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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ スタンピード編 ~

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それぞれの加護

「ふぎょ?」


 目が覚めると……白い服を着た殿方の両腕によって拘束されていました。……多分。

 自信がないのは、視界には白いものしか目に入らないからである。


 だけど、匂いとか、気配、何より、最近の習慣から、これは九十九に抱き締められているのだろう。

 ここに来てから、二日に一度は抱き締められている気がする。


 毎回、思うけど、彼は寝ている相手を抱き締める癖があるらしい。


 ……兄である雄也さんにも?

 いや、男兄弟は一緒に寝ないか。


 ……でも、今は、同じ寝台に寝ているよね?


 わたしが間に挟まっていなければ、抱き締めているだろうか?

 え? こんなにガッチリ、逃げ場のないように?


 ……無理か。


 雄也さんが絶対に嫌がって、どんな手段を使ってでも脱走を図る気がした。

 いや、その前に九十九を起こせば済むことなんだけど。


「ん……」


 九十九が色っぽい声を漏らし、さらにわたしを拘束する力を強める。

 ……思わず、悲鳴を呑み込んだ。


 寝ているのだ。

 今、目の前の白い服の御仁は間違いなく寝ているのだ!!


 わたしのお()りと魔獣退治を交互に続けている彼らが疲労回復のために眠るのは当然である。


 そして、わたしを抱き締めるのも、感応症の効果を働かせるため。


 そう! 九十九は魔法力を回復するために、わたしに引っ付いているのだ!!

 ……既に一晩寝ているのだから、もう回復はしているよね?


 魔獣退治後、ここに帰ってくる時は、九十九も雄也さんも結構な疲労である。

 時間をおいて帰ってきているはずなのに。


 でも、ここはセントポーリア城下の森。

 周囲の風属性の大気魔気は、セントポーリア城並に濃いのである。


 だから、この場所で睡眠をとる彼らの魔法力の回復は、いつもよりもかなり早いはずなのだ。


 でも、感覚的なものなんだけど、雄也さんの方が魔法力の回復が少しだけ早い気がするのも確かなんだよね。


 彼らの主属性は風。

 それはこの場所で生まれたから、風の大陸神の加護を享けたということだろう。


 でも、血族的な属性は光だと思う。

 光の大陸神の加護を享けた両親から生まれているから。


 だから、風属性の攻撃魔法に耐性があり、自身が放つのは光属性魔法の方が強い。

 そんな気がしている。


 条件は同じはずなのに、兄弟でも魔力と魔法力が少しだけ違うのは何故だろう?

 単純に個人差?


 そんなことを考えていた時だった。


「……あ」


 小さな声が頭上から聞こえる。


「あ~、悪い(わりぃ)。ちょっと寝てた」

「回復のためでしょう? 仕方ないよ」


 それに嬉しいと言えば嬉しいのだ。


 いつもは先に起きている九十九や雄也さんがわたしの側で眠っている。

 それだけ気を許されているってことでもあるから。


 まあ、抱き締められていることも嬉しいのだけど、そこは喜んではいけない部分だ。


 そして、今は顔を上げてはいけない。

 この状況、かなりの至近距離である。


 九十九が解放してくれるまで待たないと、顔が胸に張り付く以上の接触をしてしまう可能性があった。


 それは流石に避けたい。

 事故であっても、気まずくなるだろう。


 今更?

 そう、今更だ。


「とりあえず、離れてくれる?」

「ああ、悪い」


 九十九はあっさりとわたしを解放する。


 圧迫していた感覚がなくなり、同時に温もりも離れた。

 それを寂しいとか思ってはいけない。


「…………あ」


 そして、本日の衣装を目の当たりにする。


「これぞまさに、()()()()()!!」

「うっせえ」


 そう本日の九十九の衣装は白い服だけでなく、白い帽子まで被ったコックさんの衣装だったのである。


「ふおおおおっ!?」


 わたしは興奮の余り、思わず気合の入った叫びを放つ。


「いや、それはどんな感想だ?」


 九十九が呆れたように尋ねる。


「夢が叶った!!」

「……どんな夢だよ?」


 更に呆れられている気がするのは気のせいか?


「九十九のコックさん姿!!」

「コックコート姿な? ……って、夢?」

「夢だったよ! 名実ともに料理人な九十九の姿。ずっと見たかったから」


 エプロン姿はある。

 白衣姿も見た。

 白い割烹着も見た!


 だが、この姿は!

 専属料理人と呼んでいるのに、一度も見たことがなかったのだ。


「お前の夢は、やっすいな~?」

「いやいやいや? 安くないよ? お高いよ?」


 まず、この世界で美味しい料理が作れる料理人というのが稀少価値だろう。


「まあ、お気に召したようで良かったよ、ご主人様」

「ぬ?」

「オレは、専属料理人なんだろう?」


 九十九が少しだけ意地悪く笑う。


 「主人」と呼ばれるのはドキドキして嫌いではないのだけど、「ご主人様」は何か違う気がする。

 わたしがむうっと唇を突き出すと、彼は笑った。


 うん、わたしは安いかもしれない。


「ところで、その服、コックコートって言うの?」

「そうらしい。オレも兄貴から聞いて初めて知った」


 白く、ボタンが二列に並んだ不思議なデザインの服。

 これ、よく見ると、ボタンで小さなエプロンを前面に付けているのかな?

 少なくとも二重構造になっているようだ。

 エプロンとは全く違うデザインのコレは、詳しい知識がなくてもコックさんの姿だと一目で分かる。


「服がコックコートなら、頭はコックハット?」

「シェフハットやコック帽とも言うな」


 コック帽は漫画とかで読んだことがある気がする。


「その帽子の高さで、コックさんの地位が分かるんだよね?」

「知らん。ここまで高くするなんて、邪魔なだけだ」


 九十九が被っているコック帽は、三十センチ以上ありそうだ。

 その高さに意味がないとは思えなかった。


 雄也さんなら、正しい知識を持っているだろう。


「それにしても、最近の栞にしては、珍しい時間に起きたな」

「ぬ?」

「まだ七刻(午前七時)だぞ?」

「おお?」


 確かに、最近のわたしにしては早い。

 でも……。


「その時間まで九十九が寝ているのも珍しいね」


 九十九はわたしよりも早く起きる。


「また二度寝した?」

「今回は三度寝だな」


 やはり、一度は起きているらしい。

 しかし、三度寝とは……。


「もう回復したっぽいから、わたしに付き合う必要なんてないよ?」

「念のためだ。特に、昨日は魔封石(ディエカルド)を使っている。お前が思っている以上に、身体にストレスはかかったはずだ」

「あ~。アレは確かに辛かった」


 この世界でまさかの乗り物酔い。


 これまでいろいろな乗り物に乗っても平気だったのに、まさか、指輪をしただけで似たような症状が出るとは思わなかった。


「今は、大丈夫か?」

「もう指輪は外しているから大丈夫だよ」


 わたしに魔封石(でぃえかるど)の効果は薄いということも分かった。


 確かに気分は悪くなったが、万が一の時、走って逃げることはできると思う。

 その万が一なんて、勿論、ない方が良い。


 だけど、アーキスフィーロさまの兄であるヴィバルダスさまが庶民の娘に向かって、簡単に使用しているのだ。


 つまり、あの国の貴族子息は魔力の強い人間相手にアレを使うことができるということだろう。


 そして、わたし相手に熱烈なお手紙を下さる貴族子息が増えてきた。

 だから、油断はできないと思っている。


 今までは、護衛兄弟が守ってくれていた。

 だが、そんな彼らにも踏み込めない場所があるのだ。


 自分の身は最低限、自分で守らなければならない。


「左手を見せてみろ」

「ん」


 わたしが昨日、指輪を着けていた左手を差し出す。


「本当に何もなかったかのような手だな」


 その手を握りながら、九十九は難しい顔をする。

 それだけ魔封石(でぃえかるど)の効果は凄いのだろう。


魔封石(でぃえかるど)の効果が薄いのは、わたしが半分、この世界の人間の血ではないからじゃないかな?」

「あ?」

「父親は確かに魔力が強いけど、母は、この世界の人間じゃないでしょう? そのせいで魔石の効果が出にくいんじゃない?」


 この世界にとって、わたし以上に、母は異物だから。


「千歳さんの血……」


 九十九がわたしの指を見つめる。


「あるいは……創造神さまの御力? 母ほどじゃなくても、わたしにも加護があるんだよね?」


 母が持っている創造神さまの加護は、ほとんどの魔法を跳ね返すらしい。


 わたしは魔法の影響を受けるから、母ほどではないようだけど、創造神さまの加護を少なからず持っているとは聞いた。


「創造神の加護……」


 えっと?

 九十九くん?


 わたしの左手をなんで、そんなに握るかな?

 マッサージされているみたいで痛くはないけど、ちょっと恥ずかしくなってきた。


 コック帽を被っていなければ、整体師と勘違いしそうだ。


 暫く、九十九はわたしの左手を揉んでいたけれど……。


「メシにするか」


 そう力なく口にするのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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