第5話 【ざまぁ】俺を追放した勇者パーティー、借金まみれで下水掃除に落ちぶれる。一方俺は、無自覚に『神薬の温泉』を掘り当てて王女様と混浴を満喫していた
「くそっ……! なんで、なんで俺がこんな臭い思いを……!」
王都の裏路地にある、窓ガラスすら割れたままの底辺スラム宿。
酸っぱいカビと汗の匂いが染み付いた薄汚いベッドの上で、勇者ザックはギリッと歯を食いしばり、血のにじむ手を見つめていた。
数日前までSランクパーティー【白銀の剣】として王都中からチヤホヤされていた彼らは今、完全にどん底に突き落とされていた。
中級ダンジョンでの『オーク討伐依頼』を途中で放棄して逃げ帰った結果、ギルドから莫大な違約金を請求されたのだ。
本来なら彼らの貯金で払える額だったが……ここで信じられない事実が発覚した。
彼らの武器や防具の修理費、そして一晩で魔力や体力を回復させるための高級ポーション代。
それらが、これまでの報酬を遥かに上回る金額だったのだ。
アレンの『素材付与』という規格外の無償バックアップがなくなった瞬間、彼らは自費でその全てを賄わなければならなくなった。結果、違約金を払うために装備は全て質に流され、全財産は一瞬にして消し飛んだ。
「ちょっとザック! 今日の夕食、またカビの生えた黒パンと水だけなの!? 信じられない、私の美しい肌が荒れてしまうわ!」
賢者のマリアが、ヒステリックに叫んで壁を蹴りつける。
「文句を言うならご自分で稼いできたらどうですの!? そもそも、貴女の魔法が不発だったせいで逃げる羽目になったんですからね!」
聖女のルミナも、泥だらけのローブのままマリアを睨みつける。
「うるせえええっ!! お前ら、少しは黙ってろ!!」
ザックの怒声に、二人の女はビクッと肩を震わせた。
SランクからFランクに降格させられた彼らに、今ギルドから斡旋される仕事は『下水道のヘドロ掃除』や『ゴブリンの糞拾い』といった底辺の肉体労働だけだ。
アレンが毎日作ってくれていた「疲労完全回復」の食事がなくなった今、彼らの体には日雇い労働の激しい疲労と筋肉痛が蓄積し続け、もはやまともに歩くことすら辛い状態だった。
「アレン……あいつさえいれば、あいつさえ戻ってくれば……っ!」
ザックは後悔の念で胸を掻き毟った。
あんな雑用係、いつでも代わりがいると思っていた。だが、彼が抜けただけでパーティーは三日と持たずに崩壊した。あの無能だと思っていた男が、実はパーティーの生命線を全て握っていたのだ。
「探すんだ……這いつくばってでもアレンを見つけ出して、絶対にパーティーに戻す! あいつには俺たちが必要なはずだ、まだ間に合う……!」
ザックは狂気じみた目をギラつかせながら、暗い部屋の中でぶつぶつと呟き続けていた。
◇◆◇
一方その頃。俺、アレンは――。
「ふぁ〜〜……極楽、極楽……」
領主のアルベルトから献上された広大な敷地(元々は空き地だったが、領主権限で周囲の土地ごとプレゼントされた)の庭先で、肩までゆったりとお湯に浸かっていた。
家も建ったし、庭も綺麗になった。
となれば、次に欲しいのはやっぱり『お風呂』だ。
どうせなら広い露天風呂が良いと思い、俺は【万物創造】のスキルを使って地面に巨大な穴を開け、地下深くから温泉を引っ張り上げたのだ。
イメージしたのは、「疲労がすっ飛ぶ最高の泉質」と「絶景の岩風呂」。
「アレン様ぁ……お背中、お流しいたしますね……っ」
俺の背後には、お湯で上気して顔を真っ赤にしたエルフの王女、シルフィアがぴったりと寄り添っていた。
彼女は俺のためにと、なんと水着の着用すら拒否し、エルフの雪のように白い柔肌を惜しげもなく晒して混浴に付き合ってくれている。
背中に当たる二つの大きな柔らかい感触と、石鹸のいい香りに、俺の理性がギリギリの戦いを強いられているのは言うまでもない。
「あ、ありがとうシルフィア。でもあんまり無理しなくていいからな? のぼせちゃうぞ」
「む、無理などしておりません! アレン様の尊いお身体を洗い清めるのは、専属メイドである私の至上の喜びなのですから……! それにしても、この温泉、本当に凄まじいですね……」
シルフィアは自分のお湯に浸かった腕を見つめ、ゴクリと息を飲んだ。
「入った瞬間から、体内の魔力回路が爆発的に拡張していくのを感じます……! それに、古い傷跡まで完全に消滅し、お肌が真珠のように……っ! アレン様、このお湯からは信じられないほどの神聖魔力が立ち上っています。一体、どんな魔法を使われたのですか!?」
「え? いや、ただ温泉を掘って、ちょっと体に良い成分を足しただけなんだけど……」
俺が首を傾げていると、お風呂場の外から「失礼いたします!!」という切羽詰まった声と共に、領主のアルベルトとギルドマスターがドタドタと走ってきた。
彼らは俺の姿を見るなり、またしても地面に額を擦り付けて土下座の姿勢をとる。
「ア、アレン様!! 領地への多大なるご恩返しとして、ささやかではございますが、最高級の飛竜の肉と、王家献上品のワインをお持ちいたしまし……た……え?」
アルベルトの言葉が途切れる。
彼は顔を上げ、俺たちが浸かっている温泉から立ち上る『黄金色の湯気』を見た瞬間、目玉が飛び出んばかりに驚愕した。
「ほ、黄金の湯気!? そ、それにこの匂い……伝説の霊薬『エリクサー』の原液の匂いだぞ!? ま、まさか……その池全てが、一滴で死者すら蘇らせるという『神の雫』だとでも言うのですか!?」
「えっ?」
ギルドマスターも白目を剥いて震え上がる。
「国宝……いや、世界の均衡が崩れるほどの超規格外の秘宝風呂……! それをお湯代わりにして、エ、エルフの王女様と混浴だと……!? なんという神の所業……!!」
「いやいやアルベルトさん、ギルドマスター! ただの温泉だって! ちょっと金色の入浴剤(成分)多めに入れちゃったかな〜くらいで……」
「ははぁーーーーっ!! もはや我々凡人の理解など及ばぬ次元!! アレン様、一生ついていきます!!」
領主とギルドマスターは、風呂場の外でビタンビタンと何度も平伏し始めた。
シルフィアも背中から俺に抱きつき、「さすが私のアレン様! 存在そのものが奇跡です!」と恍惚の表情を浮かべている。
「え、俺また何かやっちゃいました?」
ただお風呂に入りたかっただけなのに、なぜかまたしても伝説の秘宝を無自覚に創り出してしまい、権力者たちの崇拝ゲージをカンストさせてしまったようだ。
一方その頃、俺を無能扱いして追い出した勇者パーティーが、ヘドロにまみれながら俺の名前を泣き叫んでいるなど、この時の俺が知る由もなかった。




