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異世界で人生を紡ぎたい  作者: も~じゅー
村での生活
30/41

白い猫のおもちゃ

 救世暦3988年4月2日第一水曜日


 この日はエリスの誕生日。

 それは、いつもの年より盛大に執り行われることとなった。


 こんこんと、何者かの来訪を告げる玄関扉。

 その音がなってレイドとツムギの二人は玄関に向かう。

 春特有の温かな風を伴い、開かれた先にいる三つの人影はいつも通り。ネール、リーネ、フィリスの三人だ。


 赤ちゃんの泣く声がするのは三人を連れて向かう部屋。

 エリスと赤ちゃんがいる部屋だ。

 エリスはノック音に驚きグズった赤ちゃんを、ツムギが猫のぬいぐるみをベースに作った、ガラガラのおもちゃを揺らしてベビーベッドにてあやしている。


 エリスが出産する前に、「手作りで服を作ろう」と彼女がやる気を起こした。

 そして、布などをレイドに買ってくるようにお願いをしていたので、それに乗じて「僕も作ってみたいです」と反射的にツムギがいったのだ。


 ツムギは祖母が生きていた頃、一緒によく手芸をやっていた。

 それを懐かしく思っての発言だった。


 反射的に言ってしまっても、話した言葉は戻ってこない。

 わがままを言ってしまったと、気付き焦ったツムギ。

「何でもないです」とすぐに言ったが、生まれてから初めての息子のおねだりにレイドは感涙した様子で「分かったアルドーの分含め、多めに買ってくる」と機嫌よく家を出た。

 子供が産まれるのに自分を大切に思っていてくれる二人を見るのが、段々と辛くなってきたツムギだった。


 結局、ツムギは赤ちゃん用のよだれかけを幾つか作った。

 その後、おもちゃのぬいぐるみでも作ろうと考えて、「綿とか……鈴はありますか?」とエリスに聞いたのだが、家にはないとのことだった。

 だが、数日後にレイドが隣村で買ってきた。

 エリスがレイドに話したのだろう。

 ツムギは困った内心を隠しつつ、「ありがとうございます」と微笑んで見せた。


 鈴はガラガラにするのに手っ取り早い。

 赤ちゃんは視覚より聴覚のほうが優れているとどこかで聞いた。

 どうせなら音がなるおもちゃを作ろうと思ったのだ。

 もちろん、ツムギの作ったぬいぐるみは猫なのだ。

 外見は白く、目は右目が青、左目が金のオッドアイ。

 もう離れてから二年強経つ世界にいた、色褪せず思い出の中に今もいる大好きな存在。

 大切な友達。

 けれど、幾ら特徴を捉えたとて、模した友達はぬいぐるみなんかじゃ、その愛らしさは伝わらなかった。


 ちなみに、赤ちゃん用の服を作ることは作ったエリスなのだが、裁縫は久しぶりだったようで一着しか作れなかった。

 しかし、それも仕方のないことだ。

 まだ2歳の子供が針を使っているのだ。

 危険なのでそちらを注視していたら進まなくとも仕方のないことだろう。

 例え、指に貼られた絆創膏が何箇所あったとて、子供は絆創膏をしていなかったとて、仕方のないことなのだ。

 ……きっと。


 今は赤ちゃん用の服はフィリスに貰ったリーネのお下がりがクローゼットに収納されている。

 


「「「誕生日おめでとー……(ございます……)」」」


 泣きやんだ赤ちゃんを再び驚かせないように声を忍ばせネール達三人はいった。


「ありがとう」


 エリスは微笑みながらそう返した。


 時刻は15時。

 ネール達が来てから少しの時間が経過した。


「ホギャー! ホギャー!」

「アルちゃん! どうしよう、ルイちゃんが泣き止まないよ! おもちゃをもっと振ったほうがいいってことかな?!」

 チリンチリンチリンッッッッ!!

「ぎゃ、逆だと思います……!」


 赤くて肩にかかるくらいの髪を揺らして、リーネは白猫のガラガラを揺らした。

 ……高速に。

 どこをどう見ても揺らしすぎであった。

 ガラガラが休むことなく、大きな音を上げた。

 白猫は振られる速度でブレて見えた。

 もしも、ぬいぐるみに声帯があるとしたら悲鳴を上げていることだろう。


「ホギャーッ! ホギャーーーッ!」

「はぁ……はぁ……はぁ……全然泣き止まない! アルちゃん! どうしたらいいの?!」

「えっと、リーネ……お姉ちゃんちょっと貸してください」


 速く動きすぎて息も絶え絶えな様子のリーネ。

 それに対し、ぬいぐるみに指をさし貰い受けてからツムギは、そういって<魔力壁>で踏み台を作る。


 <魔力壁>の色は黄緑がかった半透明なものだった。

 そう。まるで、エリスの魔力のような。

 彼女の魔力をそのまま模したような、属性自体もそうなのだが、魔力の質すらも全く同じなのだ。


 これが判明したのは出産を終えてから、初めて<魔力壁>を使ったときだ。

 いつもは無色透明でそこにあることすら分からないものだったのだが、そのときは黄緑の色を宿していたのだ。

 これに一番驚いたのはネールだった。


 ネールは魔道具を学びに街まで行って、魔道具職人の元で修行をしていた。

 そのとき魔道具は魔法を扱うものなので、魔法の知識を増やすためにそれ専用の本を何度か読んだそうだ。


 魔素の特徴は十人十色。

 百人いれば百の魔素。

 千人いれば千の魔素。

 魔素はときにそのものの生き様すら映す。

 完全に同じ魔素を有するものがいるとするなら、全く同じ人生を辿ってきたということ。

 無論、それはあり得ぬことだ。


 己の魔素は己のもの、人の魔素は人のもの。

 誰にも奪うことが出来ないただ一人の唯一のもの。


 その読んだ本の一つの記述に、このようなことが書かれていた。

 魔素というのは、魔力の持つ人それぞれの属性な個性のことを指す。


 所謂、魔力の質のことだ。


 完全に同じ魔力かは高価なそれ用の魔道具で調べないと分からないが、無属性中級補助系統魔法<魔力界眼>が込められているモノクルで見た限りでは、エリスの魔力との色の差がわからなかった。

 しかし、ツムギは無属性。

 属性を持っていなかった。

 それなのに、急に唯の村人の割には質のいい魔力を持つエリスと見分けがつかない魔力になったのだ。

 そのことだけでも、ネールを驚愕させるには十分な事実。


 話は戻る。

 ツムギは<魔力壁>に登って赤ちゃんの見えやすい位置でガラガラをゆっくり揺らす。

 すると、赤ちゃんーールイリアは興味深そうにツムギの持つおもちゃを見つめ、手を伸ばす。

 泣いた名残はあるが、さっきまでとは打って変わって微笑を見せている。


「赤ちゃんが見えやすい場所で、目で追える速度で振るといいですよ」

「う、うん……! やってみる……!」


 ツムギからガラガラを受け取ると、リーネはルイリアの前でゆっくり振った。

 チリンチリン……と音がなる。

 先程までとは違い、ルイリアが泣くことはない。


「わぁー……! 出来た! アルちゃん凄い! お姉ちゃんも出来たよっ!!」

「あ、あのそんなに大声出すと……」

「ホギャー! ホギャー!」

「あ! また泣き出しちゃったーッ!」


 泣き出したルイリアに再び「驚かせてごめんね、ルイちゃん……!」といいながら再び白猫を揺らした。


 子供たちを見ながら大人4人は椅子に座り談笑していた。


「しかし、アルドー君も段々大きくなってきたな」


 半年と少し前はまだこのぐらいだったのに。

 とネールは自分の手と地面が垂直になるようにして、少し腰を曲げた。


「そうね。子供の成長は早いわ。……あの今リーネちゃんが持っている猫のぬいぐるみがあるでしょう? あれ、アルドーが作ったの」

「ええっ!? そうなのー! どこかから買ってきたものだとばかり思ってたわ!」

「ええ、私が針を手に指している横で、型紙からなにから全て手作業で完成させていたわ」

「……ねぇ、エリスさん聞いていい? アルドー君って今何歳?」

「2歳よ……。もうすぐ誕生日だけれど」


 とても信じられないことだった。

 料理も出来て、掃除も出来て、裁縫も出来る。


「なんというか、いいお嫁さんになりそうねー。……もし、アルドー君が男の子だったら娘のお婿さんにでもなって欲しいくらいよー」

「フィリスさん。アルドーはああ見えて男の子よ。私もたまに忘れそうになるけど、男の子なの」

「あらやだ! あの光景どう見ても女の子が二人が、赤ちゃんをあやしているいるようにしか見えなかったから」


 フィリスは苦笑した。

 エリスの目から見ても、仲の良い姉妹のように感じた。

 男二人もうんうんと頷いた。


「話は戻るけど、あのぬいぐるみってどうして目の色が左右違うの?」


 普通は色を揃えるでしょう? とフィリス。


「そういえばぬいぐるみを作ったということが衝撃的で、聞けてなかったわ……」


 とエリス。


「ただ間違えただけとか」


 とネール。


「いや、俺は聞いたぞ」


 とレイド。

 自然と視線はレイドに集まった。


「聞いた話を要約すると、夢の中で自分と猫が親しくなって、その猫をモデルにしたみたいだ。……要約していない話を聞きたいなら本人に直接聞けば話してくれると思うぞ」


 ーー物凄い熱量で……。

 レイドは何故だが遠い目をした。

 時はリーン村を歩いているとき。

 いつもは口数の多い方とは言えない息子が、あんなにも激しく捲し立てるように話す姿は強烈だった。

 珍しく歳相応の顔だな、と呑気に聞いていたレイドだったが話は中々終わらなかった。


 白い毛並みはこの世のものとは思えない程気持ちがいいとか、両目の色が違って神秘的かわいいとか、歩く佇まいが凛と気高く美しいとか……。


 そんな容姿を褒めることの他にも、思い出話を熱中した様子で述べていた。


 ーー嬉しいときも、楽しいときも、あの子がいたからもっと嬉しくて楽しくなりました。

 辛いときも、悲しいときも、あの子は慰めてくれて気持ちを軽くすることが出来ました。

 今でも僕の"一番大切な友達"なんです。


 そういって最後を締めた。

 その最後の言葉を話したとき、息子は知らない表情で笑った。

 そして、家が見えてきたとき思い出したかのように「夢の中での話ですけど」と下を向いて呟いた。

 本当に夢の中での話なのか。

 言葉の一つ一つに確かなる感情が込められていたのをレイドは感じた。


 あの息子のーーどこまでも嬉しそうな、見たことのない笑顔を思い出して一人表情を暗くした。

 番外編

 白い毛並みはこの世のものとは思えない程気持ちがいいとか、両目の色が違って神秘的かわいいとか、歩く佇まいが凛と気高く美しいとか……。


 息子の捲し立てるような猫の賛美。


(あ、アルドーが、こんなに喋るなんて知らなかった……。それにこれだけの熱量。もしかしたら俺はアルドーを常人の道から外させてしまったのか!? 人間に恋をするでもなく、獣人に恋をするわけでもない。……アルドー、お前はいつからケモナーになっていたんだ!)


 未だに話し続ける息子をみて、父は思考し続けた。


(もしかしてあれか、人間の同世代には敵意を向けられるし、石を投げられるし、変な因縁付けられるしで、嫌になって獣に走ったのか?! ああ、どうする……? 10年後アルドーが『この娘と婚約したいです』といいながら、猫や犬を紹介してきたらどうすればいい!?)


 結局、レイドは悩みは答えを見つけられなかった。

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