三十四時限目「鉄腕美女の戦い、風変わりな蛮族と卑しい外道について」
注意:今回は何時まで経っても納得いくレベルまで完成しなかった等諸々の原因からイラついていた反動で途中明らかに不適切かつ多くの読者諸氏が不愉快に感じずにはいられないような場面があります。
何があっても蠱毒成長中は責任を負いませんので自己責任でお願いします。
「は……あ……っく、ふう……」
果てしない、夕暮れの荒野。
それは人工物の中とは思えない程に広大で、どういった原理でか空や太陽まで存在する空間。それこそが私、ジェニファー・ホークスの現在地である。
何かの拍子に転移してしまったらしいこの得体の知れない空間で私を待ち受けていたのは、その昔アメリカ大陸の荒野に暮らしていたという『ネイティブアメリカン』なる一族を彷彿とさせる風貌の集団であった。
自らをネバーランドに所属する『ブラックフット隊』なる戦闘部隊の者と名乗るその集団は、然しネバーランドの関係者と思えぬほどの人格者であった。独自の崇高な哲学を持ち悪を好まずただ礼と義に生き、然し余裕とある種のユーモアをも忘れずに生きる彼らはまさに理想的な戦士の集まりと言ってよく、本来撃滅すべき外敵である筈の私を見付けても危害を加える様子を一切見せず、それどころかかなりの豪邸へ招き入れ丁重に持て成してくれた。
『何故私にここまでしてくれるのですか? 私とあなた方は本来敵同士であり、更に言えば私はあなた方の領地へ無断で入り込んだ侵入者。ならば発見次第問答無用で殺害する権利さえあなた方は有している筈でしょう』
宴席で――無粋なことは承知の上で――私は問い掛ける。
すると私の隣に座っていた部隊長――この場合『族長』と呼んだほうが相応しいようにも思える――は、豪快に笑いながらこう言った。
『それは確かに仰る通り。然しながら我らブラックフット、外界より現れし未知のものは一先ず客人として扱い、敬意を払って丁重に持て成すことを絶対の掟としておるのですよ。何せ生き延びるべく愚かにもかの者どもと契約を結び、その結果領土も自由も捨て去りし我らブラックフット、身内でない他者と顔を合わせる機会など数年に一度あれば幸運というもの……。
なればその他者をただ単純に憎み滅ぼすだけでは勿体のうございます。怨み憎しみ怒り……それら感情の本質とは破壊、殺戮、殲滅のみ。ひたすらに不毛。幾ら労力をかけた所で結局は何も生み出しはしませぬ。ならばこそ我々は、敢えて何物をも等しく敬い持て成すことに力を尽くし、他者の来訪という願ってもない幸福を楽しむのです。楽しみ尽くした上で、相手毎に適切な対処をすればよい。友好的な客人であるならば引き留めるか無事に返し、敵であるならば戦いを挑む。勝てれば次の来客を待ち、負けたとしても悔いなくその現実を受け止める覚悟はできております。
……もし、貴女様が望むのでありますれば、我らはすぐにでもこの宴を取り止め敵として戦に応じましょう……』
その言葉に不思議な魅力を感じてしまった私は早速彼らに戦いを挑み、正々堂々たる『試合』然とした形式を以て隊員たちを一人、また一人と全力で相手取っては打ち破っていく。
失礼なことは億も承知ながら言わせて貰えば、彼ら一人一人の実力はそれほど高くはない。あのロストビースト隊だとかいうロクデナシのカスどもより幾分か上なのは確実、といった程度である。だが彼らの内に秘めたものは比べものにならないことを私は知っていて、だからこそ――仮に一瞬、一撃で終わってしまうとしても――その戦いは私にとって実に有意義なものであった。
そして私は迫り来るブラックフット隊の面々を次々と打ち破り、最後の一人として残った部隊長をも一撃で葬り去る。できれば敬意を表し手心を加えようとも思ったのだが『全力を出さず戦う事こそ不敬。相手の全力を受け容赦なく散る事こそブラックフットの誇り』との言葉を受けた為、左腕の義手を変形させたレーザー砲にて一瞬で焼き払わせて貰った。
(そんなこんなでブラックフット隊を全滅させたわけだが……一戦にそこまでの時間はかからず、合間に休憩を挟ませてくれるとは言え、流石に疲れたな)
塵も積もれば山となる、とはよくぞ言ったものだと思う。元より軽視などしていなかったが、まさかこれほど疲れるとは。
(……何にせよいかんな。遮蔽物のない炎天下の荒野にいるせいもあって体力消耗は激しくなる一方だ。水分補給もできていないし熱中症で倒れるのも時間の問題か。
いち早くこの場を離れ、冷涼な場所へ移動できればまだ何とかなりそうだが……成り立ちすら満足に理解できていない空間だ。下手に動けばどうなるかわからん。かと言って動かずとも状況は好転せず……八方塞がりとはこの事だな)
ともあれ対処の仕様がないわけではない。こういった事態に陥った時を想定して、私の義手には周囲の環境に合わせて体温を上下させるシステムが搭載されているのだ。
システムを起動し、一先ずある程度まで体温を下げた所で、私はこの状況を如何に切り抜けようかと思考を巡らせた――
――その時である。
「あーあ、みんなやられちゃってるよ。ほんっと、肝心な所で役に立たないんだからなあ」
どこからか男――より厳密には、思春期を迎えたばかりの少年――を思わせる声がする。
辺りを見渡してみれば、何者かが此方へ歩み寄ってくるのが分かる。よく見ればその人物は確かに少年であった。否、ネバーランド関係者である以上"少年の姿をしていた"と言うべきか。
如何にも高級そうな、典型的な金持ちの子息が着ていそうな上物の衣類を身に纏い、漆黒の頭髪はポマードの光沢を放つ七三分け。更に黒く太いフレームに大ぶりな円形のレンズという――主観的な物言いになるが所謂"古臭い"デザインの――眼鏡をかけている。
「全く、ろくすっぽ働きもせずニート同然に好き勝手暮らしやがって。誰のお蔭で絶滅を回避できたと思ってるんだよ。
暇を持て余した挙句、外敵まで客同然に持て成すなんて馬鹿な真似しちゃってさ、その結果こうしてやられてんだから、本当話になんないんだよなぁ……」
足元に転がる生首を蹴飛ばしながら、少年の姿をした男は至極つまらなさそうに、ただ侮蔑だけを籠めて言葉を紡ぐ。高貴で冷静な風に装ってはいるが、本質はただの俗物だ。
私は確信した。
こいつは殺さなければいけない。
詳しい事情も理由も知らないが、ともあれここで殺さなければ、ろくでもないことになるだろう。
(部隊長殿は言っていた。怨恨、憎悪、憤怒などという感情の本質は、破壊や殺戮、殲滅しかない不毛なものだと。幾ら労力をかけた所で何も生み出さず、疲れるばかりで虚しいだけだと)
だが……だがそれでも、決して不要な感情ではなく、また害悪などでは断じてないのだ。何も生み出さず、壊し殺し滅ぼすことしかできないからといって、それらの行為が必ずしも無意味とは限らない。
岩山を壊さねば鉱脈は出ず、作物や家畜を殺さねば食物は得られず、暴君が滅びねば名君は栄えず……。
何かを壊すからこそ作られるものがある。
何かを殺すからこそ育まれるものがある。
何かが滅びるからこそ栄えるものがある。
全ては隣り合い、反発し合いながらも決して互いを断たず絶やさず、寧ろ剋し制するが故に活かし高め合う関係にある。
だから私はそれらを否定せず寧ろ肯定する。
肯定し、我が物とする。
そしてその結果の一つとして、奴を殺し、また奴らをも殺すのだ。
(無論、だからと言って部隊長殿のお言葉を軽んじ蔑ろにする意図はないがな)
「――全くさー、この空間維持するのだってタダじゃないってのに、あの穀潰しどもが――
「何だお前は。いきなり現れて挨拶も無しか、高貴ぶっている割には不躾で礼儀知らずな奴だな」
「……あ? 何だお前……他人様の領地へ土足で踏み込んだ挙句部下惨殺とか、お前の方が礼儀知らずで不躾だろ。どこの誰なんだか知らないが、子供がそんな屑に育ったんじゃあ親も浮かばれないぜ」
などと口走りながら、男はどこからか機械めいたものを取り出した。薄平たく細長いそれと似たものを、私はどこかで見たことがあった。
「……パロディドライバー?」
「へえ、よく知ってるじゃないか。如何にもこれはパロディドライバーさ。この僕、ネバーランド三幹部一のカリスマことジョン・コリンズ様の切り札……。
本来お前如きに使うようなものじゃないが、今回は特別だ……僕の圧倒的な力を思い知り、後悔しながら死ぬがいい」
『Welcome to this paradise. Everyone is a friend here.』
ジョン・コリンズが腰に巻き付けたパロディドライバーのボタンを押すのと同時に、甲高く可愛らしい声で英文が読み上げられる。和訳するなら『ようこそこの楽園へ。ここでは誰もが友達だ』と言った所か。
(何が楽園か。何が友達か。楽園を荒らし万人に災いを齎す悪逆非道の害悪め)
見ていると次にコリンズは、起動したパロディドライバーへカードのようなものを挿しこんでいく。ここへ来る道中常木先生から見せて貰った『NETAカートリッジ』より遙かに薄平たいが、あれもカートリッジの一種だろうか。
『Everyone come on this beat!』
コリンズがボタンを押すと、パロディドライバーの各所が陽気な音声に合わせて発光する。それと同時に中央の液晶部分から光り輝く星のようなものが幾つか飛び出し、それらは地面に落ちると同時に縫い包みのような動物に姿を変えた。
「さあ行け、僕の盟友達。奴を抹殺しろ」
盟友達と呼ぶ割に、その口ぶりはまるで奴隷か何かに命令を下すかのようだった。
見れば召喚された動物達としてもコリンズの命令は不本意なものらしく、突撃を躊躇っているようだった。
「おいお前ら、何やってる。早く行け。奴を殺すんだ。これは命令だぞ。僕の盟友であるお前らだ、その程度の事できて当たり前だよなぁ?」
コリンズのそれは最早単なる脅しでしかなかった。動物たちは小刻みに震えながらも頷き、如何にも『嫌々ながら無理矢理』という感じの及び腰で私に向かって来る。逆らえばより恐ろしい目に遭う、それなら私に殺された方がまだマシだ、とでも思っているのだろう。
(……今すぐにでも救い出してやりたい所だが、ここで下手に動けば余計に苦しめかねん。故に……)
私は義手を変形させ、若干ばかり機械的なトンファー風の武器を展開する。
(ヴァニッシュトンファー……純然たる破壊力こそ低いが級友、夜伝からの入れ知恵で加えたある特殊設計により状況次第では抜群の性能を誇る武器だ。彼女から聞いた話が確かなら、この状況は暫くこの武器で戦える筈だ)
私はトンファーを構え、向かって来る動物達を叩き伏せる――ように見せかけて、実際はその身体にトンファーの先端部を少しばかり掠らせていく。すると――傍目から見れば奇妙極まりない事であろうが――それほど重傷を負わせるほどの打撃ではないにも関わらず、動物たちの前身は光の粒子となって消滅していく。
(よし、成功だ。やはり金田殿の言う通りだったな。彼女曰く『パロディドライバーの根幹を成す機構は魔術に近い』という。ならばこのヴァニッシュトンファーの『触れた物体の魔力を消散させ魔術を無力化する』という特性は、それだけでこの男にとって脅威となる筈だ)
私の予想は正しかった。手駒を潰されたコリンズは『まだ終わらん』とでも言わんばかりに次なるカードをセット、別の動物達を出しては嗾けるということを繰り返していった。そうなれば最早こっちのもので、出されては襲い来る動物達を私は消散させていく。
手応えからの推測だが恐らく殺してはいないだろう。ただ『召喚された自身』という存在を維持するだけのエネルギーを消し去り一時的に活性を失わせているのだ。正直、時間経過などで回復する恐れはあり、仮にコリンズがそういった計画性を持ち合わせていたとなれば中々厄介な相手であろうとは思うのだが……
「くそっ! 次だ次! ほら行けよお前ら! この根性無しの役立たずども、本気を出せ! 気合いが足りないんだよ!」
コリンズは何ら学習せず、口汚くがなり立てながら次々と動物達を召喚し続ける。ともすれば後の展開は目に見えていよう。
結局コリンズは手持ちの動物達を全て再起不能にされ、戦闘手段を失ってしまった。
(哀れ過ぎて何も言えんな……)
「ええいくそっ、どいつもこいつもふざけやがって……おい内田! 内田ぁ! 出てこい内田っ!」
『ぁ、は、はいっ!』
怒り狂ったコリンズはパロディドライバーを外し、散々叩きのめしながら怒鳴り付ける。すると液晶画面が点滅し、立体映像で構成された小学校高学年か中学生程度の小柄な少女が慌てた様子で姿を現した。
名を内田というらしいその少女は中性的な軽装の黄色人種で、さしたる特徴はないが背負った鞄がやけに印象的だった。察するに常木先生に対する金田殿のようなものだろうか。
「内田ぁ……これはどういうことか説明して貰おうか!?」
『ぁ、はい……皆に確認を取ったのですが、どうやら何らかのエネルギー損失によって召喚体として実体化できない状態にあるらしく……』
「何らかのエネルギー損失ぅ? 何だその返答は! そんな曖昧な発言が社会で通用すると思っているのか!?」
『はい、申し訳ございません……』
「『申し訳ございません』じゃない! そんな言葉は聞き飽きたんだよ! 謝るくらいなら原因を突き止め問題を解決してみせろ! 全くお前らは何て不真面目で誠意のない奴らなんだ! 僕に依存しなきゃ何もできない癖に、真面目に働いて世話になってる恩を返そうって気もないんだからなぁ!」
『あぐぅっ!』
怒り狂ったコリンズがパロディドライバーを地面に叩き付けると、実体のない立体映像である筈の内田がまるで殴られたかのように悶え苦しみ出した。更に立体映像全体が大きく乱れており、ドライバーと内田が一心同体であること、またコリンズの暴行が双方に深刻なダメージを及ぼしていることは明確だった。
流石に見ていられなくなり、私は奴を止めに入る。
「おい、やめろ……やめろ!」
「……あん、何だお前……割って入ってくるなよ。これは僕とこいつらの問題だ、お前は関係ないじゃないか」
「確かに関係ないかもしれんが、見ていられなくなったのでな……ジョン・コリンズと言ったか、お前の行動は全く滅茶苦茶で何ら筋が通っとらん。
戦闘は配下に任せきり、恫喝同然に行けとだけ命じて自分は前線に出ずろくな指示も出さず、失敗を認めも理解もせず必然的に自滅、挙句その責任を配下に押し付け器物に八つ当たりとは……まるで稚児か精神異常者だな」
「何ぃ……? よりにもよって僕が……この僕ともあろうものがそんな、こんな小説を書いた糞作者のような糞だと言うのか? このジョン・コリンズが、あんなカスと同じ存在だと?」
「言ってない。そんなことは微塵も言ってないぞ。そもそも何故そこで作者の名前が出て来るんだ。私は作者の名前なんて一度も出しちていないというのに」
「僕は天才だ……エリートだ……僕に敵うヤツなんかいない……由緒正しき魔術師の家系であるコリンズ家四百年の歴史は僕によって完成されたものとなる……。
そんな僕がまさかあんな最低最悪の屑なんかの同類だと……お前、そう言うんだな」
「言わん言わん。一言も言っとらんぞそんなことは。いやお前が最低だというのは言ったが、何故そこで作者を引き合いに出す必要がある?
というかだな、そもそも私は作者の事を最低最悪の屑だのとは思っていないぞ」
「……何、だと……?」
「いやそんな、コミックマーケットの会場でサルミアッキを美味そうに貪るアオザイ姿のサイボーグインド人を見かけたような面を向けて来るなよ。
確かにあれは真っ当な、正しい人間ではあるまい。寧ろ悪人、悪党、外道、畜生と言う方が正しいかもしれん。ハッキリ言えばろくでなしの塵屑であろうよ。だがそれでも、一応まともに労働へ励み給金を得ていることは事実だ。近頃は昇進し、現場の人間からも概ねある程度の信用を得ているという。
無論そこまで上り詰めるには――当人からすれば昇進は不本意極まりないもののようだが――それ相応の労苦を強いられてきた。指導という名目で嘲られ、教育という名目で罵られ、理解者らしい理解者もなく孤立し、何をしても認められず否定され理不尽な扱いを受け……それでもあれはどうにか生き抜いたのだ。
その事実を踏まえれば、少なくともあの男を『最低最悪の屑』呼ばわりはできまいて。尤も既に述べた通り、私とてあれを完全肯定するつもりは微塵もないが、完全否定もまた然りというわけだ。……更にこれは推測だが、あれについてこのように思っているのは恐らく私だけではあるまいよ」
「ぬ、っくうう……」
「まして、犯罪集団の一員として万物万象を害し、老いを捨ててまで己の宿命や責務からただ逃げ続け、好きなように生きて来たお前のような弱者が――
あれの完全なる下位互換、紛れもない劣化版に過ぎんお前程度が、あれを最低最悪の屑呼ばわりするようなことが、果たして許されていい筈あろうか……否であろうよ、なぁ?」
悪意に基づく嘲笑を籠めた言葉を、コリンズ目掛けて吐き付ける。
まるでラクダが胃液をぶちまけるように、或いはそれこそ、ある種の毒蛇が毒液を打ち込むように、若干の芝居臭さを混ぜ込んで。
そしてふとコリンズの顔を見てみれば……
「……っく、ぬぅぐ、っぐがああ……! ……くそ、きさま……」
ああ、何ともわかりやすい。顔を真っ赤にするほど怒り狂っているじゃないか。これは爆発するのも時間の問題だな。
「よくも……よくも言ってくれたなぁっ! 絶対に言ってはならん一言を!
もう許せん……侵入者め、お前だけは絶対に許さんぞ! このジョン・コリンズが地獄を味わわせてやる!」
そう言ってコリンズは懐から何かを取り出した。
高々と掲げられた青一色のそれは、何とも異様な物体だった。
次回、ジョン・コリンズの取り出した物体とは……?




