作業ロボット達だ。どこかへ行ってしまう子供を連れ戻してくれる。


 ラワ星までおよそ2光年。私だけなら1ヶ月半でニシコヤマ要塞跡まで行ける。

 子供の身体では短距離ワープを繰り返しながら体調を見て跳躍距離を伸ばしていく必要がある。

 ヤナカの見積りでは短くて4ヶ月、長くて半年だそうだ。


 暫くは船から出られない生活が続く。子供達のストレス値を出来るだけ下げてから出発するためにこのイベントを開いた。


「マギー姉ちゃん。籠がいっぱいになったよ」

「ちょっと待ってね。リン」


 リンも栄養失調から回復し、みんなと走れる様になっている。後遺症も無いように見える。

 リンが持ってきた芋を荷車の中に移して空の籠を渡す。

 待ちきれないリンはピョンピョン跳ねながら籠を受け取って畑に走る。


 昼食の頃、調理が終わったヤナカが、子供達に声をかけると、何もかもその場に放り出して、フィールドキッチンに殺到する。

(この欠食児童がー!)


「ストーップ!」


 私がキッチンの前に立ちはだかると、次々に突進して来る子供達。


「痛い、いたっ、痛いー!こらーっ、先に手を洗うのよ!」

「みんなみんな!食べる前はどうすんだっけ?」

「「「「「手を洗うー」」」」」


 手際よくマリアが幼年組を導いている。

(本当に馴れてるなあ)

 ニムやリリアもマリアの真似をして手洗いを手伝っていた。


 シチューに肉串、グリル、赤芋の春雨で作った焼きそばなど。

 野原で摘んだ野菜で作ったサラダ。

 サラダは全員に取り分けて嫌いな子供達が食べる様に工夫したが、杞憂に終わった。


 山のように作った料理が、凄い速さで消えていく。食べ過ぎて戻してしまう子も数人いた。

 そんなに美味しかったのだろうか?


 やがて満腹で動けなくなった子供達を他所に、ヤナカが試作した赤芋焼酎で小さな大人組お別れ会が始まる。


「なかなか上手いね。もう少し強いと最高だ」

「マリアったらもう。滅多に飲めないお酒が赤芋から作れるなんて驚きです」

「作り方は院長に渡してあるから、自分達で工夫してね。飲み過ぎちゃ駄目だからね、マリア」


 院長が深くタメ息をついて、グラスを持ったまま下を向く。


「生きている内に酒が飲める様になるなんて……ありがとう、本当にありがとう」

「これからが大変だよ。俺とカリナはあなた達に仕事を丸投げして出ていくんだから」


 ヤナカが焼けた肉串を皿に移しながら院長に言う。


「何もかも用意してもらったんだ。私達は上等な靴をもらって歩き出すようなもんだよ、ヤナカ」

「そうですよ。何にも心配は入りません」


 アリスとナーナがヤナカに答え。院長が一つひとつ頷いている。



ナンナ星のお話しを最後までお付き合い頂きありがとうございます。

ヤナカとマルグリットの優しさがとまりませんでした。

もっと戦闘AIらしい一面をお見せしたいと思います。

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