三十時限目「飛行艦艇への突入、増援者の思いもよらない姿について」
いよいよ飛行艦艇に突入!
事件発生から少し後。
僕、常木譲と二名の同行者――清木場君と金田――は、校舎の屋上から件の飛行艦艇を眺めつつ艦内への突入作戦を練っていた。
『しっかし改めて見てみるとデカいよねー』
「ああ。全長165m、全幅20mだからね。機関の殆どを反重力発生装置に割かざるを得ない所為で速力はそこまで高くないが……」
「その分こういう要塞みてえな使い方をする分には中々の使い勝手を誇る……と。そんで常木先生、ここからどうしますか。ありゃまさにミサイル巡洋艦の形した空中要塞です。
どっかの入り口蹴破って『邪魔するでぇー』とは当然行きませんし、そもそも近付いただけで『邪魔すんなら帰ってー』とばかりに兵装の餌食んなるのが関の山なわけで、となるとやっぱり……」
「うむ、あの作戦で行くしかあるまいよ。他にも色々と思いつきはするがね、結局こうするのが一番手っ取り早いから」
などと言いつつ僕はスマートフォンを取り出し連絡を入れる。
召集に応じ空間を食い破って現れるのは、盟友達の中でも特に切り札めいた立場にある鋼鉄の巨獣、ラッキー君ことヘルズスパイラル。彼の中に乗り込んだ僕らは、再び異空間へ潜り込みそのまま飛行艦艇へ向かう。
「どぉわあああああああっ!? なななななな、なんだああああっ!?」
飛行戦艦ピーター&ウェンディの一番奥にある自室。
そこでくつろいでいたネバーランドのリーダーであるこの俺、ピーター・ドリスコールは突然の大揺れに思わず間抜けな声を上げちまっていた。
一瞬地震かとも思ったがこのピーター&ウェンディは空中に浮いてやがるからもっと別なもんだろう。とすると一体何が……なんて考えていると、スマホの着信音が鳴り響く。
「ちいっ、誰だこの非常時に……もしもし!?」
『ぴ、ピーターさんっ! 大変です!』
「何だジョンか……一体どうした?」
『「何だ」って酷いなあもう……それより大変なんですよ! ついさっきこのウェンディ&ピーター全体が大きく揺れたもんでロストビースト隊を向かわせたら船の底にバカでっかい風穴が開けられてたんです! しかもそこから艦の中に誰か入ってったみたいで』
「何ぃ!? 船底に穴開けて中に入って来た侵入者のアホどもがいるだとぉ!?」
『どうしますか、ピーターさ――』
「どうするもこうするもねえ! 人員と艦ん中の防衛設備総動員してそのナメくさった連中を探し出してぶっ殺せぇっ!」
『は、はい! わかりました! すぐにロストビースト隊を向かわせます! 』
「いいか、必ず殺せよ!? 絶対だぞ!?」
『は、はいぃっ! 勿論ですっ!』
「それとジョン!」
『な、何でしょう!?』
「この船の名前は『ウェンディ&ピーター』じゃねえ、『ピーター&ウェンディ』だ! 二度と間違えるな!」
電話越しに怒鳴り付けた俺は、返答を待たずに通話を切り再びベッドに戻る。侵入者ってのがどんなのかは知らねえが、正面から乗り込んでくるということは身の程を弁えないバカ、つまり雑魚ってことだ。
ジョンにはああ言ったが実際ロストビースト隊が少し本気を出せばどうにかなるだろう。
(さて、どうしたものかな)
飛行艦艇内の開けた空間で、僕こと常木譲は一人考える。
清木場君と金田を連れてラッキー君に乗り込み『地獄の螺旋』という名前の由来にもなった彼の頭部に備わるドリル――とは言うが円錐形のそれでなく、そもドリルと言っていいのかどうかさえわからないかなり特殊な形状の武装――で飛行艦艇の底に大穴を穿ち、艦内へ大胆に忍び込んだまでは良かった。
そこへ更に獣の被り物と軍服という出で立ちで自動小銃を背負った特殊部隊の歩兵みたいな奴らがぞろぞろと現れては僕らを取り囲んだというのも、まあ想定し得た展開だった。
だがそれ故に、僕は迷ってもいた。『果たしてこの状況をどうやって切り抜けたものか』と。
(記憶が確かならこいつらは『ロストビースト隊』……ネバーランド幹部が一人、ジョン・コリンズ直属の戦闘部隊の筈だ。
同じ幹部格であるウェンディ・ボーモント率いるマーメイド隊ほどの規模や機動力はないが、その分少数精鋭で構成されそれなりに高い戦闘能力を誇る……)
まあ僕らが本気を出せばそんなに苦戦するような相手ではないが、それはあの頃の話でしかない。
(特にコリンズは頭脳派で計算高く、『失敗から学ぶ』ということをしっかり心得ている男だから、僕らに蹂躙されたのを相当根に持って何を用意しているかわからない。
意のままに自爆して強酸性の体液を辺りに撒き散らしてきたっておかしくはないんだ。対処を誤ればどうなることやら……)
そんな具合に悩みつつも、僕は何とか策を練り上げようと頭を抱えていた。心配し過ぎだと思われるかもしれない。だがそれだけネバーランドという集団は厄介なのだ。
そんなこんなで悩んだ末僕が取ったのは――
「やあ、お久しぶりだねロストビースト隊諸君」
敢えてフレンドリーに話し掛ける、という選択肢だった。
「いや、或いは初めましてと言うべきかな? あの代のロストビースト隊は殆ど僕らが殺してしまったわけだから――」
刹那、台詞を遮る形で自動小銃の弾丸が僕の顔を霞める。
撃ったのは僕の真正面で身構えていた巨漢で、頭はやたら可愛いアライグマだったが銃を握る手はくすんだ緑色でやたらゴツゴツしている。体格と肌の色からして種族は温帯系のトロールって所だろうか。
「――人が話している最中に鉄砲なんか撃つなよ。髭の先端が少し欠けたぞ」
「やかましい。人様の艦艇へ勝手に穴開けて入り込んで来やがってこのボケカスがぁ。てめえ、常識ってもんがねぇのか?」
「ああ、まあね。一応はあるつもりさ」
「仮にねえとしても、生涯ガキのまま好き勝手ダラダラ生き続けてるアホどもよりはマシだろうぜ」
「な、ん、だ、と、てン、めえええええええっ!」
「野郎! ぶち殺してやる!」
「蜂の巣どころの騒ぎじゃねえ、原型も留めねーミンチにしてやらあ!」
便乗して吐き出された清木場君の一言は、ロストビースト隊の面々を激昂させるに十分だった。
トリガーは引き絞られ、銃口から光と熱を帯びた鋭い鉛が吐き出される――かと思われた、その刹那。
「ぬお!?」
「あれっ!?」
「ふあっ!?」
「な、お、おい! こりゃどうなってんだ!?」
「じ、銃がっ!」
それは余りにも唐突な出来事だった。
構えられ火を吹く予定だった筈の銃が、前触れも音もなく細切れになっていく。当然ロストビースト隊は慌てふためき、僕らにしても驚きを隠せずにいた。
「無様なものだなネバーランドよ、やはり貴様らには地獄こそ相応しい!」
そしてそんな場の空気に一石を投じるかのように、どこからか雄々しい女の声が響き渡る。
その声は聞き覚えのある人物のそれだったが、だからこそ僕自身としては余計に混乱せざるを得なかったし、恐らく創太郎君だってそう思っていた事だろう。
「な、なんだ!?」
「誰だこの野郎!」
「どこに隠れてやがる!?」
「出て来いコンチクショウ!」
余計に混乱したらしいロストビースト隊は破壊された銃を捨て予備の自動拳銃を抜き、どこに居るのだかもわからない侵入者を射殺せんとそこかしこへ発砲し続ける。
然し当然その弾丸も底を尽き、銃弾の尽きた拳銃を投げ捨てながら各々好き勝手に怒鳴り散らし始める。
(予備のカートリッジくらい持っておけよ……)
「クソがあ! こそこそ隠れやがってド畜生おっ! 俺らロストビースト隊をコケにしたこと、後悔させてやばらっ!?」
刹那、怒鳴り散らしていた男たちの内リーダー格であろうアライグマ頭のオーク――先程僕に常識が無いだ何だと言ってきた奴だ――の首が、ごろりと床に転がっていた。
信じ難い光景にロストビースト隊の面々は絶句、少し経って後――具体的には首から下が崩れ落ちた辺りで――狂った様に慌てふためき怯えて騒ぎ出す。しかしその反面僕らは冷静そのもので、動揺の一つもしちゃいない。
何故なら僕らは知っているから。声を聴いた時点で気付いたから。
こんなことができる、教頭の言っていた『遅れてやってくる増援』が誰なのかを瞬時に悟ることができたから。
だから僕らは動じない。道化たり得ぬ道化のように逃げ惑い、なす術なく切り裂かれていくロストビースト隊を尻目に、ただ待ち続ける。
声の主が姿を表すその瞬間を。
(然し全く、教頭も何を考えているんだか。よりによって教育実習生にこんな仕事を任せるなんて)
そうこうしている内にロストビースト隊の面々は全滅し、時を同じくして死体の散乱する船内へ降り立つ、一人の若い女。
凛々しく端正で勇ましくもある美しい顔立ち。
ウェーブがかった背までの黒い長髪。
シミもくすみもない肌。
スラリと細長くも確かなパワーを感じさせる手足。
鍛えつつも曲線や凹凸の損なわれていない肉感的なボディ――その象徴たるは洗練されたヒップとGカップのバスト。
幽かに腹筋の割れたウエスト。
若々しくも貫禄や風格のある彼女には、ある種の完成された美があった。
(ジェニファー・ホークス……)
その女の名を、僕は脳内に思い浮かべる。
教育実習生ジェニファー・ホークス。
捏海学園大学に所属する学生であり、体育教師を志して付属高等学校で教育実習中の彼女は、所謂才色兼備文武両道の秀才という奴だった。
(まさか彼女だったとはな。確かに彼女は生体災害応戦士としてやっていけるくらいの戦闘能力を誇るし増援としては申し分なかろう)
考え込む僕の脳内へ浮かぶ、二つの疑問。
一つは教頭の言っていた『彼女とネバーランドの因縁とは何なのか?』ということ。
そしてもう一つは――
(彼女のあの格好……あれは一体何なんだ? どうも彼女らしくないふざけた格好だが……何があったんだ?)
「……こんなものか」
死体の散乱する飛行艦艇内の床に降り立った私ことジェニファー・ホークスは、自分にしか聞こえない微かな声で呟く。
(所要時間凡そ4分17秒65程度……多人数相手だというのに得物を切り裂き挑発する時間が余計だったか。
慣れないのに暗殺紛いの真似をしたというのも恐らく原因だろうな。
とは言えそれでも順調な滑り出しだ。これならば先生方の足も引っ張るまい……さて)
落ち着いたところで私は先生方の居る方へ向き直る
相手は担当教科こそ違えど教育実習先の正規職員であり、また高校時代から今に至るまで数多くのことでお世話になっている方々だ。非礼の無いよう細心の注意を払わねばなるまい――そう思い口の中で言葉を練り上げにかかっていた所で、ふと気づく。
私を見るお二人の視線が、どうにも奇妙なのだ。普段のお二人が私を見る際の視線は、基本的にごく普通のものである。だが今お二人が私に向けておられるのは、奇妙な自然物や不審者めいた何かに対する視線であった。故に私は考える。
(何だ、何か不手際でもあったのか……? よもや、良かれと思って助けに入った筈が、お二人の貴重なウォーミングアップの機会を奪ってしまったのか……?)
内心落ち込んだ私は、何とも言えない表情を浮かべるお二人にどのようなお言葉を掛けてよいやらと迷い悩む。
だが幾ら迷い悩もうとも明確な答えは出ない。ならば一先ず謝罪するか、いや然し理由もわからない内から『何をしてしまったかは見当もつきませんが取り敢えず申し訳ございませんでした』では逆に非礼かも……などと思っていた、その時。
「あー、ホークス君……ちょっといいかね?」
常木先生が言葉をかけて下さった。正直申し訳ない気持ちで一杯だったが、背に腹は代えられぬと私はすかさず言葉を返す。
「は、はいっ、何でしょう常木先生!」
「ああ、まあその、何だ……僕としちゃ、或いは僕らとしちゃあ、取り敢えず君に色々と確認しなきゃならないことが多いわけだがね、まず一つ質問をさせて欲しい。構わないかね?」
「はい、勿論でございます! このジェニファー・ホークス、答えられる限りではありますが如何なる質問にも返答させて頂きます!」
「ふむ、それは実に頼もしいな。……では聞くがねホークス君、その……
君が着ているそれは、一体何かね?」
次回、増援者ジェニファーの衝撃的な姿とは!?




