メードルの憧れ
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メードルにとって、力強い父親の背中は、憧れだった。
害獣のことごとくを狩るその姿は、メードルの目に今も焼き付いている。
ーー親父は、いつも自信がなさげだった。
誰に感謝されても、どこか嬉しくなさそうで、いつも卑屈に笑っている。
メードルはいつも不思議に思っていた。
『親父はこの村で一番の狩人なのに、何故そうも誇らないのだろうか。』
それを聞くと、こう答えるのだ。
『俺は……村一番の狩人じゃない……。皆に頼られるのも、獲物を仕留めるのも、ホントは……アイツの代役でしかない……』
そういって、村の高台にある家を眺める。
あの、悪魔の子供を拾った家族の家を。
その父親は、もうこの世にはいない。
憧れた背中の、朽ち果てた姿。
エルフの住むと言われる森から、この村の名物となった一年中実のなる果樹の種を持ち帰って来たのは、レイドだった。
ツムギを拾う前のレイドは、村で一番の狩人として、村のみんなに慕われていた。
もちろん、狩人だったのは、レイドだけじゃない。
メードルの父親も同じく狩人だった。
レイドがツムギを拾った後、ツムギが不吉だからという理由で、村人はレイドを避け、害獣の駆除などを頼まなくなった。
その代わりによく頼られるようになったのが、メードルの父親だった。
メードルの父親は、村人たちの称賛を受けて、有頂天になる男ではなく、称賛の影にあるレイドの姿をいつも見つめていた。
『レイドの方が手早く出来た』
『レイドの方が上だ』
いつも、いつも、依頼を受けるたびに、そう思われるような気がして、メードルの父親は自信を一握りも持てなかった。
自信とは、自分が納得しないと得られないものである。
メードルの父親は、メードルに
『親父はこの村で一番の狩人なのに、何故そうも誇らないのだろうか。』
という質問をされないくらいの、自信が欲しかった。
『もしかしたら、あの森にはまだ何か資源があるのではないか……。
そして、それを見つけられ、村の発展に貢献すれば、きっと自信をつけられる』
メードルの父親はそう思いたち、森へと向かったのだった。
息子にとって、自慢の親父になるために。
だが、森で得られたのは、資源なんかじゃなく、死に至る致命傷と毒だった。
命からがら、村へと付いたメードルの父親は、数日後に死亡した。
最期に『自慢の親父に慣れずに、すまなかった』と言い残して。
△
メードルは、空を旋回するアカクイドリの群れを睨んだ。
その数は段々と増えていき、メードル自身の捌き切れる数の上限をとうに超えていた。
それを見て、命の危険を感じて、メードルは冷や汗をかき、身震いする。
だが、
(この程度、将来Sランクの冒険者になる男にとって、危機ですらない。だから、俺にとってこれは……ただの殺戮だ)
その目はけして、命を脅かすアカクイドリの群れから逸らすことなく、その群れをにらみ続けた。
(そして、証明してやる。
この村で一番の狩人は、悪魔の子供を拾ってきた奴じゃなくて、いずれS級冒険者となる俺を一から育てた、俺の親父だってことを!)
そして、訪れるアカクイドリ特攻の時。
低い唸り声を一羽が上げれば、それに伝播して何匹ものアカクイドリが低い唸り声を上げた。
数は五十羽を軽く越すだろう。
その群れが、メードル一人に向かって押し寄せた。
赤い津波のような、弾丸のような、鳥の攻撃をメードルは一つ一つ避けつつ、通り抜けざまに短剣を振るう。
「っぁ! ーーはっ!」
当然、無傷とはいかず、体中の至るところに擦り傷、切り傷、刺し傷、を作り、鮮血を流す。
だが、ただやられているだけのメードルではなかった。
「ギュァアアァァアーーーッ!!」
メードルの振るった短剣は、七羽のアカクイドリを屠る。
無事だったアカクイドリも、その多くが体に傷を作っていた。
そして、再び上空を旋回し始めたアカクイドリを横目に、自分の仕留めたアカクイドリを見て、メードルは口の端を釣り上げる。
(親父は『自慢の親父に慣れず、すまなかった』といったな。最期に何を言ってんだって、思ったよ……)
「……あんたはすでに、俺の自慢だったよ。
自信がないなら、見てろよ、親父。あんたの教えた剣の技で、俺はこいつらをーー」
アカクイドリは低く、唸り声を上げ始めた。
特攻の合図だ。
「ーー狩り尽くす!」




