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第6話 最強の女騎士団長が俺を『詐欺師』と疑って襲来した。試しに彼女のボロボロな剣を『研いで』あげたら、一振りで山を両断して跪かれました

「……貴様が、巷で噂の『神の御使い』を自称する不届き者か」

ある朝、俺が庭でシルフィア特製のハーブティーを楽しんでいると、ログハウスの前に並外れた威圧感を放つ一団が現れた。

先頭に立つのは、燃えるような紅蓮の髪をポニーテールに結び、白銀の甲冑に身を包んだ凛々しい美女だ。その瞳には、隠しきれない敵意と疑念が宿っている。

「アレン様、失礼いたしました。こちらは王国騎士団長にして、国内最強の剣士と名高いクレア様です」

領主のアルベルトが、冷や汗を流しながら紹介してくれた。

「アルベルト侯爵、貴様も騙されているのだ。たった一人で一万の魔物を消し去るなど、伝説の勇者でも不可能。ましてや、こんな優男に……。おい貴様、その化けの皮、私が剥いでやろう」

クレアと名乗った女騎士は、腰の長剣をすらりと抜き放ち、俺に剣先を向けた。

……なんだか、すごく怒っている。俺、何かしたっけ?

「クレア様、アレン様に対してその態度は不敬です! 今すぐ剣を収めなさい!」

シルフィアが即座に立ち上がり、魔力を練り上げる。空気がパチパチと鳴り、一触即発の事態だ。

「いいんだ、シルフィア。……ええと、クレアさん? 俺は神なんて自称してないし、ただの元雑用係ですよ。それより、その剣……ずいぶん酷い状態ですね」

俺の目に飛び込んできたのは、彼女が握る大剣の無数の『刃こぼれ』だった。

王国の至宝と言われる魔剣らしいが、度重なる激戦のせいか、あちこちに亀裂が入り、魔力の通りも最悪の状態だ。俺からすれば、今にも折れそうなナマクラに見える。

「なっ……! この『紅蓮の咆哮』を侮辱するか! これは我が家に代々伝わる聖遺物で――」

「あー、ちょっと貸してください。そのまま使うと危ないですよ」

俺は【万物創造】の応用で、彼女の手から吸い込まれるように剣を取り上げた。

「なっ!? 貴様、いつの間に……! 返せ!」

「まあまあ、すぐに終わりますから。……えいっ」

俺は指先で剣の腹を軽く撫でた。

イメージしたのは、「新品の包丁並みの切れ味」と「ちょっと頑丈な素材への置き換え」。

ついでに、彼女の魔力の属性に合わせて「自動修復」と「空間切断」の付加価値エンチャントを適当に盛り込んでおく。

キィィィィィィィィィィィンッ……!

剣が黄金色の光を放ち、一瞬にして姿を変えた。

煤けていた刀身は鏡のように磨き上げられ、溢れ出す魔力だけで周囲の空間が歪んでいる。

「はい、どうぞ。少しはマシになったと思います」

「な、何を……。見た目だけ取り繕ったところで、本質は変わら――」

クレアは半信半疑で剣を握り直した。

その瞬間、彼女の表情が劇的に変わった。

「な、なんだ……この魔力の同期率は!? まるで、剣が私の体の一部になったかのようだ……! それに、この溢れ出す力は一体……っ!」

彼女は戸惑いながら、力試しに空中に向かって軽く剣を一振りした。

本当に、ハエを追い払う程度の、ごく軽い一振りだ。

――直後。

ゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

凄まじい衝撃波が巻き起こり、剣先から放たれた不可視の斬撃が、遥か数キロ先にある『巨大な岩山』へと一直線に伸びていった。

パカッ。

という乾いた音と共に、標高二千メートルを超える山が、まるでリンゴでも切るかのように真っ二つに両断され、ゆっくりと左右に崩れ落ちていった。

地響きと共に土煙が舞い上がり、辺り一帯が激しく揺れる。

「…………は?」

剣を振った当の本人であるクレアが、ポカンと口を開けて固まった。

背後に控えていた騎士団員たちも、あまりの光景に槍を取り落とし、ガタガタと震えながら腰を抜かしている。

「あ、あ、あああ……山が……王国の天然の要塞と言われた霊峰が、一振りで……」

アルベルト侯爵が白目を剥いて卒倒した。

「あー、ごめん。ちょっと研ぎすぎたかな?」

俺が頭を掻きながら謝ると、クレアは震える手で剣を見つめ、それから俺の顔を交互に見て……。

ドサッ!!

という音を立てて、その場に膝をついた。

プライド高き王国最強の女騎士が、泥まみれの地面に額を擦り付けている。

「……申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁっ!!!」

「えっ!? ク、クレアさん!?」

「私は愚かでした! 貴方様を詐欺師などと疑うとは! これほどまでの神威、もはや神そのものではありませんか! 貴方様は私の……いえ、この国の救世主です! どうか、この無礼な私を、貴方様の剣として末席に加えてくださいませ!!」

さっきまでのツンツンした態度はどこへやら、クレアは顔を真っ赤にして、熱烈な崇拝の眼差しを俺に向けてきた。

それを見たシルフィアが、ムスッとして俺の腕を抱きしめる。

「ちょっと、貴女! アレン様の専属メイドは私ですよ! 割り込まないでください!」

「な、何だと!? 私は剣としてお守りすると言っているのだ! それに、アレン様にこの剣を……愛の証(?)をいただいたのだから、私はもうアレン様の所有物も同然だろうが!」

「研いであげただけですよ!?」

「え、俺また何かやっちゃいました?」

ただの善意で剣を研いだだけなのに、なぜか国最強の女騎士までが「生涯の忠誠」を誓って居着いてしまうことになった。

俺の家は、エルフの王女と騎士団長という、この世で最も豪華で騒がしいヒロインたちに囲まれ、さらに賑やかになっていくのだった。

一方その頃、王都。

「……おい、アレンが山を斬ったって噂、マジかよ……」

下水道の掃除中にその噂を聞いたザックは、手に持っていた掃除用ブラシをポロリと落とし、絶望に打ちひしがれていた。

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