三十二時限目「仕掛けられた罠の先にあるもの、即ち魔の子供部屋について」
本当に久々の投稿になってしまった
「さて金田」
『あいよ』
「いきなりで悪いんだが」
『何さ』
「一つ質問していいかな。いや、場合によっては増えもすると思うが取り敢えず一つ」
『あぁー、まあ構わねえよ? 答えられる確証はねーけど』
「よし。なら単刀直入に聞こう――今、僕らはどういう状況に置かれてると思うね?」
アテこと金田は、お姉さん――社会科教師でアテの持ち主でもある常木譲って女――からの問い掛けに少しばかりうーんと唸る。答えは案外簡単なようで、実際そこそこ難しい。頭で理解しちゃいるけど、どうにも言葉として纏まらない。
(そもそも頭つっても、元々が機械ん中の人工知能たるアテは全身が頭ってえか、身体って概念がないようなもんだけどネ)
けど話の流れ上、質問に答えないってわけにもいかない。だからアテはどうにか今の状況を言葉に纏め、お姉さんに向けて出力する。
『そうだね……まずアテらは実習生さんと合流して、飛行艦艇の中を進んでた。
そしたら誰かが何か踏んだらしくって変な音がして、一面が真っ白な光に包まれアテらは意識を失った。
気付けばアテとお姉さんは何故かこんな場所に寝転がってて、お兄さんや実習生さんとは離れ離れで二人ともどこ行ったんだか分からない、って感じかな』
「大正解、完璧な回答だ。付け加えるなら元居た場所が敵地であったこと、此方の不意を突く形で発動したこと、またそのように仕組まれていたことなどから考慮するにこれは罠と見て間違いない」
『ですよねー。然し幾らデカい船とは言っても、内部にこんな空間作れるもんかね? どう見ても豪邸とかアミューズメント施設とかでもなきゃできないような……何て言ったらいいのかわかんねーけど、ともあれああいう船ん中に納まるような部屋じゃねーんだが』
そう、アテとお姉さんが罠で飛ばされてきた場所――多分飛行艦艇ん中のどこか――は、その割にとてもじゃないが空に浮かぶ船ん中とは思えないような空間だった。
その空間を一言で言やあ『部屋』、それも『子供部屋』って感じだろう。
部屋ん中に散らばってる玩具から察するに持ち主は男かもしれない。
と、ここまでなら別に艦艇の中へあっても違和感はないだろう。
けど――
「ああ、確かにな。この部屋は大きすぎる。それもただ床が広く天井が高いってんじゃない。
例えるなら『部屋に関する全てを巨大化させた』って感じさ。画像編集ソフトで部屋を丸ごと囲って引き延ばしたようなもんだよ」
『うんまあ言いたいことは分かるけど伝わり辛いなその例え。別にもう「巨人の部屋に来たみたい」ってので良くね?』
「そりゃそうだ。……然し何だな、敵地に仕掛けられた罠の一環だと言うのなら入って来た途端に敵の猛攻か何か受けそうなものだが」
『あー、そういやそういうの、ないねぇ。さっきのロストビースト隊、だっけ? あいつらみたいなのがぶあっと出て来たっていい筈なのにね』
「おいおい、滅多な事を言うなよ。それでもっと恐ろしい奴らが出て来たらどうするんだ?」
『そん時はそん時だよ。お姉さんなら大体の相手には「勝てる」し、もし仮に「勝てない」としても「負ける」ことはないじゃん?』
「ま、否定はせんがね。然しそれができるのは君の助力あってこそだよ金田」
「プーッキュッキュッキュッキュッキュ……無知にして愚かな侵入者どもめ、自分達がどんな状況に置かれてるかも知らずに呑気なものだっキュ」
飛行艦艇ピーター&キャサリンにある一室。ネバーランド三幹部が一人たる我輩ことマイケル・ラスクは、監視カメラの映像を見ながらマグカップの中身をぐいと飲み干し手元にあるノートパソコンのキーをタイプする。
「ならば我が『ハイパーグレート・マイケルフォートレス』の恐ろしさを教えてやるっキュ。涙を枯らし喉を潰し、自害する体力すらないままなす術もなく死んでいく恐怖を味わうがいいっキュ!」
パソコンを介したコマンド入力を合図に、我が要塞『ハイパーグレート・マイケルフォートレス』の防衛システムは起動する。
『さてお姉さん』
「何だね金田」
『いきなりで悪いんだけど』
「何かね」
『一つ質問していいかい。場合に寄っちゃ増えるかもだが、とりま一つだけ』
「ああ、構わないよ。答えられる確証はないがね」
『おっし、なら単刀直入に聞くわ――アテら、今どいう状況に置かれてると思う?』
「そうだな、色々と言い方はあると思うが……所謂"戦闘中"って言い方が一番手っ取り早いと、僕は思うよ」
なんて具合に返しながら、僕は何気なく辺りを見渡す。
魂を込められた死体のように動き出す、無数の巨大玩具たち。
例えばそれはパンダやウサギの縫い包みであったり、
または樹脂製のスポーツカーや建設機械、戦闘機から変形するロボットであったり、
はたまたヒーロー、怪獣、猛獣などの人形であったり、
何にせよ多種多様の一言に尽きたが、全てに共通していたのは『玩具としては有り得ない程に巨大である』ということともう一つ――
「歪んでるな、どいつもこいつも」
『ああ、全くだよ。何でこんなことになってんだか』
著しく不愉快な――『恐らくは万人が生理的嫌悪感をもたらすであろう特徴を持ち得ていた」ということ。
より詳しく言うなら『内部に途轍もなく気色悪いものが詰め込まれている』というべきか。
「縫い包みの内部と言えば綿を詰めるのがセオリーだろうに、太り過ぎた蚯蚓か馬鹿でかい蛆虫が巣食った家畜の内臓のようなものが蠢いてやがるんだからなあ。
恐らく着包みの要領で不定形な化け物に玩具を"着せる"という発想でああなったんだろうが……」
『……かなりギチギチに詰まってるね。もうあちこち張り裂けて中から飛び出ちゃってるし、そうでなくても中でうにょうにょしてるのが手に取るように分かってきて滅茶苦茶キメェ……』
「実際手に取ったら――と言うより下手に近付きでもしたらろくでもない目にしか遭わないだろうな」
『ろくでもない目って?』
「言わせるなよ」
『OKごめん。それで、あいつら全部ぶっ潰すのは確定として何使うの? やっぱ近付いちゃいけないって事はロングレンジだよね?
アシストは火力が出ないし、スピードはオワリナクとナモナクに依存してるからちょっと危ない。コントロールはあいつらまともな脳があるかどうかわかんないから利くかどうか怪しいし、レギオンにしたって相性悪そうだし、ともするとパワーかユニーク?』
「……そうだな、僕も同意見だよ。この状況ならパワーかユニークで火力を稼ぎ短期決戦を心がけるべきだ。長期戦に縺れ込めばその分こちらが不利になる。
更に言えばユニークは特化型である以上決まれば強いがその分安定性に欠けるきらいがある……よってここはパワーだな」
金田の問い掛けに応えながら、僕はパワーのNETAカートリッジをパロディドライバーに装填する。
『ああ、確かに……って、お姉さん!?』
「ん、どうした金田?」
『いや「どうした?」じゃないよ! 何やってんの!?』
「何、って……距離決定用のNETAカートリッジを装填しようとしてるんじゃないか」
『それは見りゃわかるよ! 分かるけ、ど、もっ! ……お姉さん、そのカートリッジに書いてあるアルファベットは何かなぁ?』
「……Sだな」
『S! そうSだよ! LじゃなくてS! つまり遠距離じゃなくて近距離って事だよねぇ?』
「そうだな。何か問題でもあるのか?」
『「何か問題でもあるのか?」じゃないよ! ありまくりだよ問題っ! あんたさっき何て言ったよ!? 「下手に近付いたらロクな目に逢わない」って言ってたよな!?』
「ああ、確かに言ったぞ」
『だったら何でわざわざ近付こうとすんの!? まさかわざわざ殺られに行く気!? 昨今人気低迷気味だからって、露骨なヒロピンシーンで人気取りに行こうって!?」
「そんなつもりはないよ。ただそうしたくなったってだけさ」
『そうしたくなっただけ、ってあんた……』
「何よりこんな中途半端なエピソードで適当なテコ入れした所でウケるわけがないなんてことは火を見るよりも明らかだからね。
あいつらに接近戦を挑もうってのは、単に奴らが何となくイラつく雰囲気を漂わせてたからなるべく手応えを感じられるような方法で殺しておきたいという心理故だよ」
『ああ、その気持ちは何かアテ、わかるかも』
「それに、例え何をしようが間違いは起こらないという確証もある」
言いつつ僕はパロディドライバーにNETAカートリッジ二本を装填、変身機能を起動する。
『パワー・ショートレンジ クルワセル・フォース』
機械的な野太い起動音声が響き渡り、僕の全身は赤い拳闘士風のパワードスーツに包まれる。
「だから大丈夫なんだ。少なくともこんな所で、僕らは決して負けやしない」
そう、負けるわけがないんだ。
勿論、真面目にやる気を出して力を尽くすことが前提ではあるがね。
「では、採点を始めよう」
『スタイルシフト・ゼンシン ステミ・ブチコミカマス』
スピードと打撃力を強化するコマンドを入力してひとっ跳び、僕は両拳を振り上げ突撃する。
『ンヴオオオオオオオオオッ!』
それに気づいたらしい玩具の化け物どもは、身体のどこかにあるらしい発声器から悍ましい唸り声を上げながら触手を震わせる。
声量、申し分なし。単純な咆哮の中にはしかし、連中に備わる生物としての心が内包されている。
救いようがないほどの悪意が、どうしようもないほどの邪念が、思わず目を背けたくなるほどの穢れきった欲望が――見た目通りの醜悪極まりない内面が、その一声には集約されていた。
それを感覚的に読み取った僕は、口にこそ出さないがこう思うのだ。
ああ、実に醜い。
実に忌まわしい。
大げさかもしれないがこいつらは、生きていてはいけない連中だ。
「威嚇のつもりか? お前らにしてはいい声だな。
だが無意味だ。お前らの行動に意味なんてない。どれだけ派手に振る舞って大物ぶろうとも、お前らの本質は変わらない。
本質が変わらないからお前らの存在意義に変化はないし、格も上がらず、いい扱いなんて受けられるわけがないんだ」
迫り来る触手を避け、僕は化け物どもに向かって吐き捨てる。
そろそろ間合いだろう、パロディドライバーのスイッチを押しておくか。
「だからさあ、死ねよ」
『ストライク』
「弱い獣が居れば傷付け、麗しい女子が居れば汚す」
『パワー』
「それだけがお前らだというのなら」
『ノルディック・レッド』
「お前らやっぱり死んじまえ」
『サイクロン』
「僕が殺して、やるからさぁっ!」
ノルディック・レッド・サイクロン。
一対一での接近戦に特化したこのフォームにあって珍しい、対多人数用の技である。
高威力の打撃を広い範囲にまで届かせるこの技の原理は、存外簡単なものだ。
まず、相手に近付く。技の性質上、直接拳が触れるまで無理に近付く必要はない。
次に両手を握り締め、腕を左右真横にピンと伸ばす。全身でアルファベットのTや漢数字の十を描くように。
そして最後に、そのまま回転する。力強く、全力を込めて、勢いよく。
凄まじい回転は逆巻く突風を産み、更にその風もまた触れるものを砕く打撃として機能する。
然し当然、玩具の化け物どもはそんなことなど知らないし、知りようもない。
故に――
『ガゥゲァギャヴェギャヴァヴァヴァアアアアアアアアッ!』
迂闊にも僕に接近し、見るも無残な肉片へと成り果てるのは必然だった。
「……さて、これで全滅……とは行かずとも全体の過半数は死んでくれればいいんだが」
『残念、二割五分弱……いや、知らない内に数増えたから二割弱って所だね。どうする、まだこのままあいつらどつく? それともカートリッジ変える?』
「……カートリッジ変更だ。幾らなんでも分が悪いし効率だって良くないからね。
まあ、あんな大見得切っておいて『大して結果が出ないから装備を変えよう』なんてどうかと思うけど」
『大丈夫大丈夫、わけわかんねー理屈降り回して一つの装備に固執しまくる方がよっぽどどうかしてっから。体育会系思想ってえの? 世の中そういうのにハマったまま抜け出せなくなって自滅するヤツ意外と多いからね。
お姉さんはそんなアホ丸出しの考えに囚われずに柔軟な判断を下せた。それって地味だけどとってもいいことなんだろうって、アテは思うなぁ』
「ありがとう金田。創太郎君といい、僕は人脈に恵まれてるなぁ」
『へっへへ、そりゃ買い被りってヤツだよお姉さん。んで、次はどうするの?』
「そうだな、さっきのがあんまり響いてなかったって事実を受け入れて、失敗を取り戻せるように、かつなるべく手応えを感じられる方法で殺したいってのはあるなぁ」
『やっぱ手応え重視なんだね』
「まあね。危険行為だってのは百も承知だが、過半数は接近戦で潰しておきたいんだ。真面目にやってれば――
『間違いなんて起こらないっていう確証もある、って? さっきから気になってたんだけど、その確証って何なの?』
「ああ、簡単なことだよ――この作品を書き、僕らを動かしてるのが、蠱毒成長中ってヤツだという、ただそれだけのことさ」
『……は?』
「ヤツはひねくれ者で性根の腐りきったカスみたいな男さ。だから他のまともな創作家ならまず考えないような設定や展開を思いつきそれを実行するし、大衆が尊ぶものを否定する歪み切った価値観の持ち主だ。
だが同時にヤツは情を捨てきれず悪にも異端にもなりきれない半端者でもある。主役など気に入った登場人物は不自然なほど優遇し甘やかすばかりで、虐げ苦しめることで真なる愛着を示すという創作家の作法をまるでわかっちゃいないんだ。
これらはどちらも間違いなく欠陥で、確実に悪性だ。ヤツに人望や人気が無い一因でもあるだろう。
だがこの場合はそんな欠陥や悪性がいい方向に作用するのさ」
『そうか……ひねくれ者のあいつは歪んだ価値観で話を書くから世の理ってものを理解しねぇ。大衆が尊ぶもんを否定する……つまり……』
「そうだ。『女は化け物に捕まり辱めを受け無力化される』という、大衆が尊ぶ価値ある世の理を理解せず否定するんだ。即ちこの場合、僕らはあの化け物どもに負ける筈がない。
そしてそれをより確実にするのが、ヤツの半端な精神構造――情を捨てず、気に入った登場人物を甘やかすばかりでろくに虐げないという、甘ったれた中途半端な考えだ。これにより恐らく僕らは、あの化け物どもにならそこそこ余裕で勝つことができるだろう」
『スピード・ショートレンジ ジンソク・タタキワル』
『スタイルシフト・ゼンシン ステミ・ブチコミカマス』
なんて言いつつ、僕はNETAカートリッジを交換する。次のフォームはスピードのショートレンジ、古典映画の殺人鬼を思わせるお気に入りのフォームだ。
『へへっ、なるほどねぇ。まあそうだよねぇ。蠱毒がそんな展開書くわけないもんねぇ。安心したよ。
……そんじゃお姉さん、一丁派手にやっちまおうぜ。ま、アテには横から口出しするぐらいしかできねーんだけどさ』
「十分だよ金田。君の言葉は励みになるし、何よりわりと的確だからね」
かくして僕らは、斧を振り上げる。
忌まわしい気配を漂わせる玩具の化け物どもを、皆殺しにする為に。
とにかくどんなに遅くなっても書き続けなければ……




